【イベントレポート】先輩起業家2人が、スケールにおけるサービス強化や資本政策、人・組織に関する実体験をセキララ披露「五反田バレーアクセラレーションプログラム 研修⑥ 先輩スタートアップとの交流会」
開催日
2024年02月15日
会場
品川産業交流支援施設SHIP 多目的ルーム
参加費
ー
詳細
品川区が、スタートアップの集積地「五反田バレー」の認知度アップや地域活力の向上、区内産業全体の活性化を図るべく実施している「五反田バレーアクセラレーションプログラム2023」。株式会社ゼロワンブースターのプロデュースで2024年3月までの約6ヵ月間にわたるプログラムから、2024年2月15日に開催された「研修⑥ 先輩スタートアップとの交流会」の様子を紹介します。
旧友をCOOに迎えた共同代表制と、累計46.8億円の資金調達でスケールに成功
今回の会場は、大崎駅徒歩8分にある品川産業交流支援施設SHIPの多目的ルームです。アクセラレーションプログラム参加者には、プログラム期間中のオープンラウンジの無償利用が特典として付与されています。
全6回の研修の最後を飾るテーマは「先輩スタートアップとの交流会」です。講師は2人、BtoBの受発注マッチングプラットフォームを提供するPRONI(プロニ)株式会社(旧ユニラボ)の代表取締役/ファウンダー 栗山規夫氏と、全国の貸しスペースをマッチングする株式会社スペースマーケットの代表取締役CEO 重松大輔氏。創業から10年強、事業をスケールさせてきた実体験を、45分ずつ語ってくれました。
PRONIの栗山氏は、2012年に創業してBtoB受発注プラットフォーム「アイミツ」を立ち上げ、自己資本のみでサービス開始から1年半で単月黒字化を達成。その後、累計マッチング数は30万件を突破し、シリーズA、B、C3回のファイナンスで累計46.8億円を資金調達しています。
現在は正社員130名、アルバイト100名強の組織となっていますが、当初は創業メンバー3名とインターン5~6名のチームで、西五反田の30坪のオフィスでは社長自ら、週3回はカレーを作ってふるまっていたそう。2016年には従量課金で売上が安定したものの、正社員20名、アルバイト30名ほどになってミッション・ビジョンの必要性を感じ、策定。第2創業期にはシリーズAの資金調達を実施。共同代表/COOが加わり、マネジメントも拡充して組織を強化しています。その後、コロナ禍となり、シリーズAでいったん赤字の運営としていたのを再び黒字に戻してランウェイを整えたところ、投資家に高く評価され、シリーズBで10数億円の資金調達に成功。自身がファイナンスと新規事業に集中し、COOと理想的な形で役割分担ができたといいます。そして、正社員が100人を超えた2022年は第3創業期として、リブランディングを行い、上場を見据えています。
こうした10年を振り返り、重要だったポイントは大きく4つ。まず、当初の自己資本経営からエクイティでの資金調達に踏み切ったこと。掲げたビジョンを実現するためだったが、実際に資金により事業拡大ができ、ビジョンの解像度も上がっているとのことです。2つ目が、COOとして迎えたのが幼少からの親友だったため、共同代表制で互いの領域を任せ合うことができたということ。3つ目が、創業期を振り返ると総花的なリーダーシップは取れていたが、コアコンピタンスの磨きこみはもっと創業者がやり抜いておくべきだったと思うそう。4つ目が、起業家として一番大切だと思うのはパーパスであり、なぜその事業をやるのかを語れなければいけないとのことでした。
その後は質疑応答が活発に行われました。その一部をご紹介します。
・VCから調達した資金の使途は? →一般的には人件費と広告だと思うが、当社の場合は人件費であり、それを売上につなげてきている。広告は、タクシー広告などは今後可能性はあるが、シリーズAくらいの段階では、SEOの順位や競合対策でまだできることがあると考え、優先順位が高くはなかった。
・サービスをリリース後、どうやってユーザーを増やしたか? →まず受注側を無許可で掲載し、発注者が現れたときにその案件を持って受注可能な企業に営業し、仲介した報酬をいただいた。
・ビジョンやパーパスを策定したときに参考にした書籍や動画は? →グローバルで成功している有名企業を扱ったビジネス書もよいが、かけ離れてもいるので、身近なスタートアップ企業がnoteなどで挙げているコンテンツで具体的な策定の過程などを見ていくとよいと思う。自分がこれと思うものを見つけてみてください。
・一緒に事業をやっていく仲間づくりに苦労しているが、どうやって見つけていくのがよいか? →信頼できそうな人というのでリファーラルが一番よいが、普通に求人媒体などで探すのもよいと思う。一緒に仕事をしていくなかでも信頼関係は築けるので。私の場合は3人で創業し、1人は前職での後輩だが、もう1人のCTOは比較的ライトな知り合いでしかなかった。それでも、1年くらい受託開発など、お金を稼ぐためのプロセスで能力に感銘を受けたし、人柄もよかった。
・この事業で行こうと最終的に判断した決め手は? →最終的にはお客様を見て判断したと思う。受発注プラットフォームではあるが、Web上でのマッチングだけではミスマッチが起こりやすいので、当社では人が介在をすることをまず決めた。そのうえで利益を出せるよう、検証と効率化を重ねていった。
シェアリングエコノミーの波に乗り、そのモデルがハーバードMBAの教材に
2人目のスペースマーケットCEOの重松氏は、2014年にスペースマーケットを起業。現在はレンタルスペースが全国3万ヵ所以上登録されており、アプリで検索すると都心なら近所に1000件ほどの候補が出て、スペースを貸したい人と借りたい人をマッチング。手数料としてホストから利用料の30%、ゲストから5%を得るモデルで、具体的には、一般住宅や飲食店、スポーツセンター、映画館、会議室、スタジオなどのほか、廃校や神社仏閣といったユニークなスペースを貸し出し。プランも多様で、ママ会、推し会などのパーティーや、ボードゲーム、映画鑑賞などの趣味の集まりに加え、テレワーク系で駅にあるブース等の登録も増えているとのこと。
起業の経緯は、NTT東日本を経て、写真に関するスタートアップにジョインして新規事業立ち上げなどを担当。社員10人から120人というグロースを体感して、自分でも起業を決意。結婚式場などに平日貸し出しのニーズを感じ、Airbnbが急成長していることから、シェアリングの波に乗ろうと決めたとのこと。その際には、Yコンビネーター、500startupsなど、グローバルアクセラレーターの登壇企業からトレンドをチェック。
徹底したリサーチにより市場のポテンシャルを見極めるのと、自分が好きで得意な分野を調べて白地を探すことが重要だといいます。DeNAやビジョナルなど、新規事業創出が得意な企業がコンテンツとして公表しているノウハウも参考にしたとのこと。
2013年に創業すると、物件を持つ不動産会社などに、成果報酬なので損はないといって営業。並行してピッチコンテストに多数出たことで、サービス開始から約4ヵ月で1億円の資金調達が実施でき、採用希望者も現れたりしたそう。サービスでは実際に「お寺×創立記念パーティー」「キッチンスペース×親睦会」など、ユニークで新しい人と場所のマッチングを生みました。また、平日昼間の映画館がピッチコンテストや社員総会、サプライズプロポーズなどで使われたり、デリバリーや配信サービスとの相乗効果でレンタルスペースでの女子会やパーティーが増えたそう。2016年にはシェアリングエコノミー協会を立ち上げ、会員は現在300社強。2019年12月に東証マザーズ上場。
その後も、インドア花見を新たなお花見スタイルとして発信したり、テレワークや動画撮影、オンライン面接などのニーズに合わせてソロワークスペースの品揃えを強化。2022年にはハーバードMBAの教材に同社が取り上げられ、今後も不動産の新しい価値を創出・展開していきたいとのことでした。
こちらの質疑応答も活発に行われました。
・シェアリングサービスは乱立しているイメージだが、この立場を得られた勝因は何か? →立ち上げのタイミング、早さが全てだと思う。大手デベロッパーも含め、100社は参入してきたが、多くは撤退している。重要なのは事業スピードと資金集め。優秀なチームを作ってどんどん攻めていくべき。競合と一緒に市場を広げるのもありだが、早く潰しておきたいのが互いに本音なのでは。最後は、やり切った者勝ちだと思う。
・起業に際して事業アイデアを多数検討したなかで、決め手は何だったのか? →在庫を持たないのでキャッシュフローを回しやすいのと、マクロで空き家の増加と都市への人口流入増が続くならスペースの効率的活用ニーズは手堅いと考え、これだと思った。
・創業したてのとき、競合が多数立ち上がってきても粘り強く続けられたのは、なぜ? →思い立って始めた競合とは本気度が違うという自負があった。急成長している先輩起業家の「敵に回したくない」と思わせる雰囲気は参考にしたし、大手企業と対峙しても個人として負ける気がしなかった。さらに、同じようにこの事業に本気で賭けようとする人を仲間にしていった。
・最初の案件開拓から、どうやって掲載物件を増やしてきたのか? →最初は自分でも知り合いに当たるほか、インターンに片っ端から電話をさせた。そのうちに、稼動するスペースの条件が見えてきて、そこを中心に集めていった。潮目が変わったのは2017年の民泊新法成立で、規制がなくキャッシュ化しやすいレンタルスペースに物件が一気に流れてきた。その後、ホストとして稼ぐ個人がノウハウをセミナーなどで発信し始め、自然と広がっていく。また当社でもユニークな事例を発信し、メディアに取り上げられるよう努めた。
プログラムの最後には交流会が持たれ、講師にアドバイスを求める姿も見られました。受講者同士も互いの事業の進捗や、今回の研修内容を受けた意見交換などで、さらに懇親を深めていました。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。