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インタビュー 2020.12.16

SHIPに本社を構える、気鋭の女性IT起業家/経営者に、品川区から発信するトーク分析ビジネスと、全国からのリモートワーク体制について聞いてみた

「技術の力で、思考バイアスなき社会を。」というビジョンのもと、2013年に品川区で創業した、コグニティ株式会社。AIでトークを見える化する「UpSighter」を開発し、セールストークやプレゼンテーション、人事面談など、コミュニケーションを定量評価する解析サービスを提供してきました。

そうして創業7年を迎えた同社はコロナ禍のなか、新たな企業ニーズに応えて新サービスを展開。また、2020年7月22日には「SHIP品川産業支援交流施設」内に本社を移転しています。その移転の経緯やきっかけ、SHIPに期待していることなどを、今後の事業展開と合わせ、代表取締役の河野理愛さんに聞きました。

(プロフィール)

河野 理愛さん コグニティ株式会社 代表取締役

1982年生まれ、徳島県出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中の2001年にNPO法人を設立、代表として経営を行う。2005年にソニー株式会社入社、カメラ事業を中心に、経営戦略・商品企画に従事。2011年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。2013年コグニティ株式会社を設立。

 

独自のAI技術に、工場生産手法も交えて生み出す「トークの見える化」

 

―コグニティとは、どういう会社なのですか?

河野

2013年創業のベンチャー企業で、独自のAI技術であるCogStructureを使ったサービスで、営業などのトークの良いところ・悪いところを数字で示してレポートをあげるなどしています。

―AIでトークを分析して、営業や人事・採用場面に活かすということですね。

河野

ざっくりとはそうなのですが、AIの機械学習などの力にのみ頼っていないのが特徴です。そもそも私たちが発明した技術というのは、最近流行っているディープラーニングなど、AIの情報処理能力を活かした領域のものではなく、1980~87年あたりの第2次AIブームの頃に注目された、知識表現という領域なんですね。

簡単に言うと、トーク内容を構造的に図解します。そのデータも蓄積されているので、たとえば、営業トークであれば本当はここでもうひと言添えたほうが、その後の誘導がスムーズだったとか、この話題転換は余計だったという評価ができるのです。

―それはすごいですね。具体的には、どのような工程を踏むのですか?

河野

動画や音声をアップロードしていただいたら、それをテキストにして、さらにそれを図にします。その先はAIによる自動計算で図解とレポート作成がほぼ自動化されていますが、ポイントとなるのは最初の2回の変換です。日本語のテキスト化はAIではまだ精度が足りませんし、図に変える部分も実は、機械学習と手作業の組合せとなっています。

この人海戦術の進め方が当社の特徴なのですが、たとえば意味の変わり目で線を引く段落分けや、文章の内容が事例なのか提案なのかを分類をするなど、作業ごとに担当者をつけて、リレー形式の分業体制を構築しているのです。そのイメージは「工場生産」。ですから製造業の工場のように、現場がカイゼンを重ね、効率化や省力化を続けています。

―IT企業なのに、いわゆるシステム開発のようなことだけでなく、製造業的なものづくりとのハイブリッドでサービスを提供されているのですね。

河野

工場生産部分は、当初は全て人の手によっていたのが、今では数工程は自動化され、機械学習も入っています。ですが、まだ人が携わる必要があるところがあるので、全国津々浦々にワーカーがいて、データチェックをしているという体制です。

全国各地で184名の仲間が、自由度高くリモートワーク

 

―2020年7月に本社をSHIPに移転されましたが、現在のオフィス体制について、教えてください。

河野

2020年8月現在で社員は184名、オフィスは東京・大崎のSHIPのほか、徳島県にサテライトオフィスがあります。徳島は私の出身地で、自治体や地元メディアに採用面でご協力をいただいたこともあり、現在34名が働く一大拠点となっています。その徳島県を含め、36の道府県にワーカーがおります。創業時からリモートワークを基本としてきたので、コロナ禍でも影響はありませんでした。

地方で多くのワーカーが活躍してもらえるのは、分業的に業務を切り分けやすいのと、もともと事務系の仕事が少ない地方では求人が喜ばれるんですね。また、いろんな仕事がある首都圏では離職率も高くなりがちですが、地方だと雇用が安定しやすいので当社としても地方で積極的に採用を行ってきました。

―従業員の方の働き方には、何か特徴がありますか?

河野

リモートワークが基本というのに加え、コアタイムなしのスーパーフレックス制度を導入しています。働いてよい時間帯は朝5時~夜10時までと広くとっており、その中でフルタイム雇用であれば7時間を、時短勤務であればその就業時間分を、自分の都合やタイミングに合わせて使ってもらいます。

そのように自由度の高い在宅ワークが可能なので、子育てや介護、持病による療養中のワーカーが半数以上を占めています。女性が8割以上となっていますが、これは特に女性の雇用を意識したわけではありません。それでも、制約の多いフルタイムでは仕事を見つけるのが難しいけれど、当社のワークシェアリングのようなスタイルであれば働けると、諦めないでよかったという声は多いですね。

―みなさんがそうした自由度の高い働き方をされるときに、本社オフィスはどのような位置づけになるのでしょうか?

河野

創業間もない頃に、やはり品川区が創業者向けオフィスとして工場跡地を整備して貸し出している「広町一丁目工場アパート」を借りて本社にしたのです。リモートワークでも在宅だけではなく、シェアオフィスなども使うのですが、情報セキュリティーを考えると、自社で管理をしたいと思うようになったんですね。

もう一つ、本社が大事だと思ったのは、時々でも集まるとみんなのモチベーションが上がるのを実感したからです。当社では月1回「Office Day」という出社日を設けていて、来られる人は一緒に仕事しようと呼びかけたところ、これが好評だったのです。環境が変わるのも気分転換になるし、互いの顔が見えるのもよいのでしょう。今年はコロナ禍のため、「Virtual Office Day」として拠点間をリアルタイムでつなぎ、ラジオみたいにながら視聴してもらいました。そのプログラムの中で、SHIP本社の紹介もしたんですよ。開口部が広くて明るく、キレイなので驚かれました。大崎駅から徒歩5分という街中で、こんなに良いところがあったのかと(笑)。ですから、近くに行ったらぜひ寄りますとか、改めて求心力が増したように思いますね。人材採用においてもプラスになりそうで、楽しみにしています。

女性が心地よく働ける「イケてる感」がSHIPの魅力

 

―改めて、SHIPを本社にされた良さ、メリットを教えてください。

河野

これまで目黒駅に近い、古いビルに入居して本社としていたんです。SHIPは2年半前から1室だけ借りていて、ラウンジや会議室の使い勝手がよく、とても気に入っていたんですね。それで、本社として十分なスペースのオフィスが空くのを待っていました。ちょうど、前のビルが建て替えをすることになったこともあって、やっと念願のSHIPへの本社移転が叶ったわけです。当社は女性社員が多いですが、古いビルだと女性トイレなどもあまりきれいではなかったりするもの。そういうことが働く上での心地よさに関わりますから、「こんなステキなところで働けるのか!」と思ってもらえることは、とても大事なんです。採用をする際も、好感をもってもらえますよね。

 

―リモートワークであっても、本社はシンボルとして、また、採用など外向けの窓口としても、やはり顔として大事なのですね。

河野

もう一つ、SHIPはコワーキングスペースもあるので、これまで都内にいくつかあったサテライトオフィスもここに集約させられました。その結果、オフィス賃貸料もトータルでだいぶ抑えることができています。

コロナ禍でSaaS型サービスを加え、より広範なニーズに対応可能に

 

―事業のほうのお話をもう少し聞かせてください。このコロナ禍で、変化はありましたか?

河野

新たなニーズをふまえ、商品ラインナップの充実につながっています。この3月までは「UpSighter」というカスタマイズモデルが主力商品でした。開発費をいただいて、その会社に適したトーク比較ができる形にして納めるので、初期費用でも数百万円かかります。それは大企業が主なお客様でしたが、コロナの影響で集合研修が見合せとなるように。そこで、集合研修の代替としてリモートでトレーニングができる「リモトレAI」というサービスを3月半ばにリリースしたのです。初期費用なしで気軽に使えるSaaS型サービスにしたため、好評を博しました。

そうして5月頃になると、それまで対面だった商談がほぼオンラインに移行されてきて、新たにオンライン商談における分析ニーズが高まりました。これも当社技術とノウハウ、データで対応が可能だったため、7月に「テレ検」というサービスをリリース。これを使うと、上長がメンバーの商談トークを数値化して比較できたり、レポートで個々のメンバーのトークにおける改善、指導が可能です。

このリリースに当たっては、対面とオンラインそれぞれの商談における成約・不成約でのトーク特徴を分析調査したのですが、思った以上に「オンライン商談ならでは」の特徴が発見できました。たとえば、オンラインだと商談時間は約10分短いが、中身は凝縮しているとか、売り手側が話す時間の方が長いなどです。

 

―新たなニーズをうまく捉えて、スピーディーに開発準備をされたのですね。新たなお客様の掘り起しにもつながっていますか?

河野

「テレ検」のほうも初期費用なしのモデルとしたので、当社としてラインナップが増え、時と場合に応じて使っていただけるようになりました。これまでの大企業に加え、中小企業であったり、また大企業でも部門単位でも導入しやすくなったといえます。

また、実感しているのは、製造業でのご利用が増えたことですね。ものを作っていたり、素材を扱っている、まさに品川区に多い業態の会社様からの引き合いが多いのです。そのほか、ITソリューション系の企業でも営業強化を図られると思うので、ぜひ地元、品川区で多くのお客様に知っていただきたいと考えています。

 

―品川区自体にも、この3月に「UpSighter」が試験導入されていますね。

河野

そうですね。行政においても窓口対応などで顧客満足度向上が求められており、地方自治体への導入は初めてでしたが、機会をいただけました。これまでも、特定の業界で導入いただいた事例をつくり、その業界でご案内を深めていくという戦略でやってきて、金融機関や製薬会社などで活用を広めていただきました。今後も地方自治体はじめ、さまざまな業界へのご紹介に努めていきます。

「リモトレAI」や「テレ検」と合わせ、多様なご提案ができることと思います。経営としては、これまでの初期費用開発モデルに加え、月額使用料モデルのSaaS型サービスという土壌もできて、売上の安定化も叶いました。創業以来、資金調達も順調に行って、2020年の1月には累計資金調達額が5億円となっていますが、さらにビジネスモデルの安定化をふまえて、4回目となる次の資金調達を2020年の年末から来年にかけて準備中です。

愛すべき地元・品川区に根付きながら、世界も視野に入れて

 

―御社はITベンチャー企業のなかでも、その事業や働き方のユニークさであったり、河野さん自体も女性リーダーとして注目を集められています。受賞歴も数々ありますが、なかでも印象的だったものを教えてください。

河野

2つあるのですが、まず米国・サンフランシスコの「Tech Crunch Disrupt SF 2018」でいただいた「Greylock Award」ですね。Tech Crunch自体がグローバルでのITベンチャーの登竜門ですから、ブース出展やプレゼンテーションを行えただけで興奮していたのですが、突然「受賞したから盾を取りに来て」と言われて、本当に驚きました。

もう一つが、アジア中から女性起業家が集う「EY Entrepreneurial Winning Women™アジア太平洋会議2019」でパネルディスカッションの登壇者に抜擢いただいたことです。4ヵ国から4人がそれぞれ、どのように会社を作ってきたかを語ったのですが、非常にエネルギッシュな場で、得がたい経験となりました。海外市場も将来は視野に入れていきたいので、こうした経験が足がかりになればと思います。

 

―品川区から世界に、ですね!

河野

言語を扱うサービスなので、まずは日本の市場で着実に広げてからのことですが、展開は楽しみにしています。

実は私自身、最初に勤めたのがソニーでしたので、品川区にはとても愛着があります。当社の工場生産的な業務プロセスを思いついたのも、ソニーでの工場勤務を通じて、入社間もない社員が真面目に務め、リーダーになっていく姿を数多く見ていたから。IT系にはない「堅実な逞しさ」がまぶしかったんですね。しかし、私たちのデータを作っていく仕事は、IT系の経験やスキルがなくても意欲があれば始められます。コグニティ流に、そうしたものを作っていきたいというのも夢でした。

「コグニティ」という社名は、「認知的な」という単語が元になっているコグニティブ(cognitive)に由来していますが、その「cog」には歯車という意味があります。社名ロゴでもこの3文字を際立たせていて、そのとおりに、1人1人ががっちりとかみ合ってできている組織であり続けたいですね。

―ビジョンである「技術の力で、思考バイアスなき社会を。」を、ご自分たちでも本当に体現してこられたのですね。SHIPをベースとした今後の展開も楽しみにしています。今日はありがとうございました。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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