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インタビュー/対談/特集記事

インタビュー 2023.1.4

日本のスタートアップの現在地や、起業を成功させる行動特性を、現場を知る経営学者の入山 章栄 先生に聞いてみた

自身のコンサルティング経験を生かし、経営戦略や国際経営を専門として起業や経営を志す学生の指導にあたる、入山章栄教授。一年の3分の1はフィリピンで過ごしながら、大手企業からベンチャーまでさまざまな経営者や投資家ともコミュニケーションを密にし、多方面で活躍されています。そんな入山先生に、起業家の潮流やマインドの変化、起業を成功させる行動特性などを伺いました。

 

(プロフィール)

入山 章栄さん 早稲田大学大学院 早稲田ビジネススクール教授

1972年東京都生まれ。96年慶應義塾大学経済学部卒業。98年同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2003年に退社、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。08年同大学院より博士号(Ph.D.)を取得、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサー(助教授)に就任。13年に早稲田大学ビジネススクール准教授、19年4月より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)

 

サンゴや茶道。Z世代のビジネスは、やりたいことの自己実現

 

―まず、日本のスタートアップの潮流をお聞かせください。

入山 章栄

いま20代、Z世代(1996年以降に生まれた世代)の起業家が出てきていますが、社会問題を解決したいというのが起業のモチベーションになっている傾向があります。

流れでいえば、いまの40代、ホリエモン世代はお金になることを目指し、DeNAやGREEなどソシャゲーの時代を経て、IT系のなかでも地に足のついたSaaS系のマネーフォワードやfreee、メルカリなどのビッグネームが出てきて、今その次が来ているわけです。

―社会問題の解決をビジネスにする背景は何でしょうか。

入山 章栄

やりたいことによる自己表現であって、そこにお金がついているから起業になっているといえます。たとえば、サンゴの「イノカ」や、茶道の「TeaRoom」など、一見すると、それがビジネスとして成立するのかと驚くようなテーマで起業しているんです。

こうしたことが次の世代、いまの中高生になるとどんな風に広がっていくのか、楽しみですね。

―常識にとらわれない、これまでの日本企業やベンチャーからは出てこないようなテーマが、彼らからは果敢に出てくるのは、なぜでしょうか。

入山 章栄

まず世代が置かれた状況として、いまの40代が若い頃の日本は経済大国で、終身雇用もあり、世の中全体が成長の機運で満ちていました。

ですが今は日本の将来は暗く、世の中全体も不確実性の時代といわれます。

そうなると1つの会社や組織にしがみつくよりは、自分のやりたいことをやる。それもお金は二の次で、世の中に良いことをやりたい、という人たちがだんだん出てくるものです。

こうした、世代が置かれた環境という面に加え、ベンチャーに関するノウハウが蓄積されてきたこともプラスに働いています。

IPOなども以前に比べ、だいぶ取り組みやすくなっているでしょう。

 

 

 

 

人間は、信頼関係を「一緒にご飯」で築くようにできている

―コロナ禍によって、起業家にはどのようなマインドの変化が見られていますか。

入山 章栄

社会的にオンラインでも仕事は回るというのが分かり、もちろん現場があるものは難しいですが、ハードウェアなどのモノを扱わないベンチャーではリモートワークが当たり前になっています。

私自身、あるIoTプラットフォームのベンチャー企業の社外取締役を務めて約2年になりますが、CEO以外の経営陣にいまだリアルで対面はしていません。

とはいえ、会社全体を考えればエンゲージメントの観点から、どこかで対面する機会や場所はつくるべきだと思います。

そのリアルとオンラインのバランスについては、全てのベンチャーが考え、悩んでいるでしょう。

実際には、人が集えるスペースを大事にしながらオフィスは縮小するケースが多いように感じます。

―すると今後、起業家はどこでも起業できるといえますか。

入山 章栄

そうともいえますが、他方で、ベンチャーはごく狭いエリアに集積してきた歴史があります。

それは起業家にとって、誰でも手に入れられるインターネット上の情報だけでは意味がないから。

ビジネスは、誰でもが手に入れられるわけではないスペシャルな情報を手に入れるからできるものなのです。

たとえばシリコンバレーでも、カフェに行くとあらゆる起業家や投資家がいて、そこで直接情報が得られたり、悩みを相談できたりする。

だからベンチャーが集まるんですね。

―最近はオンライン上でもそうしたコミュニティや1on1でのつながりは持てますが、それだけでは足りないでしょうか。

入山 章栄

信頼関係を構築するには、一緒にご飯を食べるといったことが大事なんです。

霊長類研究第一人者の元京大総長の山極壽一先生と対談して伺ったのですが、霊長類は味覚、嗅覚、触覚をつかって信頼関係を作るもの。だから人間は一緒にご飯を食べるのですね。

ですから、同じ場所にいることの価値は、今後もある程度残っていくでしょう。

起業家は、どこでもとリアルを往復するような働き方に当面なると思います。

起業家に大事なのは、失敗を恐れず、トラブルを笑い飛ばせる実行力

―では次に、成功している起業家の行動特性を教えてください。どういうマインドの人が向いているのでしょうか。

入山 章栄

経営学的には、失敗を恐れず「やれちゃう人」であることが大事です。

そのためには、意志や思いが強い必要があるでしょう。中身は何でもよくて、単に起業したいのでも、やりたいことがあるのでも構いません。

起業に関して周りからのノイズを気にせずに突き進めたり、実際に起業すると、失敗とトラブルとの戦いになりますが、それを笑い飛ばせるようだといいですね。

―日本は失敗を許さない社会ともいわれてきました。最近はだいぶ緩んできていますが、まだまだですか?

入山 章栄

許される方向にはあると思いますが、日本人は不安遺伝子が多く、新しい事に躊躇する傾向があると、脳科学者の中野信子さんが言っています。

その慎重さは、パンデミックのような危機対応にはよいですが、リスクを恐れ、チャレンジがしにくいといえます。

それは、これからの不確実性の時代には不利に働くでしょう。

ですから日本は教育において、失敗してもかまわずに、やりたいことをやるということを徹底的に行っていくべきだと思います。

また、英語も日本の課題です。日本の人口1億人というのは、グローバル化した世界においては片田舎に過ぎません。

英語でコミュニケーションができれば、世界80億人の多くとつながり、多様なアイデアを得られます。

そのうち自動翻訳が普及するでしょうが、当面は英語が大事です。

―これから起業をめざす人に、アドバイスをお願いします。

入山 章栄

日本の1億人しかない市場だけを対象としていては、上場できてもいつか伸び悩むでしょう。

最初からグローバル市場を狙うべき。そのためにはメンバーも世界中の人たちを集め、多国籍軍でやっていくのがよいと思います。

プロダクトを強くする段階では日本人だけで一気にやっても、R&Dや営業、経営陣には徐々に外国人を入れ、多様性ある組織で進めるといい。

そうして広い市場を最初から意識して仕掛けてほしいですね。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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