【イベントレポート】「スタートアップ×大手企業 事業壁打ち相談会」 大手7社の出資・連携に関する本音を聞いた上で、自社の可能性を直接アピール
開催日
2024年09月02日
会場
大崎ブライトコアホール
参加費
ー
詳細
品川区では、大手企業の投資・新規事業担当者などがメンターとなり、スタートアップの課題を解決する「スタートアップアドバイザー事業」を実施しています。そのなかで「大手企業との連携の進め方」や「連携がなかなかうまくいかない」といった相談が寄せられるのを受け、9月2日、大崎ブライトコアホールにて本イベントが開催されました。その内容をレポートします。
大手7社の投資・新規事業担当者が、出資・連携のポイントを発信
本イベントのプログラムは、
●スタートアップとの連携や投資に取り組んできた大手企業7社によるリバースピッチで、各社の過去の連携実績やそこに至った経緯、連携先に求めることなどを紹介。
●「スタートアップアドバイザー事業」でメンタリングを受けて事業を伸ばした品川区発スタートアップが自らの事例やメンタリングの活かし方などを伝授。
●登壇した大手7社の投資・新規事業担当者らとの個別相談会
という内容です。
実際に大手企業の投資・新規事業担当者からスタートアップとの連携の考え方や実績、期待することなどが聞け、直接マンツーマンで相談機会が持てるとあって、大手企業との連携や投資に興味・関心のある起業家が約50名集まりました。
品川区地域産業振興課 栗原課長からの主催者あいさつ、そして本イベントの趣旨説明に引き続き、大手7社によるリバースピッチが行われました。それぞれの内容は以下のとおり。連携・出資の実績などが具体的に伝えられ、参加者も前のめりになって聞き入る様子が見られました。
●川崎重工業株式会社
エネルギーソリューション&マリンカンパニー 営業本部 営業管理部営業企画課 担当課長 濱 剛氏
同カンパニーでは水素エネルギーのサプライチェーン構築・展開に注力。営業本部としてCVCを準備中で、エネルギー(水素以外でも可)や環境(プラント、廃棄物、ゴミ、電池)など、事業シナジーのある分野について、スタートアップへの直接投資や協業による新事業展開を希望。飛び地となる事業についても、本社で実施する「ビジネスアイディアチャレンジ」制度にて検討。
●コニカミノルタ株式会社
プロフェッショナルプリント事業本部PPHマーケティング統括部AccurioDX BizDevリーダー 藤原崇史氏
主軸の印刷機製造販売からコミュニケーション変革事業へのトランスフォーメーションを目指す同社では、AccurioDXブランドを掲げて変革を推進。スタートアップとの連携実績として、介護施設向けソリューションを展開するemome社とパーソナライズされたワークアンドエンタメシートを開発、PoCを実施している。
●株式会社JTB
グローバル統括本部 訪日インバウンド共創部 ジャパンインバウンド事業チームマネージャー 横井秀明氏
訪日インバウンドの環境整備に注力する同社では事業シナジーを重視し、銀行系アクセラレーションプログラムでスタートアップ数十社と商談が進行中。一例として、ガストロノミーツーリズム推進のため、訪日外国人向けフードプラットフォームを運営するテーブルクロス社に出資。地方での食体験プログラムを開発し、アクティビティ予約管理システムJTB BÓKUNとAPI連携している。
●株式会社セブン銀行
セブン・ラボ グループ長 栗原宏幸氏
全国2万7000台のATMを現金プラットフォームとして活用する同行では、事業シナジーを見込めるスタートアップ約20社に出資実績あり。ワーカーと店舗をつなぐアプリ運営のTimee社とは報酬の即日受取にリアルタイム振込を活用。個人向け決済サービスのKanmu社とは、同社のバンドルカードの「ポチっとチャージ」にセブン銀行後払いサービスで連携している。
●株式会社テレビ朝日
インターネット・オブ・テレビジョン(IoTv)局IoTvセンター ビジネスプロデューサー 清水智晴氏
IoTvセンターでは「新領域の事業への挑戦」をミッションとして、Web3.0、メタバース、AI、IP創出、動画関連など、幅広い領域でスタートアップとの事業共創を推進している。メタバースプラットフォームを展開するクラスター社とは、資本提携だけでなく、放送番組との連動イベントや有名IPとのコラボなど、150以上のイベントを実施している。
●トヨタ紡織株式会社
経営企画部 戦略推進室CVCグループ グループ長 森山朋和氏
自動車のシートや内外装品、ユニット部品を扱う同社では、2021年よりCVCで年間約10億円の予算で直接投資している。重点投資分野は、車室空間(UX、AI、ヘルスケア)、ESG(カーボンニュートラル、循環型社会、新素材)、ものづくり(電動化、ロボティクス)。出資までの検討期間は4~5ヶ月で、現在、投資先スタートアップは14社。VRコンテンツ制作のABAL社とは、車窓ARコンテンツの実証実験などを行っている。
●株式会社明治
経営企画本部 イノベーション事業戦略部 専任課長 倉光宏和氏
「健康にアイデアを」をスローガンに、ヨーグルト、牛乳、チョコレート、流動食などを乳幼児から高齢者まで幅広い世代に提供する同社。社外創発として運営するアクセラレータープログラムでは、社内公募のカタリストが採択企業に対して協業・出資を検討していく。今後スタートアップと連携したい分野は、アップサイクル、食のバリアフリー、完全栄養食など。
当日、登壇企業とスタートアップの相談件数は、60件以上と大盛況
イベントの後半には、品川区の「スタートアップアドバイザー事業」でメンタリングを活用して事業を伸ばした株式会社Neeew Local(ニューローカル)の代表取締役 濱田健太郎氏が登壇。経営者の各不安に対するメンタリングの重要性について発表しました。
同社は2022年11月に品川区で創業。コアメンバー3名と業務委託約10名で、東南アジア向けの越境ECでご当地グルメの販売事業やZ世代のアントレプレナーカンファレンス事業を行っています。品川区の制度によるメンタリングは5回受けており、初回は五反田バレー理事でもあるコグラフの森氏(スタートアップ経営者)に、そもそも自己資金でやるべきか、エクイティを入れるべきかを相談。3回目の潮田氏(企業広報のプロ)からは、人も金も知識もないなかでの広報戦略の立て方を教わり、海外の事業戦略を考える上で必要な検疫や関税などの課題については、もともと貿易に従事していた4回目の桑田氏(01Booster執行役員)に教わったそう。初歩から聞くことができ、経営に役立ったといいます。
また、濱田氏自身がメンタリングについて10代~40代経営者51名に行ったアンケート調査が発表されました。それによると、メンターを持つ経営者は約半数で、その8割が毎週や毎月など定期的にメンタリングを実施。複数人のメンターを持つ人も約8割で、分野ごとにメンターがいるのが特徴です。また、メンターを付ける人自身は事業成長や自己分析に意欲が高く、実際にメンターをつけてから事業が伸びたという人が7割強でした。相談内容は、社内マネジメントや組織づくり、新規事業/新商品開発、営業や資料づくり、新規顧客開拓、資本政策など、初歩的~高レベルのことまで幅広く、なかにはプライベートも含めた人生観など、公私共に相談しているというケースも。
そして、濱田氏が品川区の制度で良いと思った点は、忙しい経営者でもさっと予定を決めてメンタリングが受けられ、終了後も簡単な報告書を提出するだけだということ。スタートアップの味方になるプログラムなので、ぜひ活用して一緒に品川区を盛り上げましょうというメッセージで締めくくられました。
プログラムの最後には、参加したスタートアップが希望する登壇企業と各12分ほどの個別面談を実施。事前申込制でしたが、当日に希望を出してセッティングすることもでき、相談件数は60件超に。起業家が直接、事業の壁打ちや課題解決を相談できる貴重な機会とあって、どのテーブルでも活気ある対話が繰り広げられており、新たな連携が期待できる会となりました。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。