【ベンチャーキャピタル特集】 創業期〜シリーズAのスタートアップを中心に伴走するVC サムライインキュベートに、支援の中身や注目領域、起業家のどこを見ているのかを聞いてみた
起業家にとって頼もしい存在であるベンチャーキャピタル(VC)。実際にどのような支援をしてくれるものなのでしょうか。また、出資を決める際には、起業家やその事業の何を見て、何を大事にしているのか。どのような業界・領域に注目しているのか。そんな疑問を、創業期からシリーズAのスタートアップを中心に出資し、成長支援を行っているサムライインキュベートのInvestment Managerである坪田拓也さんにぶつけてみました。
(プロフィール)
坪田 拓也さん 株式会社サムライインキュベート Investment Manager Investment Group
1989年大阪府出身、京都大学卒業。オプトにてWebマーケティングや新規商材企画を経験後、グループ会社で複数のtoCサービスの企画~運営における事業責任者等を経験。2017年にサムライインキュベート入社。大企業の新規事業立ち上げ支援に従事した後、現在では投資部門にて投資先の事業支援・スタートアップへの新規投資を担う。
SNSやオンライン会議で、投資活動も密度高く活況に
―御社は2008年に設立されましたが、コロナ禍で投資環境にはどのような変化がありましたか。
坪田
サムライインキュベート自体がもともとスタートアップの立ち上げ期や登記前の起業準備の相談に乗り、事業アイデアをブラッシュアップするなど、比較的初期フェーズを中心に創業支援を行っています。ですから意外と、市況の変化による資金供給の悪化はありません。特に最近は、シード期の資金供給を行うVCも増えているため、むしろシード期においては資金調達の相談先は増えていると思います。
もう1つ変化を感じるのは、オンライン会議の普及です。以前は、資金調達のために当社のある六本木一丁目などでVCを数多く訪問し、投資家と面談してもらっていましたが、最近では一度も対面せずに入金までされた例もあります。ですから以前と比べて、地方の起業家も資金調達がしやすくなっているでしょう。
―シード期の資金調達の活況を感じさせる具体例を教えてください。
坪田
当社ではInvestment Manager各人がSNSアカウントで積極的に発信しているのですが、起業家からの最初の問合せや紹介もSNSでいただくことが増えました。件数はコロナ以前の1.5~2倍でしょうか。
また、VC側もオンライン会議で移動がなくなった分、数多くの案件に対応できており、検討数の増加につながっています。新規の面談が多い時で週15回ほどあったりしますね。オンラインによるピッチイベントも増えていますが、先日私が参加した壁打ちイベントでは、2時間で6社に対応しました。
―すると、起業意欲自体も高まり、行動につなげやすくなっているのでしょうか。
坪田
そのとおりですね。新しいテクノロジーによりアイデアを形にしやすくなっていますし、コロナ禍による社会環境の変化により、逆に事業機会のチャンスも生まれています。特にシード期ではそこを狙って、社会をより良くしていこうと起業する人が増えています。コロナ禍以前のアイデアも、クイックにピボットしたり、環境変化により別のニーズが生まれたりもしています。
―ピンチがチャンス、ということですね。2008年、リーマンショック後に立ち上がったスタートアップから、多くのユニコーンが生まれているという例もあります。
坪田
リーマンショック後には、VCも数多く立ち上がりました。当社でもその頃に支援したファンドのパフォーマンスでは、よい結果を多数出させてもらっています。また、こうした環境下で一歩踏み出して創業されている人たちは、起業家としてタフな方が多いので、数年後にどのような結果を出されるのか、興味深いですね。
軸がぶれず、信念を持って未来を語れる起業家は魅力的
―投資を決める際に、大事にしていることを教えてください。起業家のどういうところを見ているのですか?
坪田
創業期のアイデア段階では、事業をピボットしたりアイデアを変更するなど、少しは方向を変えることがほとんどです。その際にも、その起業家がこだわり、軸にしたいと考えている部分は尊重しています。事業アイデアを見るときには、「who」「what」「how」という、誰に何の価値をどうやって届けるかが大事ですが、同様に起業家さんが会社を通じて成し遂げたいビジョンにも「who」「what」「how」のどこに変えたくない軸があるのか、を対話から理解するよう努めています。たとえば、自分の母親がしていたような苦労を解決したければ、そのターゲットは固定ですが、そのためのアイデアや仕組みは柔軟に変えてもよいですよね。ですから最初に仔細にヒアリングして、背景や原体験などを明らかにさせてもらいます。
また、その際に目をキラキラさせて話す人は魅力的に映りますね。いままでVCで伴走してきた経験を生かして、未来への仮説の解像度を上げるお手伝いをしたいと心から思えます。
―そうした軸というのは、当初は明確でなくても話すうちに固まってくるものでしょうか。
坪田
そうですね。起業しようという方は何かしら芯となるものを持っていると思いますので、対話するなかで言語化できるでしょう。VCや起業家の先輩などと話してみると、いろいろな角度からヒントをもらえたりするものです。あまり固まっていない段階でも、臆せず聞いてもらうとよいと思います。最近はZoomで気軽に15分ほど時間をいただいたり、オンラインの雑談サービスなどもあるので、環境として相談しやすくなっています。
―そうやって相談をするときに、気をつけたほうがよいことを教えてください。
坪田
いろいろな方の経験やノウハウを聞くのは勉強になりますが、そのなかでも合わないものもあるわけです。今後多くの人から支援を受けていくなかで柔軟性に欠けるのは良くないのですが、逆に、全てを受け入れてしまうのも危険です。起業では正解がないなかで、いろいろと仮説検証を繰り返していきますので、最後には本人の納得感が一番大事なのです。受け入れるものはすぐに反映させるなどしながら、折れないところは折れないというバランス感が重要です。そうした方は、その後経営していくなかでも事業を伸ばしていけるでしょう。
事業の存続にかかわる「資金」と「人」のピンチには、共に立ち向かう
―資金提供以外の出資先へのサポートでは、どのようなことをされていますか。
坪田
日々の壁打ちが大きいですね。起業のステージにより、内容や頻度は変わります。立ち上げ期には毎週アイデアの壁打ちを行い、もう少し進むと隔週くらいにして、会計士を交えた相談に入ります。事業が成長し始めると、どうしても目先の膨大な業務に追われることが多くなるので、隔週15分くらいのミーティングで意図的に会社の1~2年後を考える時間をとって、視座やモチベーションを引き上げることを意識して行います。さらに進むと株主も増えますので、VCと定期的に時間をとるよりは事業に専念してもらい、月1回の株主定例会のみ参加するようになります。一方で、人の紹介などのニーズがあれば、随時オンラインで対応しますね。
そして、資金調達の次のフェーズになると、他のVCの紹介や資料作成も一緒に行います。また、オープンイノベーションに積極的な大手企業とのつなぎ合わせや事業協創も当社では強みとしています。
―スタートアップへの投資事業において、ご自身がやりがいを感じるのはどういうときですか。
坪田
経営上で理想的なのは、VCが何もしなくても自ずと事業が成長していく状態です。一方で、支援先が何かピンチを迎えたり、困りごとがあるとVCの存在意義を改めて感じますね。
―経営上のピンチに対して、VCができる支援とはたとえばどういうものでしょうか。
坪田
まずファイナンス面で、来月でキャッシュが尽きてしまうといった場合には、当社のファンドから追加出資が何とかできないか検討したり、他のVCを紹介したりします。資金繰り自体を一緒に見直したりもします。
また、人の問題も大きいです。多くのスタートアップを見てきて実感するのが、事業の急成長も急停滞も、人次第だということ。優れたキーマンがジョインしたことで成長したり、組織体制を変えたことでいろいろと改善することもあります。一方でキーマンが抜けてしまったり、何かトラブルが起きて事業がストップしてしまうと、大手企業よりもそのインパクトは大きいもの。その場合は、体勢を立て直すために一緒に対策を考えます。週1回といわず、特に密接に連携しますね。
―たとえばエンジニアがいなくなった、引き抜かれてしまったとしたら、どんな風に支援やアドバイスを行うのですか。
坪田
まず冷静に情報を整理します。抜けた分を埋める人材がいつまでに必要か。それは業務委託でよいか、正社員であるべきかなどを整理して、やるべき事を明確にします。また、当社では日本、イスラエル、アフリカを含め、累計220社以上のスタートアップへ投資をしてきていてコミュニティがありますので、そこに向けて稼動できるエンジニアを募るといった支援も可能です。
一般には知られていない「現場の課題」を見つけ、起業で解決を図る
―投資対象として注目している業界や分野を教えてください。
坪田
当社の注力領域は、大きな市場ながらまだ課題の多い物流や建設をはじめ、ヘルスケアなど、今後の日本に必要なインフラといえる業界です。私自身が注目している領域の1つがモビリティです。移動手段としてだけでなく、移動体験自体を価値化したり、観光でエリア内の回遊体験向上もできるでしょう。モビリティデータなどを街づくりに生かすような事業にも支援を行っています。
もう1つ注目しているのが、エンターテインメントです。VRやメタバースなど、新たな技術や表現方法も生まれており、日本発で世界に打って出ることのできる領域です。Z世代はクリエイトネイティブで、動画投稿も日常であるなど、創作活動に対して大げさな感覚がないんですね。ツールも発達しているので、クリエイターが容易に発信できたり、ファンがよりお気に入りを見つけられるような世界観は、ますますニーズが高まると思います。
―日本のエンターテインメントは、世界で通用しますか。
坪田
十分期待できると見ています。日本のコンテンツは世界観の創りこみに長けており、アニメやマンガは進出できています。そこで、たとえばSiMという日本のレゲエパンクバンドが米ビルボード1位を果たしたのですが、これはアニメ「進撃の巨人」のオープニングテーマに起用された影響も大きいと思います。音楽業界単体ではハードルが高くても、アニメなどすでに世界市場にリーチできているメディアとのタイアップで売り込むなど、総力戦で行けば日本のエンターテインメントはグローバルでの可能性が十二分にあるはずです。当社としてもスタートアップから大手企業まで、連携を推進して支援したいですね。
―最後に、起業や資金調達を考えている人へアドバイスをお願いします。
坪田
最初に事業アイデアを考え、ブラッシュアップしていくときに大事なのは、その起業家自身しか知らないような「実は・・・」というものを見つけることです。そのときに、たとえば「83%の人が困っている」といった定量データだけでは事業アイデアにつなげにくいのですが、10人でもヒアリングを行うことで「実は、未だにファックスを使っている」といった現場の課題を見つけることができたりします。それを投資家に「知っていますか? 実はこうなんですよ」と伝えられれば、解像度の高い事業アイデアにつなげられるかもしれません。ですから現場に足を運んだり、顧客となり得るような人に会いに行くなど、可能な範囲で生の情報を取りにいってもらいたいですね。実際にシード期においては、そういう方が私たちと一緒にアイデアをブラッシュアップして、資金調達をされています。ぜひ、熱く語れるものを見つけてください。
―ありがとうございました
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。