【急成長を続ける品川区のスタートアップ特集】 B to Bの受発注プラットフォームを展開する株式会社ユニラボ栗山代表に、スケールするまでの道のりや見据える未来を聞いてみた
「受発注を変革するインフラを創る」をビジョンとして、日本最大級のB to B受発注プラットフォーム「アイミツ」を運営する、2012年10月創業の株式会社ユニラボ。2014年のサービス開始から特に中小企業の経営者や発注担当者より支持を受け、2021年末の累計利用件数は約19万に達しています。その創業者である代表取締役CEOの栗山規夫さんに、起業やスケールに至る道のりや、五反田バレーへの思いなどを聞きました。
(プロフィール)
栗山 規夫さん 株式会社ユニラボ 代表取締役CEO
2003年に三菱商事株式会社を経て、2004年株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。Eコマース営業部長、ECビジネス部長を歴任後、2009年最年少で同社執行役員に就任。2011年からマーケティング統括執行役員として全社のマーケティングプロモーションを担当。EコマースやSNSなど、数多くの新規事業立ち上げに関与した経験を持つ。2012年にインターネットメディアサービスを運営する株式会社ユニラボを創業。「受発注を変革するインフラを創る」をビジョンに掲げ、ベンチャーキャピタルから出資を受けず、サービス開始からわずか1年半で単月黒字化、3年目に通期黒字化を果たした。約7年間の自己資本経営の後、2019年に初となるベンチャーキャピタルからの出資を受け、現在は上場に向けた準備を進めている。
受発注の不透明性に課題を感じ、プラットフォームづくりを決意
―三菱商事からDeNAを経て、2012年にユニラボを起業されていますが、どのような思いで起業されたのですか。
栗山
もともと私自身、日本の経済をもっと良くしていくために、地方や中小企業を活性化して強くすることが大事だと考えていましたし、DeNAでECプラットフォーム事業を通して中小企業を支援するなかでも、改めてその想いを強くしました。また、受発注の領域は旧態依然とした「不」が残っており、イノベーションを通じて地方や中小企業の活性化に貢献できると確信したのです。
「不」とは例えば、発注する時、個人の経験や勘で情報収集や意思決定をしているケースが多いことや、受注側については、依然として「人」を介した営業から脱することができず、資金及び人員コストをかけられない企業が、販路拡大に苦労しているような点です。
さらに、ネットビジネス自体がものすごい勢いで市民権を得て、家を探すなら〇〇、飲食店を探すなら△△など、BtoC領域ではさまざまなライフシーンでプラットフォームが勃興している一方、B to B領域でのそれは現在でも遅れており、IT活用の伸びしろが多く残っています。
ですから、これらの課題が解決できるようなサービスを作りたいと考え、2014年にB2B受発注プラットフォーム「アイミツ」の提供をスタートすることとなりました。
―DeNAでは最年少で執行役員になられていました。DeNAのなかで新規事業としてやる道はなかったのでしょうか?
栗山
当時はスマートフォンが普及し、ソーシャルゲームが地球上でものすごい勢いで盛り上がっていた時代です。DeNAでは経営戦略上、そこに集中していましたし、また、自分がこれ以上成長するには、自ら経営というものをしてみないと、という思いもありました。
起業する気持ちが固まったのは30歳で、退職する直前ですね。20代は急成長をど真ん中で経験してきたので、30代は改めてリセットし、自分でチャレンジしていこうという気持ちです。
―そうして2012年12月、ユニラボを創業されました。その時点でのメンバーは?
栗山
3人ですね。1人は現在もCTOを務めており、もう1人は後にまた自分で起業しました。エンジニアとビジネスサイドでの、バランスの良い創業でした。
―サービスのリリースは2014年2月です。創業から1年ちょっとありますが、開発期間ということでしょうか。
栗山
自己資本経営で行くと決めていたので、会社の固定費や開発費用も自分たちで受託開発などにより準備しました。そうして立ち上げ準備を1年余りかけて行い、ローンチ後もしばらく受託開発で資金を自ら得ながらやっていましたね。
自社のビジネスの「型」が固まったのを機に、資本政策を転換
―自己資本経営にこだわった理由を教えてください。
栗山
当時はようやく日本でもVCが勃興し、東京には投資マネーがあふれ始めていたので、その波に乗ることもできました。しかし、しっかりサービスを立ち上げ、収益化の目処をたてて少しずつ黒字化するまでは、自分たちでやろうと思ったのです。安易に外部の資金を入れて、うまく行かなかったケースも見ていましたし、資金があると気の緩みも出てしまうでしょう。当然、投資していただいたからには、イグジットのことも考えなければなりません。
そうした理由から、自己資本経営の方針を最初に決めたので、途中で迷うこともなくこともなくやってきました。
―それが2019年に一転し、初めて資金調達をされました。きっかけは何だったのでしょうか。
栗山
準備を始めた2018年頃には、社員数20~30人、年商数億円くらいになっていて、すでに単年度黒字化も達成。当社なりのビジネスの「型」ができたといえ、資金を入れれば伸ばせる状態になりました。また、ビジョンに共感してくれているメンバーと共にいち早くビジョンを達成すべきだと考え、出資いただくことにしました。結果として、2019年・20年の2回で計約21億円を調達しました。
―そうして調達された資金の使い道は?
栗山
2020年7月に現在のオフィスに移転したり、2021年4月には新サービスをリリースするなどしています。ですが、もっとも大きかったのは人件費ですね。開発しかり、コンシェルジュサービスを行うオペレーターしかり、やはり事業において「人」が最も大事ですので人に投資をしてきました。直近ではアルバイトも入れると200名を超えています。
経営には常に課題が山積。今も、次のグロースポイントを模索中
―改めて、サービスが普及すると確信を持ったタイミングやきっかけを教えてください。
栗山
いくつかのタイミングがありますね。初めて単月黒字化できたのが創業から1年半で、受託開発をしなくてもこの事業だけで利益が出せたので、いけると思えました。また、スケールしていくなかで、資金調達をして上場に向かえると感じたのは2019年頃と、けっこう後ですね。収益モデルを月額課金に切り替えたところ、うまくはまり、収益が積み上がってくるのが分かり、まだ伸ばせるという手応えが得られました。
ただ、今でも、次のグロースポイントを模索しています。経営というのは常に新たな課題が出てくるものなので、なかなか安心はさせてもらえませんね。
―経営者として大切にしていることを教えてください。
栗山
当社のバリューとしている「まっすぐ」ということです。たとえば誠実に、隠さず物事をはっきり言っていこうというカルチャーで、それに惹かれて社員も入ってきていますし、お客様にもそれが伝わり、評価いただいていると思います。
―社員に対して「まっすぐ」を体現するものは何でしょうか?
栗山
透明性は大事で、会議の議事録、毎月の業績や事業進捗について社員に共有しています。1on1も、上下関係だけでなく横も含めて、しっかり行っています。挙げるとキリがないですね。以前のオフィスにはキッチンもあったので、私が鍋を皆にふるまったりもしていました。今はコロナの影響で難しいですが、そうした「同じ釜の飯を食う」ような感覚は、オフィスが変わった今でも大事にしています。
―近年リモートワークが進み、オフィスのあり方もいろいろな考え方がありますが、ユニラボでは?
栗山
緊急事態宣言中はフルリモートにしていました。現在は、在宅と出社のハイブリッドを採用しています。ただ、現場で顔を合わせてのコミュニケーションを重んじています。対面を重要とするのは、成長企業では、社員の過半が入社1年未満だったりして、そのなかで大きな事を成し遂げていく難しさがあるからです。これは、新しい人が入らずに既存の仲間の阿吽の呼吸でできる組織との違いですね。
もちろん、育児や介護など、個々の事情がありますから、そこは上長との調整のうえでフレキシブルに決めてもらうようにしています。
資本政策とオフィス選びは、創業期にしっかり決めるべき
―ユニラボのオフィスは、五反田エリアで3ヵ所目です。五反田で活動するメリットは何でしょうか。
栗山
創業は目黒で、2年後に西五反田に移転しましたが、そのときは五反田を強く意識したわけではありませんでした。けれど結果的に、居心地が良く、離れられなくなりました。賃料や物価の安さ、手頃で美味しい飲食店の多さはやはり魅力です。また、ITベンチャーの経営者同士で「オフィスはどこ?」といったときに、お互いに五反田となることが非常に多いんです。それだけで親近感がわき、「一度、飯でも」となりますね。
実際、五反田バレーの経営者やメンバーとの個別のつながりはたくさんあります。それに、freee、ココナラ、セーフィーなど、日本のITベンチャーを代表するような会社がここからどんどん生まれており、五反田バレーの名に恥じない成果が出ているのだと思うんです。これからも刺激をもらい、自分も追いついていきたいという気持ちです。
―移転する際も、五反田エリアにこだわったのですか?
栗山
もちろんです。ただ、この場所に移転した2020年前半はオフィス需要が最高値で、どこに行っても先約があり、五反田を半ばあきらめて田町なども検討し始めていたのです。そんなときに、1フロア200坪のこの場所が見つかり、2フロアを契約できましたから、社員が増えてもしばらく大丈夫ですね。まっすぐさや透明性のためにも、セキュリティに配慮したうえでオープンなレイアウトとしています。
―最後に、起業や資金調達を考えている人へアドバイスをお願いします。
栗山
資本政策は創業期にしっかり考えたほうがよいです。当社は自己資本経営から外部の資本を入れるように方針を転換しましたが、これは順番として可能なことです。しかし、外部資本を入れたあとから、自己資本には変えられません。後戻りはできないので、最初が肝心です。
また、オフィス選びについて、特にIT系は社員が近隣に住みがちなので、成長したときにあまり遠くへは移転しにくいもの。ですから創業時から、腰を据えられる場所を意識しておくべきでしょう。その際に賃料だけを考えて、交通の便や土地のイメージを二の次にしてしまうと、後に社員やアルバイトの採用で苦労します。ある程度、人を集めやすい、働く場所として魅力ある場所が良く、五反田バレーがベンチャーに好まれるのはそれも大きいと思います。
当社は自己資本で事業を始め、さらに大きくなって日本を代表する企業になっていこうとしているなかで、五反田バレーの熱気や利便性というのがすごくフィットしたということです。そういう環境面での刺激も考慮して、これから起業される方はがんばってください。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。