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インタビュー 2023.2.1

【急成長を続ける品川区のスタートアップ特集】 「ロボティクス×オートメーション」でリテール業界の変革に挑む株式会社ROMS 前野代表に起業からスケールするまでの道のりを聞いてみた

「RetailをDigitalとAutomationで変革し、次のCXを創造する。」をミッションとして、リテール業界に新たな顧客体験を創造するソリューションを開発・提供する、株式会社ROMS。2019年6月に創業後、自動倉庫とロボットアームを活用した超小型無人店舗であるRCSやネットスーパーの商品準備を自動化するNFCという2つのソリューションを提供しており、2022年9月には総額12億円の資金調達を発表。総合商社とアパレル企業での勤務を経て、事業成長を加速させている代表取締役社長の前野洋介さんに、起業に至る経緯や事業展開について聞きました。

 

(プロフィール)

前野 洋介さん 株式会社ROMS 代表取締役社長

総合商社にて、国内・海外でM&Aとベンチャー投資、新規事業開発、ロボティクススタートアップへの出向を経験。2018年に大手アパレル企業に入社、店舗・ECのデジタル融合、海外テック企業とのパートナーシップを推進。2019年6月に株式会社ROMSを共同創業、代表取締役社長に就任。

 

自前で運営した実証店舗のSNS発信に、企業からの問合せが続々

 

―まず、事業概要を教えてください。

前野 洋介

弊社は、自動化技術やロボティクスを主軸に、小売様向けにAutomationからUI/UXを一気通貫で提供するリテールテック企業です。以下2つのソリューション主軸に提供しています。

  1. RCS (ロボティクス・コンビニエンス・ストア):お客様に新しい購買体験を提供するコンビニ型無人店舗
  2. NFC (ナノ・フルフィルメントセンター):ネットスーパーの商品準備を自動化する小型フルフィルメントセンター

2022年9月から、KDDI様が運営するau Style SHIBUYA MODIにて、自動でピッキングと袋詰めを行う弊社のRCSの技術を活用し「auミニッツストア 渋谷店」がオープンしました。ここでは、飲料やデザート、食品、日用品などコンビニが取り扱うような一般的なグロサリーがあり、お客様がデリバリーアプリ「menu」で注文を入れると、menuのデリバリースタッフが店舗で商品をピックアップして、宅配するというもの。店舗にはATMのような機械があり、デリバリースタッフは「menu」上で表示された注文番号を入力することで、袋詰めされたお客様の商品を受け取ります。また、「menu」で注文した商品をお客様自身が取りに来ることも可能なほか、将来的には店舗に設置されているタッチパネルを使うことで、その場で商品を購入することも可能となる予定です。

このバックヤードでは、「menu」のオーダーシステムとロボットが自動連携しており、ロボットアームが注文された商品のピッキングとパッキングを行っています。無人でこれらを対応し、さらに棚や賞味期限の管理、補充や廃棄のフローまで自動化されています。

―コンビニで取り扱っている商品が入っているのことですが、RCSではどのくらいの商品を取り扱うことが可能ですか。

前野 洋介

一般的なコンビニで約3,000品目、スーパーで約1万5000~2万品目ですが、それらは基本的にすべて取り扱えるようになっており、うち、auミニッツストア 渋谷店では、最大500品目程度取り扱えるような体制になっています。また、温度帯管理も行っており、冷蔵などの扱いも可能になっています。立地やユーザー層もふまえ、かなり自由度高く商品を取り揃えることができるといえます。

―前野さんはもともと総合商社やアパレル企業にお勤めでした。起業に至った経緯を教えてください。

前野 洋介

大学時代から起業にも興味はありましたが、歴史学専攻だったため、経済や会計などを体系的かつ実践で学ぶつもりで、総合商社に入社しました。そこで会計部門を経て投資部門に異動し、VCやM&A業務に従事。約6年の米国駐在では、出資先スタートアップへの出向も経験しました。そうしたなか、ニューヨークでは経済界の大物にも対等の関係で接してもらい、ビジネスにおいて年齢や人種に関係なく、私という人間を見てもらえるカルチャーを味わったのです。また当時、同世代の30代半ばでヨーロッパの上場企業のCEOを勤めるような人も普通にいたため、そのような同世代から刺激を受け、起業を考えるようになりました。

―ですが、起業はまだ少し先ですね。

前野 洋介

その後、グローバルに展開する大手アパレル企業に転職し、代表の直下のチームに所属して、経営判断を間近で見させてもらいました。そのうち、自分で事業をドライブしていきたいと思っていた気持ちが呼び覚まされ、起業を決めたのです。

リテールxオートメーションという領域は、昔から注目していたのですか。

前野 洋介

米国駐在していた頃、ウォルマートがEコマースにより一層注力したり、アマゾンがホールフーズを買収して実店舗を持つようになったりと、米国のリテール業界に大きな変化が起きていました。グローバルのプレイヤーが戦うのを間近で見て、日本でも何かできるはずだと思っていました。

自前で運営した実証店舗に、企業からの問合せが続々

―そうして、2019年6月に会社を設立されました。きっかけは何でしたか。

前野 洋介

当時VCにいた先輩から、日本で起業したいというポーランド人のエンジニア2人を紹介されたのです。英語でコミュニケーションが取れ、ロボティクスと小売業界に通じていることが条件だったため、私に声がかかったのですが、会ってすぐに2人と意気投合し、1週間で共同創業することに決めました。

―その時点で、事業の原型はできていたのですか。

前野 洋介

そうですね。彼らがポーランドで開発、私が東京でビジネスサイドと分担して始めました。ですが、コロナ対策の渡航制限で物理的に行き来が難しくなったのを機に、会社を分離して別々にやることになります。遠距離恋愛と同じで、時差と距離があると、互いの考えも少しずつ変わるもの。もともと日本で事業展開する話だったのがヨーロッパでやりたいとなり、そのリソース配分は出来ないとなって2020年6月に会社を分離しました。

―その後は、どのように事業を進められましたか。

前野 洋介

2020年10月から1年間、東京浅草近辺の吾妻橋にて実証店舗を運営しました。ある大手企業が弊社サービスに関心を頂き、自社で運営する店舗の一区画を提供くださり、当社が独自で運営を行っていました。その店舗を運営する中で、多くの企業から問い合わせを頂き、現在もいくつかプロジェクトが動いています。「auミニッツストア 渋谷店」も、Twitterをたまたま見たKDDIの担当者から連絡をもらったところから始まっています。

―興味を持つプレイヤーの反応を見るショーケースとして、実証店舗は役立ったのですね。

前野 洋介

それもありますが、まずはモノがあるというのが大事でした。起業家がどんなに夢を語っても、お客様はモノを見るまでは何も判断できません。ですから、投資家や自治体から支援を受け、見せられるモノをまず作ることが非常に大事なのです。吾妻橋の実証店舗も、それが一番の目的でした。

―実証してみて、何か発見はありましたか。

前野 洋介

機械の動作はもちろん、オペレーションについても、想定と違っていたことは多々ありました。たとえば、もともと24時間無人でやるのは難しいと思っていて、スタッフを張り付かせましたが、意外といなくても問題がないと分かったのです。

しかし、実際に次の店舗を開くまでは、当初見込んだよりも時間がかかることも分かりました。実際、協業することが決まるまでに約1年くらいかかったり、そこから場所の選定や準備でもう半年を費やしたりすることはざらにあります。

―想定より時間がかかる理由は何でしょうか。

前野 洋介

まず、一般の企業様と一緒にプロジェクトを進める場合、意思決定や確認作業にやはり一定の時間がかかります。スタートアップの時間感覚で進めるのは難しいですね。大手でも同族企業であれば、トップダウンで決めてもらいやすいかもしれません。

また、新しい取り組みで物理的にハードウエアを導入するので、パートナー企業にも、テナント入居するビルの管理会社にも、イチから説明し、あらゆる想定に対して準備をしていかねばなりません。これはハードウェアスタートアップならではの苦労といえるでしょう。

スタッフの4割を外国籍にして、AI・ロボット人材の採用難を克服

―そうして2022年9月には「auミニッツストア 渋谷店」の運営開始とともに、総額12億円の資金調達を発表されました。組織体制はどのようにしていきますか。

前野 洋介

10月末時点で業務委託を含め、27名という体制ですが、これを年度末までに35名にし、ゆくゆくは50名規模を考えています。エンジニアはいま全体の約75%です。特徴的なのは、全体の40%が日本在住の外国籍人材だということ。それもキルギス、バングラデシュ、フランス、ネパール、中国、ベネズエラなど、多彩です。特にAIやロボットのエンジニア人材は、日本人が大企業に留まりほとんど市場に出てこないこともあり、意識的に外国籍人材へのアプローチを行っています。そのため、採用面接も一次から私が英語で行っています。

―現在オフィスは、品川区が運営する広町創業支援センターに入居されていますが、ここに至る変遷を教えてください。

前野 洋介

最初は、大崎にある6平米のレンタルオフィスを使っていました。エレベーターくらいの空間に常時4人くらいと手狭でしたが、フルリモートのスタッフが多かったので、オフィスは最小限と割り切っていました。場所は、ポーランドメンバーが成田/羽田経由で来やすく、地方在住のリモートワークの社員もたまに新幹線で出社することを考えて、品川付近を検討し、安さで決めました。

当座のつもりが2年になりましたが、社員が増え、きちんとしたオフィスを構えたいのと、弊社ソリューションの要であるロボットを置きたかったので、広さを求めて移転したのが広町創業支援センターです。

―2021年3月からの入居ですね。満足されていますか。

前野 洋介

大井町や大崎が最寄り駅で、徒歩で10~15分と少しかかりますが、仕事終わりに皆で歩いて帰りながらの会話などがよいコミュニケーションや思い出になっています。一体感の醸成につながっていますね。区外から広町に転居してきたメンバーもいて、社員にも愛されているオフィスだと思います。

また、ソフトウェアエンジニアが作業する場所として、五反田の駅近くにコワーキングスペースを借りました。広町との動線もよく、この体制は気に入っています。

結果的に、社員に多い子育て世代にとっても、品川区は暮らしやすく、良い学校もあります。ゆくゆくは、会社の近くに社員向けの託児所などを構えるにも向いた環境に思えます。五反田・大崎のスタートアップには結構、パパ友もいるんですよ。

―最後に、起業や資金調達を考えている人へアドバイスをお願いします。

前野 洋介

起業で一番大切なのは、周りに助けを求める姿勢です。たとえば助成金など、自治体の支援がとても頼りになるので、躊躇うことなく窓口にどんどん問い合わせ、使える制度を使い倒してください。

資金調達については、物理的にオフィスをVCの近くに構えることも大事です。そうすると、彼らのわれわれに対する解像度が上がるし、われわれも何か相談事があるとすぐ言いに行けます。そうした近しさは、資金調達を成功させるポイントです。結局VCが投資先で重視するのはビジネスモデルなどよりも、誰がやっているかです。ビジネス化の過程で顧客やマーケットの要望に応じて対応していくときに、そのピボットを一緒に柔軟にやり切るチームかどうかを、VCに示すことが大事なんです。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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