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インタビュー 2021.11.8

「世界が憧れる街づくり」の実現を目指す東急グループに 五反田バレーへの期待やスタートアップとのアライアンスで求めるものを聞いてみた

「TOKYU 2050 VISION」で東急ならではの社会価値提供による、世界が憧れる街づくりの実現をめざしている、東急グループ。オープンイノベーションの取り組みにも積極的で、品川区が実施する「五反田バレーアクセラレーションプログラム2021」の連携パートナーにも名を連ねています。そこで、東急グループがスタートアップとの連携に力を入れる理由やそこで期待することなどを、沿線開発事業部開発第一グループの熊田雄介さんに聞きました。

(プロフィール)

熊田 雄介 東急株式会社 沿線開発事業部 開発第一グループ 品川担当

大学院卒業後、2004年株式会社日本総合研究所入社。2007年より東急不動産株式会社入社。主に商業施設の開発やアクイジション業務に従事。2021年より東急株式会社へ出向し、主に品川区エリアの沿線開発を担当。沿線価値向上に向け、地域の皆様と今後の街づくりに向けた様々な取り組みを推進。直近では、五反田バレーへの東急グループの参画を推進し、スタートアップ等の企業が持つ最先端のリソースを活用した新たな街づくり手法を模索している。また本年10月には大井町でカフェ「PARK COFFEE」を開業。

 

アクセラレーションからアライアンスへ協業ステージが進化

―まず、東急グループのオープンイノベーションの取り組みについて教えてください。

熊田

大きく3つあります。まず2015年より行っている「TAP」(https://tokyu-ap.com/)ですが、これはもともと「東急アクセラレートプログラム」と呼んでいたものを、2021年8月に「東急アライアンスプラットフォーム」と名称変更しました。アクセラレーションというと大企業がスタートアップを育てるニュアンスですが、我々が目指すのはあくまでスタートアップとの協業であり対等な関係です。そうした想いを込めてリブランディングを実施しています

―TAPは具体的にはどのような活動ですか?

熊田

東急グループの電鉄や百貨店、スーパーなどさまざまな企業による事業基盤をスタートアップに活用いただき、成長してもらえるよう、さまざまな協業を生み出していくもので、「共に、世界が憧れる街づくりを。」がテーマです。

過去6年間で延べ796社からエントリーをいただき、50件以上のPoCやテスト導入、20件以上の事業化や本格導入を行い、うち7社とは業務・資本提携を実現しています。提携例としては、インバウンド向けに日本の観光資源を届けるスタートアップWAmazing社とのコラボなどがあります。また、CVCによる投資活動も行っております。

―オープンイノベーションの取り組みの、2つ目は何でしょうか。

熊田

渋谷駅徒歩1分の場所で「SOIL(Shibuya Open Innovation Lab)」(https://shibuya-soil.com/)という、社会実装に特化したオープンイノベーション施設を運営しています。これはコワーキングスペースやシェアオフィスではなく、ソーシャルクラブという位置づけで、いわばビジネスのための社交場です。クローズドな招待会員制としており、スタートアップ系のメディアやVC、また、MaaSなど新しい事業分野での中心プレーヤーとなる個人や企業に、イベント開催などで活用いただいています。0→1のインキュベートよりは、1→nといわれるスタートアップの事業拡大に貢献したり、サービスを知らしめるような観点の活動が中心です。10/1より営業を再開しており、「五反田バレーアクセラレーションプログラム2021」の特典として、参加スタートアップの一部にイベント開催権を提供します。

 

 

―3つ目のオープンイノベーション取り組みも教えてください。

熊田

渋谷スクランブルスクエア内に開設している「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」で、これは0→1を目指すアクセラレーションやインキュベーションを対象とした、会員制の共創施設です。6つの大学(東京大学、慶應義塾大学、早稲田大学、東京工業大学、東京都市大学、東京藝術大学)と連携するなどして、価値創造を加速させる独自のプログラムを提供しています。

デジタルの実行力とスピード感をスタートアップに期待

―このようにスタートアップとの連携や支援に力を入れるのは、なぜですか。

熊田

スタートアップは、デジタル化によって新たな価値創出をし、しかもそれをスピード感もってやることができます。大企業ではそもそも、エンジニアのリソースが不足しており、デジタル脳で事業を見つめ直せる人材も足りていません。ですので、既にその分野に取り組まれているスタートアップの考えに共感した場合、東急の事業とコラボレーションさせてもらうことで、われわれも事業の新たな展開を加速できるのです。

実際、TAPをアクセラレーションからアライアンスへと進化させているように、東急グループ内ではスタートアップが対等な仲間として捉えられています。むしろ特定の領域、たとえばデジタルプラットフォームやMaaSなどについてなどは、その分野のスタートアップの方が知見・ノウハウがあるため、教えてもらう事の方が多くなっていたりもします。

―街づくりを推進するうえでスタートアップと連携していくメリットは何でしょうか。

熊田

東急グループは、事業分野が多岐にわたるため、不動産事業でも駅前の一定の敷地内だけで開発を考えるのではなく、地域の方々を巻き込み、地域全体に開発による良い影響を波及させていくことが最大のプレゼンスとなると考えています。商店街や地権者、地域連携活動のキーパーソンといった方々と共に街づくりを考えるというスタンスですね。

そのときに、たとえば商店街での街づくりに関する実証実験を東急が単体で働きかけるよりも、アイデアや何らかのソリューションのあるスタートアップと商店街をつなぐ立場でサポートさせていただくほうがスムーズです。スタートアップとの連携が、地域とのコミュニケーションのフックになるんですね。

―コロナ禍で、イノベーションに対する機運に変化はあったでしょうか。

熊田

コロナ禍で、大企業のビジネスモデルにも大きな変化が必要な事業環境だと思いますが、正解が誰にも分からない、ある意味で非常に面白い時代になっています。そうした激変する事業環境のなかで、変化を成し遂げるという時こそ、オープンイノベーションが非常に重要になってきます。ただし、もちろん厳しい事業環境ですから、事業投資の選定基準は上がり、厳選してやっていくことにはなるでしょう。

その際、選定基準となるのは、この投資により既存事業の収益が増すなど、具体的な利益が見込めるものが有利ではあります。ですが本来、それ以上に重要なのは先のビジョンでしょう。個人的には、2030年くらいの世の中を見据えて、その時代のインフラとなるようなビジネスに対しての先行投資の視点も持つべきだと考えています。

―すると、提言するスタートアップ側も、すぐに成果が出せる、あるいは少し先の未来を創るために、仲間として選ばれることを意識するとよさそうですね。

熊田

これまでの経験から、将来の社会に対するビジョンが明確なスタートアップとのほうが、深くつき合うことができるように思います。将来の社会像を具体的に描いた上で、大企業が行う既存事業が将来に向けてこうなっていくと道筋をつけて示されると信頼されやすいのではないでしょうか。

東急グループの事業領域と顧客接点が、実証実験のフィールドに

―五反田バレーの、どのようなところに注目や期待をされていますか。

熊田

五反田くらいのサイズ感だと地元への愛着心や横の連携が醸成されやすく、同じくスタートアップの集積地である渋谷と比べても、まとまりやすく、全体でのブランディングがしやすいと思います。

また、職住近接が多いと聞くので、自身の仕事のビジョンとライフスタイルが重なっていきますから、オーナーシップもってやっている起業家が多いのでしょう。沿線の活性化を目指す東急グループとしても思いが重なり、組みやすいと思います。そして、品川区様のバックアップがあるのも心強いですね。

―コラボレーションを求めたい分野などはありますか。

熊田

東急グループは事業領域が広いので、何でもといえますが、あえて言えば、街づくりのテーマとなり得るSDGsや街のコミュニティづくりに関連する分野、交通インフラの会社としてMaaSに関連する分野は非常にイメージしやすいですね。広範な沿線地域を持つ東急グループはさまざまな顧客接点をもっており、それらが次世代社会に向けてつながっていくことで、沿線の生活利便性がさらに高められると考えています。東急グループは広い事業領域とオープンなアライアンス環境を持っていると思いますので、五反田バレーの皆様や品川区様などと共に、有益な協業を生み出していければと思っております。

―ありがとうございました。


東急株式会社が大井町でコミュニティ形成を目的としたカフェを開設。フードロス削減や子育て支援などをテーマに、スタートアップ企業との協業イベントを実施している。
https://www.parkcoffee-oimachi.com/

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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