【ベンチャーキャピタル特集】 AI特化型VCとして、ファンドとインキュベーションの両面で支援する株式会社ディープコアに、投資判断のポイントやサポートの中身を聞いてみた。
株式会社ディープコア(以下、DEEPCORE)は「CORE for Disruptive Innovations」をミッションに、技術で世界を変える志を持つ起業家を支援する、AI特化型のベンチャーキャピタル。日本のAI第一人者である東京大学の松尾豊教授をFounding Partnerとし、起業や研究機関などと連携して「技術者」「産業界」「研究機関」が結びつくオープンなエコシステムの構築をめざしています。そのファンドの運営やインキュベーション活動、具体的なサポートについて、Senior Directorの三宅俊毅さんに聞きました。
(プロフィール)
三宅 俊毅さん
株式会社ディープコア
Senior Director
DEEPCOREで投資を担当。それ以前は、事業会社管理会計業務などを経て、UBS証券株式調査部にて株式セルサイドアナリスト、PwCにてM&Aアドバイザリー業務に従事。その後、EdTechスタートアップに参画し、IPOを想定した経営管理体制構築や資本提携先CVCへの出向・スタートアップ投資に従事。帰任後は、経営戦略室執行役員としてIPO後の既存事業バリューアップやM&Aターゲットの初期的調査、投融資先管理に従事。2022年7月より現職。慶應義塾大学総合政策学部卒業、一橋大学大学院経営管理研究科金融戦略・経営財務プログラム(MBA)在籍中。米国公認会計士
技術で世界を変えようとしている起業家を、全力でサポート
―まず、DEEPCOREのファンドの特徴を教えてください。
三宅 俊毅
AIとディープラーニングに注目したファンドで、シードからアーリーステージを主な投資対象としています。その際はなるべくリードインベスターとして参画し、その後は出資先の成長に伴い、フォローの出資も行います。
2018年に組成した1号ファンドでは62社に投資し、現在進める2号ファンドは2023年5月末にファイナルクローズしており、生成系AIやロボティクスなどの先進的技術分野を中心に引き続き投資活動を行っています。
―シード/アーリーステージに投資の軸足を置くのは、なぜでしょうか?
三宅 俊毅
技術の社会実装や事業化には、PMFなど一定の軌道に乗せるまでの過程が重要と考えるからです。さらに、起業やスタートアップエコシステムに関心のある人が起業前後で様々な情報にアクセスできるよう、「KERNEL(カーネル)」というインキュベーション施設も運営しています。当社メンバーによるメンタリングや内外でのミートアップを通じて、刺激を受け、情報を得て、起業を目指すための環境となっており、自身の事業アイデアの社会実装や事業化に活かすことができます。
―ファンドとインキュベーションの活動は切り分けられているのでしょうか。
三宅 俊毅
相互に関連しています。KERNELに所属していて起業した方には、出資を検討しやすいですし、複数の実績があります。KERNELから投資先に人材を紹介するケースもあります。また、このインキュベーション施設は会員向けのシェアオフィスになっていますが、投資先も希望があれば入居可能で、相互の活発な交流を期待しています。
―KERNELの特徴も教えていただけますか?
三宅 俊毅
場所が東大に近く、また初期メンバーに東大の研究室出身や関係者が多いため、今も会員は東大に縁のある方が比較的多くなっています。また、年1回「HONGO AI」というAIスタートアップのピッチイベントを、東大のスタートアップエコシステムと関係性のあるVCと共催しています。
会員はエンジニアやビジネスサイドなど、様々です。相互に刺激し合っており、このコミュニティ内で仲間を見つけて起業した例もありますね。
思考・仮説・検証サイクルの高速回転で、課題の解決策を明確化
―投資判断のポイントを教えてください。
三宅 俊毅
難易度の高い課題の設定とそれに対する解決策の組み合わせの説得力が高ければ高いほど、心を掴まれます。さらに、そこに起業家自身の情熱が加わった時、「この人なら何かを成し遂げてくれそうだ」と惚れ込み、この起業家・事業を世に出すために支援しなければと感じるのだと思います。
―課題の設定とその解決策は、どうあるべきでしょうか?
三宅 俊毅
難易度が非常に高い課題に対して解決策を提示するのがスタートアップだと考えています。難易度がそれほど高くなければ容易に参入されてしまいますし、大規模に資本投下されてできるものは大手企業に敵いません。ですから、難易度の高さがまず必要条件となります。難易度の要素はいろいろな類型があると思います。例えば、複雑、抽象的、量が膨大、また、まだ科学的に解明されていないというようなこともあると思います。
一方、解決策で大事なのは、その解像度の高さです。それには、思考から仮説、検証というサイクルの回転数をいかに上げられるかが重要であると考えています。そのアクションによって解像度が高まると、その課題のこの部分を解決すればガラリと構造が変わるといったボトルネックを見出すことができ、新たな価値や市場を創出できると考えています。
―そうした課題の解決を「AIで行う」ことが、御社の投資の必要条件となりますか?
三宅 俊毅
AIの活用は検討材料の一つではありますが、あくまでAIは課題解決のツールだと考えています。ですから、その課題解決にAIを使ったほうが効率的であるなど、目的適合性が重要であると考えています。ただ、複雑なものや膨大なものを扱ったり、抽象的な事象を科学的に捉えるにはデータ活用が欠かせず、その文脈ではAIが強力なツールになり得ます。
重要なのは、AIから入るのではなく、課題から入るということ。例えば、AIを使った課題解決策のアイデアを持ち込んでもらえれば具体的なアドバイスができます。まだその課題に対して解決策が明確でなければ、メンタリングを通じてフィードバックもできると思います。
顧客候補や投資家、実証実験の提携先などの紹介を支援
―投資先へのサポートには、どのようなものがありますか?
三宅 俊毅
組織で行うものと、担当するキャピタリスト個人によるものがあります。
まず前者では、各種ネットワーク、人材獲得、知財、バックオフィス、海外市場へのアクセスなど、スタートアップが必要とするリソースを提供できます。顧客候補や他の投資家、専門家を紹介するなども、その一つですね。協業や実証実験のカウンターパートも、LPとして参画いただいているメガバンク様や事業会社様などを通じたネットワークがあります。
バックオフィスについては、当社のバックオフィスメンバーやKERNELのコミュニティマネージャーが中心となってアドバイスや支援を行います。また、DEEPCORE Family Support Packageとして、経理・法務・人事などの支援サービスやクラウドサービス、コミュニケーションツール、プログラミング学習ツールの割引など、便利に使えるパッケージがあります。
―そのなかで、要望が多いのは何でしょうか?
三宅 俊毅
顧客候補や投資家の紹介は求められますね。また、人材獲得や採用については、どのフェーズにおいてもニーズがあり、継続的かつ頻繁に相談される印象です。戦略的に採用施策を策定する必要がありますし、給与以外の魅力やインセンティブとなるものを考えたり、既存メンバーとのカルチャーフィットといった視点も重要になります。そうした具体的な支援を提供しています。
―キャピタリスト個人によるサポートは、どのようなものでしょうか?
三宅 俊毅
各々のバックグラウンドやネットワークによるもので、顧客候補や投資家の紹介もその一つですね。当社はキャピタリストが5名おり、ミドル/レイターステージのスタートアップ投資経験者や上場株投資経験者、エンジニア出身者、Z世代などのメンバーがいます。
私自身は、大手事業会社や金融機関、ITスタートアップなどの立場で、様々な角度から事業と資本市場の関係を見てきました。ですから、起業家と事業計画や資本政策のブラッシュアップを行う中でも、ヴィジョンや中長期の成長戦略といった高い視座を保ちつつ、足元の事業についても2~3歩先を照らし、リスクを減らせるような支援を意識しています。
また、私自身のスタートアップ経験で、IPOから上場後におけるガバナンスや事業など、社内の大きな変化を体感していますので、どのタイミングで何を意識し、どうアクションを取っていくのかなど、具体的にアドバイスができます。起業家や経営陣に求められる資質、組織のあり方も、ステージによって変わっていきますので、そうした目線でも2~3歩先を照らしていきたいですね。
事業の解像度UPが、ロジカル&メンタルの両面で魅力を向上させる
―今後のファンド運営の展望を教えてください。
三宅 俊毅
AIや周辺技術に引き続き投資していきます。その中で、いま注目されている生成系AIについては、むしろリサーチに基づき冷静に、その提供価値の中身を見極めるべきだと考えています。例えば、ChatGPTなどのLLM(大規模言語モデル)が民主化され誰もがツールとして使えるようになると、それをラッピングする程度のビジネスモデルでは競争優位性の構築は難しいでしょう。また、模倣が容易な事業では、大手企業が大規模に資本を投下すれば一瞬で市場を奪われてしまいます。だからこそ解像度が重要で、そのスタートアップ独自の技術やその活用法があり、解決すべき課題に沿った事業を構築できるような起業家を支援していくことが、ファンドのテーマだと考えています。
―最後に、起業や資金調達を考えている人へメッセージをお願いします。
三宅 俊毅
やはり重要なのは、思考から仮説、検証というサイクルの回転数を上げることです。誰もが思いをもって起業しようとしているわけですが、このサイクルを高速で回すことで解像度が上がればロジックがより緻密になり、起業家自身の情熱やモチベーションもさらに高まり、トータルとしてその起業家の説得力や魅力、「カッコよさ」につながると考えています。その出発点として、とにかく解像度を上げる努力をすること。技術を社会実装するには、近道も楽な道もありません。この努力を人よりどれだけ多くできるかが差別化につながり、同時に模倣困難性や参入障壁にもなります。そういう人をぜひ応援していきたいですね。大きな課題の解決に向けて、ぜひ一緒にチャレンジしましょう!
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。