【イベントレポート】ネットでは分からない資金調達の現実を伝授「五反田バレーアクセラレーションプログラム 研修④ スタートアップが知っておくべき投資ラウンドごとの資金調達」

イベントレポート 2024.2.19

【イベントレポート】ネットでは分からない資金調達の現実を伝授「五反田バレーアクセラレーションプログラム 研修④ スタートアップが知っておくべき投資ラウンドごとの資金調達」

開催日

2023年12月07日

会場

SOIL(Shibuya Open Innovation Lab)

参加費

詳細

品川区が、スタートアップの集積地「五反田バレー」の認知度アップや地域活力の向上、区内産業全体の活性化を図るべく実施している「五反田バレーアクセラレーションプログラム2023」。株式会社ゼロワンブースター(以下、01Booster)と連携して2024年3月までの約6ヵ月間、実施中のプログラムから、今回は、2023年12月7日に開催された「研修④ スタートアップが知っておくべき投資ラウンドごとの資金調達」の様子を紹介します。

3人のピッチに受講者間で質問・議論し、新たな気づきを

今回の会場は、東急が渋谷駅徒歩1分の場所で運営する、社会実装に特化したオープンイノベーション施設「SOIL(Shibuya Open Innovation Lab)」。スタートアップエコシステムの秘密基地としてVCやCVC、メディアにもイベント開催などで活用されるスペースです。
アクセラレーションプログラム受講者には特典として、東急関連施設における実証実験・イベント等の開催支援が提供されるため、研修の冒頭にはオープンイノベーション推進担当者から施設説明が行われました。

「五反田バレーアクセラレーションプログラム2023」における全6回の研修は、シード/アーリー期ならではの課題の共有・相談を行うグループメンタリングと講演、交流会の3部構成で行われます。
グループメンタリングでは、受講者3名が5分間ピッチを行い、質疑応答を活発に実施。これにより受講者全員が発表者の事業化における課題や可能性を真剣に考え、フィードバックを通じて互いに新たな気づきが得られる仕組みです。その後、全員がふせんに感想やアドバイスを書き、登壇者に渡されます。
また、今回はギャラリーに、研修後半で登壇されるエス・アイ・ピー株式会社取締役の原田憲一さんと、本プログラムでメンターを務められている株式会社ちゅうぎんキャピタルパートナーズ取締役の石元玲さんも加わってくださいました。

今回ピッチの1人目の事業はピボット直後だという、AIキャラクターと話して謎を解くチャットノベルゲーム。AIチャットアプリよりも没入感のあるストーリーや設定がスマホで気軽に楽しめるのが特徴です。
質疑応答では、言葉でやり取りするアプリケーションという点が注目されましたが、体験の質を高めるためには画像や音声、動画も駆使していきたいとのこと。また、現在は有料の安定的なChat GPT Plusが将来無料となった場合は、どう差別化していくのかという質問を受け、意見交換がされました。

ピッチ2人目の事業は、議事録/タスク管理ツールで、業務委託やパートタイムのエンジニアなどの外部メンバーとも使いやすいのが特徴。さらに、人間レベルのAGI(汎用人工知能)の普及を見据え、社内・社外とAGIが縦横にコミュニケーションできる機能を想定。現在、社内で自己再帰型AIによる自動タスク処理の実験を行っています。
質疑応答では、議事録以外の用途や機能を問われ、音声入力などのインターフェースでユースケースを考えてみたいと回答。大概の作業がAGIで代替されたときに、それでも人間がやらざるを得ないような部分で役立ちたいといった話がありました。

ピッチ3人目の事業は、製造業のナレッジをシェアする設計・開発のDXプラットフォーム。ものづくりの現場ではデジタルで設計しながらリアルで出来栄えを確認して実験を進めますが、それぞれの実験の条件・結果が一元的に管理されてなく、活用しづらい状況にあるため、実験データの共有知化を目指します。
質疑応答では、同じくメーカー出身の受講者から、実際のデータの取りまわしについて活発な意見交換がありました。

スタートアップが留意すべき資金調達の勘どころを分かりやすく解説

後半の講演では、独立系VCの草分けであるエス・アイ・ピー株式会社の取締役 原田憲一氏が登壇。原田氏は同社以外にも、九州大学が産学官金でまちづくりを進める一般社団法人SVI推進協議会の理事や、中小企業基盤整備機構 東大柏ベンチャープラザのチーフインキュベーションマネージャー、また、多くのテックベンチャーで取締役を務めるなどされています。
今回のテーマは「スタートアップが知っておくべき投資ラウンドごとの資金調達」ということで、株式・企業価値・VCにポイントを置き、基本知識や用語を解説しつつ、それがスタートアップにとってどう重要なのかが分かりやすく語られました。

<「株式」について>
・「資本政策は後戻りができない」と言われる理由は、株式は自由に買い戻せず、また、トラックレコードが残るので価格を自由には決められないから。また、希薄化(新株発行や増資などにより1株あたりの価値が低下すること)についても留意が必要。

・株式の種類には、普通株式・種類株式・新株予約権付社債(CB)・有償新株予約権(J-KISS)などがある。また、新株予約権を与えるストック・オプションでは、手元に現金がない場合でもインセンティブを付与することで優秀な人材の採用が叶うといったメリットがある。

・複数人数で創業して株を持つ場合には必ず、創業者株主間契約を結んでおく。会社を退任する際の保有株式の返還や、退任後の競業避止義務を定めるもので、これがないと、フリーライドで現職のモチベーション低下につながったり、引き続き株式を保有する退職役員と連絡がとれずに全株主同意が必要な手続が行えなくなる可能性などがある。

<「企業価値」について>
・バリュエーション(プライシング)では、事業計画をもとに今後の予想売上、設備投資、利益などとともに企業価値を出してVCと交渉する。その際には、強気のものとスタンダード、控えめに見ても確保できる程度と、複数プランを作成するべき。

・VCは各社ごとにバリュエーションの計算式を持っており、その計算式による数字と、自分たちが提示する数字には差がある可能性もある。なので、一概に相手に合わせるだけでなく、合致するVCを探すことも大事。

・株価算定方法は大きく3つ。コストで判断するか、市場から判断するか、収益性から判断するか。コストからというのは、決算書の数字のみで判断するということであり、売上ゼロなら将来性があっても投資には向かないといわれる。一般的には、市場から判断することが多い。比較する会社の市場での価値や、事業計画における成長性などで見る。収益性から判断するのが、最も高くなりやすい。

・VCは、購入額の10倍での売却を想定するので、たとえば成功が確実でも2倍にしかならないならば投資しない。それもあり、株価を上げすぎていると、キャピタルゲインのメリットが減るので引き受け先が減る。一方、下げすぎも、低廉譲渡や贈与と見なされて課税が発生するリスクがある。

<「VC」について>
・VCには政府系(官民ファンド)、証券会社系、銀行・生保系、事業会社系、独立系、業種特化系などがあり、それぞれ特徴がある。

・ファンドを選ぶ際には、ディープポケットと呼ばれる投資余力のあるファンドを入れておくと、計画どおりに行かなかったときに新しいファイナンスを行うまでの橋渡しが期待できる。また、ファンド選びには設立時期も大事。10年・10億円のファンドであれば、設立から約2年で8~10億円を使い切ってしまう。設立間もないファンドは投資先を探しているので、比較的出資してもらいやすいともいえる。

・投資判断のポイントとして、シード/アーリーでは経営者・経営チームを重視し、成長につれて市場規模や事業計画を重視するといえる。さらにキャピタリストごとに、特に重視する点もあるので、そうした方針や相性を考え、「投資家をデューデリする」つもりで数多く当たったほうがいい。

・銀行系VCだと異動があるが、独立系VCだと最初の担当者がずっと担当し続ける。起業家目線で考えてくれる担当者がよいが、VCはトップのカラーに近い人が集まるものなので、トップがどういうタイプかは参考になる。

最後に、その他のアドバイスとして、事業計画には正解はないが、これだと失敗するだろうという不正解については、VCはよく分かっているのでうまく活用すべき。また、資金調達には借り入れも有効。いつでも借り入れできるような関係を銀行と作っておくとよい。
そして、資金調達は手間や時間がとられるものだと、覚悟はしておいてほしいといった話がありました。

その後の質疑応答では、株価算定でコスト・市場。収益性による方法のうち、最も株価を高くできるのはどれか、VC・エンジェルと同時並行で交渉していくときに株価の設定で気をつけるべきことは何かなどが質問されました。また、アメリカのVCや投資環境についても質問があり、当地ではVCの意向がかなり強力で、事業計画の脚本は全部VCが書いてスタートアップ経営者はそれを実行するようなケースも見受けられる、アメリカのVCを検討するならネットワークを使ってよく調べ、代理人を使うべきという話がありました。

プログラムの最後には交流会が行われ、登壇されたエス・アイ・ピーの原田氏やちゅうぎんキャピタルパートナーズの石元氏も交え、引き続き資金調達に関する議論や質問、情報交換などが活発に行われました。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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