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インタビュー/対談/特集記事

インタビュー 2022.3.1

【急成長を遂げた品川区のスタートアップ特集】 freee株式会社 佐々木 大輔CEOに日本を代表するユニコーン企業になるまでの道のりや 今後の事業展開を聞いてみた

2012年7月に自宅の居間で会社を設立し、翌年、クラウド会計ソフトfreeeをリリース。その後も資金調達を着々と重ね、今では統合型経営プラットフォームを開発・提供するfreee株式会社。2019年12月には東証マザーズ上場を果たし、「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げています。(社)五反田バレーの理事企業の一翼も担っており、五反田を代表するITベンチャーの筆頭格です。その創業者であるCEOの佐々木大輔さんに、起業に至る道のりやスケールさせていくときの組織・カルチャーづくり、そして五反田エリアへの思いなどを聞きました。

(プロフィール)

佐々木 大輔さん freee株式会社 代表取締役CEO

1980年東京生まれ、美容院を営む家庭で育つ。一橋大学商学部卒業。博報堂に入社した後、投資ファンドやITベンチャーを経験。2008年に米グーグル入社。日本及びアジア・パシフィック地域でスモールビジネス向けのマーケティングチームを統括。FAXやチラシ広告が主流だった日本のスモールビジネスへインターネット広告の活用を推進した。12年に中小企業向けのクラウド会計システムを手掛けるfreeeを設立し、19年に東証マザーズに上場させた。一橋大学経営協議会委員。

 

インターン時代から自動化ツールを構想・設計し、業務効率化を実現

―博報堂から米国Googleを経て、2012年にfreeeを起業されていますが、その経緯を教えてください。

佐々木

その前段からお話しましょう。そもそも大学3年のときにデータサイエンスの勉強を始めていて、データを扱う仕事を経験したいと思い、マーケティングリサーチのベンチャーでインターンをやりました。学生でもいろいろ任せてもらえ、大手メーカーのアンケート調査結果を自分で分析してプレゼンをしたり、今もその会社で使われている分析ツールを作ったりもしました。大きかったのは、手作業で丸一日かけていたアンケート結果の集計を自動化したことです。短時間で作業を終わらせ、分析作業に専念しやすくできました。

―自動化による業務の効率化というと近年、日本企業がこぞって取り組んでいますが、佐々木さんはかなり早い段階で着目されたのですね。

佐々木

インターンとしてフレッシュな気持ちで現場に入ったので、シンプルに「自動化すれば楽なのに」と思えたのです。当事者だとむしろ、こういうものだと思い、疑問を感じないのでしょう。また、実はプログラミングは初めてで、勉強しながら作成したので3ヵ月くらいかかりました。それは会社にお願いして、その間はこのプログラムだけ専念させてほしいといってできたこと。そういう、トライする場が与えられる環境というのは大事ですね。

―インターンとしてベンチャーで活躍された後に、博報堂に入社されたのですね。

佐々木

そうですね。博報堂に入ったのは、その会社の最大取引先だったので、内側ではもっとすごいことが起きているのではと期待したからでした。しかし社員数十名のベンチャーと比べると期待していたスピード感とのギャップは感じました。その後は投資ファンドに転職したり、スタートアップでCFOを経た後に、Googleに入社して中小企業向けのマーケティングを担当しました。

Googleで、テクノロジーが中小企業を変えるのを目の当たりに

―Googleではどのような仕事をされたのですか。また、そこからどう起業へとつながっていったのでしょうか。

佐々木

日本とアジアにおける中小企業からの広告売上向上を目指したマーケティング責任者です。中小企業の方たちには、Googleに広告が掲載できることが知られていなかったのですが、認知とともに、彼らがGoogleを使って日本全国や世界に新たな販路を開拓する例を数多く見ることとなりました。身近では、美容院を営んでいた母までがGoogleでの広告に興味を持つようになり、驚きましたね。

このように、テクノロジーで中小企業の経営者の選択肢が広がり、行動変容が起きるのを目の当たりにしたのは、大きな発見でした。そんなところから、freeeの発想が出てきたのです。

―中小企業の業務のなかでも、会計に着目したのはなぜだったのですか。

佐々木

会計や経理などのバックオフィス業務において、同じデータをファイルごとに都度、手入力を繰り返していたり、プリントしたものをファイルし、ファックスで送るといったことが、何の疑問もなく日々行われていました。これは自動化するメリットが大きく、それにより経営者が本業に専念でき、ひいては日本の中小企業の活性化につながると感じたのです。

―それでも、Googleを辞めてしまうのはもったいないような気がします。なぜ辞めてまで、起業することにしたのでしょうか。

佐々木

freeeの事業をやりたかったのが一番ですが、Googleでは次のステップとして起業やスタートアップへの参画を選ぶことが、ごく普通だったのも大きかったですね。特に影響を受けたのは、Instagramを創業したOBのKevin Systromです。彼もGoogleではマーケティングに携わり、エンジニアではなかったのですが、プログラミングを覚えてInstagramを立ち上げています。そこで自分もfreeeの構想ができたときに、Ruby On Railsを勉強してプロトタイプづくりを始めました。

ユーザーの否定的意見より自身の体験とアイデアを信じ、プロダクトを開発

―創業時の様子を教えてください。すぐに開発にとりかかったのですか?

佐々木

そうですね。とはいえ、やはりエンジニアが必要だったので、当時ソニーでソフトウェア開発をしていた、現CTOの横路を誘い、2人で会社を設立しました。その後にもう1人加わり、自宅の居間で3人して毎日20時間近くカンヅメ状態でプログラミング。約9ヵ月かけ、最初のサービスを立ち上げたのです。

―反響はどうでしたか。

佐々木

リリース前に調査やヒアリングをしたときには、「会計作業は30年来のものだから変わることはない」「今さら新しいプロダクトを出されても困る」などと否定的な意見ばかりで、正直ピボットも考えそうになりました。しかし、私自身がかつてスタートアップのCFOとして会計作業の課題を体感しており、その解決法となるサービスでしたから、ユーザーの声をあえて聞かずに突き進むことができたのです。

幸い、2013年3月に「クラウド会計ソフトfreee」をリリースすると、インターネット上で一定の評価が得られました。そこで今度は、そうしたユーザーの声に基づき片っ端から不具合対応や改善をしていきます。そこから3年くらいは忙しすぎて、記憶もないくらいでした。

―その後はFinTechスタートアップという言葉も浸透し、freeeはその筆頭となりました。2019年12月には東証マザーズへの上場も果たしています。スケールするなかで、組織運営の工夫などはありましたか?

佐々木

2014年ごろに営業人材の採用を強化し、それまでの数人体制から30人規模となったときに、コミュニケーションがそれまでのように行かず、会社の方向性や考え方についても情報共有を意識して行わねばと思うようになりました。そこでカルチャーを明文化し、ユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えることをしようという「マジ価値」を軸に置いたのです。

その後、従業員数500人以上となり、さらなる拡大を目指すうえで、2018年にカルチャーの再定義プロジェクトを立ち上げ、「マジ価値2原則」と「5つのマジ価値指針」に集約しています。こうして、これまで大切にしてきたものや根幹にあるもの、これからも絶対にブレさせたくないものを掲げていくことは大事ですね。

五反田は社内の延長線上で、エンジニアがリラックスできる街

―カルチャーに通じることかもしれませんが、freeeは五反田にあるイメージが大きいですね。この界隈で移転もし、現在のビルでは増床を重ねて、2021年12月現在9フロアを使われています。五反田にオフィスを構えるメリットは何でしょうか?

佐々木

家賃の手頃さはありますが、似たような家賃の場所はいくらでもあります。五反田ならではの良さはやはり、生活感があるところで働けることでしょう。親しみやすく、顔の見えるオーナーさんたちの手頃な飲食店がたくさんあります。成長中の企業では苦労も多く、仲間同士で「大変だよね」などと語らうことが結構重要なのですが、それができる場所がいっぱいある街ですね。

―社員数が増えていくときに福利厚生として社員食堂や社内のコミュニケーションスペースを意識して設けられる会社は多いですが、五反田の場合は、町全体がそういう場になりえるわけですね

佐々木

そうですね。たとえば社内イベントとして「freee横丁」というものをやっています。社員が4人1組で15件の飲食店を組み合わせながら回るのですが、どの飲食店のオーナーとも社員が仲良くさせていただいています。ですから、別の社員の噂話をお店の人に聞いたりして語らう感じがあるんです。そのくらい地域コミュニティに溶け込みつつ、他のスタートアップなどとも情報交換できる。リラックスしながら働ける環境なんです。街中ではスーツ姿の方の割合もだいぶ減り、社名のロゴ入りTシャツが目に付きます。エンジニアにとって居心地のよい場所ともいえますね。

―近隣に住む場合の住宅補助制度も、設けられていますね。

佐々木

出社しやすいよう、会社から半径2キロ圏内に住んでいる社員には、月2万円を支給しています。実はこの制度は、以前の麻布十番オフィス時代からあるのですが、場所柄それでも家賃が高いため、あまり使われませんでした。それが五反田に移転した途端、みなが近隣に住みはじめ、制度が機能し始めたのです。

―freeeは2022年8月に大崎に移転する予定で、フロア面積は2倍以上になります。一般的にはコロナ禍でのリモートワークを経て、オフィスを縮小する考え方もありますが、freeeでは改めて、みなで働く環境が大事だと考えたのでしょうか?

佐々木

成長企業にとっては、集まる場所や機会があることが重要なのです。リモートワークは、同じことをやっている分には生産性が高く効率的です。しかし、成長企業は常に変化し、新しいことをやっていくもの。そのときには、みなの意識や思いが揃っていることが大事で、すごく細かいコミュニケーションが頻繁に行われる必要があるのです。

―移転先を検討する際も、五反田エリアにはこだわられましたか?

佐々木

そうですね。近隣を含めたコミュニティを持ちやすい場所であるのと、やはりオフィスの近くに住んで、みなと近しい関係で仕事のできる、そうしたくなる場所がいいと思いました。

いまは、顔の見えるスモールビジネスにこそ商機がある時代

―今後の事業展開について教えてください。創業10年目となり、第2創業期というところでしょうか

佐々木

クラウド会計ソフトfreeeは今、約30万事業所に利用いただいていますが、日本全国で法人・個人事業主は約650万ありますので、まだまだスタートラインに過ぎません。現在のイノベーティブなユーザー層からさらに、世の中のメインストリーム層にまで受け入れられること。そして経理を皮切りに、さまざまな業務の自動化が当たり前に求められるような転換点を創っていきたいと思っています。

―スモールビジネス研究所や、スモールビジネスの情報を伝えるfreee出版を新たに設立されていますが、起業や開業を支援する意味合いでしょうか。

佐々木

よく日本は中小企業が多いといわれ、たしかに全企業の99.7%という統計もありますが、実数ではアメリカやオーストラリアに比べると圧倒的に少ないのです。また、起業する人も少なく、世の中の新陳代謝が進みにくい構造です。しかし、イノベーションをもたらし、新しい価値観を創っていけるのは中小企業なので、もっと簡単に起業できたり、興した事業を伸ばしやすい環境であるべきだと思っています。ですから、スモールビジネスで苦労する点や、みなが挑戦しやすくなるためのポイントなどの情報発信をしていきたいですね。

もう一つ、目指したいのは、下請けカルチャーからの脱却です。欧米では企業規模の大小にかかわらず、依頼先はパートナーです。だから問題が起きても責任転嫁したりせず、一緒に解決を図ろうとなるわけですね。そういう環境であればスモールビジネスも育ちやすいでしょう。

―たしかに日本では、システムの受託開発などに見られるように、末端にしわ寄せが行きやすいですね。でも最近はオープンイノベーションなど、大手企業がスタートアップと共創を目指す動きも活発です。

佐々木

そうですね。スモールビジネスの企業家や起業家も、自信を持っていくのがよいと思います。

―最後に、起業や資金調達を考えている人へアドバイスをお願いします。

佐々木

起業しようとして、いろいろなアイデアを人にぶつけてみると「そんなの、うまく行くの?」などと皆に言われるものです。しかし、それでくじけることはありません。個人的には、誰もが反対するくらいのビジネスのほうがうまく行くのではないかと思いますね。freeeも当初はそうでした。結局、「そんなことはうまく行かないだろう」と思われていること自体が、参入障壁になっているのです。誰もやっていないことでも、ニーズがあるかもしれません。保守的な業界だから変わるはずがない、などといわれたほうが、むしろチャレンジとしては面白いものです。

もう一つ、世の中の流れとして、巨大資本やグローバル企業しか作れないようなものがある一方で、もう少し顔の見えるスモールビジネスが思いや愛情をもって作るようなものとに、二極化する傾向が見られています。クラフトビールやこだわりのパンもその一例ですね。その意味では、その間の中途半端なものがビジネスとしては危うくて、逆に新しくて小さいビジネスに可能性がある。そういう時代なのではないかと思っています。ですから大手や既存企業とは別のアプローチで、個性あるものを作ってみるのも手ですね。

―ありがとうございました。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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