インタビュー/対談/特集記事

インタビュー 2021.8.24

小売業界のDXを牽引するPathee寺田真介代表に、起業や事業展開のストーリーを聞いてみた

2012年に創業し、『テクノロジーで人々と小売コミュニティを繋げることで社会にインパクトを与える』をビジョンに、国内最大級のお買い物スポット情報サイトPathee、小売チェーン向けデジタル販促プラットフォームSTORECAST を提供している、株式会社Pathee(パシー)。コロナ禍でショッピングのあり方も大きく変わるなか、ビジネスチャンスをさらに拡大させています。

その創業者である代表取締役社長の寺田真介さんに、起業のストーリーや事業展開における苦労、五反田という地域への思いなどを聞きました。

 

(プロフィール)

寺田 真介さん 株式会社Pathee 代表取締役
2008年博士(情報理工)修了、無線通信技術に関する研究、文部科学省科学技術振興調整費「科学技術連携施策群の効果的・効率的な推進」プログラムの課題「電子タグを利用した測位と安全・安心の確保」に従事。同年日立製作所の研究所に入社し、スマートグリッドなどの研究開発に従事。電子情報通信学会学術奨励賞などを受賞。2012年株式会社tritrue(現:Pathee)を設立し、お出かけ情報検索サイトPatheeの企画、開発、運営を行っている。2017年4月東京大学空間情報センター(CSIS)の客員研究員に就任。

お買い物の不便を、小売店舗情報とのマッチングで解決

―まず、Patheeの事業内容を教えてください。

寺田

小売業のDXのなかでも、顧客接点創出における課題解決に取り組み、B to Cのメディア運営と、B to Bのデジタルマーケティング支援サービスの二本立てで事業を展開しています。

最初に手がけた、お買い物スポット情報サイトPatheeは「エリア×キーワード」でお買い物をするユーザーのニーズに応え、月間1500万PVへと急成長。2016年にはアップルによる「今年のベストApp10選」の一つに選ばれています。

事業のもう一つの柱が、小売チェーン向けデジタル販促プラットフォームのSTORECASTで、デジタル販促に関するあらゆる情報をデータ化して、インターネットのあらゆる露出面への発信を可能にしています。もともとは、費用対効果をふまえて販促施策を考えられるよう、たとえばPathee経由での来店人数を高精度で計測できるツールなどとして始まったサービスです。いまでは、ECと実店舗の情報を連携させることで、オンラインとオフラインを融合させるOMOの実現を支援しています。

―起業された理由を教えてください。

寺田

大学院を卒業後、日立製作所の研究所に約3年勤務して、スマートグリッドなどの研究開発に従事していました。それ自体はインフラを支える仕事でやりがいはありましたが、もっと自分が作ったものが人々の身近で使ってもらえ、ダイレクトに喜んでもらえるものを手がけたいと思うようになったのです。ちょうどその当時、2011年頃というのはスマートフォンが普及し始め、TwitterやfacebookなどのSNSが利用者を伸ばしていた次代です。私自身インターネットが好きで、自分でも何かITで世の中に貢献するプロダクトというのを作りたかったんですね。

そこで改めて自分が困っていることを考えてみると、買い物のときに、欲しいものがどこに売っているかが分からず、不便なことに気づいたのです。飲食店であれば食べログなどで「五反田×焼きそば」とか子連れOK、個室ありといった検索まで可能なわけで、小売店の情報を提供できるプロダクトを作れば買い物を楽しく、便利にできると考えました。それで退職し、投資してくれるベンチャーキャピタル(VC)を探して、50社ほどに当たりました。

―50社ですか!

寺田

もともとゼロから始めていることで、失うものもないのでとにかく、できることは全部やってみようという感じでしたね。当時ちょうど30歳くらいでしたが、若さというよりは、やるしかないという思いのみです。

そもそも大手企業を退職してしまおうと思ったのは、人生100年時代といわれるときに、自分が最期に人生を楽しく、充実して過ごせたと思えるかを考えたからなのです。安定した生活よりも、自身が生み出したプロダクトで世の中を変えるようなワクワク感を求めたんですね。

それで、プレゼンでも当初は紙の資料で構想を伝えるだけでしたが、出資したいと思ってもらえるにはと考え、プロトタイプを作って示していきました。そうして、あるVCから出資を得られて、2015年1月にPatheeのサービスを開始しました。

DX/OMOへと課題のレンジが拡大する小売業界

―事業展開してこられたなかでの苦労や工夫点を教えてください。

寺田

工夫というか、B to CのPatheeのサービスを提供し、消費者の課題解決を図るなかで、小売業のお客様から情報をもらわないと、消費者に対して最適な提案ができないことから自然と企業の支援に入り、事業を拡大させました。Pathee自体の利用を促進するため消費者からではなく、toBに対して価値を提供して、対価を頂くビジネスモデルですので、費用対効果を知って、納得いただく必要があります。また、当時まだファックスが主に使われていた小売業に対してIT化を進めていただくためにも、業務支援のITツールが必要で、それがSTORECASTに進化していきました。

苦労といえば、ある意味全てが苦労であり、困難でしたね(笑)。特に創業まもなくは、少ない人数で何でもやらねばなりません。

―メンバーは、最初はエンジニアのみでしたか?

寺田

10人くらいまではそうですね。その後、ビジネスサイドなどを加えて、現在は正社員で19人。業務委託でも、フリーランスや自身でも起業している方などが強くコミットしてくれています。

―このサービスは普及させられると確信をもたれたのは、いつ頃でしたか?

寺田

買い物に関する検索サービスに対するニーズは絶対にあるというのは、構想段階から感じていました。飲食店はすでにネットで探されていたので、買い物についても同じような行動になるはずです。消費者側も、買い物に行ったら思っていたのと違っていたという経験は誰もがしているでしょう。そこをマッチさせる情報は絶対に必要とされていると確信していました。

―今後も事業成長が期待できそうですね。

寺田

新型コロナウイルスの影響で外出が抑制されたことで、PatheeやGoogleマップなどであらかじめ店舗情報を調べて来店するケースは確実に増加しています。また、ビジネス全体のDXの流れが小売業界にも来ていて、この1年ほどでアパレル大手ブランドなどが、経営陣にデジタル担当を加えるといったことが起きています。また、現場でもEC担当という位置づけから、店舗側のデジタル販促も行うDXやOMOの推進部門が新設されたりしているのです。そんななかで、一緒にDXを推進していくパートナーとなり得るのは当社だけではないかと考えています。

「自分がこれをやらねば!」という強い思いが、起業を成功させる

―創業の地は品川区の天王洲アイルですが、その場所にしたのはなぜですか?

寺田

出資してくれたVCが当時、天王洲アイルに本社を構えていて、寺田倉庫が街づくりに意欲的だし、品川区もベンチャー企業に協力的でいいと聞いたからです。その後、一時期神田に移りましたが、2017年3月に五反田のオフィスに移って現在に至ります。

五反田は、地理的な利便性と賃料の安さが魅力で決めましたが、その少し前からIT系スタートアップが集まり始めていて、徐々に五反田バレーという一体感も生まれたので、移転はいいタイミングだったと思います。実際、いろいろな場で出会うスタートアップが「実はうちも五反田で・・・」となることも多く、交流をもちやすかったりしましたね。

―品川区との連携については、どのように考えておられますか。

寺田

品川区と五反田バレー、品川区商店街連合会の3者による「しながわ商店街応援プロジェクト」の一環で、2021年2月より中延商店街でSTORECASTを使っていただいています。このサービスはもともと複数店舗をもつ小売チェーンに最適化されていて、1店舗ずつの事業者向けにはなかなか展開しづらかったのですが、今回、商店街として全体で導入できたことで、よいテストケースになるのではと期待しています。

また、私自身、スタートアップ創業者の先輩として「五反田バレーアクセラレーションプログラム」で登壇もしましたが、そのような機会は今後も増やしていきたいですね。

―ご自身が経営者として大切にしていることは何ですか?

寺田

当社はミッションを「課題をHackする」としていて、ITのプロダクトで物事を解決していきたいという思いを込めています。ものづくりのマインドが大事だと思っていて、プロダクトの力で小売業界を支援するのだという点は外したくないところです。

―これから起業や資金調達を考えている方にアドバイスをお願いします。

寺田

何か課題を解決したいという思いがあって、それが今勤めている会社を辞めてでも挑戦したいくらいの強いものであれば、起業してみるのは良いと思います。資金調達においても、「これをやらねば!」という熱い思いがあれば、それを受け止めてくれる投資家は現れてくれるでしょう。

ただ、経営者というのは孤独で、本当に苦労の連続です。事業が軌道に乗るまでは、相当なメンタルの強さが必要です。それでも課題に取り組んでいることが楽しいから、やり抜けるわけです。また、大変なことを1つクリアすると、また別の大変なことが出てくるので、そうしていくうちに度胸がつくんですね。やり抜けなかった場合にも、一度撤収してまた挑戦すればいいでしょう。ある程度の度胸がついていて、次はもっと楽にチャレンジしていけるはずです。

また、起業というのは十人十色で、これが正解というものはない世界です。ビジネス書で学ぶのも大事ですが、あくまで基礎でしかありません。起業家の先輩やアクセラレータープログラムなどで専門家の話に数多く触れるのも、大いに参考になると思います。そのうえで自分なりのやり方やスタイルというのを、やりながら創り上げていってほしいですね。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

TOP