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インタビュー 2022.8.25

【ベンチャーキャピタル特集】メガベンチャー創業者が立ち上げたReapra(リープラ)に、起業家の内面に向き合い、事業化を支援する手法について聞いてみた

 

この特集ではさまざまなVCに、支援内容のこだわりや出資を決めるポイント、注目する業界・領域などを聞いています。

今回のReapraはファンドを組成せず、自社の資金で起業家支援を行っているとのこと。一般的な、ハイリターンを求めて、高い成長率が見込まれる未上場企業に出資をするVCとは異なる、その支援について、同社の岡内さん、渡辺さんにお話を聞きました。

(プロフィール)

岡内 雄紀さん Reapra Japan 経営企画

2004年に独立系コンサルティングファームに入社。大手企業の構造改革や事業再生、PMI、新事業創出、経営人材育成等に従事。その後、HR系スタートアップにて事業責任者、CHROを経験。企業の持続的・自律的成長を目指す活動に関わる。成人の知性発達に関する知見も有する。2019年より現職。投資先の経営支援を担当。早稲田大学大学院 経営管理研究科卒業。

 

渡辺 康彦さん Reapra Japan HR

2014年に新卒で株式会社ネオキャリア入社。インターンから保育士の人材紹介事業の立ち上げに関わり、営業・メンバー教育で、リーダー職を経験。その後もHRtechサービスなど複数の領域で一貫して新規事業立上げ関連の経験を積む。2016年9月に株式会社SHIFT入社。社長室で創業社長のもと、事業開発やR&Dグループのマネージャーを経験。2019年7月よりReapra Japanに参画し、HRとしてグループメンバーの採用やコミュニティ運営を主担当とし、投資先支援にも従事。中央大学経済学部卒。

短期でリターンを求めず、「複雑性の高い市場」に中長期で挑む

 

―御社は、エス・エム・エスの創業者である諸藤周平さんが立ち上げ、シンガポールと日本を中心に13カ国で展開されていますが、どのような起業家支援を行っているのですか。

渡辺 康彦

私たちは「研究と実践を通じて、産業を創出し、社会に貢献する」をミッションとして、今後伸びゆくであろう、次世代につながるような複雑な社会課題を抱える領域をターゲットとし、中長期で起業家支援を行っています。Research And PracticeでReapraというのが社名の由来でして、その社名の通り産業創造の研究と実践をしています。

我々は「複雑性の高く予測困難であるが、意図を持って長い時間をかければ、その複雑性をマネージできるような領域」であり、「世代を跨ぐ社会課題で株式会社で解決可能と想定される次世代産業領域(生活をよくする塊)」を起業家と共に選定します。

複雑性が高い領域とは、ステークホルダーの多様さ、事前予測が困難であり、変化のタイムスパンが長いような市場であり、一般的には短期ではなかなか大きな市場にならないので、合理的に考えると一般的には参入対象から外れてしまうような領域です。

こういった領域に対して、株式会社という形で向き合い、短期的な事業性では一般的に魅力的とは捉えられていないが、実践の中で市場や顧客から情報や洞察を得ながら学び徐々に最終形を描きながら各要素に働きかけ、長い時間を掛けて産業を作り上げていくことを目指しています。

このような領域に対して、起業家が内発的動機に基づいて未来の姿を打ち立てるとともに、自らの盲点・癖に自覚的になって、長期で環境(領域)と自我(自身)に向き合い続け学習することを通じて、マーケットリーダーとなっていくことを支援しています。

―ファンド組成をせず、自社資金で出資を行っているそうですが、出資のあり方にも特徴がありますか。

渡辺 康彦

投資の時間軸の考え方として、短期のリターンは求めず、5年先、10年先、あるいは次の世代の社会課題に向き合うような起業家を支援するという方針です。

従って、一般的なスタートアップアプローチでとられる一定期間は赤字を許容しながらぐっと伸ばしていくJカーブモデルではなく、なるべく初期は赤字を作らずにキャッシュを立てやすいモデルから入り、その領域で着実にインサイトを得ながら事業を複層的に伸ばしていく、という戦い方を志向しています。

学習伴走者として、内面を掘り下げ、自己を拡張する目標を設定

 

―投資を決める際に、大事にしていることを教えてください。起業家のどういうところを見ているのですか?

岡内 雄紀

Reapraでは投資の前段階で、ファウンデーションデザイン(FD)をじっくり行います。これは、対話を通じて個人のミッション・ビジョンを紡ぎ出し、現状との差分を明らかにすることで、学習し続ける土台を設計・再構築する、当社独自の取り組みです。約1時間の面談を5回、10回、人によりもっと重ねて、起業家個人の半生や過去の家族との関係性、幼少期の環境、自我の形成プロセスなどを掘り起こしていきます。ですから投資タイミングでは、事業領域について、その起業家が長期的に向き合い続けたい領域か、どれだけその領域が伸びゆくことを信じられるかが、出資のポイントとなります。

また、FDは最初だけでなく、事業を進めるなかでいろいろな問題意識が高まったり、新たな課題が見えたりしますので、必要に応じて随時行っていきます。

―すると、出資以外のサポート内容としては、そのFDが中心になりますか。

岡内 雄紀

もう1つ、ファーストラーニングプラクティス(FLP)、初期学習実践があります。FDの自己探求により見えてきた、なりたい姿と現状の差分にある、自身の課題などに向き合っていくうえでの支援です。生かすべき強みと克服すべき弱みを見つけ、それを変容させないと達成できないような事業目標を設定する。たとえば、人づきあいが苦手な人であれば、人と向き合い続けねば達成できないような形で目標を設定するわけです。難しいことですが、これにより起業家の器を広げながら事業成長を目指します。常に、いま自分にとって最も課題が大きいものをセットし、それに向き合うような目標を設定して達成していくというのを半年~1年くらいのサイクルで繰り返すことで、起業家の学習姿勢が組織に伝播し、学習する組織を築いていきます。

また、このような起業家の学習とともに、オペレーションを強くし続けるカルチャーを作り上げることにもこの取組みの狙いがあります。なるべく初期は赤字を作らずにキャッシュを立てやすいモデルから入り、という話をしましたが、これには早期のキャッシュやインサイト獲得だけでなく、常にオペレーションを磨き上げ、競合他社との相対優位を築くことも目的としています。起業家自身が現場をハンズオンして、自らの癖を顧みながらオペレーションエクセレンスを高めていく、こうすることで強い収益力を持った事業を持ちながら、自らの余剰キャッシュで新たな探索を行っていく土壌を作っていきます。

―いわゆる「壁打ち」や「メンタリング」よりも深く、本質的な対話を繰り返すイメージでしょうか。

岡内 雄紀

Reapra一定のゴールに導いたりするのではなく、「学習伴走者」という立ち位置で支援を行います。

たとえば、幼少から自分の個性を打ち出すことで人気を得て、居場所としてきたような人は起業家としても新奇性を重んじやすく、マネジメントにおいてもユニークさのほうをより評価してしまったり、既存事業よりも新規事業につい目が行ってしまったりします。そうした無意識的な意思決定の癖に気づき、乗り越えるためにたとえば、営業会議の録音を聞かせてもらい、「ここでもっと踏み込めたのでは」「なぜ踏み込まなかったのか」など確認をしたりしています。

そんな風に、その起業家のスタイルに合わせ、あの手この手で解を見つけていきます。

―Reapraが支援している事例を教えてもらえますか。

渡辺 康彦

「ジコウ」という会社は大人の職業体験の場づくりを行い、越境学習や大人版キザニアのようなものを目指しています。その創業者は、幼少期から両親の思いに敏感で、その期待に応えて進学も就職も順調に来たものの、いざ社会に出てみると目指すべき答が自分では見つけられないでいました。そこで大企業に就職した後の転職活動でReapraに出会い、入社後も実践と内面の探求を重ねた結果、自らの内面から答えを紡ぎだせる大人を増やしていきたいという思いに辿り着き、2021年に起業しています。

この場合も、起業したい思いが先にあるわけでなく、明確にならない段階から一緒に、内面を掘り下げる作業を行っていきました。このように自分の中のもやもや、社会に対する生きづらさみたいなものの、エネルギーのぶつけ先が分からない方が投資対象になるケースは多いと思います。スタートでは起業をあまり考えていない人も、対話していくなかで起業の意志が固まることはあります。長い時間向き合えるかどうか、内的な動機からその課題に向き合いたいと思えるかどうかが重要です。

―最後に、起業や資金調達を考えている人へアドバイスをお願いします。

岡内 雄紀

何か自身のなかでもやもやと、社会における課題感がありながら、どうプロダクトにできるか分からない人には、Reapraはお役に立てると思います。

また、先ほどの繰り返しになりますが、オペレーションを強くせずに事業を拡大してしまうと、環境変化などに対応できないなど、どこかで組織の脆さが露呈してしまいます。そのため、強いオペレーションを作って、早い時点で組織を利益体質にしておくことは、結果的に中長期での大きな成長につながります。その過程で自己否定も辞さず、自分の癖と向き合って変わり続けることでカンパニーミッションの達成、ひいてはライフミッションの達成に近づけると考えています。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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