品川区

品川区内の起業家・スタートアップを応援し、最新情報を発信 SHINAGAWAism 品川区スタートアップナビ

【イベントレポート】「スタートアップ×大手企業 ”共創”に向けた個別相談会」大手企業がスタートアップに求めるものとは?登壇企業との個別面談も開催

イベントレポート 2025.8.8

【イベントレポート】「スタートアップ×大手企業 ”共創”に向けた個別相談会」大手企業がスタートアップに求めるものとは?登壇企業との個別面談も開催

開催日

2025年06月09日

会場

CITY HALL & GALLERY GOTANDA 品川区立五反田産業文化施設

(東京都品川区西五反田8-4-13 五反田JPビルディング3階)

参加費

無料

詳細

品川区では2023年より、大手企業の担当者がスタートアップとの協業実績などを伝える「スタートアップ×大手企業」イベントを開催しています。3回目となる今回は「スタートアップ×大手企業 ”共創”に向けた個別相談会」と題し、6社が登壇。会の後半では、登壇企業とスタートアップが技術連携や新規事業開発など多岐に渡る相談ができる個別相談会が行われました。スタートアップが大手企業と連携する秘訣は? 大手企業の担当者から直接ニーズを聞くことができるイベントには、多くのスタートアップ関係者が集結。今回は「五反田バレー*1」から生まれる共創の最前線をご紹介します。

多くのスタートアップが抱えるテーマ「大手企業との協業」


品川区では2022年から、大手企業の投資・新規事業担当者といったプロフェッショナルがスタートアップを支援する「スタートアップアドバイザー事業」を実施しています。事業計画のブラッシュアップはもちろん、IPO*2やM&A*3準備といった、シード期〜ミドル期・レイター期まで幅広いスタートアップ特有の課題に対してサポートを行ってきました。

寄せられる相談の中でも多いのが、大手企業との連携というテーマ。「協業の方法や進め方がわからない」といったスタートアップの声がある一方で、大手企業側もオープンイノベーション推進や自社が抱える課題解決のために、アクセラレータープログラム*4などで自社のリソースを活用できる有望なスタートアップとの協業を求めています。そこで品川区では「スタートアップ×大手企業」と題して交流イベントを開催してきました。本イベントでは、スタートアップが大手企業や投資家にプレゼンテーションをする「ピッチ」とは反対に、大手企業側がスタートアップにアプローチする「リバースピッチ」の手法を採用。イベントを通して相互の理解を深め、スムーズにマッチングできる環境を整える狙いです。

3回目の開催となる今回、会場となったのは2024年5月1日に開業した「CITY HALL & GALLERY GOTANDA 品川区立五反田産業文化施設」。

イベント前半に6つの大手企業による「リバースピッチ」が行われた後、後半には登壇企業の担当者との個別相談会が実施され、参加者たちの熱気あふれる時間になりました。

【SGホールディングス株式会社】協業での成功体験が、経営層の考えを変えた

最初に登壇したのは、佐川急便を中核とした総合物流企業グループの純粋持株会社「SGホールディングス株式会社」の井ノ上氏。井ノ上氏がスタートアップとの協業の具体的な事例として挙げたのは、2022年に始まった同社グループ内の車両事業会社「SGモータース」とスタートアップ「Hutzper」との事例でした。
AI解析技術に強みを持つ「Hutzper」とともに、過去の整備データから故障リスクの高いパーツを予測する「車両故障予測ツール」を共同開発。予防的な整備により、年間整備回数を半分にまで削減できるといいます。「AIによるデータ分析だけでなく、熟練作業員のノウハウを用いて予測の裏付けを行っている」のがこのツールの特徴。スタートアップの技術力とグループの知見の融合により新たな価値が生まれているのです。

現在は、全国拠点での実用化に向けた最終調整段階。順調な進捗の背景について井ノ上氏は「過去の協業成功経験で培われた経営層の理解、現場担当者の協力、『Hutzper』さまの柔軟な視点」があると分析します。
今後は観光、低温物流、半導体物流といった成長産業において、SGホールディングスの物流の知見を活用し、新たな価値を創造できるスタートアップとの協業を進めたいと呼びかけました。

 

【株式会社セブン銀行】日本全国2.8万台のATMを「タッチポイント」に


「もし皆さまの事業に、日本全国28,000のタッチポイントが加わったら?」という問いかけで始まった「株式会社セブン銀行」栗原 宏幸氏の登壇。全国に約2.8万台のATMを持つセブン銀行は、このタッチポイントを強みに、スタートアップとの共創を通じて「あったらいいなを超える」未来の創造を目指しています。
今後連携したい分野はFinTech*5、GovTech*6、AGE Tech*7、Web3*8など広範。特にセブン銀行の資産である「ITやコンビニチャネルを活用できる企業を求めている」と語りました。

共創手法は、スタートアップ出資と、年に一度開催されるアクセラレータープログラムの二本柱。これまで出資をした企業の中には「タイミー」や「カンム」といった飛躍的な成長を遂げた企業もあります。アクセラレータープログラムではセブン銀行社員が事業のブラッシュアップに参画。さらに社長を含む役員が採択案件を決定することで、スピーディに事業化できることが特徴だと語りました。
最後に栗原氏は「様々なアイデアを一緒に実現させていきたい」と述べ、セブン銀行ならではの強みを生かした共創に期待を寄せました。

【東急株式会社】24時間365日スタートアップとの協創を可能に

交通、不動産、生活サービス、ホテルなど幅広い分野の事業を手掛ける「東急株式会社」から吉田 浩章氏が登壇しました。東急は2015年に「鉄道会社として初のアクセラレートプログラムを開始」し、2018年からは24時間365日応募可能な体制へ。その後も、スタートアップからの提案を待つだけでなく、東急がグループで抱えるニーズをサイト上で開示し、より効率的なマッチングを目指すなど積極的にオープンイノベーションを推進してきました。

東急グループのオープンイノベーションの特徴は、共創の幅広さです。31事業者が参画し、広範なアセットを持つ東急だからこそ、多様な共創を実現できると吉田氏は述べます。さらに、選考を毎月行うことで事業共創のスピードも向上。これまでに1,000件超の応募から約140件が協業に繋がり、50件超が本格導入/事業化へ進みました。さらにシェアサイクル事業を展開する「OpenStreet」をはじめ業務・資本提携を9件結んでいます。

 

【株式会社テレビ朝日】クイックな実証がカギ。IPを活用した新規ビジネス創出

2026年春に複合型エンタテインメント施設「東京ドリームパーク」がオープンを控えるなど、新たな試みを続ける「株式会社テレビ朝日」。登壇者の清水 智晴氏は「新しい時代のテレビ朝日」を掲げる中期経営計画において、新領域開拓を重要な戦略の一つに位置付けていると語ります。「特にIPなどを活用して新しいビジネスを行っていきたい」と新規事業創出への意欲を示しました。
清水氏が所属する「IoTv(インターネット・オブ・テレビジョン)センター」は、「数年先の本格事業化を目指してビジネスのタネを創出」することをミッションに据え、エンタメ領域を中心にスタートアップとの連携を進めています。重視しているのは「クイックな実証実験」。全国の系列局やグループ会社を巻き込んだ連携が強みです。

キー局初となるNFT販売トライアルに、資本提携した「クラスター」とのメタバース領域でのコンテンツ制作や地上波連携施策。他にも、説明書なしで楽しめるハイパーカジュアルゲームの開発やAIを活用したコンテンツ開発など、スタートアップとともに多角的に実証や新規事業を展開しています。
今後も領域に捉われずに、協業を通じてエンタメの未来を切り拓いていく考えを示しました。

【株式会社明治】食の未来を共創するオープンイノベーション

明治グループの食品セグメントを担う「株式会社明治」からは、松浦 枝里子氏が登壇。「株式会社明治」は2021年にイノベーション事業戦略部を新設し、新規事業開発を加速させています。
取り組みは大きく3つの柱で構成されます。1つ目は、若手・中堅社員が新規事業を立ち上げる社内プログラム「mBD」「I-meiji」などの社内創発。2つ目は、既にローンチした新規事業の運営。賞味期限1日のチーズ「FRESH CHEESE STUDIO」や、腸内タイプに合わせたパーソナルケアサービス「Inner Garden」など多様な事業展開を紹介しました。

3つ目は、社外創発です。2021、2022年度に実施された「明治アクセラレータープログラム」では全12社を伴走支援。現在は社内でのアクセラレーションプログラムではなく、自治体のプログラムに参加することでスタートアップとの共創を模索しています。そこから生まれたのがミルクサワー「MILK MOON」です。脱脂粉乳や廃棄間近の食材の活用法を探り「Beer the First」と共同開発。2025年3月に発売されました。
今後は「メンタルウェルネス」「食品素材のアップサイクル」「食のバリアフリー」「食の最適化・栄養パーソナライズ」4分野に注力したいとし、ヒトと地球の健やかな未来を目指すビジョンを提示しました。

 

【コニカミノルタ株式会社】事業シナジーだけでなく、マインドのマッチを重視

「我々には変えたい世界があります」という言葉で参加者を惹きつけたのは、「コニカミノルタ株式会社」の藤原 崇史氏。藤原氏は、ポストに投函されたチラシが読まれずに捨てられるような「悔しいコミュニケーション」を解決する新規事業「AccurioDX」を推進しています。強みであるデジタル印刷機を活用し、印刷物をパーソナライズすることで無駄を減らし、双方向のコミュニケーションを創出することを目指しています。
実際に、冷凍弁当のサブスクサービス「三ツ星ファーム」との取り組みでは、チラシからWebへの遷移率が1.7倍に向上。今後は「EC通販業界、医薬品業界、教育業界でのコミュニケーション変革に取り組んでいきたい」と展望を語りました。

自治体のアクセラレータープログラムへの参加を含め、これまでに300社に及ぶ企業と共創を実現してきたコニカミノルタ。新しい価値を生み出すうえで、事業シナジー以上に大事にしているのが、マインドだと藤原氏は語ります。「我々は『DIY=出ろ、行け、やれ』を大切にしています。既存の枠組みから出て、現場や顧客のもとへ行く。そして小さいことからでも何かやる」。マインドがマッチする企業と協業したいと思いを語りました。

 

「スタートアップ×大手企業」イベントから実現した協業の道のり

最後に登壇したのが、前年の「スタートアップ×大手企業 事業壁打ち相談会」に参加し、コニカミノルタとの協業を実現した「北海道イノベーション&インキュベーション」の加藤 恭己氏。スタートアップ側の視点から、協業への道のりを紹介しました。
加藤氏は協業にあたって「事前に事業シナジーをイメージすること」を意識したといいます。イベント参加前に企業リストを見た段階で「コニカミノルタさん一本釣り」を狙っていたとのこと。さらに相談会だけでなく、その後のメールでのコミュニケーションを通じて関係性を深めたことが、プロジェクト実現に繋がったと話しました。
実際に協業を経て感じたのは、大企業の信頼を借りられるというメリット。規模が小さく、信用を得にくいスタートアップにとっては大きな利点だったといいます。一方で、継続的な関係を構築・維持していくためには、スタートアップ側も大企業に「ギブできる要素」を持つことが重要だと強調しました。加藤氏は元々大手広告代理店にいた経験から幅広い業界にネットワークがあり、コニカミノルタが興味を持つ業界の人を繋ぐことを通して「Win-Winの関係を作る」ことを意識していると話しました。

プログラムの最後には、参加したスタートアップが、希望する登壇企業と面談できる個別相談会が実施されました。中には1企業で2つのブースを設置している大手企業もありましたが、壁に貼られた15分刻みの面談スケジュールの紙には面談予定がびっしり。会場後方に作られた各企業のブースへ参加者が足を運び、どのテーブルでも活気ある対話が繰り広げられていました。

スタートアップを多く生み出し、大きく育てていくためには、多様な組織や人が関わる環境「スタートアップエコシステム」が欠かせません。品川区では、スタートアップの成長を加速させる大手企業との交流プログラムを多く実施しています。
まずは5回まで無料でメンターからアドバイスがもらえる「スタートアップアドバイザー事業」に応募し、個別に相談してみてください。
https://shinagawa-ism.com/startupadvisor/
※情報は2025年6月時点のものです。

*1 五反田バレー:IoTやAIのスタートアップが集積する五反田エリアのこと。アメリカのシリコンバレーになぞらえている。
*2 IPO:新規公開株式。未上場企業が新規で株式を発行して証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにすること。
*3 M&A:企業の合併や買収のこと。
*4 アクセラレータープログラム:事業会社がスタートアップと協業・出資し、双方のビジネスの成長を目指すプログラム。アクセラレーションプログラムとも。
*5 FinTech:Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語。金融サービスと情報技術を結びつける分野のこと。
*6 GovTech:Government(行政)とTechnology(技術)を組み合わせた造語。情報技術で行政の業務を効率化する分野のこと。
*7 AGE Tech:Age(年齢)とTechnology(技術)を組み合わせた造語。超高齢化社会へ対応するサービスや技術を開発する分野のこと。
*8 Web3:ブロックチェーンなどの技術によって実現される次世代の分散型インターネットのこと。

執筆者

エディターチーム

インクデザイン株式会社

わかりやすく、おもしろく。経営の課題をデザインの力で解決する、デザイン・コンサルティング会社です。

編集者

品川スタートアップ・エコシステム事務局(運営:株式会社ツクリエ)

スタートアップを応援するまちしながわ

TOP