【イベントレポート】ピボットや事業売却の赤裸々な体験から学ぶ!「五反田バレーアクセラレーションプログラム 研修⑥ 先輩スタートアップとの交流会」

イベントレポート 2025.5.13

【イベントレポート】ピボットや事業売却の赤裸々な体験から学ぶ!「五反田バレーアクセラレーションプログラム 研修⑥ 先輩スタートアップとの交流会」

開催日

2025年02月12日

会場

品川産業交流施設SHIP

多目的ホール

参加費

詳細

品川区が、スタートアップの集積地「五反田バレー」の認知度アップや地域活力の向上、区内産業全体の活性化を図るべく実施している「五反田バレーアクセラレーションプログラム2024」。株式会社ゼロワンブースターのプロデュースで2025年3月までの約6ヵ月間、実施中のプログラムから、2025年2月12日に開催された「研修⑥先輩スタートアップとの交流会」の様子を紹介します。

1人目の先輩からは、4回のピボットや組織体制のポイントを伝授

今回の会場は、大崎駅徒歩8分にある品川産業支援交流施設SHIPのオープンラウンジです。アクセラレーションプログラム参加者には、プログラム期間中のオープンラウンジの無償利用やテストマーケティング・実証実験支援などが特典となっています。

今回の「先輩スタートアップとの交流会」では、2人のスタートアップ経営者を講師として、それぞれから事業の転機やM&A戦略など、実体験に基づくお話を各40分いただき、15分の質疑応答を経て、交流会を実施しました。

1人目の講師は、株式会社エスマットの代表取締役 林英俊氏。「大いなるしくじり先生が語る、失敗から学んだ事業拡大のコツ」と題して、事業紹介から事業・組織のしくじりポイントを各4点披露してくれました。

林氏は、大学院でコンピューターサイエンスの修士を取り、外資系コンサルで製造業を中心とした経営課題に多数触れ、アマゾンで定期おトク便の立ち上げ・グロースを行うなど、製造とデジタル両方の経験を経て、2014年11月に「スマートショッピング」の社名で起業。

同社のサービスは「重さによる在庫管理」。IoT重量計で、たとえばネジ箱のネジ1本の重量と総重量から本数を割り出し、人の代わりに在庫を管理。リアルタイムに把握して必要な発注や支店との連携や、消費データ分析で在庫の適正化を通してキャッシュフロー改善も行えます。導入場所は、自動車や化学などの工場、医療現場のほか、設備・インフラ系工事会社のメンテナンスパーツの在庫管理もニーズが増しているそう。

今回は、創業からここに至るまでの紆余曲折、しくじりから学んで欲しいとのこと。
まず事業では4回ピボットしており、最初は「ショッピングの未来を創る」ために、BtoCのショッピングメディアからスタート。シャンプーなど日用品の定期購入では適切な頻度が分かりにくいため、価格.comの消耗品版のようなものを作り、AIで購買履歴から次回購入の予測をしました。しかし個人では気まぐれもあって難しく、自動的に良いタイミングで次回購入できるよう残量を量ることを考え、市場の見込めるBtoBの医療領域にピボット。そこから製造業のニーズに応えて棚卸しが楽になるSaaSとなり、今はコンサルティングも加えた生産/在庫管理DXとなっています。

この過程でしくじった点を「モノの消費・残量はAIで予測できない」「『家をホテルのようにする』は悩みが浅い」「売りやすさだけで医療ターゲットに」「製造DXをSaaSの常識で攻略できる」という4つで解説。

たとえば、課題を最初はソフトウェアで解こうとしたが難しく、ハードウェアを作ることに。すると1号機の試作で100万円が消え、2号機でうまく動作するも量産コストが日本では10倍かかるため、中国を訪れ3日間で2州をめぐって工場を決定。それでも品質や消費電力の理想をかなえるのは非常に難しく、普通に動き、売れる製品に仕上げる難しさを痛感したといいます。また、BtoCからBtoBへの転換では、気づけば開発・生産から品質管理・物流、マーケティング、営業、カスタマーサクセス・サポートまでをCTOと2人で対応していて、疲弊してしまったそう。

事業でのしくじりをまとめると、ピボット自体は悪いことではないが、経営者としての志やビジョンは確固として持っておくべきだといいます。ピボットするときはいろいろ否定的になりやすいものですが、志がぶれなければ堂々とピボットの意思表示ができ、負い目を持たずに発信していけば手を差し伸べてもらえるものだとのことでした。

次に、組織でしくじった点を「スタートアップはイケてるMVVが必要」「心理的安全性がとにかく大事」「スタートアップに組織の一般論で立ち向かう」「人に向き合えば事業は自然と伸びる」の4つで解説。

まず、創業時は独自で尖ったコアバリューを10掲げたそうですが、メンバーが増えていくときには当たり前のことこそ掲げないと意外とできないものであり、その欠如が組織に伝染していくと気づいたそう。そこで考え直し、2つの土台と3つのイノベーションという、5つのコアバリューに行き着いたとのことでした。

また、心理的安全性は失敗を許容するものといえ、それだけでは仲良しサークル的になりやすく、成功責任とセットで語るべきだと気づいたといいます。そこで目的意識やコミットを引き出すために、リーダーが全体目的と日々の活動をつなげるよう、またメンバー各人も自身でモチベーションを上げられるようにと組織を改善していったとのこと。

また、世にあふれる情報は大企業の組織論であって、スタートアップにそのまま当てはまるわけではないというのも気づきだったそう。たとえば、マネージャーの役割は一般的にはチームの力を「引き出す」ことですが、スタートアップではさらにチームを「勝たせる」ことが大事。そこでリーダーシップスキルを「理想を描き、全員が意識できるまで逆算する」など言語化して、4項目を定義したとのこと。

このように、赤裸々で受講者たちにもためになる話が語られた後は、質疑応答が活発に行われ、以下のようなやり取りがありました。

・ピボットを決めるときは何で判断したか?
→ピボットや撤退などの大きな決断をするときというのは、経営者は3ヵ月くらい前から違和感に気づいているもの。そういうときに信頼できる人3名ほどに壁打ちしてもらい、確信できればピボットしていた。

・ピボットのなかでもBtoCからBtoBへの転換は当初の思いからの変化が大きく、心理的に難しかったのでは。どうやって決断できたのか?
→たしかに創業時はショッピングの未来を創りたいと思ってBtoCをやっていたので、BtoBの在庫管理の方が儲かりそうなのは明白だが信念を通すべきではなど、半年は葛藤した。その結果、これをもっと必要としてくれる人が自分の思い描くBtoCよりも別のところにいるのであれば、それは幸せなことだと思えて決断できた。また、自分は前職からEC業界だったのでBtoCのECショッピングが楽しいと思っているが、知らない世界があるかもしれない、ならば行ってみようという気持ちの切り替えもあった。

・ピボットは投資家からどう見られるか?
→きちんと考え抜いたうえで「こちらの方が顧客のためになる、ビジョンに近づきそう」などと説明責任さえ果たせば、投資家はポジティブに受け取ってくれる。むしろピボットを躊躇しながら業績が悪いままでいる方が、信頼されないのではないか。

2人目の先輩からは、M&Aの背景から売却先選び、事業における成果を伝授

後半は、株式会社YOUR MEALの取締役CPO 西川真梨子氏による「創業からのストーリーや、M&Aによる事業の転機、良いM&Aとは」。自己資本経営からエクイティの資金調達を経て、大手事業会社にM&Aし、取締役CPO(最高プロダクト責任者)として引き続き事業を推進している経験から語ってくれました。

西川氏は、メーカーの営業職時代に友人とサバイバルゲーム場を作って起業し、コンサル会社で事業立ち上げ経験を経て、2016年に株式会社Muscle Deli(現 株式会社YOUR MEAL)を創業。2023年に同社株式をDM三井製糖㈱に売却して代表を降り、グループ会社の1社として約20名の組織を牽引しています。

事業は、機能性食品の通販を通して食に関わる課題解決に取り組むというもの。ダイエッターに最適な栄養素の冷凍弁当をサブスクで届ける「マッスルデリ」から、一般人向けの「YOUR MEAL」、タンパク質が摂れる「EXIT COFFEE」「YOUR BREAD」と事業を広げ、親会社の機能性素材を使ったスポーツ向けエネルギードリンクの素「パラチノース」も提供。栄養計算するケータリング事業や、BtoCコンサルティングも手がけています。

創業のきっかけは、パーソナルジムでの食事指導が厳しく、美味しさと健康を両立できないかと思ったことで、ダイエッター向けに宅配弁当を作ろうと友人と創業。最初は常温で届けたのを冷凍弁当にして、2017年5月にサービス開始したところ話題になり順調でしたが、共同創業者が退職して一人で経営することに。1年半は孤軍奮闘でしたが、事業に思いを持つメンバーを1人2人と採用でき、Webマーケティングで事業を推進できたそう。

その後、コロナ禍により人々の健康意識が向上し、外食控えから売上増に。これはうれしい反面、飲食業界のEC化が予想以上に進んでしまい、自社の事業成長を加速させねばと不安に。そこで今後の選択肢として「オーナー企業として収益性高く成長させる」「資金調達&IPOを目指す」「市場が活況の今、会社を売却する」の3つを検討。すると、以前起業した会社から信頼できる2人がジョインしてくれたため、VCや銀行から2.5億円を調達して新ブランドの立ち上げやシステム化などを実施。しかし、コロナ禍が落ち着くと事業環境も沈静してしまい、資金ショートまで10ヵ月という状況に。そこで痛感したのは、食品市場でシェアが大きい企業は歴史のある老舗企業が多く、スタートアップ一社で拡大するためには莫大な資金や大きなリスクが必要になるということ。それをふまえてコストカットやBtoB事業の強化、M&Aも視野に入れてさらなる資金調達に努めていき、2023年8月にDM三井製糖とM&Aすることとなりました。

売却先を開拓する手段としては、ファイナンシャルアドバイザーや信頼できる知人に相談もしましたが、結果的には営業活動で、同社の食事を福利厚生で導入してもらうのに、銀行からの紹介先に当たるなかで、共感性の高い会社には出資の可能性もあると提案して意気投合したとのこと。

売却先を検討する際は売却金額やM&A後の体制などを見ましたが、最も重視したのは、このプロダクトを世の中に届け、事業成長が実現できるかだったそう。他の候補では宅食の延長しか描けなかった一方、DM三井製糖は株主に二大商社(三井物産と三菱商事)がいて、日本の食にインパクトを与えられると思えたのが決め手だったとのこと。実際、M&Aから1年強経った今では宅食にとどまらず、シニアやスポーツ向けの新商品開発などもグループの研究開発や販売チャネルといったリソースを活用して進められているといいます。

総括すると、M&Aして良かったのは、二大商社のネットワークが活用できること。営業先のトップにアプローチできるため、スタートアップの食品でも小売店に置いてもらいやすいそう。また、出向人材に高学歴かつ誠実な人が多かったり、採用でも優秀な人材を集められるようになったといいます。経営についても数字や事業進捗にうるさくなく、むしろ同社によってグループに活気が出たと喜ばれているとのこと。

そして、このM&Aがうまくいったポイントは2点。まず、早くから社員に資本業務提携をすると話していたこと。M&Aを機に社員が退職してしまったりしがちですが、同社では「こんな良い企業と資本業務提携して新しい事業をやっていく」と前々から話していて、スムーズに移行できたといいます。
2点目は、M&A後に社長就任した人材に数年前から入ってもらっていたこと。西川氏自身は0→1が得意ですが、大企業のなかで成長させていくにはまた別の能力が必要だと考えたそう。その点、新社長はロビイング力があり、グループからいろいろな事業や権限、資金を引き寄せてくれているとのこと。また社長自身に、日本でスタートアップと大企業とのM&Aを先駆者として成功させたいという情熱があるのも良かったといいます。

現在はグループのリソースや資金を活用して、新しい食と健康に向けたチャレンジを推進中。さらに東南アジア進出としてベトナムとインドネシア企業にエンジェル投資をしており、YOUR MEALでも事業を検討中だそう。長期的には子どもの貧困/成長に関わっていきたいということでした。


講演後の質疑応答では、以下のようなやり取りがありました。

・M&A前の環境変化や人材を強化したときに、売上に最も貢献したのは何か?
→マーケターがジョインしてきちんとマーケティングに取り組むことで、成長率は2~3倍となった。売上高比でいえば、コロナ禍によるインパクトが大きかった。

・そのマーケティングでは、具体的には何が効いた?
→まず、プロのマーケターがWeb広告を適切に運用したこと。それまでは他の業務の片手間だったが、専門家が張り付いて熱量をもって取り組んだのが良かった。
もう1つは、トップアスリートやインフルエンサーなどに無償提供したこと。当時世の中になかったような商品なのでSNSで発信してくれたり、その人の冷蔵庫の中身としてメディアに無料で取り上げてもらえた。

・M&Aの実行にはどのくらいの時間を想定していたか?
→実際にかかったのは全体で約1年半、DM三井製糖と話してからは1年ほど。コストカットしてもあと1年で資金ショートする状態だったので、それまでにはM&Aか資金調達を実施しなければという感覚だった。

・M&Aに向いている会社とは?
→自分が目指すもの次第。それがIPOしないとできないことであればIPOすればよいが、意外とIPOしなくてもできるものだと思う。むしろIPOは資金調達の手段なので、自由度はあまりない。M&Aでも資金を自由度高く使えればよいし、考え方や目指すもの次第だと思う。当社のようにグループのアセットを活用して、より事業を加速できたというメリットもあり得る。
ただ、老舗大手なのでスピード感はスタートアップとは違う。仕組みや体制で動きにくいところはあるので、それらの改革も期待されているといえる。

こうしてプログラム終了後は交流会が持たれ、林氏、西川氏との名刺交換やアドバイスを求める人も多く、個別の相談や受講者同士の意見交換が弾んでいました。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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