【五反田バレーアクセラレーションプログラム アルムナイ特集】展示会会場や工場を丸ごと3D映像化。補助金などで顧客ニーズにクイックに対応してスケールを目指す株式会社iishina纐纈代表にプログラム参加で得られたことや今後の展望を聞いてみた。
品川で生まれ育った恩返しに「品川から、品質のいいもの、いいサービスを提供する」を企業理念として、産業用ドローンを使ったVR映像の撮影サービスや、3Dに関わる映像加工サービスを提供している株式会社iishina(いいしな)。その事業の概要と、2021年に参加した「五反田バレーアクセラレーションプログラム」で役立ったこと、その後の事業展開について、代表取締役の纐纈(こうけつ) 修さんに聞きました。
(iishinaの軌跡)
2021年4月 会社設立、SHIPで法人登記
2021年9月~2022年3月 五反田バレーアクセラレーションプログラム2期 参加
(プロフィール)
纐纈(こうけつ) 修さん 株式会社iishina 代表取締役
新卒で外資系複合機メーカーに入社。富士通グループにてSE、大手人材紹介企業の情報システム部での経験をふまえ、2017年に独立。過去の経験を活かしてITコンサルやWebアプリ制作を行い、2021年4月に株式会社iishinaを設立。
空間撮影とドローン測量、2軸の3Dデータ制作&企画提案で顧客に価値提供
―まず、iishinaの事業について教えてください。
纐纈 修
今は大きく2つあって、まず空間撮影サービスです。3Dスキャナー・360°カメラを使って、室内や屋外を3D化するサービスで、それに付随するシステム開発も行います。
事例としては、撮影したデータをバーチャル会場にして、eコマースシステムのShopifyと連携してバーチャルショッピングができる空間にするといった映像加工を当初は行っていました。最近は医療業界の展示会をメインにバーチャルイベント映像を制作しています。実際に、医療卸会社が年2回開催する展示会で、期日中に来場できなかったお客様向けにバーチャル映像を作るために、展示会場全体を丸ごとバーチャル映像化して、アーカイブ的に見てもらえるコンテンツ制作を行っています。また、お客様のほうで、過去の展示会のバーチャル映像を出展の営業に活用されたりもしていますね。
当社としては動画データを提供した後も、そのデータが当社のサーバーに置いてあるので、保守を含め、使われ方を把握しながら適宜編集や更新も提案しています。
―もう1つはどのような事業ですか?
纐纈 修
2023年から始めたドローン測量サービスで、レーザーで精密に地形情報を読み取って3Dデータ化し、地形や建造物の三次元モデルを生成します。
これは、ある企業の工場向けに企画書を書き、中小企業庁の小規模事業者持続化補助金で企画が通ったので、約400万円する産業用ドローンを購入して始めたものです。ですので、今も工場がメインですね。
具体的には、工場が何万平米と広く、現場まで車で15分ほども走らねばならないところを、ブラウザ1つで見られるような仕組みをお客様が持っており、その撮影やデータ加工を当社が担当しています。特定の箇所に老朽化や不具合がないかを、現場に行かずとも事務所から検知するといった使い方がメインです。特定の機器や配管など、図面にあるものを3Dデータで見られるわけですね。
ドローンで撮影することで、地上からは足場がなくて撮れない屋根等の部分も映像化できます。当社は、この仕組みの構想段階からコンサルティングに入っており、サービス開始から撮影を担っています。自社内で行うよりも、フットワーク軽く撮影を行えるのが喜ばれています。
アーリーステージの起業家同士、親密な交流で情報交換や連携も
―2021年の「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に応募された理由を教えてください。
纐纈 修
会社を設立したのが2021年4月で、品川産業支援交流施設(SHIP)で法人登記をしていたところ、こういうプログラムがあると勧められたのがきっかけです。参加者への特典がいろいろあり、ちょうどシステムを作ろうとしていたのでAWSのクレジットが魅力的だったのと、その期はDMM.comがプロデュースしていて、秋葉原に当時あった同社のコワーキングスペースの無償利用が特典になっていたのにも興味がありました。
また、パートナー企業に実証実験や営業的なアピールができればというのも期待しました。実際、東急など2~3社とお話をさせてもらいました。
―実際にプログラムに参加して役立ったことはありましたか?
纐纈 修
DMM.comでもVR事業を行っていたので、プロダクト制作担当といったVRの専門家とメンタリングをセッティングしてもらいました。そこでアドバイスされたのは、対象とする業界を最初から広げすぎてしまわずに、ある程度絞り込むということでした。当時はかなり広げてしまっていたので、アドバイスに従って絞り込んだおかげで、現在のように成果を生むことができたと感謝しています。
私自身、個人事業主としては20年ほど事業を行ってきましたが、改めて経営者として事業化を進めるための道筋を、このプログラムで学べたと実感しています。
―そのほか、役立ったことがあれば教えてください。
纐纈 修
大きかったのは、他の参加者とのつながりができたことですね。当社は設立したばかりでしたが、会社設立から3年目くらいの人もいたので、事業の成長の様子や資金繰りのし方などを具体的に聞くことができ、役立ちました。また、互いにお客様を紹介しあったり、一緒に提案して成約を目指そうと行ったこともありました。スタートアップにとって見込み客や営業機会というのは貴重なので、そうしたつながりから得られるのは有難かったです。
―参加者同士でそのような話もできるくらい、関係性を築けたのですね。
纐纈 修
そうですね。研修の後で飲みに行ったりもして、腹を割って話せるようになりやすかったと思います。また、一般的な交流会だと、当社事業についてイチから相手に説明する必要がありますが、アクセラレーションプログラムではKick Offで各社の事業をプレゼンしていますので、それぞれの状況を分かったうえで話を積み重ねていくことができます。だから、より深くつながりを持てるわけですね。
自治体の支援制度を活用して、資金の少ない創業期を乗り越える
―「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に参加された後に、事業はどのように変化されましたか?
纐纈 修
もともと空間撮影をやろうとしていましたが、メンタリングのアドバイスに従って、対象とする業界を絞り込むようにした結果、医療業界でのニーズが高く、その領域で仕事を増やすことができています。また、学校などに対して、小中一貫校への再編成に伴う廃校や老朽化による建て替えなどに際して、ニーズがありそうだと見込んでおり、具体的な案件に取り掛かれそうです。
今スタッフは私ともう1人です。私が企画提案を行い、もう1人が現場での撮影などをメインに行ってくれています。ようやくドローン事業が軌道に乗り始めたので、そろそろ採用を考えたいですね。
―SHIPで法人登記をされていたり、小規模事業者持続化補助金を活用されたりと、自治体や国のサービスをうまく活用されていますが、意識されているのですか?
纐纈 修
SHIPは家族の勧めで利用し始めたのですが、起業家同士の人脈を広げることもできると気に入って、頻繁に利用しました。最近は機材が増えたので作業場を借りていて、そちらやお客様先に行っていることが多く、SHIPの利用は週1回程度ですね。
また、スタートアップは特に創業当初は資金がないので、補助金などは積極的に活用すべきだと思います。小規模事業者持続化補助金は販路開拓につながる設備の導入のためということで、約400万円もするドローンを購入でき、その後の事業にしっかりとつながっているので良かったです。
品川区では、融資あっ旋制度も活用しました。取り扱い金融機関からの融資において、品川区が利子の一部を補給してくれるので、低利で融資を受けられるというものです。スタートアップにも役立つ施策がいろいろ考えられていますから、チェックすべきですね。
―最後に、スタートアップとして成長を目指す人へアドバイスをお願いします。
纐纈 修
まずは、やらないと始まらないので、とにかく行動を起こすことだと思います。そして、やりたいことを日頃から口にし、アピールしておくこと。そうすると意外と、叶えてくれる人が現れたりしてくれるものです。私自身、個人事業主の頃から普段の人付き合いのなかで、できることを意識して発信してきました。たとえば、行きつけの飲食店などでも「Web制作をやっています」と言っていると、仕事につながったりするのですね。SNSで発信するのもよいですが、対面で直接伝わるもののほうが形になりやすいように思います。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。