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インタビュー 2023.8.28

【事業を加速し続ける品川区のスタートアップ特集】「AI×人の感性」で新たな購買体験を創出。株式会社空色 中嶋代表に、起業からスケールするまでの道のりを聞いてみた。


2013年に創業し、AI技術と人の持つ感性を掛け合わせることでコミュニケーションの可能性を最大化し、新しい購買体験の実現を支援してきた株式会社空色。「ファンをつくる仕組みを提供する」「らしさを洗練させて、利益を伴った起業成長を応援する」をミッション/ビジョンとし、AIを活用したWeb接客ソリューション「WhatYa」(ワチャ)を開発・運用しています。
2023年2月には株式会社コマースOneホールディングスを引受先とする第三者割当増資を実施し、連結子会社となりました。代表取締役の中嶋洋巳さんに、起業の経緯や五反田で活動するメリット、今後の展望について聞きました。

(プロフィール)

中嶋 洋巳さん 株式会社空色 代表取締役

2005年04月、西日本電信電話株式会社入社。新規事業開発部に所属し、コミュニケーションを用いたファッション提案アプリの開発など複数の新規事業開発に従事。2013年10月、株式会社空色を創業。チャットを軸としたウェブ接客ソリューション「OK SKY」の開発・提供、チャットセンター運用受託事業を展開。2016年からAIを活用したチャットボット「WhatYa」 (ワチャ)を提供開始し、AIと人を組み合わせた新たな購買体験の創出に取り組む。

 

WEB接客ツールで購買体験を向上、ECサイトを進化させる

―まず、御社の事業について教えてください。

中嶋 洋巳

自社でECサイトを運営している企業を顧客とするサービスを開発・提供しています。
この数年間でECサイトやInstagram、YouTubeなど、デジタル上の顧客接点が急増し、最終的な購入に至るまでのカスタマージャーニーが複雑化しています。そこでエンドユーザーであるお客様に心地よく買い物してもらえるよう、サイトを作り変えることなくサイト内行動を促進するような購買体験を提供する「WhatYa」(ワチャ)というSaaSプロダクトのWEB接客ソリューションを提供しています。
WEBサイト内でエンドユーザーを接客するポップアップ・レコメンド・チャットなどの機能を備えたツールで、サイト内に表示されたボタンをクリックするとWhatYaのウインドウが立ち上がって各種コンテンツが表示できるというソリューションです。

―ECサイトには、過去のアクセス履歴からお勧めの商品を表示させるレコメンド機能などがよくありますが、それとの違いは何ですか?

中嶋 洋巳

レコメンドエンジンでは商品が並ぶだけですが、「WhatYa」ではInstagramやYouTubeのコンテンツなど、デジタル上に散在しているものをWhatYaウィンドウ内で集約表示が可能です。
エンドユーザーに対してウィンドウ内でのアプローチでは、コンシェルジュのようにどういうことに興味があるかを聞いていき、感性にマッチするコンテンツ表示をしています。また、WhatYaを使用しているエンドユーザーにbotから商品をオススメすることで購入促進を図るなど、さまざまなコミュニケーションデザインが可能です。
WhatYaウィンドウの一画面のみで、コミュニケーションが完結するため、WhatYaを利用しているエンドユーザーは他のページに遷移することなく、購買につながり、離脱率が改善します。

中嶋 洋巳

また、最近はコンテンツや記事づくりに注力するECサイトが増えており、エンドユーザーの興味関心に応じて適切なコンテンツをWhatYaウィンドウ内に表示をすることで、作成したコンテンツの活用促進にも繋がります。
当社はもともとWeb接客の一貫としてチャットセンター構築やオペレーション運用までビジネスを展開していたので、その経験とノウハウを活かした購買体験のデザインと、AIによる自然言語解析結果を元にしたオペレーションの運用改善を得意としています。
今後は、WhatYaの独自機能として、ECに登録されている商品説明文章とコンテンツ・記事内の文章や文字の相関関係をAIに解析させ、どういう文章・文字が使われているコンテンツ・記事がWhatYaを利用しているエンドユーザーに反応が良いか、離脱されないか、などのデータを蓄積しながら、さらに高い効果を発揮出来るサービス開発を進めていきます。

―既に運用されているECサイトに組み込めるサービスなので、導入しやすそうですね。

 

中嶋 洋巳

はい。そのとおりです。大きな改修をしなくても、時間とコストをかけ過ぎずに顧客体験を変えられます。
日本のECサイトのUXトレンドは、EC事業者が作成した記事などをサイトに掲載しコンテンツ強化をする、コンテンツリッチの動きが強まる傾向ですが、海外ではまた新しいトレンドが広がりつつあります。
そうしたトレンドがやがて日本にも来ることを見越して、お客様とどのような価値を創っていけるかを意識し、いま次の開発を進めています。

将来の起業をイメージして、新規事業開発ができる会社に入社

―そもそも起業を考えたきっかけは何だったのですか?

中嶋 洋巳

子供の頃に祖父が京都で酒屋を営んでおり、お米の配達に行ったり、店にお客様が来られて買い物されたりしているのを見て育ちました。

幼いながらに、その光景がずっと記憶に残っており、将来は「自分自身で何かをやりたい」と思ったのが原点です。

そのため、昔からぼんやりと起業は意識していました。しかし当時は株式会社設立が今ほど柔軟ではなく、具体的に取り組みたいこともなかったため、、幅広いビジネス経験が積め、取り組まれている事業に共感・貢献ができる会社を探し就職活動をしました。そうして2007年にNTT西日本に入社しました。

―NTT西日本ではどのような仕事をされたのですか?

中嶋 洋巳

入社からいくつかの部署での経験を積んだのちに、新規事業開発部に配属されました。そこでは常時様々なプロジェクトが走っており、誰でも事業アイデアを提案出来る環境でした。事業企画から検証予算の獲得、PoCを経て事業化判断まで、プロジェクトオーナーを務めることもできます。
幸にもいくつかのプロジェクトを企画し、ファッションコーディネートサービスの事業化を経験させて頂きました。

―その後、2013年10月に空色を起業されましたね。

中嶋 洋巳

はい。新規事業開発に4年半従事し、実践的に学ばせてもらったと思います。さまざまな起業家やスタートアップと会う機会もあり、2011~12年頃にはそろそろ自分でも起業できるのではと考え始め、2013年9月末に退社しました。

―企業内での新規事業開発と、自身での起業で違いはありましたか?

中嶋 洋巳

企業に所属している立場で予算獲得すること学びが多かったです。新規事業を企画するときに、自分が何をやりたいか以上に、会社へのシナジーや貢献度合いが当然鍵になり、多様な価値観や判断軸を持つ意思決定者の方々に理解いただく必要があります。
その点でVCからの出資は、特にシードの場合、将来性で判断してもらえます。以前とは異なるプレッシャーや責任がありましたが、起業して自身のアイデアや思いをダイレクトにVCへ話すことのほうが、私には向いているのかなと感じました。

 

BtoCからBtoBへピボットし、ソリューションの影響力を拡大

―起業して、まずどのような事業をされたのですか?

中嶋 洋巳

新規事業開発に従事する中で接点をもったスタイリストの方々にヒアリングすると、様々なアパレル企業のプレスルームから衣装を借り、撮影後に返却する作業負担が大きいと分かったため、Webでリースを手配できるデジタルショールームを立ち上げました。立ち上げから数ヶ月で、一定の収益基盤が整い、次に取り組みたいことを見つけられる機会が生まれました。

―創業地は大阪ですが、すぐ東京に移転されたのはなぜですか?

中嶋 洋巳

本格的な事業展開として、スタイリストとエンドユーザーをつなぎ、チャットでコミュニケーションしながらコーディネート提案するアプリ「PRIMODE」(プリモード)の事業を準備し始めたのがきっかけです。
クライアントとなるアパレル企業もほぼ東京だったので、コミュニケーションコストと移動コストを考え、2014年4月に上京しました。

―その後、どのようにして現在のソリューションになったのでしょうか?

中嶋 洋巳

「PRIMODE」はモール方式で、スタイリストが提案したコーディネートを参考にエンドユーザーが商品を購入すると、メーカーから当社の物流拠点に商品が送付され、当社で、エンドユーザ向けにパッケージを整えて発送するビジネスモデルでした。
このモデル自体に興味を持つアパレル企業が多かったため、チャットでのコミュニケーション機能とコーディネート提案機能を切り出してBtoBで提供し始めたのが、有人Web接客ソリューションの「OK SKY」です。
BtoCもやりがいはありましたが、自社単独では届けられるエンドユーザー数に限りがあります。数万人まで増えてはいましたが、複数企業にこれらのシステムを提供すれば数十万人、数百万人のエンドユーザーに使ってもらえ、より豊かなコミュニケーション体験を提供できると考えました。

―その後、アパレル以外にもサービス提供先を広げていますね。

中嶋 洋巳

当初のクライアントはECでファッションやインテリア、コスメを販売している企業が中心でした。その後様々なAIエンジンが登場し、当社でもAIに取り組み始めたのが「WhatYa」です。
その頃からチャットコミュニケーションの用途は、購買促進のためのコミュニケーションと、カスタマーサポート自動化などの業務効率化、エンタテインメント性の高いものという3方向で普及していきました。
その影響もあり、不動産やブライダルなど、来店予約が重要な業界からの問合せも増えています。

―他のチャットボットサービスとの差別化ポイントは何でしょうか?

中嶋 洋巳

チャットボットでは、サイト内にチャットボタンが表示された際、エンドユーザーにクリックしてもらう行為自体にハードルがあると考えています。
そのため、クリック率が自然と上がる方法やクリックをしなくてもサービスを楽しめるようなUXの実現を目指しています。当社ではチャットボットをツールとして提供することに限らず、サイト内でエンドユーザーとのコミュニケーション全体の設計支援へと、提供価値を変化させました。
海外の巨大SaaS企業などが日本にも進出してきており、同じ領域で同じように戦うより、少し角度を変えて当社の優位性が発揮できるところを探りながら、領域をずらしていったのです。

資金調達環境の変化と事業成長スピードを考え、連結子会社化を選択

―今後の事業展開はどのように考えていますか?

中嶋 洋巳

2023年2月に、株式会社コマースOneホールディングスを引き受け先とする第三者割当増資を実施して、連結子会社になりました。
同社は、ECサイト運営する会社を幅広く支援する事業会社をグループに複数社有しており、事業シナジーを意識して決めました。
また、空色が実現していきたい未来に向けて、自社だけで、かつ競争環境が激化するなかで、ゴールにたどり着くまでの不確かさを少しでも確からしくしていきたいと考えた結果です。

―単独でのスケールは難しいと判断されたのですか?

中嶋 洋巳

資金調達環境がこの1~2年で大きく変わりました。
以前は、PSR(株価売上高倍率、時価総額を年間売上高で割ったもの)を主に指標として評価されましたが、今は利益に対する倍率で時価総額が決まるように大きくトレンドが変化しています。
PRSという、実態とは離れたバリュエーションに基づいて資金調達をしてきたスタートアップからすると、今後の資金調達はこれまでとは異なる局面になっていくでしょう。
付け加えるなら、事業成長スピードを優先したことですね。
自分たちだけで改めて競争力があるプロダクトを創っていくために投下する時間やリソースを考えると、既に近しい領域で成立体験を積まれている方々の人や資金、ノウハウを惜しみなく提供いただけるのは何物にも変えがたく、成長スピードと確実性が高まると判断しました。

―多くのスタートアップ経営者にとって興味深いお話ですね。

中嶋 洋巳

そうかもしれませんね。実際にスタートアップ経営者とこういったお話をする機会もありますが、資金調達と事業成長の悩みを解消できる選択肢の一つとしてお勧めできるかと考えています。
結果的に、一定の独立性を持ちながら全方位で支援いただいています。
これまでのビジネスは継続して注力しながら、さらにそこを発展させていくべく、年内にはまた新しい価値を提供できるようなプロダクトの準備を進めていますのでご期待ください。

―事業を展開していくときに、サービス名とは異なる社名なのはよいですね。「空色」という社名はどう決められたのですか?

中嶋 洋巳

起業する際に、自分が何をやりたいのかを言語化して決めました。
「空」は、コミュニケーションビジネスを軸に事業を展開する上で、遮られることがない、障壁がない点からイメージして、海や空、宇宙などと言葉を挙げたなかで、一番しっくりきた言葉を選びました。時間によって、国によっても空は色合いが違って見えるので、多様性も表現できると考えました。「色」には、十人十色、パーソナルカラーなど、個性への思いを込めました。社員にもお客様にも、それぞれのビジョンや考え、ブランドカラーがあるもの。それを当社がしっかり理解し、発信していくお手伝いをしたいと思ったのです。
実際、当社のカルチャーも社名のとおりです。パーソナルカラーは人それぞれ。会社としての社会に価値を提供するなかで、社内にいろんな角度で物事を考える人が多ければ多いほど、事業リスクは軽減できると考えています。社員個人の考え方を否定せず、互いの違いを認め合うような組織文化を目指しています。

 

品川区はスタートアップにとって使い出のある「助成金」が充実

―品川区との縁について聞かせてください。東京に移転したのは2014年4月でしたね。

中嶋 洋巳

最初は社員も2~3名なので、クライアントであるアパレル企業が多い表参道に、小さなオフィスを構えました。
そこからOK SKY事業にピボットする際にチャットセンターを立ち上げ、10人未満から一気に20名規模となったため、五反田にオフィスを移転しました。
2016年のことですが、駅近くでもリーズナブルだったので、その後はずっと五反田ですね。オフィス環境として良いのと、スタートアップが多いからか、品川区は助成金などの支援も充実しています。

―助成金は、どのように活用していますか?

中嶋 洋巳

当社では、経営企画のメンバーが助成金を随時チェックしており、品川区の助成金はいろいろ利用してきました。
助成金は、折角用意頂いているものなので、ぜひ引き続き活用させて頂きたいです。
申請時に必要な書類なども、既存の社内資料を活用できるので、それほど大きな手間ではありません。

―そのほか、五反田で活動するメリットはありますか?

 

中嶋 洋巳

五反田ではスタートアップ同士の集まりが多いので、横のつながりが創りやすいですね。
誰かから声がかかると20~30人の経営者が集まって、五反田駅近くの飲食店で交流会が行われたりしています。

―社員は今、何名くらいですか?

中嶋 洋巳

注力する事業領域を限定することで、今は20名前後です。
コロナ禍でリモートワークが進んだため郊外に引っ越したメンバーも多く、特にエンジニアは在宅が業務効率は高かったりしますね。
ただ、社内に仕組みが出来上がってている業務のはリモートでも十分に対応できますが、新たな仕組みづくりやゼロベースで議論を行う時にはメンバーと対面で会い、話すほうがニュアンスも伝わりやすく成果に繋がりやすいと感じています。現在、事業速度を高めるために、出社割合を増やそうかと検討中です。

―ちなみに御社では、外国籍のエンジニア採用にも積極的ですね。コミュニケーションなどで工夫したことがあれば教えてください。

中嶋 洋巳

日本語は話すことができる人も苦手な人もいましたが、片言の英語でのコミュニケーションで問題ありませんでした。
翻訳ツールなどで補いながら、コミュニケーションを取っていました。私もフィードバック面談はGoogle翻訳と片言の英語で行っていました。意図が伝わるのが大事なので、「分かりました?」と聞きながら、こちらが何を伝えたかを再度本人に話してもらうことなどを行いながら、正しく伝わっているかを確認していました。

―最後に、起業を考えている人へアドバイスをお願いします。

中嶋 洋巳

起業を考えている段階では、経験したことのない起業リスクを大きく感じられるかもしれませんが、いきなり起業するよりもまずは副業から始めてみるとよいのではないしょうか。
お金を稼ぐ方法をいくつか考えて、「そのどれかが当たればいい」くらいの感覚で、半年か1年ほど取り組んでみて、自分自身の生活費程度を稼げるようになるか検証しながら、起業準備を進めるとよいかもしれません。

様々なことが整ってから起業したいという気持ちもよく分かりますが、まずは取り得るリスクの範囲内でビジネスをやってみないことには何も始まりません。
頭で考えすぎず、まずできることから始めてはどうでしょうか。
副業からでもよいので、給料以外に自分が価値を提供出来ることでお金を稼ぐということをやってみると、どこかで起業のスイッチが入るかもしれません。
小さな一歩を踏み出しながら、お客様や一緒に働く仲間が出てくるなかで、こういう瞬間が楽しいとか、こういうことを大事にしたいと自分自身の思いが広がり、重なる体験を得られれば自然と起業を楽しめると思います。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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