【東洋経済『すごいベンチャー100(2022)』選出!】 AI開発に不可欠な、教師データ作成の自動化ツールで、AI時代のインフラを目指すFastLabel株式会社 上田代表に、事業の勝ち筋を聞いてみた!
「AI開発を10倍速くする」をミッションとして、AI開発において教師データを作成するアノテーションという工程を容易にするべく、アノテーションツールの開発・提供から教師データの収集・作成、MLOps構築までを行う、FastLabel株式会社。2020年1月創業ながら、東洋経済の「すごいベンチャー100 2022年版」に選出され、さらに注目を集めています。代表取締役の上田英介さんに、起業の経緯や目指す姿、品川区で活動するメリット、「五反田バレーアクセラレーションプログラム」一期生としての感想などを聞きました。
(プロフィール)
上田 英介さん FastLabel株式会社 代表取締役
九州大学理学部物理学科情報理学出身。株式会社ワークスアプリケーションズでソフトウェアエンジニアとして会計製品の開発に2年間従事。3年目にエンジニアとして初となるロサンゼルス支社へ赴任。アメリカの商習慣に合わせたAI-OCR請求書管理サービスを設計・開発。その後、イギリスのAIベンチャーでMLOpsのアーキテクチャ設計や開発を行い、大手銀行のDXプロジェクトを推進。AIの社会実装をする中で感じた原体験をもとにFastLabelを創業。
AI開発工程の8割を占める、教師データ作成の自動化を推進
―まず、事業概要を教えてください。
上田 英介
アノテーションと呼ばれる、AIに学習させるためのデータを作るところに特化した領域で事業を展開しています。
データというのはオイルに例えられ、原油を採掘してもそのままでは使えず、精製したものをエンドユーザーに届けるように、データもキレイにするステップが不可欠です。
AI開発ではその工程が全体の80%程度の時間を占めますが、現状ではかなり労働集約的に行われており、品質にも影響を及ぼし、AI実用化のボトルネックとなっている。
そこを、テクノロジーを使って解決しようとしているのです。
―非常に重要な課題解決になりますが、競合はないのでしょうか。
上田 英介
日本市場でも近年需要が増しており、BPO企業が参入していますが、当社のようにテクノロジーで解決するのではなく、人力での対応にとどまっています。
また、エンタープライズ向けの技術的難易度の高い領域で取り組んでいるのは、日本では当社くらいです。
実際、当社ホームページに導入の事例紹介を多数掲載させていただいていますが、日本を代表する大手メーカーから大手ITベンチャーまで、多様な企業に活用されています。
―もともとこのテーマがあって、起業を決めたのですか。
上田 英介
まず起業しようと思ったのが先でした。私自身ソフトウェアエンジニアで、AI開発については大学から機械学習を扱っています。
新卒で勤めたソフトウェア会社では2年目から米国駐在をして、AI-OCR搭載の請求書管理サービスを開発しました。
そのときに、AI導入ではいかにデータをキレイにするかが精度に直結しますが、データ作りを人力で突き詰めるとコストがかさみます。
そもそも業務における費用対効果を考えてAIを導入するのに、それでは元も子もなく、この課題感が原体験となりました。
その後、英国のAIベンチャーで働きながら、そろそろ自分で起業を考え始めたときに、世界的にも先進的で、まだ成熟していない分野として出てきた一つが、アノテーションでした。
これから20~30年にわたり、AIが浸透していくのに必要なことであり、自分でも苦労したために顧客課題としても理解できたので、これで行こうと決めました。
顧客ニーズを探るため、問合せフォームから100件にアプローチ
―そうして2020年1月に起業ですが、この時期はどう決めたのですか。
上田 英介
あとから思えばコロナ禍で大変でしたが、ちょうどアノテーションで商談がまとまりそうになったので、急遽会社を設立したのです。
それまでに、上場企業からITスタートアップまで、さまざまな約100社の問合せフォームにアプローチをかけたところ、5件くらい返信があり、手応えを感じました。
知名度がなく、紹介でもないのにこれだけ反応があるのは、普遍的なニーズがありそうだと、自信になりましたね。
―早期に商談が形になり、ビジネスとしても早期に成り立ってきたのですか。
上田 英介
そうですね。
最初の1社と仕事を進めながら、他社にもアプローチをしていきました。その後は展示会に出展してのリード獲得も行い、ウェビナーの案内を送ったり、プレスリリース配信サービスなどで発信しています。
創業した年の10月には、あるVCのキャンプに参加して資金調達の話もし始めました。
共同創業の2人ともエンジニア出身で、ビジネスやファイナンス面は専門ではなかったので、そうしたインキュベーションの場を通じて、ビジネスをブラッシュアップできたのは大きかったです。
ビジネスモデルの検討や今後の事業展開について議論させてもらえました。
―いま、ビジネスモデルはサブスクですか。
上田 英介
そうですね、アノテーションツールの月額使用料をいただいています。
また、それとは別に、当社がアノテーション作業代行を請け負うサービスも行っていて、それがスポットの収益になっています。
お客様の状況によってニーズが分かれるので両方用意してあるのと、請負によって日々新しいニーズに触れられ、プロダクトにフィードバックできるというメリットもあります。
また、作業代行であれば最初に当社に依頼をしやすく、取引につながりやすいのもあります。
―今後の事業展開について教えてください。
上田 英介
2022年7月にシリーズAの資金調達で4億6000万円を得られましたので、開発をさらに強化。アノテーションの自動化ツールのラインナップを10件から、年内に100件を目指しています。
その先にも、学習の評価やデータ集めなど、アノテーションの周辺工程での事業展開も考えており、その先行開発にも資金を投入していきます。
現在はほぼエンジニアで16名の会社ですが、営業体制の構築も含め、来年末には40~50名規模にしたいですね。
事業成長としては、2024~25年に日本のアノテーション市場でNo.1を目指しています。
それをふまえ、IPOと前後して、海外進出も進めたいですね。
海外の競合とはポジショニングを意識的にずらしており、彼らが手をつけられていない技術領域もすでに手がけているので、グローバルでも勝算があります。
現在日本市場においても、ツール検討の際に海外製品とコンペになりますが、勝てていますので、チャンスは十分あるでしょう。
創業期の自己資金フェーズでは、オフィスやクラウド利用特典が何より貴重
―創業以来ずっと品川区におられます。どのような経緯からですか。
上田 英介
共同創業者の自宅住所を使ったのがきっかけです。
当時は2人ともエンジニアなので自宅でリモートワークでしたが、「五反田バレーアクセラレーションプログラム2020」に参加したのを機に、参加特典のSHIP(品川産業支援交流施設)のオープンラウンジを無償で、オフィスとして使わせてもらいました。
大崎駅から近くてアクセスも良く、おしゃれなオフィスで打ち合わせにも、もってこいでした。
宣材写真もそこで撮りましたね。プログラムの特典ではほかに、AWS Activateのクレジットも有難く、開発の初期コストを抑えて事業に集中することができました。
その後、人数も増えたので、2022年8月に芝浦のオフィスビルに入居しました。リモートワークは可能ですが、なかには出社したいメンバーもいますし、定期的に集まれると組織の一体感も生まれやすいでしょう。そのための場として、構えています。
―「五反田バレーアクセラレーションプログラム」は一期生になりますが、参加してよかったですか。
上田 英介
そうですね。
オフィスやクラウド利用の特典は、自己資金でどうにか回していた立ち上げ期には特に有難いものでした。
また、2人でリモートでやっているだけでは得られない、他の起業家とのコミュニケーションが期待できましたし、五反田バレーの先輩経営者によるセミナーなども役立ちました。
やはり、同じようなシード期の起業家と身近に触れ合えるのは刺激になりましたね。
―いま、経営者として大切にしていることを教えてください。
上田 英介
顧客の課題を解決するところに、いまは組織全体として注力しています。
まずは顧客課題を解決できるかどうかが最重要で、そのうえでビジネスとして成り立つかどうかというステップを大事にしています。
やはり、課題を解決すると自然にそこに向けて、賛同してくれる方や助けてくれる方が着実に増えてきてくれるものです。それが、経営を拡大できる要素になっていくと考えています。
―組織の拡大は、まさにこれからですね。
上田 英介
そうですね。
まだまだリファラル採用が主ですが、この9月に採用責任者が入社しましたので、組織づくりにおいてもアクセルを踏める体制にようやくできました。
エンジニアの採用は難しいですが、当社はお客様の案件によって多様なデータにアクセスが可能なため、AIエンジニアにとっては理想的な環境といえ、その意味で興味を持ってもらいやすいですね。
東洋経済の「すごいベンチャー100」選出も、お客様やスタートアップ間でも話題にしていただけています。採用にもプラスになると思い、採用ページにも載せています。
―最後に、起業や資金調達を考えている人へアドバイスをお願いします。
上田 英介
特にシード期には、PDCAを早く回すことが大事です。
製品をまずは、完全でない状態でも出してみたり、作り込む前に企業にアポイントを取ってプレゼン資料をぶつけてみて、これをお客様が欲しいと思ってもらえるかどうかを検証することが重要なのです。
私が問合せフォームに100件アプローチしたのもそのためでした。
見せられるものがなくても、まずアプローチしてアポを取りつけ、1~2日で準備して反応を見る。そうして早く顧客ニーズを特定しましょう。
次に市場を考えていきますが、アクセラレーションプログラムやVCなども活用して、いろいろなフィードバックを受け、プロの方たちとビジネスをブラッシュアップしていくのでよいと思います。そこは臆せず、チャレンジしてほしいですね。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。