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インタビュー 2022.1.17

【急成長を遂げた品川区のスタートアップ特集】 アディッシュ株式会社 江戸 浩樹代表に、新規事業の誕生経緯と、独自の風土づくりを聞いてみた

アディッシュ株式会社は、ベンチャー企業のガイアックスから事業を切り出す、カーブアウトの形で2014年に設立した。スタートアップ企業を主としたカスタマーサクセス・カスタマーサポート、誹謗中傷・炎上対策、学校向けネットいじめ対策などのカスタマーリレーション事業を展開。2020年3月には東証マザーズに上場を果たしています。その設立者である代表取締役の江戸浩樹さんに、前職で行った新規事業立ち上げからカーブアウトによる起業、現在に至る道のりや、五反田バレーの一員としての思いなどを聞きました。

(プロフィール)

江戸 浩樹さん アディッシュ株式会社 代表取締役

2004年に株式会社ガイアックス入社後、インターネットモニタリング事業、学校非公式サイト対策事業、ソーシャルアプリサポート事業の立ち上げを経て、2014年にアディッシュ株式会社を設立、代表取締役に就任。アディッシュプラス株式会社取締役、adish International Corporation取締役会長、一般財団法人全国SNSカウンセリング協議会理事(以上、現任)。東京大学農学部生命化学・工学専修卒。

 

シーズは、スタートアップが生み出したネット社会の課題解決

―まず、御社の事業についてですが、カーブアウトして設立した当時の3事業が核になっていますね。

江戸

そうですね。まず、ガイアックス社で2007年に私が立ち上げから担当したのが「インターネットモニタリング」事業です。当時流行りはじめたコミュニティサイトで出会い系犯罪が社会問題化しつつあったため、企業向けに監視サービスを考えたのです。その後、SNSにおける誹謗中傷・炎上対策や不正決済などのモニタリングへと対象を広げています。

2つ目が同じく2007年に、ネットいじめにより高校生が自殺したニュースをきっかけに立ち上げた「スクールガーディアン」事業で、学校向けに個人情報流出をモニタリングして生活指導に活かしていくコンサルティングサービスです。これらは、スタートアップ企業が生み出した新たなネット社会で発生する課題を解決したいという思いで始めました。

3つ目が2010年に立ち上げた、利用者からの問い合わせを顧客企業に代わって対応する「ソーシャルアプリサポート」事業です。当時対象としたのはカスタマーサポートですが、現在はSaaS型・サブスクリプションモデルの成長を受け、より積極的に顧客を成功体験に導くカスタマーサクセスが中心に。この「カスタマーサクセス」という言葉自体が、今は当社ビジネス全体のキーワードにもなっています。

―最近では、スタートアップグロース支援事業にも注力されていますね。

江戸

当社として強みを持つスタートアップ領域で、急成長で生じる課題の解決として顧客からの問い合わせ対応やコミュニケーション設計をサポートしています。2021年夏には、カスタマーサクセス/カスタマーサポートチームの早期立ち上げを支援する「CSブートキャンプ」というサービスも立ち上げています。

「自分でビジネスを創りたい」意思は最初からあった

―もともと起業を目指しておられたのですか?

江戸

新卒で進路を決めるときに、自分で事業をやりたいとだけ決めて、ベンチャー企業のガイアックスに入社しました。理系だったので研究者になるのが順当でしたが、そもそもビジネスの世界に行くかを悩んでいたのです。研究者の道をあえて捨てるなら、自分でビジネスができるようになりたいというのが、そのときの結論でした。

その際には、多くの先輩にヒアリングさせてもらいました。研究者として第一線の方や、商社、コンサルティングファームなどの大手企業の方などです。しかしベンチャー系の方はいなかったので、インターンを斡旋するNPOで話を聞き、これだと思いました。

―ベンチャー企業に入社されてみて、いかがでしたか?

江戸

意気込みはあっても、未経験のことばかりですから、ひと通り仕事を覚えるまで3年くらいはかかりました。その間も自分なりに、事業を作るにはどうすれば良いか、模索し続けていました。

―そうして、新規事業を立ち上げることになった経緯を教えてください。

江戸

先ほどの話と重複しますが、最初は、「インターネットモニタリング」事業を立ち上げました。もともとコミュニティサイトで発生していた社会課題から、こういう分野を解決したいと思っていたので、会社が新規事業を立ち上げることになったときに進んで手を挙げました。事業を立ち上げる自信が特にあったわけではありませんが、今後多くの会社がSNSなどを続々立ち上げる世の中になることには確信があり、ニーズは間違いなくあると考えたのです。

また、その頃、既存の事業がうまく回らず、会社の経営状況が厳しくなっていました。そこで、何かしら新規で事業を作らざるを得なくなり、それまで結果を出していない自分にもチャンスがめぐってきた、というタイミングでした。

自身で立ち上げた新規事業を育て、独立へ

―それで始めた事業はスムーズに?

江戸

少しずつですが伸びていきました。それでも最初の1~2年は資金がなかったので、受託開発の案件を自分で取ってきて、事業運営資金に充てていました。まさに創業期のスタートアップがやるようなことをやっていたわけですね。そうして開発でしのぎ、3年目からようやく事業単体で成り立つようになりました。

―そこまで育てた事業で、独立することになったのはなぜですか?

江戸

ガイアックスの経営戦略として、インキュベーションとB to Cのシェアリングエコノミー事業に注力し、それ以外の事業はカーブアウトさせる方針となったのです。私が担当していた3事業ともB to Bであったため、カーブアウトを制度化して独立することになりました。制度としては1号案件でしたが、前例があったので自然なことでしたね。

―社内で新規事業として行うのと、独立してスタートアップとして事業を行うのに、違いはありましたか?

江戸

事業上の意思決定については特に変わりはありませんでしたが、事業部丸ごとで独立したため契約社員やアルバイトまでを含めると、当初から約260人の従業員がおり、会社を背負うことの重さは思った以上でした。

また、管理部門の業務などでサポートしてもらえたのが当初はメリットでしたが、IPOを目指すときには独立性を確保し、証明しなければならないので、逆に一苦労でした。そうして、2020年3月に東証マザーズに上場しています。

ミッションを重視し、会社設立より前に議論して策定

―アディッシュを創る際に意識したことを教えてください。

江戸

私の性分として、ミッション・ビジョンは大事にしていて、ミッションは、会社設立前に半年かけて作りました。「つながりを常によろこびに」というミッションと、その後作った「情報社会をあなたの居場所に」というビジョンです。

―経営者として、ミッションを固めておくメリットは何でしょうか。

江戸

最初からあると、意思決定のよりどころになります。経営をしているといろんな選択肢があって混乱しがちですが、ミッションがあれば自分たちの存在意義や意味が一貫しているので、筋を通すことができます。事業のあり方は市場の変化もふまえて変わっていくものですが、ミッションは普遍的なものとして掲げるべきだと思っています。

また、採用広報でも役立ちますね。ホームページをあらかじめ見て応募される方がほとんどなので、なぜ当社で働きたいのかという点で、ミッションに共感してくれた人が集められます。

―そうして、いまや連結で710名(2021年7月末日現在)の組織ですが、どのようなカルチャーですか?

江戸

フラットですね。私自身はフラットな組織しか経験がないので違いが分からないのですが、皆がフラットだというので、そう認識しています。

ミッションも私1人ではなく経営チームで議論して創り 上げましたが、会社のコアになるものをそうやって作っているので、制度や事業についても当事者である現場が作るべきという考えです。

―御社は「女性活躍」でも高く評価されていますが、それも現場から立ち上がってきたものですか?

江戸

男女比は4:6と女性が多いですが性別に関わらず、会社の成長と個人の成長がともにある会社でありたいと思い、対話がなされる文化の醸成に注力してきました。その結果が、Forbes Japan主催の日本最大規模の女性アワード『JAPAN WOMEN AWARD 2016』企業部門総合ランキング第4位 (300名未満の部)、『ウーマンエンパワー賛同企業アワード』2018年度特別賞、2020年度大賞(1000名未満の部)といった評価でしょう。

最近では、男性でも半年の育児休暇を取得したケースがあります。リモートワークの導入もですが、各チームの裁量で決めてもらっているので、制度化は後付けになることが当社では多いですね。

起業家コミュニティから得られるアドバイスに頼っていい

―五反田で活動するメリットは何でしょうか。

江戸

これだけスタートアップが多いので、まとまることで存在感を示すことにはなっていると思います。実際、金融機関もスタートアップ向けに施策を打つなど、好意的。より資金調達も行いやすくなっています。

また、スタートアップ同士で話をしていると、互いにオフィスが五反田にあったりします。すると、また会いましょうなどと、つながりが深まりやすいですね。互いの情報共有や、起業の先輩・後輩としてのやり取りの機会はよくあります。

―起業家同士での情報収集は、どのように役立ちますか?

江戸

事業についてよりも、資本や組織に関して分からないことが出てくるものなので、そういうときは先輩の起業家に聞きに行くのが一番ですね。銀行から融資を勧められたけれど受けるべきかどうか、ある人から顧問になりたいといわれたがどうすべきかなど、経験者に聞きたいことが出てくるんです。ですからコミュニティは大事ですね。アドバイスを求めれば応えてくれる先輩は多いはずです。

―最後に、起業を考えている人へアドバイスをお願いします。

江戸

スタートアップというのは日本全体における一番の成長領域だと思うので、起業家一人ひとりががんばることが、日本の成長につながるといえます。そんなこともモチベーションにしてほしいです。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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