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対談 2023.10.9

【品川区 森澤区長×五反田バレー 中村代表 対談 前編】品川区らしい支援でスタートアップの成長を後押し!

「誰もが生きがいを感じ、自分らしく暮らしていける品川」を目指し、2022年12月に就任した、森澤恭子 品川区長。2023年度予算より「保育・給食・医療 子育て3つの無償化」を所得制限なしに実施 するなど、区政に新しい風を吹き込んでいます。そして、実は森澤区長自身がベンチャー・スタートアップ企業での勤務を経験しているということで、五反田バレー 代表理事で、自らもスタートアップを共同創業している中村岳人さんとの対談が実現しました。まず前編では、ベンチャー企業やスタートアップとの関わりを中心に、お二人の経歴のご紹介から、これまでの品川区×五反田バレーの連携、今後の展望についてお届けします。

 

社会課題の解決という創業者のビジョンに惹かれ、ベンチャーを経験

森澤区長はテレビ局出身、都議出身のイメージがあったのですが、ベンチャー企業も経験されているそうですね。

中村 岳人

森澤区長

2002年に新卒でテレビ局に入社し、約4年間の報道記者生活の後に、ベンチャー企業をいくつか経験しています。最初は女性のネットワークを活用したマーケティング会社に、女性起業家の社長(当時)に憧れて入社し、中小企業のPRコンサルタントとして働いていました。

その後はデベロッパーで広報を担当し、夫の都合によるシンガポールでの滞在を経て、IPO間近のウエディング系マーケティング会社 で広報を担当しました。また、創業期のキャリア女性向け転職サービス会社 で法人営業に従事し、スタートアップの採用支援で直接経営者と接する機会もありました。

創業期やIPO直前など、さまざまなフェーズを体感されているのですね。

中村 岳人

森澤区長

そうなんです。どの会社も、ビジョンに共感して入社しました。スタートアップというのは社会課題の解決など、ビジョンを創業者が明確に打ち立てていて、それが魅力でした。中村さんは、最初からベンチャーだったのですか?

2012年に新卒で人材系ベンチャーに入社し、営業を4~5年やったところで、もっと創業間もない環境を求めて転職しました。それが、恵比寿から五反田に移転してきたマツリカというスタートアップで、まだ社員は10人以内でした。そこで営業と広報を兼務するなかで、freee(フリー)やセーフィーなど、五反田にあるスタートアップ同士で交流が始まります。

やがてメディアで、起業しやすい街として「五反田バレー」と言われ始めたので、一時のブームに終わらせないよう、2018年7月に一般社団法人五反田バレーを立ち上げます。それに先立ち、品川区に働きかけて連携協定を締結しました。

中村 岳人

森澤区長

「五反田地域をスタートアップの集積地として認知度を高め、さらなる企業集積を図るとともに、参画企業によるビジネスやサービスで地域社会の課題解決を図り、地域の活性化につなげよう」という内容ですね。

そのとおりです。私自身は五反田バレーの代表理事を務めながら、その後、五反田にある別のスタートアップPathee(パシー)に転職してカスタマーサクセスと新サービスの立ち上げを担いました。その後2021年11月にHiway(ハイウェイ)というスタートアップを、前職の同僚と共同創業しました。

中村 岳人

 

品川区との連携で、地域にも貢献してきた五反田バレー

森澤区長

五反田バレーの集積について伺いたいのですが、もともと、起業するために手頃な物件が多かったことから、スタートアップが集まりやすかったという経緯があるのですよね。

そうですね。山手線沿線で予算に見合うところを探して、五反田で起業あるいは移転してきたスタートアップが多いです。新幹線や飛行機にもアクセスしやすいので出張に便利なのもメリットですね。また、暮らしやすい住宅街も近いので、社員にも良い。だからスタートアップが自然と集まり始めたのが最初です。

中村 岳人

森澤区長

実際、五反田バレーではどのような活動をされていますか?

地域に点在していた交流を束ね、コミュニティ活動を活発化させています。コロナ禍で活動内容がオフラインからオンラインに広がったり、オフィスの考え方にも変化はありましたが、つながりはより強化していきたいですね。

品川区とはビジネスマッチングなどの交流イベントや、エンジニア確保のための採用イベントを共催したり、区立の日野学園で中学生にスタートアップの仕事を紹介する「ドリームジョブツアー」 などに協力したりしてきました。また、地元の商店街や企業との連携や実証実験の実施についても品川区の協力を得ています。

このような五反田バレーの活動について、区長はどのようにお考えですか?

中村 岳人

森澤区長

そのように勢いがあり、新しいことをやっていこうという企業が集まっている現状を踏まえ、品川区としても盛り上げていきたいと強く思います。人々のライフスタイルや価値観の多様化に伴い、社会や地域の課題は複雑化していて、行政だけで解決するのは難しい時代を迎えています。

こうした中にあるからこそ、さまざまな技術やアイデアをお持ちのスタートアップの皆さんとともに、連携して進めていきたいですね。また、新しいイノベーションが生まれていくための支援や投資をどうすればできるか、ぜひ一緒に議論し、作っていければと考えています。

 

創業期スタートアップの実績づくりを行政としてサポート

ぜひ、品川区と五反田バレーが今後一緒にできることを考えていきたいです。しかし、その一方で、スタートアップの集積や盛り上げに関しては、行政に頼りすぎてはいけない気もしています。

中村 岳人

森澤区長

そうですね。民間が動きを活性化するためのハブになるなど、行政にしかできない役割があると思います。

自治体の目線でスタートアップ支援を考えてしまうと、実はスタートアップ側が本当に求めていることとギャップが起こり得るかもしれません。区長は、スタートアップ支援において自治体のできることについて、どう考えておられますか?

中村 岳人

森澤区長

特に創業期のスタートアップは実績が少ないなどの課題を抱える中で、行政との連携がそのきっかけとなり得るでしょう。ですから、五反田バレーで地域課題や行政課題に対して、実証の場を提供するなど、一緒に取り組んでみるといった動きは必要なのではないかと思います。

一方で、今の法律や条例の関係でできないことがでてきたときに、「どうやったらできるか」を一緒に考える。その上で、時に、規制緩和を検討したり、国などへの働きかけも必要かもしれません。スタートアップの意欲的な取り組みに対して、ある種のお墨付きをもって後押しするのが良いのではないでしょうか。

それは大変ありがたいですね。五反田バレーでもコロナ禍のときに品川区に間に入ってもらい、地元商店街にスタートアップのサービスなどを提供支援させてもらいましたが、その際にも感じたのは、自分たちが思っているほど知られていないということです。

たとえば、SmartHRはスタートアップの世界では超優良なスター企業ですが、地元の友人に話しても知らなかったりする。SanSanでようやく知られているくらいでした。そう考えると商店街の方たちには、私たちは未知の存在でしょう。ですから、行政の橋渡しがありがたいと実感しました。

中村 岳人

森澤区長

そうですね。そのように行政がハブやコーディネーター役を担うことで、民間との壁をより無くすことができるかもしれません。さらに言えば、人事交流の活用等もあり得るでしょう。スタートアップに限りませんが、民間人材と行政がどれだけ交流し、混ざり合うことができるかが大事な時代だと思います。その結果、お互いの組織風土や仕事の進め方なども理解し、連携がしやすくなるのではないでしょうか。

 

行政と一緒に社会課題の解決を目指せる仕組みを構築

なるほど。そうやって連携やコミュニケーションを密にしていきたいですね。そのほかに、区とスタートアップで一緒に取り組めそうなことはありますか?

中村 岳人

森澤区長

例えば、東京都では、行政課題を具体的に提示し、事業者に解決案を求めるといったことをやっていました。それに倣い品川区でも、例えば、福祉分野でのデジタル化といった課題やニーズを行政側から提示し、スタートアップからその解決策を提案してもらいマッチングするといったことができれば良いですね。

いいですね! スタートアップ側からはどう声を上げればよいか分からなかったりしますので、ピッチなどの場を設けてみてはどうでしょうか。もちろん提案内容が採用されることも大事ですが、そもそも互いの考えをすり合わせることにも意義があります。

中村 岳人

森澤区長

そうですね。行政としても、こういう技術やシステム、方策があると分かっていれば、何かの機会にすぐ活用を考えられそうです。面白い取組だと思いますし、そうやって品川区に、行政と一緒に社会課題の解決を目指せる仕組みができれば、スタートアップにとってますます魅力になるでしょう。

地方におけるスタートアップ支援策ではそのように、社会課題への取り組みを先取りし、自分たちでその実験を推進しようという例がありますが、23区ではそのアプローチはあまりないように感じます。もちろん助成金制度など、資金面の支援や手続に関する支援もありがたいですが、さらに品川区の特色が出せると面白いですね。

中村 岳人

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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