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インタビュー 2022.6.27

「ウーマンズビジネスグランプリ 2022in品川」受賞者に、アパレルのカスタマイズという新しい概念の事業や創業ストーリー、目指す未来を聞いてみた

 

2022年2月27日に大崎ブライトコアホールで開催された「第11回ウーマンズビジネスグランプリ2022in品川」。90ものエントリーから勝ち残った、8名の起業家による最終プレゼンテーションが行われました。そのなかで、「カスタマイズ生産プラットフォーム Recouture(リクチュール)」というビジネスアイデアで優秀賞に輝いた高橋渚さんに、起業に至る道のりや品川区の創業支援制度をどのように活用されているかなどについて、お話を伺います。

 

(プロフィール)

高橋 渚さん Recouture 代表取締役

SHIP入居企業。総合商社勤務を経て、2021年11月にRecoutureを設立。2022年2月に開催された「ウーマンズビジネスグランプリ 2022in品川」で優秀賞を受賞。

 

「デザインのカスタマイズ」で、自分に似合う1着を創る

 

―まず高橋さんの事業について教えてください。「カスタマイズ生産プラットフォーム」とは、どのようなものですか?

高橋

アパレル業界におけるデザインのカスタマイズができるサービスになります。たとえば、気に入った服を試着した際に「全体は気に入っているのに襟の形が違ったら、、」「首回りがもう少し開いていたら理想的なのに、、」と思ったときに、その部分を理想通りのデザインに変えることができる、というサービスです。どうアレンジすれば似合うようにカスタマイズできるか分からない方には、スタッフによるサポートやレコメンドも行なっています。

―従来の、サイズ直しとは何が異なるのでしょうか?

高橋

サイズや裾丈のお直しとの違いは、より細かなデザインの調整や襟の有無といったような「デザイン」のカスタマイズができるという点です。

好きだと思った洋服を、ちょっとの違いで似合わなかったり諦めたりという残念な思いをしなくてすむように、着る人のボディのアイデンティティに合わせて、より似合うように変えていく、という概念です。そうすることで、100%大好きな思いで着こなせる理想の1着になり、愛着をもって長く着ていただけること、そしてその服を着ているときの自分が素敵だなと思えることで、お洋服だけでなく自信をまとっていただくということも価値としてお届けしたいと思っています。

―マネタイズの仕組みは、どうなっていますか?

高橋

現在は直接お客様に販売するビジネスモデルです。購入されるお客様から上代をいただき、当社が生産、お仕立てをして直接お客様にお届けしています。さらに現在、Webサービスを準備中で、オペレーションのテストが済み次第、新たな購買体験もスタートしていく予定です。

学生時代からの「大好きな服」に対するジレンマが、新規事業のタネとして開花

―この事業に至るまで、どのようなきっかけがあったのですか?

高橋

もともと私は、ファッションによって自信をもらい、なりたい自分に近づくことができたという思いがあり、服が大好きで学生時代に渋谷のファッションビルで販売員をしていました。多くのお客様が時間をかけて、最高に似合う1着を求めるお手伝いをしたかったんです。ですが、店頭でお客様が一日かけて見つけた「これだ!」と思った服が、いざ試着していただくと「すごく気に入ったけれど、この部分だけちょっと違う」ということがたくさんありました。せっかく見つけたお気に入りの一着なのに、その人の理想になってあげられない。いち販売員がその商品をお直しするわけにもいかず、最大限スタイリングで気にならないように提案したり、その商品を諦めて別の商品を提案したり、あるいはお客様自身が妥協してでも最終的にそのお洋服をご購入いただくケースもあり、仮にその商品を購入していただけたとしても満足度が100%でないことにジレンマを感じました。そこで自分自身で生産の仕組みなどを理解して、理想通りの一着を届けられるようにしたいと思うようになりました。

 

そこから当時、Wスクールでファッションの学校に通い、知識を学んだりもしたのですが、より実務的な環境に身を置いて、アパレル製品のものづくりの実務を行いたいという思いで、新卒で商社に入社しました。

―そこですぐ新規事業を手がけられましたか?

高橋

いえ、最初からではありませんでした。入社当初は与信管理を主に行う部署に配属となり、取引先の与信管理や投資判断のサポートを行いました。会社からはアパレルや事業立ち上げへの熱意を汲んで頂き、事業運営に必要な数字の知識や経験を身につける機会として配属いただいたと伺い、とても有り難い経験だったと今でも感謝しています。

入社3年目にアパレル事業の部署に異動させていただき、主にOEMの営業をメインに経験させていただきました。アパレルブランド様への生地提案やデザイン提案をもとに、いただいたオーダーに基づいて、生地の編み立てや染色、裁断や縫製をして製品して納品までを行います。生産地は主に中国やベトナムなどの海外ですので、生産管理と並行して、輸出入や通関、デリバリーも担います。お洋服の生産にまつわる様々な業務に幅広く携わることができて、日々学びの連続でした。また、自分ならではの提案ができたときや、お客様となるブランド様やさらにその先の消費者のお客様に喜んでいただけたときには、その商品を生み出す一員として関われたことが嬉しくて本当にやりがいを感じました。

 

その傍らで、新規事業もいくつか関わりました。商社では常に複数の新規事業の種が動いており、私もファッションのシェアリング事業などを提案していました。カスタマイズのアイデアも、その1つでした。

―もともと、いつかは起業したいと考えていたのですか?

高橋

いえ、カスタマイズの軸で事業を立ち上げたいと思っていて、最初は自分で起業というよりも、できれば社内で実現することを考えていました。入社当時、現場の社員の方の思いで立ち上げた事業がすでに社内に存在していて、そのような機会や可能性がある会社として就職先も選んでいました。立ち上げた事業が新たな収益源として会社にも貢献しながら、会社のアセットを活用して事業立ち上げができたら理想的だと考えていたからです。

とはいえ、当たり前ですが、会社の中で、社員がやりたいと思った事業を必ずしも実現できるわけではなく、いろいろな方法を模索しました。ちょうど2019年に社内起業制度ができた時期で、PoC(実証実験)をさせていただいたりと大変恵まれた機会をいただくこともできました。会社の中で社内ベンチャーのような形で事業を立上げられればとてもよかったのですが、最終的には企業内で事業を続けるのが難しいという判断に至り、会社にも相談をしたうえで、自分で起業するという道に至りました。

また、昨今は大企業からベンチャーやスタートアップに転職する同年代が増えていたり、経済産業省の出向起業創出支援事業などのような大企業からのスピンアウトを後押しする世の中の流れも大きくなっていたりしたので、スタートアップとして挑戦するということ自体が身近に感じられていて、自分としても挑戦することに対して腹をくくれたのかなと思います。

 

品川区では、創業時やスケールしていくときの支援メニューが充実

―そうして、2021年11月に起業されたわけですね。SHIP(品川産業支援交流施設)で登記されていますが、入居を決めた理由を教えてください。

高橋

もともとは、会社員時代に通っていたビジネススクールの友人が、起業した際にSHIPに入居していて、とても良いという評判を聞いていました。なので、起業前からSHIPの存在は知っており、起業することを決めたときにすぐにその友人に相談しました。見学を申し込み、実際に伺うと、とても綺麗でお洒落でオープンな明るい雰囲気に驚きました。JR山手線の大崎からも五反田からも近いという場所も便利で、その場で即決して申し込ませていただきました。

―もともと五反田はスタートアップが多いですが、そのイメージがありますか。

高橋

そうですね。品川区が五反田にスタートアップを誘致して、シリコンバレーのようにスタートアップが集積するエリアを目指しているという方向性も伺っていたので、そのイメージはなんとなくありました。当社も創業間もないスタートアップだからこそ、一社でポツンと存在するのでなく、なるべく多くのスタートアップが集まるエリアに身を置き、いろいろな情報にアクセスしたいという思いはありました。

―SHIPに入居してよかった点を教えてください。

高橋

こちらに入居している友人知人の先輩起業家に、先に創業しているからこそ分かる起業にまつわる様々なことを、すぐに相談させてもらえる点です。身近な先輩起業家だからこそ、細かい相談もさせてもらえていて、とても助かっています。また、運営スタッフの方たちもみなさま温かく、拠り所になっています。スタッフの方からは、郵便や書留が届いているといった連絡もメールで小まめにくださるなど、とても親切丁寧で、リソースの少ないスタートアップだからこそ、そういった細やかなサポートが本当に助かっています。

―そのほかに、品川区の支援制度で利用されたものはありますか?

高橋

最初に活用したのは特定創業支援事業といって、中小企業診断士の方に4回ほど創業に関する相談をできる制度を利用しました。その制度も、SHIPの見学日に教えていただいたものです。そして、その相談会も大勢での講義形式ではなく、マンツーマン形式で実施されており、一社一社にそこまで時間を使ってくれるのかという手厚さに驚きました。内容的にも、自分で作っていた事業計画書をレビューしていただいたり、設立時の登記簿のチェックをしてくださったりと、創業初期はわからないことだらけなので、とても助かりました。また、ウーマンズビジネスグランプリに参加したのも、この相談会のときに担当の方から勧めていただいたことがきっかけです。

その他の支援メニューも、人材採用に伴うものや産学連携に関するものなど、国や都の制度に引けを取らない充実振りです。各種制度についても、SHIPの方から説明やアドバイスをいただけて、とても助かっています。

副業やインターンの仲間と、熱量や思いを1つにして高い山を目指す

―もう少し、事業について聞かせてください。このカスタマイズ事業は、どのあたりで手応えを感じられましたか?

高橋

まず最初の手応えは、自分の頭の中だけで考えていたことが実際に商品となって店頭に出し、お客様がお金を払ってくださった瞬間です。事前のニーズを調査するアンケートで「こういうサービスがあったら嬉しい」「欲しい」と答えたとしても、実際にお財布の紐を解いていただけるかはまた別物だと思っています。そのため、本当にお金を払ってまで買ってくださる、ということが実現した瞬間が手応えといいますか、本当に嬉しい瞬間でした。

次に、お客様がリピートで購入してくださった時です。もし一度は購入してくださったとしても、満足度が低ければ2度目の購入はないと思います。だからこそ、リピート購入が生まれた瞬間は、「きちんとお客様に満足度の高い商品、価値を届けられているんだな」と実感した瞬間でした。

以前に購入してくださったお客様が「あのワンピースは良かった、何シーズンも着てまだ愛用しているよ」と言ってまた次の商品を購入してくださるケースも多く、ちゃんと価値を届けられているんだと実感しています。

一方で、事業としてこれからより多くの手応えを重ねて行く必要があり、今からまさにそれらを作っていく段階だと認識しています。

―それを目指す仲間は、今どのような方たちがいるのですか?

高橋

今のところ、様々な専門領域のメンバーでチームを組成しており、副業人材や業務委託、インターンの方々など、関わり方も多様です。全員で8名程ですが、全て元々の友人知人で、リファラルでの参画です。何かを一生懸命やっていると、同じような熱量の人が集まってくるよね、とチームのメンバーが言ってくれていて、私もそれを実感しています。

―経営者として大事にしていることを教えてください。

高橋

私たちが届けているのは「服」というプロダクトですが、その先には着る人に自信を届けたい、自己肯定感を高めたい、という思いがあり、その価値の部分を大切にしています。私自身コンプレックスが強く、「自分」ではない「理想の自分」になりたいと思っていて、それを実現する手段として「服」に助けられてきた、という経緯があります。日本の女性は国際的に見ても自己肯定感が低いというランキングにもあるように、どこか自分に自信がなかったり、自己肯定感がそこまで高くないという方々はたくさんいらっしゃるのではないかと思います。毎日の自分を自信満々にはなれなくても、好きな服を着たときに「今日の自分は素敵」と思えて、何かに挑戦できたり小さな一歩でも踏み出せる、という体験を届けたいと思っています。カスタマイズで自分に最高に似合う服を纏い、服を通じて間接的にも自信をまとうことで、新しい何かに挑戦できるような一歩の後押しをしたい。そこで得られた成功体験は、服を着替えた後もその人にしっかりと残ると思うので、本質的には服を通じて着てくださる方の人生を応援していけるような価値をお届けしたいという思いで、事業を磨いています。

―最後に、起業に興味のある方へメッセージをお願いします。

高橋

起業をする時は、品川区で創業するのはとてもお勧めです。国や東京都の支援ももちろんですが、品川区の区独自の支援メニューは本当に充実していて、起業家目線でもかゆいところに手が届くものが多いです。創業する前からでも、創業に向けての相談可能な支援制度なども手厚いので、それらを助けにして、ぜひ一歩を踏み出してほしいと思います!

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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