【イベントレポート】品川区らしいエコシステムを目指し、新たな取り組みがスタート「品川区スタートアップ・エコシステム キックオフイベント」
開催日
2024年08月05日
会場
五反田産業文化施設 CITY HALL & GALLERY GOTANDA
参加費
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詳細
品川区は「スタートアップを応援するまちしながわ」として、スタートアップと地域産業双方が成長可能な「エコシステム」を形成し、地域の産業のさらなる活性化を目指していきます。その取り組みのキックオフが、2024年8月5日に区立五反田産業文化施設 CITY HALL & GALLERY GOTANDAにて区内外のスタートアップや事業会社、関連機関など、130人以上の参加者を集めて開催されました。業界有識者による基調講演や森澤区長を交えたパネルディスカッション、ネットワーキングセッションの様子を紹介します。
品川区ならではのテーマで、エコシステムを発信すべき
プログラムの皮切りは、Forbes JAPAN WEB編集長 谷本有香氏による基調講演「スタートアップトレンドと日本のエコシステム」。Forbesは世界40カ国・800万人のビジネス読者層を持つメディアであり、谷本編集長はその日本部門を率いて10年になります。その間スタートアップを継続的に取り上げ、毎年「日本の起業家ランキング」「STRT-UP OF THE YEAR」を選出。こうして注目されてスタートアップのビジネスや資金調達が円滑になるなど、エコシステムを活性化させてきました。
そして、メディアから見たエコシステムの問題点が、1つ1つの点であるスタートアップをいかに面としてアピールできるかだといいます。グローバルで経済産業省やJICAとチームジャパンとして活動しても、日本全体としての方向性が見えず、それが明確な台湾ほどには国際メディアに取り上げられずに機会損失となっている。国内でも同様に、品川区のエコシステムが何をしようとしているのかを、テーマとして打ち出すべきとのこと。
その打ち出しの好例として、イスラエル(軍事技術、疑ってかかる国民性から来る創造性)やルクセンブルク(ヨーロッパのイノベーションハブ、ビジネス拠点)、カナダ(3人のAIゴッドファーザー、モザイク文化)、インド(エンジニア人材の集積、国の支援策)、ミャンマー(ECアプリ、フィンテック、医療、教育)が挙げられました。また、日本では仙台(ソーシャルイノベータ、大学発)、名古屋(セントラル・オブ・ジャパン)、京都(個性的なディープテックへの長期投資)、山形(高齢者や子どもに優しいキャラクターを設定し起業を身近に)が、その地域らしいエコシステムをうまく打ち出しているとし、このように具体的なイメージが浮かぶような形でエコシステムのメッセージを、品川区でも発信していってほしいと締めくくられました。
初年度は、エコシステム会員のビジネス創出イベントや情報発信から
次いで、自身が3社のスタートアップで創業期やIPOを経験してきた、森澤区長の講演「エコシステムで描く品川区の今後」です。
品川区では商業、製造業に加え、IT・情報が区の主要産業となっており、スタートアップ社数は400社超と全国自治体で7番目。(一社)五反田バレーとも連携して、2021年には区内スタートアップのセーフィー(株)がForbesの日本の起業家ランキング1位を獲得しています。
区ではスタートアップ支援として、2020年度からアクセラレーションプログラムで4期72社の事業成長を支援。計約31億円の資金調達につながり、東洋経済の「すごいベンチャー100」に選出されるスタートアップも輩出しています。女性起業家支援にも力を入れており、女性のビジネスコンテストを13回開催。2023年度からはスケールを目指す女性起業家向けプログラムも開始しました。そして2024年度にスタートした、小中学生を対象とした起業スクールでは30名定員に70名以上の応募を集めたとのこと。
さらに、官民の各種支援やリソースをつないでエコシステムを形成し、スタートアップに対する支援と地域の発展につなげようとしています。
そんな品川区のエコシステムが目標とするのは、「スタートアップの成長環境の整備」「多様なプレイヤーの集積」「産業のまちとしての魅力向上」です。また、品川区の主要産業をベースに「ものづくり」「店舗ビジネス」「教育・子育て」の3点を注力テーマとし、地域産業の活性化、地域の教育・子育て環境のさらなる充実など、まちとしての住みやすさの向上につなげたいといいます。
そのため、従来のアクセラレーションプログラムなどの取り組みに加え、地域との連携によるイノベーションの創出、資金調達の支援、情報発信などを促進。まず今年度はエコシステムの基盤構築のため、エコシステム会員(個人・企業)のビジネス機会の創出を目的としたイベントや情報発信を行っていきます。
また、スタートアップ・エコシステム推進拠点都市との連携イベントも計画中。東京にいる強みを活かしつつ、地方との連携も大事にし、さまざまな自治体と話を進めています。さらに、こうした取り組みを発信する専用サイトも開設。オンラインコミュニティも創設して、会員間の交流も活性化していきます。
行政としてできることを最大限考え、区内企業やスタートアップ、投資機関をつなげるべく取り組み、全体でスタートアップを支援していくチームを作っていきたい、とのことでした。
エコシステムにおけるスタートアップの成長促進に必要なものとは
次いで、パネルディスカッション「エコシステムにおけるスタートアップ支援・イノベーションの創出」では、セーフィー(株)CEOの佐渡島隆平氏、(株)学研ホールディングス 経営戦略室長の丸山洋氏、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ(株)ベンチャーキャピタリストの松田怜佳氏と森澤区長の4名が登壇。モデレーターは(一社)五反田バレー 代表理事の中村岳人氏です。
1つ目の議題は、「エコシステムにおけるスタートアップの成長促進には何が必要か」。
まず区内スタートアップの立場でセーフィー佐渡島社長より、創業期に信用面や資金面でサポートできる体制があるとよく、また、ピッチイベントでも単に資金調達を支援するだけでなく、それを使ってみようと思うユーザーなどを集めたいとのこと。
一方、VCの立場で松田氏からは、起業は誰もが成功するわけではなく、再挑戦できたり、失敗も学びにできるよう、循環する仕組み作りが大切だといいます。
区内大手企業の立場で学研の丸山氏からは、スタートアップと金融機関などのつながりに加え、地域住民ともつながれる場が必要。その際に、たとえば学研の教育、医療、福祉のようなアセットも活用しながら、ユーザーと一緒に開発していけるような場を事業会社として提供していきたいとのこと。
次にモデレーターの中村氏から、エコシステムにまだ巻き込みきれていない層へのアプローチのアイデアが問われます。
するとセーフィー佐渡島社長は、世界では優秀な学生ほど起業して成功を目指すことが多く、失敗しても起業に再挑戦できたり、GAFAのM&A担当に就くなど、キャリアパスが多々ある。日本でもエンジニアに起業の面白さを伝えたり、ビジネス側の意欲ある人にエンジニアをマッチングさせるような仕組みや教育を大学に求めたいとのこと。
学研の丸山氏は、18~60歳の働く世代以外に向けてスタートアップを知らしめる。たとえば、義務教育から起業への挑戦や失敗の意義を伝えていけば、自身でのチャレンジやサポートを考えられるようになる。シニアも、過去の経験やキャリアをふまえて起業できるとよいといいます。
ここまでの話を受けて、森澤区長から、改めて「品川区らしさ」を突き詰めていきたい。ピッチなどのイベントも、今後の見込みユーザーも含めていろいろな人に体験いただくのが大事。品川区で今年度、初開催した小中学生向け起業スクールにも想定以上の応募があったが、このように起業を身近に感じる素地を地域で作っていきたいと感じたとのこと。
スタートアップ支援政策を地域の活性化に波及させるためには
2つ目の議題は「スタートアップ支援政策を地域の活性化に波及させるには何が必要か」です。
まず学研の丸山氏は、学校や保育園などの子どもたちのいる場で、行政の力を借りてスタートアップのサービス/プロダクト体験や住民参加型ピッチコンテストなど、地域のイベントでスタートアップを盛り上げることを提案。
次いでVCの立場で松田氏からは、企業がスタートアップに対してM&A目的以外にも、創業段階からもっと事業連携について踏み込んだ議論をできる場があると、地域の活性化につながるのではとのこと。
するとセーフィー佐渡島社長は、大企業のスタートアップ支援の手法には、従業員への出資や事業のカーブアウト、大企業の子会社となった後にIPOするスイングバイIPOなど、多様なケースが出てきており、自社の企業価値向上と支援を両立できる。そうした手法がシェアされることが大事だといいます。
さらに中村氏より、地域の活性化のためだからこそ中に閉じずに、資本政策や事業連携などで外の世界とつながり、その結果としてエコシステム自体が盛り上がっていくようなサイクルを作る必要があると感じた。スタートアップ各社も自社の戦い方や目指すゴールに合わせて、最適な仕組みを用い、多様なステークホルダーを巻き込んでいくべきとの発言がありました。
最後に森澤区長より、地域活性化に向けた展望として、学研やセガサミー、パーク24、amazonなど、既に区内大企業がアクセラレーションプログラムに関わってくれているので、今回話題となった大企業との踏み込んだ議論や、スタートアップとのマッチングについて、区としてもさらに考えていきたい。また、地域課題の解決に向けた区内の大企業やスタートアップとの取り組みもさらに拡大させたいとのことで、パネルディスカッションが締めくくられました。
その後はネットワーキングのための懇親会がもたれ、コンピュータ・IT、ものづくり、教育・子育て、環境のテーマでゾーニングされた会場で、区内スタートアップや事業会社などの参加者が登壇者や品川区の職員などと活発に交流や意見交換が行われました。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。