【五反田バレーアクセラレーションプログラム アルムナイ特集】 バイオ産業の製造工程をAIソリューションで効率化に注力するエピストラ株式会社 小澤代表にプログラムでの成果や今後の展望について聞いてみた。
2018年3月に創業し、AIを活用して、再生医療やバイオ医薬品などの製造工程を最適化するソリューションを提供してきたエピストラ株式会社。その事業の概要と、2022年に参加した「五反田バレーアクセラレーションプログラム」での成果、今後の展望について、代表取締役CEOの小澤陽介さんに聞きました。
(エピストラの軌跡)
2018年3月 創業
2022年9月~2023年3月 五反田バレーアクセラレーションプログラム3期
(プロフィール)
小澤陽介さん エピストラ株式会社 共同創業者 CEO
慶應義塾大学でバイオインフォマティクスを学びIBM Researchで研究員を務める。その後渡英してスタートアップ企業Ecreboの基幹システムと9件の根幹特許を一人で書き上げ、時価総額100億円以上にまで急成長させた。帰国した後は産総研技術移転ベンチャーRBI株式会社で実験ロボット「まほろ」の情報システム開発を率いた後、エピストラを創業。数理最適化、データベース、計算生物学分野で原著論文。
細胞の培養条件を自動抽出。巧みの技によらずに、コスト削減の実現へ
―まず、エピストラの事業について教えてください。
小澤 陽介
医薬品やバイオものづくり(細胞を使った生産)など、いわゆるバイオ産業における製造工程で、AIによりQCD(品質・コスト・納期)を改善させるソリューションを提供しています。
たとえば細胞医薬品やバイオ医薬品の創薬では、従来の低分子化合物を使った創薬比べ、プロセスが複雑で、高コストだったり品質がばらつくといった課題があります。それが当社のAIソリューション(Epistra Accelerate)を活用すると、これまでよりも短い期間でコストや品質を改善できるようになります。
―具体的な事例には、どのようなものがありますか?
小澤 陽介
2022年6月には、理研ほか、3社の共同研究で、Epistra Accelerateを組み込んだ再生医療用の細胞培養条件検討を自律的に行うロボット・AIシステムを開発しました。このシステムを使って、iPS細胞から網膜色素上皮細胞への分化誘導条件を探索し、分化効率を約88%向上させることに成功しました。これは、熟練した巧みの技を超えるもので、この成果により、より低コストで目的の細胞が作れるようになっただけでなく、一部の熟練者にしかできなかった難しい細胞培養がロボットにもできるようになりました。成果は国際論文誌に採択されていますし、実際の製造プロセスにも応用されています。
こうした生命科学の領域は昨今、サステナブルの文脈でも注目されており、培養肉などの食品やバイオ素材、バイオ燃料などへも広がりを見せています。微生物発酵プロセスによりタンパク質素材をつくるSpiber社でもEpistra Accelerateを活用することで、2年かかっていた生産性向上の成果が数週間で得られるようになっています。
また、島津製作所とはEpistra Accelerateと質量分析を用いた代謝成分の一斉分析技術を組み合わせた細胞培養に用いる培養条件最適化ソリューションを共同開発しており、2024年度中に製品化を目指しています。現在当社としては、ハンズオンのコンサルティングで売上と実績を作りながら、当案件のような製品化やライセンスビジネスといった、スケールできる事業領域に現在、注力しています。
リモートワークでもコアメンバーが集まれる場を、プログラム特典で確保
―創業が2018年で、「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に採択されたのは2022年でしたが、応募された理由を教えてください。
小澤 陽介
他の起業家とネットワークが築ければと思いました。実は創業当初に、あるアクセラレーションプログラムに参加したのですが、起業家同士の横のつながりができたのが有難かったのです。事業の分野は違っても、資金調達や人材採用についてなど、スタートアップとして共通する悩みはあるもの。前回参加してから時間が経っていることもあり、またこうしたプログラムに参加して、ネットワークを築きたいと思いました。
また、当時はコロナ禍でオフィスをなくしてリモートワークにしていましたが、コアメンバーが集まれる場所が欲しかったのです。ちょうどプログラムの特典として、自宅からも近い大崎にあるSHIP(品川産業支援交流施設)のオープンラウンジが無償利用できるのも魅力でした。
―SHIPのほか、プログラムの特典で役立ったものはありますか?
小澤 陽介
PR TIMESを一定期間無償で利用できたのが有難かったです。当社の実績としてアピールできる、論文の発表や取材記事、サービス提供の事例などについて、タイムリーに発信することができました。
―研修の内容やメンタリングで気づきは得られましたか?
小澤 陽介
研修は、当社ではCOOと交互に出席して、後に内容を共有したのですが、初期のスタートアップに必要なポイントを押さえた講義が毎回なされていて価値があると思いました。
当社の2ステップのビジネスモデルも、そこで考えたことが反映されています。短期的にランウェイを稼ぐためのコンサルティング事業と、スケールさせるためのライセンス事業を分けて考え、戦略的に後者の土台づくりに取り組むことができました。こうした事業の性質に気づけたのは、プログラムに参加した成果といえます。
また、研修で五反田や品川区で成功している先輩起業家の話が聞けたのはよかったです。さまざまな世代間でつながりができることで、スタートアップエコシステムの醸成が促進されるでしょう。そんなネットワーク機能も、こうしたアクセラレーションプログラムにはあると感じました。
―スタートアップとして成長を目指す人へアドバイスをお願いします。
小澤 陽介
政府もスタートアップ支援を掲げ、起業のハードルは徐々に下がっています。さらに、成功した起業家が次の世代にも手を差し伸べ、エンジェルなどとして投資するといった、シリコンバレーのような流れも期待できる時代だと思います。
そうなると起業のテーマ選びが重要です。個人的には自分もチームも諦めずに取り組み続ける覚悟を持てること、競争に勝てる優位性がある(つくれる)こと、儲かることの3つが重なるテーマが、良いテーマだと思っています。ビジネスをやるわけなので、そもそも儲からなければ話にならないですし、優位性がないと他社との競争に勝てません。また最初から上手くいくことは少ないので、根気よく改善を続けられることが必要になります。良いテーマが選べないと、せっかく頑張っても成果に繋がりづらくなるので、そこのところをしっかりと考えることが大事だと思います。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。