品川経済新聞の宮脇編集長(有限会社ノオト代表)が実践した「個人事業主→法人化→組織化」のプロセス
JR西大井駅徒歩1分の西大井創業支援センター(PORT2401)では、起業準備から創業3年以内までのサポートとして、無料個別相談会や先輩起業家と話ができる起業カフェなど、実践的かつ役立つイベントを月数回のペースで開催しています。
今回は、2022年6月15日にオンライン/オフラインのハイブリッドで開催された「品川経済新聞編集長・宮脇社長に聞く、プレイヤーから起業家になった経緯とプロセス」の様子を紹介します。
オフライン参加者はイベント後の交流で、PORT2401ならではの情報ゲットも
登壇者の宮脇淳さんは、雑誌「WIRED日本版」編集者を経て、1999年に25歳でライター&編集者として独立。5年半のフリーランス活動を経て、コンテンツメーカー(編集プロダクション)の有限会社ノオトを設立しました。
その後は、外部編集者としてフリーマガジン「R25」の創刊に関わり、同誌Web版の立ち上げに参画するなど、編集者としての活動を拡大していきます。
有限会社ノオトの主力事業は、大手企業が運営するオウンドメディアのコンテンツ企画・制作、つまり受託事業です。その一方、地域のインターネット新聞「品川経済新聞」や、IT企業の新たな集積地・五反田バレーのオウンドメディア「五反田計画」を運営しています。
現在の社員数は15名。編集プロダクションは一般に経験者の中途採用が多く、また若手の採用もアルバイト入社からといったケースが主流です。そんななか、同社は意図的に新卒採用を実施し、毎年の昇給や賞与など待遇面を整備することで、長期に渡って仕事のできる編集者を育成しています。
宮脇さん自身、「良い会社というのは、社員を大事にしている」と考えて、これまで人材教育を行ってきました。そして、転職や独立で退職した社員とも、良好な関係を続けられるよう意識しているそうです。たとえ会社を退職しても、元社員が古巣の良い評判を業界内で伝えてくれれば、会社にとってプラスのブランディングとなります。宮脇さんからは、「出戻りの多い会社が一つの目指すべきカタチかもしれない」という発言もありました。
イベントタイトルにある「品川経済新聞」は2007年に創刊しました。宮脇さんは「これ単体では、まったく採算が取れていない」と苦笑しますが、それではなぜコストをかけてまで自社メディアを運営しているのでしょうか?
その理由は3つ。
1つ目は自社メディアを新人ライター・編集者の育成の場と位置づけているため。新卒や経験の浅い外部メンバーが、ニュースのネタ出しから取材アポ、現地でのインタビューと撮影、原稿執筆、編集者からの朱字反映、CMSセット、公開まで、コンテンツ制作における一連のプロセスを毎日反復します。これによって、いずれクライアントワークのコンテンツ制作を担当できる力を身につける基礎練習となるわけです。
2つ目は、既存社員たちのコンテンツ制作への影響です。自分たちが自由にコンテンツを制作できるメディアをもっておくことで、そこでつながった取材相手を別メディアの異なる企画に活用することも少なからずあります。日頃からネタ探しのアンテナを張り巡らせるきっかけにもなっていると、宮脇さんは解説します。
3つ目は、自社メディアが会社の仕事実績のショーケースとなる点。品川経済新聞は創刊から15年たったいまでも、1カ月に20本以上のニュースを毎日制作しています。ノオトにコンテンツ制作を発注したいと考えている企業にとって、こういった編集部機能を持つことができる会社ということを実証するメディアとして、品川経済新聞が機能しているのです。
コンテンツ制作は属人性が高く、労働集約的な業務です。しかし、個人の力量だけに頼るのではなく、仲間を増やしながら納品するコンテンツの品質を担保していくために何ができるのかを考え、それを仕組み化することは可能です。社員を抱えられるだけの売上を創出し、それにともなうノウハウや心がけといったものが、今回のイベントで紹介されました。
モデレーターを務めたPORT2401インキュベーションマネージャーの朝比奈さんは、「こうした仕組み化は企業価値を高めるものであり、たとえばM&Aなど事業譲渡する際に、企業価値としてみてもらえるポイントになるだろう」という解説がありました。
また、原料仕入れや在庫管理は発生しない制作プロダクション業ではあるものの、組織運営や資金調達の考え方など、参考になる点も多く伝えられました。
たとえば、同社はフリーランスやパートナーとの良好な関係を重んじて、報酬の振り込みサイトを月末締め翌月25日払いと、一般的な支払いサイトより意図的に早めています。これを実施するには、先払いできるだけのキャッシュが必要になるため、品川区の中小企業融資あっ旋制度を利用して、余裕を持って金融機関から借り入れをしたそうです。
このように、普段から金融機関からの借り入れ実績があったことから、コロナ禍における一時的な融資をスムーズに受けることができたといいます。宮脇さんは、「経営に不慣れだと、借金=悪みたいに考えがちですが、何か大きな変化が会社を直撃する安定期のうちに、金融機関から融資を受ける実績を持ったほうが絶対によいです」という話がありました。
宮脇さん、朝比奈さんによるトークセッションが終わり、質疑応答タイムに。会場の参加者やオンライン視聴者から出たQ&Aをまとめてみましょう。
Q:税理士など税務会計の専門家に、こういうことをもっと聞いておけばよかったと後に思ったことは?
宮脇
会社を経営しないと知らなかったことはたくさんある。たとえば、売上が思った以上に伸びたからといって、役員は業績に呼応したボーナスをもらえない、とか。美辞麗句が並ぶ経営の教科書を読むのも良いと思うが、専門家は会社の財務状況に応じた適切な経費の使い方みたいな生きた知恵を持っているので、どんどん質問をして、泥臭く頼るべきだと思う。
Q:自分でもオンライン秘書業を始めていて、まだ業務委託だけで社員の雇用はしていない段階なので、今日はとても勉強になった。私も、営業しなくても声をかけられるような存在を目指したいが、どうすればファンになってもらえるか?
宮脇
正直であることが大切。そうすればクライアントに見積もりが高いといわれても、きちんと根拠を示して説明できる。社員にも売上は公開し、会社の業績を隠さず伝えている。そういうところから信頼は生まれるのではないか。
今の時代の社長は、偉い人だとか、恐れ多いから話しかけづらいと思われたら損。何でも言いやすい、話がしやすいと思ってもらえることで情報が集まる。そういうタイプの経営者でありたいと思っている。
Q:税務などでは法改正も頻繁にあるが、経営者としてどう備えておくのがよいか?
宮脇
いまから起業するなら、迷うことなくクラウド会計を導入しておくのがお勧め。当社は昔ながらの税理士事務所にお願いしているが、それでも1年前にクラウド会計システムを導入して、その税理士事務所にも当社の費用負担で勉強してもらった。銀行口座とAPIでつながるから処理がスムーズだし、インボイス制度にもうまく対応できそう。こうしたDX投資については、行政も支援していて助成制度などもあったりするので、調べてみるとよい。
コロナ禍で実際に導入してよかったのは、電話代行サービス。これは、事務所にかかってくる電話をそのまま転送し、代行サービスのオペレーターさんがノオトの受付として電話対応をしてくれるサービスで、月1万+消費税で50件まで対応してくれる。実際にカウントしてみたところ、実に90%が営業電話で、これまでにいかに電話番をしている社員の業務の妨げになっていたが可視化された。このように、今はいろいろな便利なサービスがあるので、社員の仕事環境を良くするためのサービスを知っておくことは大切だと思う。
講演終了後、会場では引き続き、交流会が行われました。登壇された宮脇さんやインキュベーションマネージャーの朝比奈さんと直接話ができ、参加者同士も自由に歓談。ネットや書籍とは異なるリアルな情報収集や意見交換の機会にできていたようです。
西大井創業支援センター PORT2401では、今後もこのような、起業に役立つイベントを随時行っていきます。気軽にお問い合わせください。
詳細は下記ホームページをご覧ください。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。