【イベントレポート】品川区で目指したいエコシステムについて議論が白熱!「品川区 スタートアップ・エコシステム ネットワーキングイベント」
開催日
2024年07月17日
会場
SHIP(品川産業支援交流施設)多目的ホール
参加費
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詳細
これまで品川区として創業支援からスタートアップの活性化までさまざまに取り組んできましたが、2024年度はさらに品川区全体としてエコシステム化を推進していく「エコシステム元年」と位置づけて、施策を行っていきます。その活気を作っていく第一歩として、2024年7月17日にSHIP(品川産業支援交流施設)多目的ホールにて開催された、パネルディスカッションやネットワーキングセッションの様子を紹介します。
多様なプレイヤーの参画で目指す「チャレンジを応援するまち、品川区」
本イベントでは、「品川区が取り組むスタートアップ・エコシステムの概要説明」「有識者によるパネルディスカッション」「参加者および登壇者間のネットワーキングセッション」が行われました。
まず、今年度に新設された、品川区地域振興部 創業・スタートアップ支援担当の栗原課長より、品川区が目指すスタートアップ・エコシステムについて、講演が行われました。
品川区には全国自治体で7番目の企業数となる、400社を超えるスタートアップがあり、その約6割が五反田・大崎エリアにあります。これまで区が行ってきたスタートアップ支援として、2020年度より開催のアクセラレーションプログラムでは4期72社の成長をサポートし、うち10社の累計調達額は約31億円に。女性のビジネスコンテストも13回開催してきて、スケールを目指す女性起業家向けプログラムも提供を始めています。
そして、2024年度には創業・スタートアップ支援担当課長/係を新設し、スタートアップ・エコシステム推進事業を強化しています。内容としては、区が行ってきたプログラムや支援施設運営と、民間企業や支援団体などによるピッチイベントやコワーキング/シェアオフィスなどの取り組みをとりまとめて、地域一丸のエコシステムを形成し、スタートアップの成長と地域産業の活性化につなげようというもの。
目指す姿としては3つの柱を掲げています。1つ目が「スタートアップの成長環境の整備」で、現在約15社あるNextユニコーン企業を増やすこと。2つ目が「多様なプレイヤーの集積」で、女性や学生をはじめとした多様なプレーヤーが創業、成長できるようにしていくこと。3つ目が「産業のまちとしての魅力向上」で、品川区であれば課題が解決できるのではと期待され、満足が得られる。そんなエコシステムを目指しているとのこと。
具体的に進めていくのは、以下の施策です。
・スタートアップの立ち上げ・成長支援
アクセラレーションプログラムなどによるマインドの醸成・育成
区内大手企業とのマッチングによる地域との連携・イノベーション創出
VC・CVCとのマッチングによる資金調達の機会提供
これらの多様なプレイヤーが活躍できる基盤整備
・情報発信・交流
ホームページ(作成中)からの情報発信によるエコシステムの認知向上
オンライン・コミュニティ(準備中)によるコミュニケーションの活性化
まず今年度はエコシステムに参画するプレイヤーを多方面から集め、体制を構築。来年度からは具体的な連携や商談など、マッチングや案件の創出を目指します。その先には、イノベーションが創出されたり、区内スタートアップが成長して後輩起業家のメンターとなっていくような、自然発生的な盛り上がりによる好循環を実現し、「チャレンジを応援するまち」として品川区をブランディングしていきます。
このエコシステムのプレイヤーは「スタートアップ会員」「パートナー・メンター会員」「応援会員」となりますが、それぞれ参画いただくことで「エコシステムを活用した事業成長に寄与」「エコシステム内の活動を通じた連携・事業機会の提供」「エコシステム内のスタートアップなどとの関係構築の機会を提供」というメリットを感じられるものにしていくということでした。
全プレイヤーがスピード感と主体性をもって、活発なエコシステムを
次いで、「品川区におけるスタートアップ・エコシステムの形成への期待」をテーマに、パネルディスカッションが行われました。パネラーは、(一社)スタートアップエコシステム協会 代表理事の藤本あゆみ氏、(一社)五反田バレー 代表理事の中村岳人氏、セガサミーグループのCVC責任者である清宮俊久氏、そして、前半で登壇した栗原課長の4名です。
まず、前半の講演内容を受けて藤本氏より、地域のエコシステム形成を成功させるために品川区が良い点として、「テーマを絞っている」ことが挙げられました。日本でも世界でもエコシステムがうまく機能している地ではある程度テーマが絞られている。その点、品川区では初年度の施策が明確に打ち出され、プレイヤーが参画しやすいとのこと。五反田バレーの中村氏も、品川区自体が顧客獲得や資金調達のきっかけになることが重要で、品川区ならではの商店街やものづくり企業なども巻き込んで、取り組みを進めて欲しいとのことでした。
また、品川区にグループ本社を移転して約5年になるセガサミーの清宮氏から、改めて品川区が目指すエコシステムについて、プレイヤー間でも目線を合わせておきたいという話が出ると、スタートアップエコシステム協会の藤本氏が、さまざまなプレイヤーが相互作用するものだという、ヨーロッパで創立されたStartup Commonsによる定義を紹介。品川区で言えば、前半の講演で紹介された「スタートアップ・エコシステムの目指す姿」のように、スタートアップとその他のプレイヤーとが等しく混ざり合ったうえで、目的を「品川区における経済の発展」に置くのがよいといいます。実際、スタートアップが成長すると、自身や周囲の雇用が増えて地域経済が活性化するので、行政が推進していくべきとのこと。
それを受けて清宮氏が、リターンを次の投資に活かす資金の循環ができるには時間がかかるが、「五反田バレーで親子三代が活躍」するくらいに文化の醸成ができれば、まさに品川区らしいエコシステムができたといえると言うと、五反田バレーの中村氏も、品川区は古くからの住民も多いが、五反田バレーとして活動しているとオープンな雰囲気で歓迎されやすい。今後もスタートアップだけで固まらずに交流し、街の文化を創っていきたいとのこと。
いっぽうで藤本氏から、エコシステム自体は昔からあったが、いま求められるのは「スピード感」だという発言がありました。スタートアップが3年くらいで新しいものを創出するのと同等のスピード感に、関わるプレイヤー全員が順応してほしい。スタートアップ側も、自分たちこそがエコシステムの成長を担っていると考えて働きかけるべきだといいます。
これらの話を受けて栗原課長より、このエコシステムの主役はスタートアップだけではなく、大企業や中小企業、商店街、学術機関なども自分たちが主役と思ってもらいたい。また、スピード感をもって今年度から一気に参画者を集めるとともに、この仲間に愛着を持ってもらえるような環境を作っていきたいという話がありました。
さらに、エコシステムを「続けていくため」について藤本氏より、単年度や長期での目標を定めていくべきであり、単にスタートアップを増やしたいというだけでなく、プレイヤー各々がなりたい姿をイメージしてほしいとのこと。エコシステムの目指す姿をよりステップや中長期に分け、かつ主体ごとに解像度を上げていくのが、品川区として今後の検討のしどころといえそうです。
では、民間企業やスタートアップの立場として目指したいものはということで、まずセガサミー清宮氏より、いま見えていない課題の解決には投資が入りにくいものだが、地域のエコシステムのなかであれば陽が当たりやすい。そうして品川区から革新的なものや新しい価値が提案されているとなれば、自然と多様なプレイヤーが集まってくるはずとのこと。自治体側から課題を提示するだけでなく、スタートアップ側からも新しい技術や価値を提案してもらい、それを品川区としても受け入れていくような構造が求められそうです。
一方、五反田バレーの中村氏が目指したいエコシステムの姿は、シンプルに関係者全員が儲かってやりたいことがやれている状態だといいます。そこでスタートアップにとって重要なのは、このエコシステムに関わることでちゃんと売上が作れるとか、ニーズを見出せる、自社の成長のきっかけをつかめるということ。そうして、地域の雇用創出や課題解決へのサイクルを回していきたい。そのためにも、参画する1人1人がやる気や主体性、積極性をもって取り組もうとのことでした。
その後はネットワーキングのための懇親会がもたれ、スタートアップ関係者などの参加者が登壇者や品川区の職員と積極的に交流する様子が見られました。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。