五反田バレーアクセラレーションプログラム
受講生インタビュー

2024.3.13

【五反田バレーアクセラレーションプログラム アルムナイ特集】 脱炭素のソリューションを提供し、企業や自治体と連携して新規事業も創出する株式会社テックシンカー 洪代表にプログラムでの成果や今後の展望について聞いてみた。

2022年3月に創業し、CO2排出量の可視化とカーボンオフセットのデジタルソリューションを提供してきた株式会社テックシンカー。その事業の概要と、2022年に参加した「五反田バレーアクセラレーションプログラム」での成果、今後の展望について、CEOの洪 偉豪(コウ・イゴウ)さんに聞きました。

(テックシンカーの軌跡)
2022年3月 創業
2022年9月~2023年3月 五反田バレーアクセラレーションプログラム3期

(プロフィール)
洪 偉豪さん 株式会社テックシンカー CEO
台湾出身。台湾中央大学、台湾海兵隊を経て、2010年来日。東京工業大学大学院機械制御システム専攻を卒業後、2012年パナソニック株式会社にて先端技術の研究開発業務に従事。2014年富士電機株式会社にて二国間カーボンクレジット事業に携わり、2017年東京工業大学イノベーションマネジメント研究科で技術経営修士号を取得。2020年外資系コンサルティングファームにて脱炭素コンサルティングに従事。カーボンオフセットや排出量可視化の実務経験を活かし、2022年株式会社テックシンカーを設立、CEOに就任。

 

CO2排出量の可視化&カーボンオフセットを、商品・イベント単位で支援

 

―まず、テックシンカーの事業について教えてください。

洪 偉豪

CO2排出量の可視化とカーボンオフセットのデジタルソリューションを開発・提供しています。企業が脱炭素に取り組む際には、コンサル費用が高額、プロセスが不透明、専門知識とISO国際規格に準拠する必要があるといった課題がありますが、当社はこれらを解決するべく、クラウド型CO2排出量可視化ツールなどを提供しています。その際、すでに競合の多い組織・企業全体に対する市場ではなく、商品単位やイベント単位など、少量でもニーズの高い領域を扱って差別化をしています。
また、ツールの提供だけでなく、お客様と一緒に脱炭素における新たな価値の提供や、新規事業創出の支援を行っています。最近はこちらへの問合せが増えていますね。お客様の相談を受け、事業内容に合わせ、脱炭素の文脈でどのような価値創出ができるかを考え、当社のプロダクトも適宜組み合わせて、最終的にお客様の新しいサービスとして立ち上げています。

―さまざまなお客様との脱炭素の価値創出事例には、どのようなものがありますか?

洪 偉豪

たとえば、いま自治体で公用車のEV化を推進する動きがありますが、実際に熊本県のある自治体でその計画や実行に関するコンサルテーションを当社が行い、地元の自動車関連企業と共にEVへの移行を進めています。
また、富山県では地域のガス会社との協働で、彼らの高効率設備と当社のカーボンオフセットソリューションを組み合わせて、カーボンニュートラルの総合ソリューションを立ち上げました。
そのほか、都内旅行代理店と協働して、脱炭素に関心の高い大手企業を対象とするMICE事業で当社のカーボンオフセットソリューションを組み合わせた企画やそのオペレーションを行っています。イベント開催において、省エネやゴミの削減等の環境配慮を実施することが一般的になってきており、それに加えて、気候変動対策の一環としてカーボンオフセットが注目を集めています。そこで、参加者の交通手段など、どうしてもCO2排出につながる部分をオフセットし、企業の脱炭素経営の推進だけでなく、オフセットプロジェクト実施地域の経済の活性化にも貢献することが可能です。
このように、さまざまな自治体や企業と脱炭素にまつわる新たな取り組みを進めています。


 

同じフェーズの起業家同士、実情を共有して前に向かえた

 

―創業が2022年3月で、その年の「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に採択されましたが、プログラムで役立ったことを教えてください。

洪 偉豪

起業家同士の交流が非常に役立ちました。3期のプログラムでは、研修のテーマに合わせて隣の席の人と3分話すといったことが随時盛り込まれていたので、雑談ベースで本音の話が聞け、自分からも相談できました。
起業というと、○億円調達できたといった華やかな話ばかりが聞こえてきますが、いざ自分で会社を立ち上げてみると乖離があるものです。
起業なんて自分には無理だったのではないか、サラリーマンのほうが向いていたのではと、毎日のように自分を否定したくなっていました。
そんな時に、プログラムで他の起業家に話を聞くと同じように、売上がなかなか立たなかったり、自分の給料も出せず家族に叱られるといった生の状況を知ることができ、ホッとしました。その中で、前向きな話ができたのがよかったです。

―研修の内容やメンタリングで気づきは得られましたか?

洪 偉豪

資本政策の考え方が改まりました。エクイティでもシードラウンドなら1000万~2000万円が相場だと聞き、その金額なら融資でも難しくないので、労力を考えて当初から融資で資金調達することにし、そのとおりに実行しています。
しかし、VCからアプローチがあれば、自社がどのように見られているかを知るためにも、なるべく会うようにしています。
また、研修では、起業家としてあるべきマインドセットにも気づかされました。サラリーマンならどのように過ごしても給料日には給与が入りますが、起業したらそうはいきません。日々、自分や自社の価値を向上させていくために行動し、稼ぐ力を身につけなければと痛感しました。
メンタリングも、会社運営やマーケティング、資金調達などについて4~5回お願いしました。毎回感心したのは、どのメンターもスタートアップに関する各テーマの専門家なので、1時間という短い時間でもこちらの課題をすぐ理解し、今必要なことを察知して質の高いアドバイスをくれるのです。おかげで気づきがたくさん得られました。
そして、全体を通してピッチの機会が多いので、プレゼンスキルも磨くことができました。研修で、Chatwork創業者の山本氏によるピッチ講座があり、その場で内容をチェックしてもらえたのもよかったです。普通ピッチに対して質問はされますが、構成や表現などの改善点を指摘されることはないので、貴重な機会でした。

―プログラムの特典で役立ったものはありますか?

洪 偉豪

PR TIMESでプレスリリース を最大6ヵ月間、毎月1件まで無償提供という特典が有難かったです。通常は1件3万円なので、まだ売上のない創業期のスタートアップには大きいのです。もちろん、プレスリリースを打てばすぐ何か反響があるというわけではありませんが、後の問合せのきっかけにはなっていますね。当社は今、月10件は問合せがありますが、SNS広告などはやっておらず、外部への発信は自社サイトとPR TIMESくらいです。実際、「脱炭素、スタートアップ」などと検索すると、PR TIMESの記事は上位に挙がっているようです。
また、特典ではないですが、アクセラレーションプログラムに採択されたこと自体も主催者から情報として発信され、そのPR効果も大きかったと思います。


 

製品やプロダクトの形よりもまず、顧客が求める価値を考え抜く

 

―最後に、スタートアップとして成長を目指す人へアドバイスをお願いします。

 

 

洪 偉豪

自社の価値を高めるための行動を日々行っていってもらいたいです。たとえば、ブログなどで業界知見や専門知識を情報発信しておけば、顧客候補となる企業の方に調べられたときにも信頼を得られるでしょう。そうした情報発信がきっかけで、お客様を紹介してもらえることもあるかもしれません。
また、PMF(プロダクトマーケットフィット)の達成には注力すべきです。最初に自分が創りたいと思ったものと、最終的に売れるものは、大抵違っているものです。
スタートアップは製品やサービスを形にすることに気を取られがちですが、お客様が求めているのはその製品やサービスではなく、それがもたらす価値です。ですから客観的に、お客様に求められている、そして提供できる価値は何かというのを見つめ続けねばなりません。違うと思えばピボットも辞さず、PMFを追求してほしいです。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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