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インタビュー 2022.10.14

【ベンチャーキャピタル特集】 ユニコーン・スタートアップを複数輩出する日本有数の起業家コミュニティ「千葉道場」を母体とするユニークなVC「千葉道場ファンド」の魅力を聞いてみた。

 

投資先企業間での情報共有など、コミュニティを重視するVCは多いですが、千葉道場では2019年の第1号ファンド組成より先にまず、2015年に起業家同士が「絶対秘密厳守」で悩みを吐露し合えるクローズドなコミュニティをスタートさせています。そのコミュニティやファンドの特徴や魅力、サポート内容について、パートナーの石井貴基さんに聞きました。

 

 

(プロフィール)

石井 貴基さん 千葉道場株式会社 取締役/千葉道場ファンド パートナー

2009年株式会社リクルートに入社。不動産の広告営業に従事。2011年にソニー生命保険株式会社に入社。ファイナンシャルプランナーとして地方のあらゆる世帯の家計コンサルティングを行う。その際、悪化する地方の経済状況と家計における教育費の高さに課題を感じ、12年3月に株式会社葵を創業。誰でも無料で学べるオンライン学習塾アオイゼミをリリース。
2014年秋、起業家仲間であったザワット株式会社の原田氏と、両社のエンジェル投資家であった千葉 功太郎 氏に打診・相談して、起業家が何でも相談しあえるコミュニティである千葉道場を構想。第一回千葉道場以降、全ての千葉道場に参加。
2017年11月、Z会グループにM&Aを実施。以降も株式会社葵の代表取締役として、グループ各社と複数の共同事業を開発し、2019年3月末に退職。
2019年8月、千葉道場ファンドの取締役パートナーに就任。

 

起業家同士が本音で相談しあったのが、独自のコミュニティに発展

 

―千葉道場ではファンドより先にコミュニティが始まったそうですが、きっかけを教えてください。

石井 貴基

もともと代表の千葉功太郎は自身が起業した会社を上場させた後、エンジェル投資家として数社スタートアップを支援していました。実は私も当時は投資を受けていた起業家の1人なのですが、当時、2015年頃はまだインターネット上にスタートアップに関する情報も少なく、起業家はみな経営に関する悩みを抱えていました。そこで、千葉さんの投資先スタートアップで勉強会を企画してみたのです。初回は6社、20~25名が参加しました。やってみると思った以上に学びがあったため、半年に一度、定例化して緩やかなコミュニティができていきました。名称は代表の千葉さんの名前と、坂本龍馬が剣術修行した道場名にあやかって命名しました。

―思った以上の学びとは、どのようなものだったのでしょうか。

石井 貴基

今も大きな特徴ですが、そこで交わされた内容については、絶対的な「秘密厳守」としています。心理的安全性が担保されている安心感から、かなりのハードシングスもプライベートな悩みも、さらけ出すことができると感じています。

たとえば初回に、来月資金がショートしそうで倒産の危機にあると告白した起業家がいました。それはまずいと皆で知恵を出しあい、VCを紹介しあうなどして支えあった結果、その会社は生き延びて、後に大手企業に売却。イグジットに成功することができました。

そのように本気で支えあったことが成功体験となり、以来、秘密厳守と徹底的なgiveの精神というカルチャーのコミュニティが続いています。

―そうして開始から約7年ですが、何か変化は感じられますか?

最初は皆、同じくらいの成長ステージの会社の集まりでしたが、7年も経てばM&AやIPOの実績も出てきて、先輩・後輩起業家という関係性も生まれています。それにより、スタートアップの経営や資金調達における、ありがちな落とし穴について教えられるなど、より内容は濃いものになっていますね。

誤解されやすいのですが、千葉さんやメンターが特に何かを指導するわけでは全くありません。半年に一度の合宿でも、千葉さんが話すのはせいぜい1時間程度です。それよりも、上場した先輩起業家が最近の資金調達に関する市況を語ったり、従業員へのインセンティブプランを作った若手起業家が先輩にもノウハウをシェアするといった「学びあい」こそが、千葉道場の特徴なのです。

世の中を変え得る「時価総額1000億円」を、まず目指す

 

―ファンドについて、投資先の基準はどのように考えられていますか。

千葉道場ファンドでは投資活動というよりは、コミュニティへの新規採用を行っている感覚が強いです。そのため、一般的な人材採用と同じで、カルチャーフィットを重視しています。シード/アーリーステージの投資はコミュニティへの入学を意識しており、さまざまな業種・ステージの経営者同士で切磋琢磨してもらう。会社の成長を経てIPOが視野に入ったレイターステージでは卒業資金のような考え方で投資を行い、上場前最後の資金調達を後押しするというような考え方です。

こうして現在までで投資先企業は80社以上になり、うちM&Aなど、イグジットしている例も何社かあります。

「Catch The Star」というビジョンを掲げられていますが、どのような思いですか。

石井 貴基

第1回目の勉強会から掲げていた言葉で、千葉さんが言い続けてきたものが定着しました。星に手を伸ばし続ければ、少なくとも富士山やエベレストの頂上に登れるだろう。高い目線を持って事業に臨めば、自ずと大きな会社になるというメッセージです。

ですから、本気で星をつかもうとしている方、世の中にインパクトあるものを生み出していきたいという、大きな志のある起業家の方にぜひコミュニティに加わってもらいたいですね。

―星の定義、大きさはどのくらいのイメージでしょうか?

石井 貴基

一つの基準としては時価総額1000億円が目安になるかなと思っています。そのスケールになって初めて、世の中を変えられる、未来に挑戦できるのだと、達成した経営者が口をそろえて言います。実際に上場した後にも、時価総額1000億円を超えていると機関投資家からの見られ方や、資金調達の規模感が全く異なると言われています。ですから、少なくとも時価総額1000億円は目指そうというのを、大事にしています。

―起業のテーマ、注目領域というのはありますか。

石井 貴基

注目領域は特にないのですが、日本から海外市場を目指せるスタートアップにもっと投資していきたいという思いは強くあります。日本からの発信を強めたいというよりは、より大きなマーケットを目指している起業家が魅力的だということです。その点でも、業界や事業領域に着目するよりは、やはり「人」が大事ですね。

―「投資というより、採用」ということですね。その際、人のどういった部分を見ているのですか?

石井 貴基

この人がわれわれのコミュニティに対してどういう影響を与えてくれるだろうか、というのはすごく考えますね。学生でも40代50代でも、そこが大事です。そのうえで、コミュニティの中ではgiveの精神を重んじてもらいたいです。

新設のコミュニティスペースで、一般起業家にも発信を開始

 

―改めて、他の起業家コミュニティにはない、千葉道場ならではの強みや良さは何でしょうか。

石井 貴基

最近、コミュニティづくりについて相談いただくことが増えているのですが、千葉道場のコミュニティは自然発生的に生まれたものであり、これを意図してつくるのは難しいと感じています。たとえば、千葉道場ではコミュニティーマネジャーがいません。半年に一度開催されて、コミュニティに参加する起業家が一同に集まる「千葉道場合宿」の幹事は起業家が持ち回りで担当しています。そのため、事務手続きや会場手配などはサポートしますが、どういった合宿にしたいかなどの企画全般は幹事である起業家数名が担当しています。もちろん勉強会自体を盛り上げる施策などはノウハウの蓄積がありますが、それは枝葉に過ぎません。根っこの部分はやはり起業家同士で学びあいたいという強い結びつきにあるのです。

ですから、もう一度同じものをつくろうとしてもできないと思いますし、VCをつくってからコミュニティをつくっていたら、こうはならなかったと思います。

起業家にとってはノウハウを学ぶという以上に、精神的な拠りどころというのが貴重なのでしょう。スタートアップの経営というのは本当にストレスフルなものです。千葉道場では運営する側に起業経験者が多いので、リアルに悩みやニーズが分かり、かゆいところにまで手が届くというのもあります。

―今日、この取材をさせていただいているコミュニティスペースは、千葉道場で新たに開設された場所ですが、どのように使っていかれますか。

石井 貴基

2022年8月に渋谷駅前の便利な場所とご縁があり、初めて常設のスペースを設けました。コミュニティでの勉強会会場として、また、投資先の起業家に自社主催のイベントや交流会といった利用目的で無償提供を行っていきます。

また、今後は月1~2回ほど、外部の起業家向けに無料の勉強会を予定しています。9月30日(金)にはシードステージの起業家に特化した会を開き、投資先起業家をゲストとして、資金調達のポイントなどをディスカッションしました。結果、30人以上の起業家の方々にお集まり頂き、とても満足度の高いイベントになったと思います。また、10月28日(金)にはシリーズA前の起業家を対象としたイベントを開催する予定です。こうした機会に千葉道場の雰囲気を知ってもらいたいですね。もちろん、単にテーマに興味があるというのでも構いません。

―最後に、起業や資金調達を考えている人へアドバイスをお願いします。

石井 貴基

起業というのは自分ではコントロールできないことも多く、かなりストレスフルなものです。ですから、まずは自分の健康状態を優先していくべきでしょう。

資金調達については、使いどころと使う用途が大事です。自分にとって今VCからの資金調達が本当に必要か。多くの起業家が資金調達しているから自分も、というような考えで決めてしまうと、後から辛い思いをしてしまうかもしれません。

私自身がかつて起業家であり、いま投資家として両方を経験して思うのは、この2者には利害関係が一致しないところが必ずどこかにあるものだということです。だからこそやはり、VCの資金の使いどころと付き合い方というのを、よくよく考えねばなりません。心地よい言葉に引きずられないよう、留意してほしいですね。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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