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インタビュー 2023.12.27

メガバンクの支援は資金面だけではない⁉ SMBCが全力で取り組むスタートアップ支援の中身と、事業面からのサポートも行う『未来X(mirai cross)』について、その実態を聞いてみた

メガバンクの中でも、スタートアップ支援やオープンイノベーション創出の取り組みに積極的な株式会社三井住友銀行(以下、SMBC)。「五反田バレーアクセラレーションプログラム2023」の連携パートナーにも名を連ねています。そこで、同行がスタートアップ支援や連携に取り組む背景や具体的な支援体制、その際に大切にしている点などを、成長事業開発部企画開発グループ上席推進役の滑川広治さん、同部長代理の木原梓さん、デジタル戦略部の中川佳樹さんに聞きました。

 

「日本の再成長」を目指し、イノベーション創出を積極化

 

―本日は渋谷にある、SMBCグループのオープンイノベーション拠点「hoops link tokyo」に伺っています。ここはどのように運営されているのですか?

中川 佳樹

SMBCグループが新規事業を行っていくうえでのオープンイノベーションのための情報収集機関という位置づけで、テクノロジーを通した連携を図る意味でデジタル戦略部が運営しています。スタートアップの起業家や大企業の新規事業開発担当などの会員が約600名います。昼間はワーキングスペースとして会員間のコミュニケーションもでき、夕方以降はイベント会場として貸し出しています。

また、コミュニティの活性化のため、週2回のコーヒータイムや月1回の交流会を開催しています。会員には、新規事業を本気で産み出したいというパッションを求めていますので、大企業の方も個人単位で参加して頂いています。

―では、SMBCのスタートアップ支援の取り組みについて教えてください。

木原 梓

SMBCでは2023年度からの中期経営計画における重点課題の1つに「日本の再成長」を掲げ、イノベーション創出・新たな産業の育成を打ち出しており、スタートアップ支援策を資金調達と事業開発の2軸を強化しています。

今年度よりスタートアップの担当役員になった専務の磯和自らも、半年で100社以上のスタートアップに会い、リアルな声を集めながらスタートアップのご支援・事業開発を行っています。また、スタートアップ支援に特化している成長事業開発部に法人営業部との兼務者を置いて、アプローチしていく体制も強化しており、体制面も特にこの半年で大きく拡充しました。

―資金調達での新たな取り組みはどのようなものですか?

木原 梓

2022年度からスタートアップに対する融資も力を入れており、2023年度からはスタートアップの経営陣や事業性に着目した評価モデルを使った融資もスタートさせました。また、新株予約権付シンジケートローン等を活用し、レイターステージ向けの大型デット支援にも注力しています。エクイティファイナンスでは、従来から行うLP出資に加え、レイター期向けの「グロースファンド」で、特に後者では日本発ユニコーンの創出を目指しています。

―スタートアップへの資金面での支援を一層強化しているのですね。

木原 梓

はい、日本の再成長の為には、銀行の本業として取り組むべきことであるとして、注力をしています。

 

スタートアップの事業エクスパンションのポテンシャルを言語化したシートで、協業を促進

 

―未来X(mirai cross)について教えていただけませんか。

木原 梓

2021年8月より「未来X(mirai cross)」というプログラムで、大企業とスタートアップとの連携を推進しています。もともと2015年から取り組んできたスタートアップ向けのアクセラレーションプログラムを拡充し、さらに事業会社からニーズを聞いて協業や事業創出を推進するプラットフォームとして、各種セミナーやイベントも開催しています。

―どのような方が活動しているのですか?

木原 梓

スタートアップを中心にさまざまなエコシステムのプレイヤーが連携できるようにしています。

スタートアップ・起業家・事業会社で約2000人、事業会社パートナー₍有料₎は多業種に亘る約20社に参加いただいています。そのほか30社以上のVCが講師や審査員として参画、加えて約70の政府・地方公共団体、大学などと連携して、地方での協業推進も図っています。

また、事業会社パートナー向けイベントとして、スタートアップ3~4社のピッチおよび交流会を四半期ごとに開催しています。その際、各社のCVCには投資先をお連れいただき、他の事業者とのマッチング機会を提供しています。

―アクセラレーションプログラムはどのようなものですか?

木原 梓

日本の将来を支える技術・ビジネスモデルを持つシード/アーリー期のスタートアップを全国から募集し、研修やメンタリングを経て、審査を通過した31社が最終ピッチを行い、総額1,000万円のGAPグラント賞などを授与しています。

一次チェックを通過したスタートアップが研修やメンタリングに参加できるのが特徴で、今年は88社に参加頂きました。 「志・リーダーシップ」「グローバル」「ESG」等をテーマに約1ヶ月間、夕方の2時間を使った集中スケジュールで、参加者を6~8名のチームに分けて開催し、横のつながりができる体制としました。

さらに、最終審査会に登壇する31社と共に、事業内容やバリューアップに向けて狙う市場を明記した「XIS:X Innovation Sheet」を作成しています。XISをピッチイベントの際に配布することで、事業会社が協業のイメージを具体化し、実際に協業に至ることを期待しています。

―その他、スタートアップと大手企業の協業を推進する仕組みはありますか?

木原 梓

事業会社パートナーおよびSMBCグループが言語化した協業テーマに対し、アーリー期以降のスタートアップにエントリーしてもらう「協業サポートプログラム」があります。言語化された内容にマッチしそうなスタートアップをSMBCの行員が事業会社パートナーに紹介する他、専任のコンシェルジェがついて、協業を具体的に進められるようサポートします。この取り組みは開始して3年目になり、実際に資本業務提携や実証実験、サービス導入などを行った事例が出てきています。

―現在注目している領域を教えてください。

滑川 広治

SMBCとして、宇宙とロボティクスには専任で担当者をつけ、知見を広げていこうとしています。個人的に最も興味があるのは、宇宙船ですね。自動車では一台製造するのに2~3万個の部品を使うように、宇宙船では更に部品数が必要となり、日本の製造業の裾野の広さを活かせて日本経済の発展に大きく営業するからです。

木原 梓

私は、大学発スタートアップにポテンシャルを感じます。海外では大学に資金が供給され、大学発スタートアップが知財を活用して事業化していくのが当たり前ですが、国内ではアカデミアとビジネスサイドにまだ距離感があります。そこで眠っている技術や研究成果を社会実装するような支援をSMBCで行いたいです。個人的には、ヘルスケア領域に関心があります。日本の膨大な社会保障費や少子高齢化という課題を何とかしたいですね。

中川 佳樹

私が興味のあるのはエンタメ業界です。メタバース空間に人を集め、新たな経済を生み出すには、その空間の中を楽しくすることがカギになるでしょう。その意味でエンタメに期待をしています。付加価値をつける仕掛けなど、工夫の余地がまだまだあると考えています。

―最後に、この記事をご覧の方にメッセージをお願いします。

滑川 広治

スタートアップの企業価値を伸ばすために、メガバンクができることは多々あると実感しています。たとえば、起業家は「どの業種のどの事業会社で売上をあげていこうか」と考える際に、自身の経験値から対象となる業種を考えていますが、メガバンクの担当は数多くの業種を担当する経験から、起業家が想定していなかった業種のアイデアを出せることが数多くあります。起業家からアイデアを聞いたときにそのアイデアがどこの業種で展開していけるのかその可能性がいくつも思い浮かぶのです。

 

実際、SMBCではビジネスマッチングをオンライン/オフライン含め、年間約3万件実施しています。既に当行のDNAとなっていますが、若手(初めて法人を担当した時)は、自分が担当するお客様の事業理解を深めると同時に、ビジネスマッチングを皆が10件20件と別の会社と引き合わせることをしてきました。そうして育った若手がいまは課長クラスになっているのです。銀行全体でここまでビジネスマッチングを実行しているのは、他にはないでしょう。マッチングというのは数を重ねるほど、勘どころが良くなり、精度が高くなってくるのです。ですからSMBCにはこういう視点からもぜひ期待いただきたいですね。

木原 梓

銀行はもともとお金を融通する「金融」で人々のチャレンジを支援してきました。今の時代はお金だけでなく、人的ネットワークなど、あらゆる物事を全て融通していく「全融」という考え方が大事だと思っています。SMBCが間に入ることで、チャレンジのエネルギーを最大化させたいですね。

―ありがとうございました。


今年度のアクセラレーションプログラムの最終審査会 参加者募集中!
日時:2024年1月17日(水)9時00分~18時00分頃(予定)
場所:SMBC本店3階大ホール(大手町駅直結)/オンライン配信有り
参加費:無料
参加方法:下記URLより事前にお申込みください。
最終審査会 申込フォームはこちら
パンフレット:当日のタイムスケジュール案はこちらをご確認下さい。
最終審査会 タイムスケジュール案はこちら
(未来X(mirai cross)公式HP https://mirai-cross.ventures/

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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