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インタビュー 2023.7.28

【品川区で活躍する女性起業家特集】夜道の不安に寄り添うIoTの事業化を推進! 「五反田バレーアクセラレーションプログラム」1期生のルースヒースガーデン奥出代表に、起業の経緯やこだわりの哲学を聞いてみた。

2013年の創業以来、デザイン思考をもとに日常のもやもやを解決し、豊かな日常生活をプロデュースしてきた株式会社ルースヒースガーデン。
2020年には「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に参加して、当時取り組んでいた、夜道の不安に寄り添うIoTアクセサリーバッグチャームの事業化を推進しています。
代表取締役の奥出えりかさんに、起業の経緯や品川区で活動するメリット、今後の展望について聞きました。

(プロフィール)

奥出 えりかさん
株式会社ルースヒースガーデン
代表取締役/Director

慶應義塾大学環境情報学部、同大学大学院メディアデザイン研究科にてインタラクションデザイン、デザイン思考によるイノベーション創出手法を専攻。
2013年4月に株式会社ルースヒースガーデンを、幼なじみでデザイナーの植田えりかと共同創業。企業向けのデザイン思考研修や新規事業創出支援などを行う。

 

デザイン思考の手法をベースに、アートやビジネスをプロデュース

 

―まず、御社の事業について教えてください。

奥出 えりか

イラストやチラシ、Webサイト、展示ブースなどのグラフィックデザイン業務から、キャラクターデザインなどのアートディレクション、新規事業創出アドバイス、ワークショップのファシリテーションなど、幅広く行っています。
ベースにあるのは、デザイン思考。
小さなものをつくるときもデザイン思考でユーザー目線に立ち、必要に応じて調査・検証を行って丁寧に創り上げています。
また、企業などへのイノベーション支援として研修やワークショップを行う際も、デザイン思考を実践し新規事業案を作成するような企画を得意としています。

―どちらも「デザイン」ですが、ビジュアルを創るだけではないのですね。

奥出 えりか

そのとおりです。日本では、デザインは見た目の話になりやすいのですが、もとの英語の「design」には「設計」の意味も含まれます。
当社が手がけるのは、そこも含めた広義のデザインなので、Webサイト制作でもキャラクター制作でも、ユーザーとなる人たちにインタビューを重ね、現場を観察するフィールドワークをふまえて行います。
新規事業をつくるワークショップも、役員向けや新入社員向けなど対象はさまざまですが、最初のステップでは哲学やビジョンの言語化を意識して行います。
そのときに大事なのは「自分の主観で語る」こと。
たとえば、空が青いとか世界を平和にというフレーズは、耳障りはよいですが、誰もが思うことで、あなたが言う意味はありません。
そうではなく、自分だけの尖った意見だけれど、すごく信じていることを文章にすると、ほかとは差別化できる「哲学」になるのです。
当社では、そのような価値提供を、デザインを通して行っています。

―最近、スマート防犯アクセサリーの事業を別会社に切り分けたそうですね。

奥出 えりか

「Yolni(ヨルニ)」という、夜道の不安に寄り添うアクセサリー型のスマート防犯デバイスの事業です。
2020年度の「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に参加したときに、この事業アイデアをブラッシュアップできました。
2023年3月には東京都立産業技術センター主催のコンテスト「TokyoものづくりMovement」で最優秀賞もいただいています。
現在は試作までできていて、2023年中にはクラウドファンディングを行って量産に漕ぎ着けたいと考えています。
また、Yolniでは将来的にエクイティによる資金調達も行うかもしれませんが、その際もルースヒースガーデンについてはマイペースでやっていきたいのです。
スモールビジネス的にライフワークとして行っていく部分はルースヒースガーデンに残しつつ、スタートアップ的に事業成長を目指すYolniを分けたということですね。

日常のちょっとした不満をデザインで解消することを事業に

 

―奥出さんは大学院を修了後すぐ起業していますが、起業を考えたきっかけを教えてください。

奥出 えりか

大学でインタラクションデザインを学び、たとえば憂鬱な雨の日を楽しめるよう、雨粒が落ちるとその刺激に応じて映像や音が表れる水面インターフェースを創ったりしていました。
そんな風に、日常のちょっとした不快や不満を解消し、楽しくなれるようなことを考えるのが好きだったのです。
そこで、自分で企画を考え、形にしていくようなことを仕事にしたいと思いましたが、就職活動してみると、企画部門で活躍するには何年もかかるといわれました。
ならばと、自分でビジネスを興すことにしたのです。

―一緒に起業した植田えりかさんとは、どのようなご縁ですか?

奥出 えりか

彼女は先に女子美術大学を学部卒業して会社員でしたが、やはりクリエイターとして生きていきたいというので、一緒に起業しました。
もともと小学校からの友人で、「えりか」という名前も同じで家も近く、学校が分かれた中学以降も連絡を取り合う仲でした。
大学のときも互いに制作物を見せ合ってディスカッションしていたので、自分のやりたいことをビジネスにしようと意気投合。
私の大学院在学中から起業準備を始めて、大学院を修了してすぐの2013年4月に会社を設立しました。

―ビジネスはどのように広げていったのですか?

奥出 えりか

最初はWebデザインで、小児科クリニックのサイト制作を手がけ、フィールドワークのリサーチに基づいたデザインが好評をいただいて続きました。植田さんはイラストレーターでもあるのでイラストやキャラクター制作も得意で、最近では、統計数理の中核的存在である統計数理研究所のオリジナルキャラクターのデザインをさせていただきました。
キャラクターについては、オリジナルキャラクターブランド「Tetra Style」を設立当初から展開しています。今日持ってきたこのうさぎのぬいぐるみもTetra Styleの商品です。「DESIGN FESTA」というアジア最大級のアートイベントに定期的に出展しており、そこでキャラクターのファンになられた方から、同じテイストでの制作依頼などがあります。
こうしたイベント会場でファンと会えるのも、モチベーションになりますね。
これまでは知人からの紹介などを中心にお仕事をさせていただいていましたが、10周年のこのタイミングにさらに幅広い分野に挑戦したい想いがあり、最近はWebサイトを全面リニューアルし、Twitterもはじめたところです。

「五反田バレーアクセラレーションプログラム」で第三者からの評価が自信に

 

―品川区との縁について聞かせてください。2017年にSHIP(品川産業支援交流施設)の会員になっていますね。

奥出 えりか

ちょうど品川区に引っ越して、仕事ができるオフィスを探していたときに、友人から紹介された女性の起業家仲間にSHIPがいいと聞いたのです。
その人はリサーチ力が高く、いろいろなコワーキングスペースの入居面接も受けて比較検討しており、当時できたばかりのSHIPを勧められました。
また、それまで自宅住所で登記していたのを移したかったので、登記ができるのもSHIPは魅力でした。
後に、住所貸しのいわゆるバーチャルオフィスだと、融資などが通りにくいと聞きました。
その点でSHIPは品川区の施設なので、金融機関にも信用がありますね。そのほか、名刺を渡すと「ああ、SHIPなんですね」とよく言われます。
SHIPで講演をしたという方も多く、創業支援関連では知名度が増してきている気がします。

―2020年に「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に参加されたのはなぜですか?

奥出 えりか

当時は「しっぽコール」と名づけていた「Yolni」の事業を、ビジネス面でサポートしてもらいたかったのです。
もともとは技術面のサポートのあるコワーキングスペースで、このアイデアを形にしてきました。実際に「五反田バレーアクセラレーションプログラム」では、講師やメンター、事務局、ほかの参加者など、いろいろな人に事業アイデアを見てもらえ、良い反応をもらってモチベーションが上がりました。
また、当時は資金調達にはあまり興味がなかったのですが、その講義のノートが後に設立した会社の資本政策を考えるのに役立ちましたね。
また、私自身は日頃は起業家コミュニティなどに積極的に参加するほうではないのですが、こうしたプログラムを通して仲間ができるのはいいですね。今も連絡を取り合っている参加者もいますし、その方がWebデザインのお仕事をくださったこともあり嬉しかったです。

―そのほか、品川区の支援で役立ったことを教えてください。

奥出 えりか

Yolniのデバイスのプロトタイプの制作では、品川区の「新製品・新技術開発促進助成」を活用して、費用面でかなり助かりました。
また、SHIP内の工房に常駐されているPrimal Design. Laboの方にもいろいろアドバイスをもらっています。

―その後は「しっぽコール」から「Yolni」へと、順調に事業を進められましたか?

奥出 えりか

実際に動くプロトタイプ制作ができれば量産は簡単かと思っていましたが、意外とそうは行きませんでした。
例えばプロトタイプの樹脂部分は削りだしで行ったのですが、それだと単価が上がるので、量産のためには金型を作らねばなりません。
それを今まで頼んでいた会社に聞くと見積が高額になり過ぎてしまい、工場を当たりなおしました。
金型用に設計も修正の必要があるなど、とにかくハードのものづくりは難しいと実感。
また、協力会社などはネットでも探せますが、実際に商談するには紹介でないとうまく行きにくいと感じました。
それでも、多くの方の協力をいただき、量産目前まで来られたので感無量です。

創業時にフィロソフィを言語化しておくと、軸がぶれない

 

―ルースヒースガーデンの今後は、どのように考えていますか?

奥出 えりか

創業したときに企業理念、フィロソフィをかなり時間かけて創りこみました。
少し長いのですが、「素直な心、あたたかい心を企画やデザインに込め、豊かな日常生活に貢献します。」「既成概念にとらわれず、常に新しい切り口で挑戦を続けることで、一歩先の未来を創造します。」「多様な価値観を許容し、問題解決のできる企画や魅力的なデザインで人々の自分らしい生き方を創造します。」の3つです。
10年経った今も変わらず、どれも大事にしていますが、今後でいうと2つ目の「常に新しい切り口で挑戦」ですね。
例えばWebサイトも10年前のようにコーディングが必須の時代ではなくなってきていますし、常に今必要とされていることをできる会社でありたいです。
コンテストなどにも積極的に挑戦したいと考えています。2019年には法務省の成年年齢引下げポスターコンテストで植田さんのデザインしたポスターが最優秀賞(法務大臣賞)を受賞したり、2020年にはWemakeというサービス内で実施された象印マホービン株式会社様のビジネスコンテストで提案したビジネスプランが最優秀賞を受賞したこともありました。
どんな分野のデザインも行っていき、そのなかでYolniのような良い反応が得られる企画が出れば、そちらにも集中してみたい。そんな風に長く挑戦し続けていきたいです。

―企業理念をそれだけ創りこまれたのは、なぜでしょうか?

奥出 えりか

起業するにあたり、大手企業でプラント設計を担当し、その後コンピュータによる設計の会社を立ち上げ大きくした経験がある祖父に相談したところ、会社は何をおいても哲学が大事だと言われ、まずそれを決めるのに時間をかけなさいとアドバイスされたのです。
祖父からは、経営の神様といわれる稲盛和夫さんの著書も勧められ、いろいろ読みました。
多くの名言がありますが、なかでも「人間として何が正しいかを判断基準に置く」というのが印象に残っています。
10年事業をやってきて、最初に核となる企業理念を考え抜いておいたのはよかったと思いますね。それに、祖父のように信頼できる身内が正しい道を示してくれたことはとてもありがたかったです。

―最後に、起業を考えている人へアドバイスをお願いします。

奥出 えりか

やはり哲学、フィロソフィを考えるところが第一歩だと言いたいですね。意外とご自身の熱い想いを言語化できていない方が多いように思います。

でも、事業を興したいなら哲学を言語化しておくと、共感してくれる人が集まりやすいです。

そのフィロソフィをまた、いろいろな人に見てもらってブラッシュアップしていくと、やがて10年変わらないような自分の軸ができ、拠りどころになります。

そうした言語化や事業化を目的として、ビジネスコンテストやアクセラレーションプログラムに参加してみるのもよいでしょう。私自身も、新たにビジネスや副業を始める方のフィロソフィを言語化するお手伝いにとてもやりがいを感じますので、そういった支援をビジネスとして展開してみたいと最近は考えています。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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