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インタビュー 2021.4.8

スタートアップ1社では難しい健康経営への取り組みをお助け! 五反田のウェルネス推進で人と企業、地域をつなぐ「ゴタウェル」に聞いてみた

昨今、経営手法として日本でも定着している「健康経営」。従業員の健康管理を経営課題として捉え、実践を図ることで従業員の健康増進や生産性向上を目指すものです。国の推進策として、経済産業省が2015年度より「健康経営銘柄/健康経営優良法人ホワイト500」を選定するなどして、大企業を中心に取り組み事例が共有されています。創業間もないスタートアップ企業にとっても、できることから経営に取り入れていきたいもの。そうした中、ITベンチャー企業の集まる五反田バレーでは、「五反田のウェルネスハブになる」をミッションに掲げる「五反田ウェルネスコミュニティ」、通称「ゴタウェル」が意欲的に活動を行っています。その設立メンバーである、コグラフ株式会社代表取締役の森善隆さんにウェルネス活動の様子や、品川区や五反田での働きやすさについて聞きました。

(プロフィール)

森 善隆さん コグラフ株式会社 代表取締役

国内独立系ソフトハウスにて、システム開発エンジニア、チームリーダー、製品企画、管理職などを経験。その後、大手インターネットサービス企業を経て、企業内コラボレーションソフトウェアを企画・開発するスタートアップ企業、リアルコムに参画。プロダクトマネージャーを務めた後、2010年9月にコグラフ株式会社を設立し、同代表取締役に就任。「社員と家族、すべての人々を幸せにする」を経営理念に掲げ、ベンチャー企業だからこそできることを模索。本社を構える東京都品川区五反田エリアのコミュニティ、五反田バレーや五反田ウェルネスコミュニティにも積極的に参加し、産官学の連携や業界・業種を越えた取り組みについて探究を続けている。

 

五反田バレーのウェルネス部門として、50社以上が参加

 

―「ゴタウェル」をつくられた経緯を教えてください。

もともとは、2010年に創業したコグラフ株式会社で私が健康経営的に、自社内でできることを細々とやっていたのです。社員向けに講師を呼んでストレッチ教室とか、健康食のランチ会などですね。それを、2017年12月に五反田に移転してきたのを機に、五反田バレーのベンチャー、スタートアップ企業との会社の垣根を越えて一緒にできないかと考えたのです。ちょうど近隣の、ネットで宅配クリーニングを提供するベンチャーであるホワイトプラス社でも似たような取り組みをされていると聞き、各社のアイデアや取り組みを共有することを思いつきました。健康経営に関心ある会社がつながれば規模も広がって存在感が出せますし、企画・運営を協力すれば効率的で、より活発に活動できるわけですね。

そうして当初3~4社で始まった活動の輪が、3年経ち、企画・運営を行う会員企業が約20社、参加まで含めると50社以上にまで広がりました。今も非営利の任意団体ではありますが、社団法人として品川区との窓口ともなっている五反田バレーのサブ機関のような形で、ウェルネス領域を担わせてもらったり、こちらから提案したイベントを共催いただくことも増えています。理念的にはSDGsにつながるところもあるため、「すべての人に健康と福祉を」や「住み続けられるまちづくりを」など、7つほどのゴール達成を意識して活動しています。日本の大手企業における家族的経営や無駄を見直す改善といった考え方なども勉強させてもらいながら、私たちベンチャー企業の経営にもできるものは取り入れていきたいです。

―実際に、どのような活動をされていますか?

「五反田のウェルネスハブになる」というミッションのもと、五反田に縁のある人や企業と共に、人と人、人と企業、企業と企業をつないで、五反田にウェルネス文化を醸成するという方針で活動しています。任意の活動ということもあり、無理なく、継続していけるものというイメージですね。昼休み時間を利用しての、健康にまつわるトークや簡単な体操レッスンを含めたランチ会は、よく行っています。やはり五反田に本社を置かれているアグリゲート社が展開されている、旬八青果店のヘルシーなお弁当をいただきながらのネットワーキング会も好評ですね。地元の印刷会社の三代目社長に、昔の五反田の話を伺ったりしています。「味噌ドクター」として著書もある内科医の関由佳先生をお呼びした、味噌汁ランチ会というのもやりました。そのほか、マインドフルネスやコーチングなど、メンタル面に効く勉強会から、企業対抗ボーリング大会やゴミ拾いイベントなど、エンタメ色の強いものも行っています。

地域とも関係を深め、仕事も生活も健やかに送れるまちづくりを

 

―ウェルネスをキーワードにして、交流も深められているのですね。

地域も巻き込んで広く開催したのが、2019年11月の「五反田大運動会」です。地元で小中一貫教育を行われている品川区立日野学園のご協力でグラウンドを使わせてもらい、同校の生徒さんや教職員の方、地域のボランティアの方にも参加いただいて、総勢400人を超えるにぎわいとなりました。そして、やはり地元企業である浅井企画の芸人の方たちに進行や各チームキャプテンをお願いし、盛り上げてもらいました。競技のほうでも、リスペクトの意味で「欽ちゃん走リレー」を行ったり、ものづくりの品川区らしく、ネジ回しや箱の組み立てをクリアしていく障害物競走も実施。そのネジも、地元企業に提供いただいたもので、本当に手作りの一大イベントでした。

―五反田ならではの温かみが感じられる活動ですね! コロナ禍の影響はいかがですか。

五反田バレーでもリモートワークが本格化しているため、2020年7月には「どうするリモートワーク?」と題したオンライン座談会をゴタウェル主催で行い、各社の働き方の現状やツール導入などの情報共有に役立てたりもしました。また、「五反田大運動会」もZoomによるオンライン開催で、数回にわたり実施。筋力、バランス、柔軟性などの体力測定をしながら、プロのインストラクターによる指導をいただきました。今回も浅井企画の芸人の方が参加され、盛り上げてくれています。

今後もこんな風に、可能なやり方を工夫しながら、ウェルネス活動を続けていきたいですね。また、2020年から品川区のご紹介をきっかけにして、大塚製薬との連携が始まっています。セミナーへの講師派遣や各種情報・ノウハウの提供といったところで、こうした大手企業に協力をいただきながら、多様なイベントをさらに行っていきたいです。

―改めて、こうした活動を個社ごとではなく、共同で行っていくメリットは何でしょうか?

やはり、人と人、人と企業、企業と企業をつなぐというのを、広がりを持って行っていける利点があると思います。オフィスのある周辺地域のことを理解することで、住民の方々とも交流するきっかけになりますし、将来的には、職住近接を推進できればよいですね。職場環境だけでなく、生活のしやすさを社員にメリットとして味わってもらいたいと思います。私自身も近隣在住で、子どもの保育園もすぐそばで、快適に暮らすことができているんです。

五反田エリアというのは、利便性はもちろんですが、山手線駅のなかでも生活感にあふれ、商業施設や学校、住宅などがバランスよくミックスされているのが魅力です。そうした地で暮らし、仕事をすることが本当のウェルネスではないでしょうか。また、五反田バレーもですが、こうした活動を会社の垣根を越えてやりやすいカルチャーというのも、大きな魅力です。

実は当社は他の区で創業し、目黒区の山手通り沿いにオフィスを移してきたのですが、ITベンチャーがわいわいと集まっている様子がとてもうらやましくて(笑)、ご縁があって五反田に移転することができて本当にうれしかったのです。

オフィスや飲食店の自動電話受付サービスを独自に展開

 

―そうでしたか! では、そのコグラフ自体がどんな事業をされているか、教えてください。

インド、台湾、米国など国際色豊かなエンジニア集団で、創業当初より日本の企業向けにシステム開発などの技術サービス提供をメインに行ってきました。いまは自社のプロダクトとして、通話内容のテキスト化をキーにした「会話×AI」というところで製品展開をチャレンジしています。「Mayai(マヤイ)」という電話AI自動応答サービスで、リモートワークを推進されている企業のオフィスや、テイクアウト展開に力を入れられたい飲食店向けに提供をしています。

オフィス利用で説明しますと、電話の一次応対をAIが24時間代行し、留守番電話の録音メッセージの内容を文字に起こしたものを、あらかじめ登録した電話応対担当者にSNSやチャットで自動転送します。一般的な電話応対代行サービスと大きく違うのは、メッセージの内容をふまえて対応を判断できるので、必要のない営業電話などはスルーしてしまえる点です。また、録音メッセージはクラウド上に置かれてURLで示されるので、どこにいても再生ができます。社内の別の担当者に転送して対応を任せるにも、便利です。

―コロナ禍でたいへんニーズのありそうな製品ですね。

そうなんです。もともと必要な技術による製品化はできていたのですが、リモートワークになっても、知り合いのスタートアップの社長などが電話を取るためだけに自分だけが出社されていると聞き、何とかしてあげたいと考えてサービス化しました。

飲食店向けのほうは、テイクアウトを推進したいお店が、事前の電話注文への対応に時間や手間をかけずに済むようにと、思いついたもの。「マヤイ」では管理画面などを扱う必要がなく、いま、五反田で10店舗ほどに導入いただいています。また、常連の方の電話注文というのは「3丁目の○○ですけど、いつものを*人前お願いします」といった、ふんわりした表現になりがちですが、システムでこれを受けるのは難しく、何をいくつ何時になど項目ごとに聞き取るようなコミュニケーションを強いることになるでしょう。当社では「人と人」のふれあいのほうを大事に考えているんです。人の声で注文して、テイクアウト品を取りに行き、そこで1分でもお店の人と話をし、「またお願いね」などと声をかけて帰る。そんな風景を失くしたくないですね。

―飲食店側も、ITに不慣れであっても導入しやすそうです。

そうですね。基本的に、お持ちの携帯電話をチェックいただくだけですし、申込時にも店舗の名称と電話注文を受ける携帯電話の番号だけ分かれば、当社のほうでセットアップいたします。新しいモノを入れたり、新しいコトを覚えないで済むので、忙しい飲食店の方にも使いやすいでしょう。また、いまも使い勝手をヒアリングして、改善しています。当社社員がユーザーとしてテイクアウトを注文して現場体験をしていたりしますので、これも五反田ならではの地元意識が役立っている例といえますね。

―ちなみに「マヤイ」というのは造語ですか?

言葉遊びのようにして考えました。ご要件を伺う英語の「May I help you?(メイアイヘルプユー)」のメイアイで、「I(私)」を「AI(人工知能)」に置き換えて「Mayai」で、「マヤイ」になりました。多くの方に覚えていただきたいですね。

月間20件の受電までは無料にしており、特に創業したばかりのスタートアップの方に使いやすくなっています。創業時は多くの経営者にとって、まず自分の携帯電話を代表電話として登録するか、あるいはコストをかけて固定電話を新たに契約するかが、悩ましいものです。また、そこに業務と直接は関係のない、飛び込みの営業電話などが増えてくると、それを受ける時間もコストももったいないとなってきます。そこで、創業キットとして代表電話は「マヤイ」が引き受ける、といった世界観をぜひ目指したいのです。

創業の地として、品川区や五反田のバリューを発信

 

―五反田バレーの一員としての、御社の活動についてもお聞かせください。

ゴタウェル同様、理事企業や正会員の皆様と一緒にいろいろと企画・実行するところをご一緒させてもらっています。みなさん、事業で忙しくされる中でも、五反田バレーの活動というと特別に時間を割くなど、大事にされているのを感じます。また、会社でも個人でも、何かサービスを探すときには、まず五反田バレー軸で探していますね。

品川区内の商店街を支援する「しながわ商店街応援プロジェクト」でも、五反田バレーは品川区と協力させていただいていますが、当社もその中で商店街のホームページ改善や来店につながるオンライン上の整備などを担当しています。今後も段階的に各種ツールをご紹介したり、より店舗運営に役立ててもらえるよう提案や協力を継続していきたいですね。

―ITベンチャーとして五反田で仕事されていて、五反田バレーや品川区に助けられることはありますか?

言い出したらキリがないほど(笑)、恩恵を受けています。1社では注目されにくいことも、連携したり、五反田バレーということで登壇機会などがいただけたりします。各種メディアを通じて活動や存在を報じてもらえており、あとはわれわれ自身が発信して、仲間を増やす努力をしていくことが大事。都内のみならず全国に向けても、品川区が創業の地としてメリットあることを打ち出していきたいです。五反田の中でシナジーを生み出しつつ、世界に問いかけるようなイノベーティブなものも創ることを目指したいですね。ITベンチャーとして「やっと見つけた」心地よい場所、五反田を今後も盛り上げていきます。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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