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インタビュー 2021.5.17

「五反田バレーアクセラレーションプログラム」参加者座談会 ~講義や特典、品川区のスタートアップ支援や助成制度…で役立ったものを教えます!

“スタートアップの急成長に向けて”をテーマとして、2020年9月からの約7ヵ月間にわたって実施された「五反田バレーアクセラレーションプログラム」。品川区が一般社団法人五反田バレー、Creww株式会社と共同で開催したもので、急成長を目指す起業間もないIT事業者や起業準備中の21の事業者が参加して、スタートアップのスケールに必要な知識・ノウハウを習得する研修や、ビジネスプランの強化に向けた個別メンタリングなどを行ってきました。4人の参加者をオンラインでつなぎ、このプログラムで得られたものや今後の事業展開について、語り合ってもらいました。

 

(座談会参加者プロフィール)

株式会社Srush 代表取締役社長 樋口 海

早稲田大学教育学部卒、一橋大学大学院商学研究科修了(MBA)。NTTコミュニケーションズの法人営業部門にて大手自動車を担当しグローバルインフラの導入に従事し、全社表彰や最高評価を受賞。その後、シンガポールの日系製造業にて営業戦略を担当。帰国後、製造業向け会計ソフトウェアを提供する会社の立上げを経て、10年の法人営業経験から自身が感じた営業の課題を解決すべく、2019年11月、株式会社Srushを創業。2020年5月に第三者割当増資により資金調達を実施済み。

 

株式会社ルースヒースガーデン 代表取締役 奥出 えりか

慶應義塾大学環境情報学部、同大学メディアデザイン研究科にてインタラクションデザイン、デザイン思考によるイノベーション創出手法を専攻。企業向けのデザイン思考研修や新規事業創出支援などを行う。合同会社techikaと協同で夜道の不安によりそうバッグチャーム「しっぽコール」を開発中。

 

株式会社linK&Relations 代表取締役社長 関根 謙太

大学では建築土木を専攻。大手ハウスメーカーへ入社後、国内営業に配属。在職中にシンガポールへの留学を経て、海外新規事業開発を担当。アメリカ現地法人の立上げ、SCM開発のPMなど、幅広く手掛ける。2019年3月に株式会社linK&Relationsを設立。

 

株式会社サウンドフィリック 代表取締役社長 小柳充輝

理系/医学系の研究者であった母の影響で、幼少期より自然現象とその意味について考えることが多く、中でも音(言語・音楽等の副産物を含む)がもたらす作用や効果について興味を持ち、自身の経験から、音や音楽で世界中の人を心身ともに豊かにしたいと願い起業を決意。2019年7月に株式会社サウンドフィリックを設立。現在、セントメリーズ・インターナショナルスクール 10年生在学中。

 

プログラムを通じてピボットもあった、ビジネスアイデアの進化や進捗

―まず、みなさんの事業について教えてください。また、「五反田バレーアクセラレーションプログラム」を通じて改善、改良や方針変更した点もあれば、あわせてお願いします。

樋口

当社Srushではセールステック領域で、法人営業向けに顧客と営業担当者の関係を可視化するセールスエンゲージメントツール「Srush」の開発・販売を行っています。機能としては、顧客と担当者の関係値から営業の活動解析や改善策の提案、受失注の予測などにより、受注確度の向上を目指すセールスエンゲージメント機能。そして、名刺やCRMに分散する顧客情報の集約や、日程調整やルート検索、出張旅費計算の自動化などにより、担当者の業務効率化を目指すセールスイネーブルメント機能の2つを備えています。こうしたツールは米国ではすでに5000億円規模の市場があり、日本でもコロナ禍の影響で営業におけるエンゲージメントが注目されていて、ニーズが見込まれます。

2020年5月に資金調達して、既に製品化しており、営業組織に課題を感じている数十社が導入中。特に、顧客との関係性が重要なサブスクリプションビジネス事業者からの評価が高く、継続利用頂いています。

奥出

ルースヒースガーデンでは、「しっぽコール」という、夜道の不安に寄り添うIoTバッグチャームを作っています。夜間の外出に対し、大人世代を対象にした軽犯罪が多いのに着目して、このチャームを握り締めると自分の携帯電話の着信音が鳴ったり、ピンを引き抜くと位置情報を家族などと共有できるといったものです。ガジェットではなくアクセサリーとして愛されるデザインのプロダクトを目指し試行錯誤しています。現在は3Dプリンターによるモックで機能テスト中です。また、品川区のあるメーカーさんと本格的なプロトタイプの製造にも動いています。その後は実証実験やモニター販売を進めて、資金調達に向けたエビデンスを出し、サービスもブラッシュアップさせたいと考えています。

関根

linK&Relationsでは当初は、幼少期向けに英語耳を習得させる動画配信ビジネスを考えていましたが、五反田バレーアクセラレーションプログラムのメンタリングを通じて、もう一段上の概念を狙うこととしました。いまは「好きを見つけて世界を広げる」というコンセプトで、世界中の講師と子どもたちをつないで、多様な体験機会を提供するサービスに移行。集中力を考え、8分間のライブなインタラクティブコンテンツを配信し、「現代版どこでもドア」のような自由な世界観を目指しています。エドテック領域は、世界では2025年までの5年間で2倍の市場規模になると言われながら、日本ではそこまでの成長トレンドにはまだなく、当社がそこに一石を投じようとしています。リリースから1ヵ月で1000件を超える問合せがあり、反響の大きさに手応えを感じているところ。もともと共働きなどで子どもに向き合う時間を取りにくい社会環境や、コロナ禍で外出や遠出などの体験機会が得にくくなっている状況から、ますますニーズは高まると見ています。

小柳

サウンドフィリックでも五反田バレーアクセラレーションプログラムを通じて、年初にピボットしたのですが、もともとは人間の心拍と音楽の関わりに着目して、コロナ禍で高まるフィットネスニーズを受け、運動時の心拍をオンタイムで分析して、いま聴いている音楽の再生テンポを変えるなど、フィットネス初心者向けアプリを考えていました。ですが、著作権などの課題が出てきたため、大きく路線を変え、心拍系のコンセプトのみ残して、生活時間帯ごとの平均心拍数から自動で生成されるパーソナライズド音楽ラジオのようなサービスを開発中です。コンセプトは「人生にBGMを」。コロナ禍で生活の充実度が下がっていますが、いつでも体調や気分に合った音楽が流れている状況をつくり、生活に華やぎを与えようというのが狙いです。スマートウォッチなど、既存のデバイスで取得した心拍データを元に、心地よいリズムのフリーBGMを自動生成させるアプリを開発中で、私は今高校生なので学業と両立しながら、プログラムを同級生に発注してやってもらっています目標としては、新生活の始まる4月にはリリースさせ、テストユースで反響を得たいです。

コロナ禍だからこそ役立った、各種コワーキングスペース

―みなさん、多彩なアイデアを形にされていますね。五反田バレーアクセラレーションプログラムのなかで、ピボットされた方もいますが、それぞれに本プログラムで得られたものや、品川区による支援で役立ったものなどを教えてください。

樋口

連携パートナー企業や団体による参加特典の、コワーキングスペースの無償利用等が有難かったです。SHIP(品川産業支援交流施設)のオープンラウンジが利用できたので、もともと契約していたオフィス賃貸は解約しました。その決断ができたのは、この特典があったからなので、感謝ですね。

奥出

私は2017年からSHIPの会員になっていました。もともと自宅で仕事することが多いのですが、SHIPは打ち合わせや気分転換には便利ですね。また、モック製作ではSHIPの工房にものすごくお世話になりました。3Dプリンターが使えるのですが、常駐されているPrimal Design.Laboさんの方が本当に親身になってくださり、単に設計図どおりに仕上げる手伝いだけでなく、目的達成のためにはどの機材でどう作るべきかを一緒に考えていただきました。この手のスタジオは普通、時間貸しで、最初にレクチャーするとあとは特に手伝ってはくれないもの。そのため、毎回機械のセッティングだけで時間をとられ、コスパが良くなかったりするのですが、SHIPの工房ではこのように専門家の方にサポートしてもらえるので、自分の本当にやりたい作業を集中して行えました。

国や都の支援より細やかで活用しやすい、スタートアップにも使える助成制度

―なるほど。ものづくりをバッチリとバックアップしてくれる工房の体制なんですね。

奥出

また、ハードウェア系スタートアップとしては、製造費用の一部は品川区の「新製品・新技術開発費助成」を活用させてもらい、とても助かりました。助成率2/3で最大250万円の助成金額なので大きかったですね。そのほか、「知的財産権取得経費助成」も有難かったです。スタートアップにとって、知財に関する費用は心理的に負担の大きいものですから。

そもそも国や東京都の助成金は、額が大きい分、倍率がすごく高かったり、申請書類も大量だったりと、準備に時間と労力が必要とされます。やはりスタートアップはサービス開発に注力したいですからこのような手続きにかける時間は短縮したいものです。それに比べ、品川区の助成金は手続きも負担が少なく、本当に役立つメニューが揃っているイメージです。ハードウェア系の助成が多いのも、ものづくりを支援しようという心意気の表れでしょう。助成金の成果報告会でも、職員の方も審査員の方もとても親身に聞いてくださり、あたたかく応援してくださって嬉しかったです。ものづくりを地域振興のキーワードにあげている自治体はよくありますが、品川区のように実際にその支援策をいくつも実施してくれているのはめずらしいと思います。

樋口

奥出さんと同じで、私も品川区の助成金はいろいろと活用しています。コロナ特別対応型の販路拡大支援助成金など、細かく調べて申し込みました。それで感じたのですが私は以前、港区で起業経験があるのですが、品川区のほうがスタートアップや中小企業への支援が断然手厚いですね。起業するなら港区より品川区と、2社目を作ってみて実感しました。家賃支援給付金も、東京都のものに上乗せ助成があったのですが、自治体でこの設定があったのは品川区くらいだったのではないでしょうか。

総じて、品川区の助成や給付金制度というのは、国ほどの金額ではないけれど、支援のすき間からこぼれ落ちる企業がないように、あらゆるメニューを用意してくれていると強く感じます。調べれば調べるほど、自分も対象となるものが見つかる感じがあったので、めっちゃ調べました(笑)。テレワーク導入に関する補助金(「新型コロナウイルス感染症に係る品川区雇用環境整備事業助成」)がとても優秀でしたね。創業1年未満だと国や都の制度では対象外でしたが、品川区ではOKだったんです。それでエンジニア用のコンピュータを購入しました。

関根

みなさん、助成金などをすごく活用されたんですね。私はリサーチ不足で、全然です。資金面では、提携パートナーであるAWSの、サービス使用料支払いに充てられるクレジットがとても助かりました。

また、私が最も有難かったのは、アクセラレーションプログラムの企画運営を行ったCreww株式会社によるメンタリングです。特に、取締役の水野さんには事業計画書の見直しをはじめ、大事なポイントで壁打ち相手となっていただき、感謝しかありません。プログラム参加以前にも、当社の個人株主などからアドバイスを得たりはしていましたが、Crewwの方たちはスタートアップ支援の知見やノウハウがあるせいか、意見も鋭く、素直に従える安心感がありましたね。スタートアップとして今のフェーズでサービスをブラッシュアップするところの事情などを分かっていて、適切にアドバイスくれるのです。貴重なメンターに出会えたと感謝しています。

スタートアップ支援のプロによるメンタリングで、自信倍増

―Crewwは、アクセラレーションプログラムの核となるセミナーも運営しました。「事業の作り方」「法務・コンプライアンス」「資金調達」「マーケティング・広報活動」「事業会社との協業を生かす方法」といった回がありましたが、どの辺りが特に役立ちましたか。

関根

初回の「事業の作り方」で講義をされたのが水野さんだったんです。そのときに、水野さんへの信頼感がバッチリでき、講義を離れてもいろいろと相談するようになりました。実際、事業アイデアを練り上げていくところがスタートアップには大変重要で、ピボットに関しても水野さんのアドバイスで自信を持って踏み込めたといえます。

小柳

私は、まだ学生、しかも高校生ということもあり、未成年で参加できるアクセラレーションプログラム自体がめずらしいので、講義も全てが新鮮で有難かったです。特にマーケティング・広報や事業計画などは、社会経験のない自分にとっては、ほぼ初めて触れること。資金調達などについても、知る術がなかったので、プログラムに参加して本当に良かったと思っています。やはり、ビジネス書やネットで得られる知識というのはホンの入口に過ぎません。業界経験豊かな方々に実体験や事例を交えた話を聞けるのは、貴重です。また、他の参加者の方たちが質問される内容もレベルが高く、参考や刺激になりました。ですから、スタートアップに必要な知識を得る術のない学生や10代の起業家、その卵の方たちには、ぜひこういった生の場に参加することをお勧めしたいです。

奥出

たしかに講義は小柳さんが言うように、書籍では得られないような肌感が伝わって、良かったですね。私は「資金調達」の回が印象的でした。資金調達ができて喜んでいるCrewwの方々の動画を見せてもらったのが、刺激になりました。また、フェーズに応じた一般的な調達額といった感覚値も理解できました。

また、「事業会社との協業」についても、知識は得られました。Crewwのサービスによる共創事例や公開されている募集案件の紹介も有難かったですが、さらに、このプログラムならではの連携支援などがあれば良かったように思います。

コロナ禍で難しかったけれど、ネットワーキングで縦横の関係構築を

―そのほか、要望や反省点など、ありますか。

樋口

今年度はコロナ禍で、運営側も受講者側もやりにくい部分はあったのだと思います。本来なら、同期の受講者同士でもっとコミュニケーションを取れただろうし、そこで助成金や資金調達についての情報交換や相談などもできたら良かった。スタートアップには横と縦の関係構築がとても重要だと感じていて、アクセラレーションプログラムへの期待はそこがかなり大きいのだと思うんです。今日はオンラインですが皆で話し合えたので、今後もこんな風につながりを持っていければと思いますね。

奥出

同感ですね! 実際、人と会わない日常のなかで、このプログラムで皆が集まって、事業を始めたばかりの仲間として同じ時間を過ごせたのはよい経験だったと思います。自分のプロジェクトに対して感想やアドバイスが参加者の方から少しでももらえると励みになりました。ですが実際に交流ができたのは各回の中でもとても短い時間だけでしたので、今日のようにオンラインでみなさんとじっくりお話をする機会があれば良かったです。私はCrewwの方たちにそこまで頻繁に面談を依頼していなかったので、今日関根さんなどの話を聞いて、しまった!と思いました(笑)。やはり、自分から積極的にいくことが大事ですね。

関根

そうですね、私は全体的にとても満足しています。横のつながりについては、コロナ禍で難しいですが、合宿のような回があってもよかったかもしれません。グループワークで白熱して議論を戦わせるような場があれば、その後の共感や連携につながりやすいでしょう。

小柳

皆さんの意見に同感です。私は学業があってビジネスになかなか時間が割けず、こうしたプログラムがあること自体有難かったですが、ワークショップでの一体感などを盛り上げられれば、さらに良かったようにも思えます。ネットワーキングが重要なのも分かったので、このプログラムでの気づきを今後に生かしていきたいです。

―今日は、ありがとうございました。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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