【ベンチャーキャピタル特集】シードステージの投資・育成に特化した国内最大級のVC、インキュベイトファンド株式会社に投資判断のポイントやサポートの中身を聞いてみた
ネットビジネスに特化した個人のキャピタリスト4名が2010年に創設した独立系VCである、インキュベイトファンド。「Zero to Impact(起業のDay0から次世代産業を産み出す)」をミッションとして、シードスタートアップへの投資で国内最大規模の実績を有しています。その投資活動の特徴や投資判断のポイント、実際のサポート内容などについて、アソシエイトの瀬戸恭祐さんに聞きました。
(プロフィール)
瀬戸 恭祐さん インキュベイトファンド株式会社 アソシエイト
2017年一橋大学経済学部を卒業後、野村證券株式会社に入社。投資銀行部門にてM&Aアドバイザリー業務や引受業務に従事。2020年インキュベイトファンドに参画。投資先企業のバリューアップ業務等を担当。
プレシードでは、「やり切ることのできる起業家か」がポイント
―まず、インキュベイトファンドの特徴を教えてください。
瀬戸 恭祐
シードやプレシードなど、創業期のスタートアップ支援に特化したVCです。創業直後でメンバーが起業家しかいない段階での出資もあるため、チームアップのサポートや、その後シリーズAやBと進んでいくときの資金調達のサポートなど、幅広くフォローを行っています。
代表パートナーは5人。創設からの4人に2021年3月に1人加わり、彼らがそれぞれ投資検討を行っています。ファンドとして注目する業種は特に決めておらず、シードであればどのような事業でも投資検討対象としています。
―最近の資金調達環境は、どのようなトレンドでしょうか?
瀬戸 恭祐
ステージが後ろになるほど資金調達が難しい状況です。なかでも、ミドルやレイターステージで参加する投資家にとってはイグジットの機会が作りにくくなっているので、案件を厳選するようになっている印象がありますね。選択のポイントとしては、利益を生める事業かどうかという点が大きいと思います。これまでは、売上をとにかく伸ばしていれば赤字でも許容されていましたが、利益を創出できる蓋然性やIPOをできる蓋然性、またその際のバリュエーションがどれくらい付くのかが重視されるようになってきています。プレIPOステージでは、この影響がかなりありますね。上場企業においても赤字許容幅がだいぶ厳しくなっており、それがスタートアップにも波及している状況です。
―シードやアーリーステージではどうでしょうか?
瀬戸 恭祐
ミドル・レイターほどは影響を受けていない印象です。資金調達環境自体がそこまで厳しくなっているわけではなく、シードに限れば調達はできるでしょう。ただし、それ以降のステージに進んだときにどのように調達をしていくか、中長期的な資金調達イメージは、シードへの投資家も注視している部分であり、十分に考えておく必要があります。
―御社の投資判断のポイントを教えてください。
瀬戸 恭祐
これまでになかった何か新しいもの、というのもありますが、やはり今社会にあるどんな課題を解決できるものなのか、その課題はどのくらい大きく深いものなのかというところが、市場規模やソリューションのイメージにもなりますので、そこをまず見たいですね。
そのなかで、会社としてどういう風になっていきたいかという目指す姿やそれに向けた成長戦略が共有できれば、では明日からどう取り組んでいくか、という議論を一緒に進めていけるでしょう。
―その後に追加投資を行うときには、何を見るのですか?
瀬戸 恭祐
当社では1社あたりの予算を決めていて、そこに到達するまで追加の資金調達ラウンドには、基本的には株式比率を維持しながら参加させていただいています。
たとえば、シードにおいてバリュエーション1億円で2000万円投資した場合には20%のシェアをいただいているわけですが、次のステージで10億円のバリュエーションで2億円を調達するとなれば、比率が維持できる金額である4000万円を追加で出資することが多いです。もちろん追加投資時の事業進捗は判断材料となりますが、基本的には追加投資を実行していくことまで含めてのシード段階での投資判断になります。
―プレシードはまだ事業が固まっていない段階ともいえますが、そこで投資判断する場合に決め手となるのは何ですか?
瀬戸 恭祐
やり切ることのできそうな起業家であることですね。それを見極めるのはいろいろお話を伺う中で判断という形になりますが、コミュニケーションをとるなかで違和感や引っ掛かりのないことも非常に重要だと思っています。レスポンスが早いとか、to doをきちんと共有できるとか、こちらが言葉足らずな時にも聞きなおしてくれて意図を汲み取ってくれるなど、スムーズにコミュニケーションできる起業家は結果的に投資後の伸びもいいような気がします。
起業家がPDCAサイクルを回して事業を大きくしていくときに、そのうちのPCA(Plan, Check, Action)についてはVCもある程度サポートができると思っています。ですが、D(Do)だけは本当に起業家自身にやってもらわないといけない、VCでは支援が難しい部分になります。そのDoができるか、やり切っていけるかというのが、コミュニケーションの取り方に表れると思っています。
―投資判断するまでの期間は大体どのくらいなのですか?
瀬戸 恭祐
当社内の投資委員会を月1回行っており、起業家に出会ったタイミングから最短の委員会に上程する場合は、1~2週間くらいが多いですね。投資金額が大きい場合には、もう少し時間をかけることもあります。オンラインのコミュニケーションが多いので事業についてはそこで聞き、実際に投資委員会に上げる前のタイミングになったら一度オフラインで腹を割って話をするという感じが多いです。
ハンズオンの支援は、細やかなバリューアップ業務でフォロー
―投資判断は代表パートナーが決められるとのことですが、アソシエイトはどのような役割を担われていますか?
瀬戸 恭祐
ソーシングや投資先のサポート、当社が行っている起業家向けプログラムやイベントの運営などです。
当社では代表パートナーごとにアソシエイトが2人ついて、その投資先を担当しますが、最近では、投資先のバリューアップ業務のウエイトが大きく、1~2週間ごとの経営会議に同席して議論に参加したり、事業計画のブラッシュアップ作業など、必要な業務に従事したりもしています。
そのほかバリューアップ業務としては、たとえば会社設立前であれば事業の基本設計やKPIの設定から行い、PDCAを回していくところの支援など。また、エンジニアやビジネスサイド、管理部門などの採用支援も、当社内のHRサポートチームと連携して支援します。さらに、次のラウンドで調達しようというときに投資家を紹介したり、ピッチ資料を一緒に作成するなどですね。
―途中でピボットするような場合も、かなりコミットされるのですか?
瀬戸 恭祐
そうですね。日頃から経営会議でビジネスの状況は共有していただいており、ピボットの相談も突然起こることは多くないと思います。「この事業は最近ちょっと厳しい気がするので、次を考えなければいけないかもしれませんね」といった会話がしばらくあったなかで、一緒に考えながら変えていくようなイメージです。
―ソーシングはどのようにされていますか?
瀬戸 恭祐
既にお会いしたことのある起業家やVCからの紹介が、私は多いですね。そのためにもネットワーキングイベントやコミュニティにも積極的に参加して、そこで起業家と多く出会うようにしています。若手のスタッフは、インターネットで探したり、起業家の集まるイベントに積極的に参加したりしているようです。
―投資先として、何か個人的に注目されている領域はありますか?
瀬戸 恭祐
DX SaaSはすでに多くのプロダクトが世の中に存在していますが、レガシー産業におけるDXニーズにはまだまだポテンシャルを感じています。また少子高齢化に対応する中で必要となるようなサービスやプロダクトというのも、ニーズは根強いのではないでしょうか。
シード~アーリー起業家に、集中メンタリングの機会を提供
―御社が運営するイベントについて教えてください。まず、「インキュベイトキャンプ」は老舗のプログラムですね。
瀬戸 恭祐
年に一度、本気で資金調達を目指すシード~アーリーステージの起業家と投資家との1泊2日の合宿イベントで、出場16社に対して数百社のスタートアップから応募があります。日本を代表するVCからパートナークラスのキャピタリスト16名が参加し、総当りの1on1メンタリングなど、密接なコミュニケーションを行います。非常に密度の濃い2日間ですので、帰りのバスでは皆さん疲れてほぼ爆睡されますね。選考では、事業をやり切れそうなガッツのありそうな人を見ているのと、アーリーステージであればトラクションも選定目安になります。過去15回開催してきて、たとえば第14回の実施後には合計約13億円の資金調達が実現するなど、実りの多いイベントとなっています。
―もう一つ、「サーキットミーティング」はどのようなプログラムですか?
瀬戸 恭祐
こちらはシードに特化して、まだ出資を受けていない起業家を対象としています。半日間の事業相談・ファイナンスプログラムで、当社とパートナーファンドの意思決定者8名を迎え、ピッチと総当りのメンタリングが行われます。こちらはほぼ毎月開催で過去60回以上開催しており、ここから出資につながる機会も多く、70社以上の投資実績があります。
―最後に、資金調達を考えている人へアドバイスをお願いします。
瀬戸 恭祐
資金調達は必ずしもVCからの調達だけでなく、融資やエンジェル調達、補助金などの手段もありますので、自身が会社として目指したい姿やビジネスモデルに照らし合わせ、最適なものを選んでほしいです。そのうえでVCから調達するのであれば、同じ船に乗って事業の成長を目指していく仲間になるわけなので、成長戦略や目指すゴールなどの目線をしっかり合わせていくことが大事です。
また、VCとは相性もあるので、いい形でコミュニケーションがとれるか、自分たちに必要な経営課題をきちんと指摘してもらえるかなど、相性を見ながら付き合っていくとよいのではないでしょうか。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。