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対談 2023.10.9

【品川区 森澤区長×五反田バレー 中村代表 対談 後編】スタートアップの挑戦に寄り添う五反田バレーの魅力とは!?

ベンチャー・スタートアップ企業での勤務を、創業期やIPO直前など、さまざまなフェーズで経験されている森澤恭子 品川区長。2022年12月の就任以来、「誰もが生きがいを感じ、自分らしく暮らしていける品川」を目指し、精力的に区政を推し進めています。五反田バレー 代表理事で、自らもスタートアップを共同創業している中村岳人さんとの対談の後編では、子どもたちや女性に向けた起業推進策や、政治と起業の共通点、五反田バレーのアセットを活かしたスタートアップ支援についてお届けします。

子どもたちに早期から「起業」を選択肢の1つとして知らせる

森澤区長

現在、品川区では4つの重点施策の1つに「歴史と伝統を未来へつなぐまちづくり 経済と環境が両立するSDGs しながわ」を掲げ、推進していこうとしています。そうした環境面の整備や持続可能な社会づくりに取り組む中で、スタートアップの皆さんとも一緒に課題解決に取り組めると良いですね。

例えば、子どもたちに起業することの意義などについて話していただければ、起業家教育のきっかけになるでしょう。

一部学校と連携を行っていますが、企業を中心にして広めていくような動きはまだないですね。

中村 岳人

森澤区長

ある子育て支援団体が行ったフリーマーケットが面白かったのですが、子ども自身の手作りや自分で考えたサービスで出店するというイベントだったのです。すると子どもたちによる出店希望が想定より多く、団体の方も「品川区の子どもたちはクリエイティブな意欲が旺盛だ」といったことをおっしゃっていました。

そのような活動が、スタートアップとつながれば面白いですね。子どもたちの発想が広がるし、起業自体が身近に感じられると思います。

たしかに、自分のこととして考えやすくなりそうですね。実際、起業するための環境は整ってきていて、1回目の資金調達でも1億円規模の投資額が集まることも珍しくなく、数年前からすると倍の規模になっている感覚です。自分のアイデアを実現するのは、意外に少ないリスクでできるものなのだと、小さいうちから知ってもらいたいですね。

中村 岳人

森澤区長

そうですね。政府もスタートアップや起業を増やすとしています。子どもの頃からそうした選択肢があることについて、身近で知ることは大事ですね。

私は、仕事や税金などの仕組みについて、高校や大学よりも前の、もっと頭が柔軟な段階で聞きたかったと思っています。

中村 岳人

森澤区長

今の子どもたちは社会課題への意識が高いと感じます。私の子どもも今、区立の小学校に通っていますが、授業で会社をつくり、優良企業に認定されるためのプレゼンテーションなどをしていました。そうした経験から自分の将来をイメージできれば、企業に勤めるだけでない、多様な選択肢を検討できるでしょう。そういうことが将来、日本を活性化させていくシーズになるのだと思います。

 

女性の起業も、スモールビジネスからスケールアップに意識改革を

まさにそうですね。ところで区長は、女性の起業についてはどうお考えですか?

中村 岳人

森澤区長

私は女性の起業がもっと増えていったら良いと思っています。品川区では5つある創業支援センターのうち、武蔵小山で女性の創業支援に力を入れていて、そこで実際創業しているのはスモールビジネスが多いのですが、今年初めてスケールアップを支援するプログラムを開催して好評でした。

そもそも、男性起業家はイグジットを目指して、会社をいかに大きくしていくかを考える人が多いのに対し、女性起業家の場合は自分の身の回りで考えやすいといいます。もちろんそれも十分すばらしいことですが、スケールすることでより多くの人に価値を提供できるという価値観や考え方を、女性ももっと持っても良いかもしれません。

森澤区長ご自身は、もともと起業や経営に興味があったのですか?

中村 岳人

森澤区長

それはありましたね。最初にベンチャーに入った時は、自分でも起業してみたい気持ちがあったのです。しかし、私の場合は、社会課題を解決するために、ビジネスよりも政治が、その選択肢となりました。政治で制度や仕組みを変えるという方向に行ったわけです。ですから、スタート地点の、社会に課題を感じたり、今ないものを作るというのは、起業家の感覚に近いと思いますね。

確かに区長というのは株式会社品川の経営者であり、区民が株主のようなものかもしれません。

中村 岳人

森澤区長

都議から区長になって、そうした部分も感じますね。ですから、「区民の幸福(しあわせ)」を実現するために、どのように予算を配分するか、職員を適材適所に配置していくかなど、区の運営にも経営者目線が必要だと思います。

いま、品川区役所の組織文化はどのようですか?

中村 岳人

森澤区長

新しいアイデアを実行したり、民間の人たちと一緒に連携し課題を解決していくような志向を育てていくのが、これからの区政には重要と感じていますが、さらに重要なのはスピード感ですね。社会の変化が速いので、今までどおり単年度でというよりはスピーディな感覚がより求められると思います。

あるいはもっと区役所の外に出ていって、例えば、街のニーズを聞き、それに対し、行政の枠組みだけで解決を図るのでなく、スタートアップや地域の方々を巻き込んでいく。そのようなカルチャーを醸成していきたいと考えています。

区長は施政方針演説でドラッカーの「まず何よりも、変化を脅威ではなく機会としてとらえなければならない」という言葉を引いておられましたね。

中村 岳人

森澤区長

そうですね。変化に対してスタートアップは、ITの考え方でアジャイルなど、走りながら修正していくような動きを身に付けられています。行政でも法律や条例に則るのは大前提としつつ、そういった柔軟性もどんどん取り入れていきたいですね。

プレシードからの伴走支援で、スタートアップの挑戦に寄り添う

もっと起業に挑戦しやすく、前向きになってもらうために、区として何か考えておられますか?

中村 岳人

森澤区長

すでに品川区で創業支援は行っていますが、さらにメンターやコーチなどの体制で後押しや伴走をするような支援が大事だと考えています。たとえば、福岡市では市内中心部の小学校跡地を活用して「FGN(Fukuoka Growth Next)」という官民共働型の創業支援施設をつくり、プレシードからアーリーステージのスタートアップ入居者に寄り添って、事業構築からプロダクトのブラッシュアップ、資金政策、さらなる事業拡大などを指導・サポートしています。

そのように起業家を育て、足りないものがあれば紹介し、つないでいくといった伴走型のサポートやメンタリングがあれば、起業に挑戦しやすいのではないでしょうか。

私自身の経験から思うのは、起業が周りでどれだけ身近なものかが重要だということです。新卒で入社した会社では、自分で起業しようという人はいませんでしたが、マツリカという五反田のスタートアップで仕事する中で、周りのスタートアップの人や経営者と接するうちに、「自分事」として感じられるようになったのです。

ですから、今言われたメンターとか、行政が行う創業支援プログラムなどを通じて、起業の実体験やリアルに触れられると、良いきっかけになりそうだと思いました。

中村 岳人

「起業1年目でもいろいろ試せる街」として、五反田バレーの魅力を向上

先ほど、政治の世界に入ることと起業は、社会課題を解決したいという意味で近いという話がありましたが、森澤区長ご自身は何がきっかけで、政治の世界に入られたのですか?

中村 岳人

森澤区長

民間で仕事をしていた時に、女性や子育て世代の声が政治に届いていないという危機感や課題意識を持つようになり、チャレンジを決めました。その際、最初の会社の同期に相談したところ、私の性分を見た上で「(チャレンジしても)失うものはないじゃない」と背中を押されたのが大きかったです。政治家に向いているかどうかはその時点ではわかりませんでしたが、「とにかく一歩踏み出してみる」という後押しは重要でしたね。

新しく飛び込むには、まさにメンターが必要だったわけですね。

中村 岳人

森澤区長

そう考えると、起業についてもサポートや刺激し合えるコミュニティがすでに五反田にはあるというのは大きいと思います。

確かに五反田バレーは、もともと小さなスタートアップが協力し合ったところから始まった一方で、freeeなど、上場を果たした先輩スタートアップも多数あります。さらに地域の大手企業やVC、もちろん行政ともつながって、大きなエコシステムができつつあります。

その輪をさらに広げ、深めることを品川区と一緒にやっていければ起業自体を増やせ、地域にもそのエネルギーが波及して、区全体の盛り上げにつなげられるでしょう。一緒にできることをまずは具体的に落とし込み、タスクとして取り組んでいきましょう。

中村 岳人

森澤区長

そのとおりですね。品川区には、他の地域にはない魅力やポテンシャルが大いにあると感じています。女性や子育て世代も含め、若いエネルギーで一緒に地域を盛り上げていきましょう。

商店街とのコラボレーションや、区の行政課題に向けた提案活動など、五反田バレーで品川区らしい特色を出していきたいですね。起業1年目でもやりたいことがいろいろ試せる街となれば、また新しい人たちもどんどん加わってもらえると思います。そういう仕組みをぜひ一緒に作っていきましょう。

中村 岳人

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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