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インタビュー 2024.7.29

シリーズ売上25万部超の『起業の科学』に基づく知見・ノウハウを惜しみなく提供する株式会社ユニコーンファーム 田所 雅之代表に、その支援の中身を聞いてみた。

日本のスタートアップ界隈のバイブルといわれる『起業の科学』の著者である田所雅之さんが2017年に設立し、代表取締役CEOを務める株式会社ユニコーンファーム。「イノベーションを起こすための新産業を創造するエンジンになる」というミッションを掲げて、日本のスタートアップの成長支援や大企業のイノベーション、新規事業支援などを行っています。その支援の特徴や内容、注目している領域などを田所さんに聞きました。

 

(プロフィール)

田所 雅之さん 株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
これまで日本と米国シリコンバレーで合計5社を起業してきたシリアルアントレプレナー。シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。現在は、株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEOとして国内外のスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、事業創造会社のブルーマリンパートナーズの社外取締役も務める。累計25万部以上を売り上げた『起業の科学』の著者である。

 

PMFに向けた伴走支援で、起業の失敗を潰して成功に導く

 

―まず、ユニコーンファームの活動について教えてください。

田所 雅之

2017年に立ち上げて、主にイノベーションを起こすための新産業を創造するエンジンになるというミッションを掲げ、日本のスタートアップの成長支援や大企業のイノベーション、新規事業支援を行っています。
特にスタートアップに対しては、起業の失敗を潰して成功へ導くために、シード/シリーズAフェーズのPMF(Product Market Fit)に向けて、再現性の高いメソッドに基づき伴走してメンタリングを行います。また、登録会員制のコミュニティとして、定期的に私がメンタリングを行う「スタートアップ経営者塾」と、解説動画で気軽にスタートアップについて学べる「スタラボ!」も運営。
そのほか、支援者やメンターなどにも役立つ、起業家の右腕となって支える起業参謀を養成する「スタートアップアドバイザーアカデミー」や、イノベーションを生み出す思考法を学ぶ入門プログラム「スタートアップ大学」を開講しています。

―スタートアップのPMFに向けた支援は、どのようなものですか?

田所 雅之

ベースになっているのは、2017年に上梓した『起業の科学』です。5ヶ国語に翻訳され、シリーズで25万部売れています。私自身がシリコンバレーでベンチャー投資をし、起業もした経験をふまえて体系化し、まとめたものですが、それまでは英語圏でもここまで網羅的にPMFのステップを書いたコンテンツや書籍はありませんでした。日本でPMFという言葉が浸透したのはおそらく本書があったから、ともいわれています。
起業家の多くは初めての起業であるため、PMFの解像度が高くはありません。そこで『起業の科学』では、起業家がカスタマーから熱烈に愛されるプロダクトを生み出し、スケールできるようになるまでの考え方を20ステップで整理しました。その内容を伴走支援して、自身で再現できるようにしていきます。そのほか、資金調達や採用については実行支援を行うこともあります。

―支援実績はどのくらいありますか?

田所 雅之

スタートアップに関しては、年間300社はメンタリングしてきましたので、2017年からの7年で2000社くらいにはなっているでしょう。本格的にコミットして支援したのは、100社程度かと思われます。大手企業についても、濃淡はありますが、100社弱を支援してきました。

「起業参謀」として、マクロからミクロまで5つの視点を行き来する

 

―支援を行う上で大切にしているポイントを教えてください。

 

田所 雅之

スタートアップに対する支援は、MBAの知識などによる一般的なコンサルティングとは異なります。野球とサッカーのように全くゲームが別物なので、スタートアップならではの型は意識していますね。
起業参謀に必要なのは、「鳥の眼」「虫の眼」「魚の眼」「医者の眼」「人(伴走者)の眼」というマクロやミクロの5つの視点を行き来しながら、起業家の視座を広げたり整理したりしてメンタリングを行っていくことです。そのあたりは、2024年1月に上梓した『「起業参謀」の戦略書』にまとめています。

―そのように体系化されたメソッドは書籍になっていますが、ユニコーンファームで直接接点を持って支援される場合のメリットは何でしょうか?

田所 雅之

直接の支援では、体系化されたメソッドをコンテンツ・動画などで提供するのに加え、実践を重視しています。フレームワークによるエクササイズやワークショップなどにより、実際に実践を行って身につけてもらうのです。
また、スタートアップをスケールさせていくには高い熱量が不可欠です。そのため、起業家が内発的に熱量を高めていけるようなネットワーキングやコミュニティづくりといった仕組みや仕掛けを作っています。大企業の新規事業開発担当者などをネットワーク化して、スタートアップとの連携につながるようなことも始めています。

―御社の支援活動における今後の展望を教えてください。

田所 雅之

日本の生産人口減少をふまえ、グローバルでの活動を考えています。日本のスタートアップのグローバル展開を支援することと、海外から日本に来るスタートアップを支援することの両方ですね。当社のコンテンツは世界に通用する普遍的なものですので、英語化しはじめているところです。

「日本ならではのコンテンツ×海外発のテクノロジー」に注目

 

―長年スタートアップを取り巻く環境を見てきて、この1~2年の状況はどのようにご覧になっていますか?

田所 雅之

2021年はある意味バグっていて、時価総額を年間売上で割って算出する株価売上高倍率(PSR)が高すぎ、実質が伴っていないスタートアップが増えてしまいました。実際、IPO後の株価パフォーマンスがよくないなど、コロナバブルでいったん資金調達はできたが、今はゾンビ手前になっているようなケースが多くなっています。ですから、勝ち組・負け組がはっきりしていますね。スタートアップがスケールするにはもちろんPMFが大事ですが、それは最終目的ではなく、勝ち続ける仕組みを作る必要があるのです。

―起業を考えるときに勝ち筋といえそうな、注目の業界や領域があれば教えてください。

田所 雅之

最近で大型の調達をした例に、調理ロボットのTechMagicや次世代植物工場のOishii Farmなどがあります。共通しているのは、現場オペレーションの優秀さや日本産農作物のクオリティの高さといった、日本の優良なコンテンツと、海外発のテクノロジーを掛け合わせている点です。グローバルで勝てる、日本ならではの美意識といった強みを活かせるとよいのではないでしょうか。

―最後に、起業や資金調達を考えている人へメッセージをお願いします。

田所 雅之

今は国を挙げてスタートアップ支援に取り組まれているタイミングで、大変優遇されているので、起業するなら今です。
優遇というのはたとえば、日本政策金融公庫がスタートアップ向け融資限度額を7200万円に拡大したこと。また、国のスタートアップ育成5カ年計画においても、ストックオプションの環境整備(注1)や未上場株取引の環境整備(注2)やエンジェルによる投資促進(注3)などのための法整備が着々と進められています。東京都でも、多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(注4)が進んでおり、大変起業しやすい環境となっています。
また、起業してうまく行かなかった場合にも、チャレンジしたことが評価され、社会に受け入れられやすくなっています。実際、事業会社のCVCやオープンイノベーション担当、新規事業開発担当などへ転身した例も増えています。
そのように、起業というのは価値あるチャレンジで、生きがいになり得るものです。当社でもノウハウを惜しみなく提供していますので、ぜひチャレンジしてほしいです。


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(注1)会社法制上の措置の見直しや税制適格ストックオプションの制度見直しを実施。また、未上場会社の株価算定ルールの策定によりスタートアップがストックオプションを導入しやすい環境を整備した。
(注2)スタートアップが未上場のまま成長できるよう、プロ投資家向けの非上場株式の取り扱いを可能とするための金融商品取引法の関係政令を改正。また、セカンダリー市場でのオンライン取引が規制緩和された。
(注3)保有する株式を売却してスタートアップに再投資する場合の優遇税制を活用し、創業者など個人からスタートアップへの資金供給を促進。
(注4)Tokyo SUTEAM事業として、都と協働してスタートアップを支援する事業者、最大50者に最大5000万円、重点分野には最大1億円の協定金を付与。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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