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インタビュー 2022.6.17

【急成長を続ける品川区のスタートアップ特集】 飲食店オーナーの当事者目線から、飲食店経営をテクノロジーで改革し続ける株式会社トレタ 中村 仁 CEOに起業からスケールするまでの道のりを聞いてみた

「すべての飲食店に、テクノロジーがもたらす豊かさを。」をミッションに、業界シェアNo.1、継続率99%の飲食店向け予約/顧客台帳サービス「トレタ」や、24時間365日AIが自動で電話予約対応する「トレタ予約番」、店内モバイルオーダー「トレタO/X」、アプリ不要のスマホ来店スタンプカード「トレタスタンプ」などを提供する、株式会社トレタ。自ら飲食店を経営してきて、直面した課題を解決するべく同社を創業したCEOの中村仁さんに、起業に至る道のりや外食産業への思い、五反田で活動するメリットなどを聞きました。

(プロフィール)

中村 仁さん 株式会社トレタ 代表取締役 CEO

パナソニック、外資系広告代理店を経て2000年に西麻布で飲食店を開業。立ち飲みブームの火付け役となった「西麻布 壌」や「豚組」などの繁盛店を次々とプロデュース。2011年、料理写真共有アプリ「ミイル」をローンチ後、2013年に飲食店向け予約システムの開発を手掛ける株式会社トレタを設立。2022年2月には総額20.3億円の資金調達を実施。著書「外食逆襲論」(幻冬舎/2019年10月出版)。

 

飲食店経営者としての悩みから、ITによる外食業界の課題解決へ

―パナソニック(当時、松下電器)勤務や外資系広告代理店の日本法人立ち上げなどの経歴をお持ちですが、起業は、いつ頃から考えていたのですか。

中村

もともと祖父が印刷会社を営んでいたので、雇用されて働くイメージをあまり持っていませんでした。しかし、父の代で会社が買収されたため、新卒のときには普通に就職活動をして企業に入ったわけです。やはり自分でやろうかと意識したのは20代後半、2社目を退職して次を考えたときでした。

―広告代理店退職後も、いろいろ声をかけられてフリーで仕事を請け負われていたそうですね。そうしたなか、飲食店オーナーとなられましたが、どのようなきっかけからですか。

中村

当時は飲食業界に特に興味があったわけではなく、気づいたらいつの間にか始めていた感じです。キャリアプランとよく言いますが、私自身はキャリアプランを立てたことはあまりなくて、目の前に面白そうな機会が転がってきたらとりあえず飛びついてみる、というスタンスでキャリアを積んできました。やらないで後悔するよりは、やって後悔するほうがいい、という考えですね。

もともと松下から広告代理店に転職したのも、これから世の中を変えていくのはITだと思っていたときに、大手外資ITベンダーの広告担当者を募集する求人広告を目にしたのがきっかけでした。その後その会社を退職して飲食店を開くのですが、テクノロジーに関わる仕事に携わっていた私からすると、外食業界は当時(2000年頃)からすでにIT化が遅れており、大変アナログな世界でした。なんでも人力でやるしかなく、これはものすごい課題だと実感したのです。

だからといってイチ飲食店経営者ではその状況を変えることなんて考えもつかなかったのですが、その後Twitterでの集客が大きな話題になってIT業界の人が多く来店されるようになり、テクノロジー界隈の方々との繋がりができました。そこで私の課題感みたいなものをちょっと話してみたところ、それは面白いねという反応を多くいただきました。そこで、繋がりのあったエンジニアさんやデザイナーさんの力を借りる形で、私自身もテクノロジーで外食産業の課題を解決するほうに軸足を移すこととしました。

―それで2013年に、飲食店向け 予約/顧客台帳サービスのトレタをリリースされるのですね。

中村

実はその前に失敗を重ねながら、少しずつ学んできているのです。最初は、「ソーシャルCRM」というコンセプトのサービスを作っていました。私自身がTwitterで集客したように、飲食店がお客様とSNSでつながっていくなかで、SNS上でも顧客対応が容易になるサービスです。しかし、今でこそソフトウェア開発の進め方については多くの知見が広く共有されていますが、当時はそういう情報もないなかで手探りで開発した結果、やはり進め方に問題がありプロジェクトが頓挫してしまったのです。

その経験をふまえ、次に取り組んだサービスは「ミイル」という料理の写真を共有するアプリだったのですが、それは無事ローンチすることができました。それなりにユーザーも増えたのですが、マネタイズが難しく、残念ながら私はその事業を離れることとなりました。

そうして次の「トレタ」では、サービスもうまくローンチでき、事業としてもマネタイズができたということで、少しずつ失敗を重ねながらも前に進んできたわけです。

バーティカルSaaSでは汎用性より、特定企業の課題にコミットも有効

―最初の予約/顧客台帳サービスが、普及すると確信を持ったのはいつですか。

中村

トレタでは、飲食店を経営する私自身が最初のユーザーという発想でサービス開発を行なっています。課題の当事者として、自らその課題を解決するわけですね。飲食業界は広いので、私と同じ課題を抱える人は一定数いるはず。少なくともそれだけのニーズはあるはずだという仮説のもと、サービスを作ってきました。

さらに最近では特定の外食法人さまと共同プロジェクトを立ち上げて、その法人さまの店舗の課題を一緒に解決するというアプローチで新サービスを作っています。最初は汎用化やスケールは考えずに、目の前のその一店舗の課題に徹底的に向き合うのです。これであれば、作ったけれどユーザーが見つからない、とはなりません。機能開発の方向性がブレることもありません。少なくとも一緒に開発した会社は喜んで使ってくれる、という状況を最初に作ることができるわけです。このやり方だと、課題が極めて明確ですので、よりシャープで尖ったサービスを作りやすくなります。

―たしかに、御社のプレスリリースを見ると、さまざまな外食大手と共同開発をされています。そういう戦略なのですね。

中村

そうなんです。多種多様な産業や業界をまたがって事業を展開するホリゾンタル型のSaaSであれば最大公約数の課題を解きに行く方が良いかもしれませんが、業界特化のバーティカルSaaSの場合は、広さより深さを求められます。ですから、その会社特有の課題でよいので、それをいかに深いところまで解決できるかというアプローチが有効なのです。それで骨太かつ本質的なサービスができれば、同じ課題を抱える外食法人さまはいくらでも見つかります。

―なるほど。ちなみに、トレタは当初からバーティカルと決めていたのですか。

中村

実は創業間もなく、サービスが伸び始めた頃にはホリゾンタルの展開を検討はしました。外食で培ったノウハウが、美容院やネイルサロン、ヨガレッスンなど、他のサービス業の予約でも活かせると考えたのです。

しかし、結果としては上手くいきませんでした。当社には外食業界の出身者や、この業界を変えたいという思いを持つメンバーが多く集まっていて、それこそがトレタの強みだったからです。そうしたチームや文化がすでにできていたので、トレタという会社は「予約の会社」ではなく「外食にコミットする会社」として事業を展開していくことに決めました。

外食愛やチームワーク、お客様本位という「トレタらしさ」にこだわる

―経営者として大切にしていることを教えてください。

中村

やはりバーティカルでやる以上、外食への強い思いを持つメンバーでチームを創っていくことを、コロナを契機として改めて意識しています。私も採用面接に参加していますが、こだわるのはスキルよりも人柄、スキルよりも熱量です。外食業界に対して愛があり、チームワークがとれ、お客様本位で考えることができ、こだわりをもってクオリティの高いサービスを作っていこうという、そういうスタンスや理想を共有できる方ですね。もちろんスキルは高ければ高いほうが好ましいのですが、しかしスキルを最優先にしてしまって、人柄が後回しになるようなことが決して起こらないように気をつけています。

―外食愛やチームワーク、お客様本位などがトレタらしさとのことですが、副業をしている社員が14%と、働き方にも自由度が感じられます。どのような考えによるのでしょうか。

中村

ダイバーシティとは、一般的には性別や国籍の多様性と考えられがちですが、何よりも大事なのは価値観やライフスタイル、ライフステージにおける多様性を許容することだと思います。ですから、まずやるべきは、いろいろな働き方を実現すること。ライフステージにより環境が変わっても、それぞれに合った働き方ができることがダイバーシティの最初の入り口なのではないかと思います。リモートワークもだいぶ普及しましたので、当社では今、日本中どこにいても働けるような「どこでもトレタ」という制度もスタートしています。

五反田は、働く場所と住む場所のバランスがちょうど良い

―トレタは2015年より五反田TOCにオフィスを構えています。五反田で活動するメリットは何でしょうか。

中村

渋谷、恵比寿を経て、五反田に来てもう7年になります。2022年3月まではオフィスから半径3キロ以内に住んだ場合に、一部家賃補助を行ってきました。職住近接には、通勤時間が短く満員電車を避けられること、あるいは自転車で通勤することも可能と、生活の質が上がるメリットが多いため推奨していたのですが、渋谷だと補助してもまだ家賃が高いもの。それが五反田だと、皆ちょうど良い物件を見つけて、快適に過ごしています。働く場所と住む場所のバランスが取れているのが五反田の良さですね。

―五反田バレーの活動は、どう見られていますか。

中村

当社は五反田バレー発起人の一社として名を連ねさせていただいていますが、おかげさまで五反田という場所自体がスタートアップにとって魅力的であり、また、魅力あるスタートアップが集まってくる場所と思ってもらえるようになったのではないかと思います。オフィスがどこにあるのかは採用に関わりますので、五反田がブランディングされたことは大きなメリットです。

―コロナ禍以来、リモートワークが広がりましたが、オフィスの意味はどう考えられますか。

中村

オンラインでできる仕事と、できない仕事がありますよね。報告や共有はリモートで問題ありませんが、たとえば新サービスを創り出すとなると、やはり直接のコミュニケーションのなかから生まれる化学変化やアイデアが不可欠です。また、リモートによる視覚と聴覚のみでは限界もあり、社員同士の協創や信頼関係構築のためにも、コミュニケーションのハブとしてのオフィスの必要性は今後も失われることはないと思っています。カフェ的な交流スペースがあって、気分転換にでも出社してみようと思ってもらうといった位置づけで、オフィスの役割を定義しなおしていきたいですね。

―最後に、起業や資金調達を考えている人へアドバイスをお願いします。

中村

私たちが創業した頃に比べ、スタートアップの環境は大手企業に引けを取らないようにもなっています。ですから、スタートアップが働き方や生き方の選択肢として、さらに定着していけばよいですね。資金調達も難しくなくなってきて、リスクも減っていますので、チャレンジする人がますます増えてほしいです。

―ありがとうございました。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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