【イベントレポート】創業期にあるべきマインドセットを、最新情報を交えて伝授「五反田バレーアクセラレーションプログラム 研修① スタートアップを立ち上げて世界を変えていこう」
開催日
2024年09月26日
会場
TUNNEL TOKYO
参加費
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詳細
スタートアップの集積地としての「五反田バレー」の認知度アップや地域活力の向上、区内産業全体の活性化を図るため、品川区が2020年より実施している「五反田バレーアクセラレーションプログラム」。今年度は株式会社ゼロワンブースター(以下、01Booster)のプロデュースにより2025年3月までの約6ヵ月間プログラムが行われます。今回は、2024年9月26日に開催された「研修① スタートアップを立ち上げて世界を変えていこう」の様子を紹介します。
ピッチフィードバックで、受講者同士が忌憚なく意見を交換
今回の会場は、アクセラレーションプログラムの連携パートナーの1つであるセガサミーホールディングス株式会社が大崎で運営する、オープンイノベーション施設「TUNNEL TOKYO」。アクセラレーションプログラム参加者には、このコワーキングスペースのフリーデスク6ヵ月無償利用が特典として提供されており、研修の冒頭では施設紹介も行われました。
プログラムは、ピッチフィードバック・講演・交流会の3部構成で行われました。
ピッチフィードバックは本プログラムの特徴で、毎回の研修で受講者の有志がピッチを行って他の受講者からの質問を受け、ふせんに書いた感想や意見、アドバイスを後に受け取るもの。投資家などを前にして行うピッチと違って、ピッチ自体の練習になったり、あらかじめ課題感やアドバイスをもらいたい点などを伝えて行うことで、事業内容のブラッシュアップに役立てることができます。聞く側も、近しいフェーズの起業家の事業内容やその課題を一緒に考えることで、事業を磨き上げる練習になります。
今回は2人がピッチを行いました。
1人目の事業は、新規事業担当者向けのAI技術検証サービスです。登壇した目的は「ピッチ慣れしたいので話し方や資料の分かりづらさなどがあれば指摘してほしい。またサービス自体に需要があるかを知りたいので、1人1人が事業者としてこのサービスについて商談/紹介に進みたいと思えるかを忌憚なく聞かせてほしい」とのことでした。
AI開発企業である同社では新規事業開発を支援した経験から、AI技術側の検証を行うアプリを開発・提供。マーケティング観点のあるエンジニアが、最短1ヵ月でAIのプロトタイプを構築できるため、ビジネスサイドの要望をAIでかなえてサービスインさせたり、AIでは実現困難と提言して新規事業の方向性を変更させた実績があるとのことでした。
このピッチに対し、単価やLTV(顧客生涯価値)の向上はどう図っていくのかを問われると、検証で実現可能なら開発まで請け負うのが基本戦略だが、労働集約的なので解決法は模索中とのこと。また、そもそも検証段階から入ることでLTVを長く取れると考えた、という話が出ると、質問者も同様の課題感があるため、一緒に考えていきましょうというやり取りもありました。
2人目が取り組むのは、ユーザーと家事代行サービス事業者をつなぐプラットフォーム事業。創業間もなくて事業も構想段階のため、これから進めていくに当たっての意見やアドバイスが欲しいとのことでした。
家事代行業界には自社で雇用した清掃スタッフを派遣するモデルと、C to Cの個人間をマッチングするモデルがありますが、同社が目指すのはレストランや美容院のように予約/契約を代行するモデル。海外に比べ日本では家事代行サービスの利用率が約4%と低く、成長余地が大きいが、「サービス内容が分かりにくい」「契約が手間」という声がある。それを解決するプロダクトとして、ユーザーは日時を設定して簡単に予約ができ、事業者は自社のスタッフのスケジュールを登録し、予約管理ができるものを構想中とのこと。
このピッチに対し、初回マッチングした後に直接契約されてしまうリスクをどう回避するのか、収益となるマッチング手数料は何%くらいを考えているか、事業者ごとのサービスや料金の差はかなりあるものなのか、ユーザーをどう獲得していくのかなど、ビジネスモデルに関する質問が多数あり、事業化に向けて参考になった様子でした。
どちらの発表者に対しても5~6人が手を挙げて活発に質疑応答が行われており、今後の研修でもこのピッチフィードバックが各人の事業推進に大いに役立てられそうです。
スタートアップ投資が活況だからこそ「大きく構想すること」が求められる
次いで、01Booster代表取締役の合田ジョージ氏が登壇。合田氏自身が、大手メーカーとベンチャー企業での勤務を経て01Boosterを起業しており、特にベンチャーについては計12社に携わって、急激なスケールを実体験されています。本講演では、スタートアップを立ち上げる起業家のマインドセットに関して熱く語られました。
・「人は艱難はともにできるが、富貴はともにできぬ」という高杉晋作の名言を今風にいえば、成功してうまくいっている話はしにくいが、辛いことはシェアできるということ。企業経営していると辞めたくなることも多いが、そんな辛さを打ち明けられるのは起業家仲間であり、今このプログラムで回りにいる人がそうした「仲間」になり得る。
・起業に重要なマインドセットには「グロース型」「フィックス型」の2種類がある。前者は「人間の能力は努力で変えられる」「変化を受け入れられる」「自責で考えられる」「批判も受け止めて学べる」「失敗から学べる」といったマインドセットで、後者は逆。普段はグロース型でも、自分ががんばっていることやこだわりに関しては意見を素直に聞けないなど、フィックス型になりがちなので注意。
・成功するには、才能と運のどちらが重要か。ある研究によれば、中間より少し上の能力の人が成功しやすく、突出して高い能力が必要なわけではない。つまり能力よりも、グロースマインドで前向きに行動することが重要。その際に、失敗のプロセスを多数経験することで、事業を成功させやすくなる。
・この10年でベンチャー投資のファンドサイズは10倍規模と資金調達が大型化しており、最初から超大型の事業を狙うことが求められている。事業が小さくなりやすいWill領域(やりたいこと)では投資は得にくく、大きく構想することが重要。
・松下幸之助が「今までの延長線上で考える3%のコストダウンは難しいが、3割下げるなら商品設計からやり直してすぐできる」と言っている。積み上げ式では大きな改善や目標達成は難しいが、大きく構想すればできる。
・大きく構想するためのポイントは「高い目標」「今までとは違ったやり方」「コミュニティの垣根を超えたやり方」の3点。最初に高い目標を設定すると、たとえば海外市場も狙うなど、やり方が変わってくる。また、周りを巻き込んでいくために、コミュニティの垣根を超えていくようになる。
・最初から100億円、1000億円規模の事業を構想するには、戦略的な模倣も必要。実際に、シリコンバレーの成功事例を世界各国で展開するRocket Internet社のような例もあれば、欧米で成功した事業モデルを日本に持ち込むタイムマシン経営というのもある。
・ターゲットとする顧客はペルソナを設定すべき。製造業に向けたサービスといってもその相手が「売上20億円の大田区の医療機器組立工場」か「売上50億円の茨木市の高齢者向け宅配工場」か「売上2兆円の熊本の半導体製造工場」かでは異なる。
・『フォース・ターニング 第四の節目』によれば、80年ごとに歴史が様相を変える。大きな変化には戦争、革命、パンデミックなどがあり、1864年は明治維新の4年前で財閥が多数生まれ、1944年は終戦の1年前で戦後にパナソニックやソニーが生まれた。その80年後の2024年はアフターコロナであり、やはり大きな事業が生まれる素地がある。今後80年はこうした機会がないともいえ、今がまさに大型の事業を作るのに最適な時だということ。ぜひ、仲間と行動して事業を成功させていってほしい。
こうしたトピックの合間には、「いま事業を行っていて辛いこと」「過去の失敗経験」「世界を変えるような事業/身の丈に合った事業 どちらをやりたいか」などについて、隣り合った2~3人で意見をシェアする時間が取られました。自ずとトピックを自分ごととして捉え、言語化して意見交換しようという雰囲気ができていたようです。
その後は有志で交流会となってにぎやかに会話が弾み、合田氏も受講者の疑問や相談に丁寧に応えておられました。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。