【イベントレポート】「SHINAGAWAイノベーションフォーラム2023」 ChatGPTで注目! 生成AIがもたらすビジネス変革の可能性を紹介
開催日
2022年10月31日
会場
SHIP品川産業支援交流施設 大崎ブライトコアホール/多目的ルーム
参加費
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詳細
情報通信業の交流・連携の促進により、新規ビジネスの創出やビジネスチャンスの獲得を目指している品川区で、2023年10月31日に「SHINAGAWAイノベーションフォーラム」が開催されました。ChatGPTの登場で一気に注目され、文章の生成・要約、翻訳や画像・音楽コンテンツの生成などで活用が期待される「生成AI」をテーマに行われた講演や体験会の様子をレポートします。
2会場での講演・事例発表で、生成AI活用の現在地が明らかに
今回は、「生成AIがもたらすビジネスのパラダイムシフトと共創」をテーマに、生成AIに関する国の取り組みや、社会実装を支えるスタートアップの技術、大手企業や自治体での活用事例などを多数紹介。会場となったのは、品川区が運営するSHIP品川産業支援交流施設で、大ホールである大崎ブライトコアホールと、会員制コワーキングスペースに隣接する多目的ルームの2ヵ所。当日13時から18時まで、参加者が意欲的に聴講や情報収集に努める様子が見られました。
プログラムは、本フォーラムを主催する品川区の商業・ものづくり課 小林課長の挨拶で開幕。
そして、総務省 情報流通行政局 参事官補佐の小倉知洋氏が「生成AI時代の安全なAI利活用環境整備について」と題して講演。総務省の令和5年版情報通信白書には、「従来人間が得意としてきた、情報を生成・創造する目的で用いられる生成AIの技術が急速に発展してきた」とあります。自然な対話が可能、精巧な画像生成が容易と大きな便益が期待される一方で、リスクも切迫したものとなるため、2023年5月には有識者や関係省庁による議論で、国際的なルール形成への貢献や、AIの利用促進および開発力の強化が掲げられました。また、ルール形成に向け、「AI事業者ガイドライン(案)」をとりまとめていることが紹介されました。
次いで、東京大学 次世代知能科学研究センターの松原仁教授が「われわれは生成AIとどう付き合っていくべきか」をテーマに基調講演を行いました。松原教授は小説や脚本、マンガなどを生成するAIの研究をされており、AI技術で手塚治虫を現代に蘇らせるプロジェクトを推進。2020年にはオリジナルマンガの「ぱいどん」を、2023年11月には「ブラックジャック」の新作を、AIを用いて作成・発表されています。本講演では生成AIの中でも言語生成AIであるChatGPTに焦点を当て、黎明期の自動車のようにChatGPTもルールを作りながら使っていくべきと示唆されました。その上で、日本製のChatGPTについて、自前で持つべきシステムであり、日本語のデータで精度を向上させ、欧米的考え方をする現在のChatGPTとは別に日本的な考え方を反映するシステムが必要だとし、現在、富岳などのスーパーコンピューターを使った日本製ChatGPTプロジェクトがいくつか進行中だと伝えられました。
そして引き続き松原教授と、経済学者の成田悠輔氏が滞在中のニューヨークからリモート参加で、「生成AIにできること」をテーマに対談が行われました。まず、企業における生成AIの活用法について、成田氏からメール返信、文章の要約、スライド作成など、ホワイトカラーの定型業務はほとんど自動化や補助できる印象だという発言があると、松原教授は各種報告書の作成にすでに使っているとのこと。
次いで成田氏から、言語間翻訳が容易になると英語圏で行われていたことが日本に持ち込みやすくなり、日本での活動も英語圏に輸出しやすくなるのではという意見がありました。松原教授からは、今はインターネットで使用される言語の40%が英語で、日本語は4%だが今後、翻訳・通訳ともに自動化が進むと各国の知見が流通しやすくなる一方、これまで言語の壁で守られていた日本国内に大きな影響をもたらすだろうと指摘。
そこから海外の動向へと話題が移ると、成田氏からは今後の米国大統領選挙では候補者のアバターが有権者1人1人に熱く語りかけるなど、選挙制度が作られたときには想定されていなかった事態が起こり得ると指摘。
一方、松原教授からは、だからこそルール策定が重要であり、違法ソフトのダウンロードのように生成AIの不正利用も監視や予防が必要だろうという話になり、最後は会場からの質問を受けて対談を終えました。
スタートアップによる生成AI活用支援や、大手企業の導入事例を紹介
続いて、企業での取り組み例が紹介されていきます。まず、デロイト トーマツ コンサルティングから生成AI活用法として、6つの活用形態「アイデア生成」「情報収集・文章要約」「資料の自動生成」「ナレッジ検索」「技術支援」「議事録・翻訳」から、たとえば「調査分析効率化」として行政の議事録・ガイドラインの集積、補助金申請の採択情報の集積、「問合せ削減」としてIT系・システムや法務の質疑自動応答などのユースケースが提示されました。
また、生成AIを多様な業務システム共通のインターフェースとすることで業務や組織の構造を抜本的に変革し得ること、RPAを掛け合わせるとさらに自動化の進化が見込めることなどが具体例とともに示されました。
その後は、スタートアップ3社が登壇。1社目のFastLabel(ファストラベル)は、AI開発現場の工数の約9割を占める教師データ作成を支援する自社の技術、ビジネスを紹介。2社目のナイルは、2023年4月に専任1人で生成AIを使ってWebメディアを立ち上げており、自社の生成AI活用実績から行う生成AI活用コンサルティングサービスを紹介。3社目の時空テクノロジーズは、AI文字起こし機能とGPTを活用した汎用AI処理機能を有した議事録ツールを、デモンストレーションを交えて紹介しました。
最後は、大手企業2社が自社内での生成AI活用事例を紹介。まず、東急が宿泊サブスク事業において、ChatGPTによる旅程提案AIを約1ヵ月でリリースした際の、ハルシネーション(AIが出力するもっともらしい嘘)、文字数制限による事前学習の困難などを乗り越えた工夫が紹介されました。また、ベネッセホールディングスでは、入力情報の2次利用はせず、セキュリティ面に配慮し、利用履歴もモニタリングする形で、社内ChatGPT環境を導入。議事録の要約やアイデアのブレスト、サンプルプログラムコードといった活用状況が報告されました。
自治体DXの先陣を切る横須賀市、つくば市でも生成AIを活用
一方、SHIP多目的ルームでもスタートアップ3社が、生成AIのビジネス活用事例を発表。ITコンサルティングを行うTITCは、中小企業向けにChatGPTによる業務効率化を指南。演劇の脚本や美容アドバイス、CAD図面などの自動生成事例とともに、業務効率化のフローや注意点を伝えました。2社目のアドリージョンは、1ヶ月でスマホアプリをリリースしたノーコード開発の裏側と、スタートアップがいち早く市場に参入することで得られるメリットを紹介。3社目のneoAIは、生成AIに特化した東大松尾研発のベンチャーで、ゆうちょ銀行に社内ChatGPT導入を進めるなど、豊富な実績を保有。生成AI活用のポイントや落とし穴を解説しました。
次いで、自治体が取り組む生成AIの活用事例を紹介。まず、2023年4月20日に自治体で初めて全庁でChatGPT利用を開始した横須賀市が登壇。年間9万件を超える公文書作成に活かせるよう、まず文章作成で取り組みを始めています。3800人の全職員が使い慣れている自治体専用ビジネスチャットツールにChatGPTをAPI連携することで1人1人が触れやすく、職員の意識改革を促し、ボトムアップで利用方法を収集してベストプラクティスを横展開させているとのこと。週刊で「チャットGPT通信」をリリースして啓発を続け、職員が活用をイメージしやすくしているのも功を奏しており、今後も行政ツールの改良や新規開発に注力していくそう。
また、2023年8月にはnote社と連携して、生成AIの情報を全国に発信するポータルサイト「自治体AI活用マガジン」の運営を開始したり、2024年には他自治体向けの研修合宿を予定するなど、日本の行政のアップデートにも注力していることが伝えられました。
次に、「科学のまち」つくば市の活用事例が発表されました。2023年4月25日に、自治体専用ビジネスチャットツール上でチャットボット「AI顧問けんじくん」(開発者名より命名)を2150人の全職員に周知し、本格運用を開始。デモを交えて、その活用例(文章の要約、翻訳、素案作成、アイデア出し、検索、メール文面作成、Excelの関数作成)が披露されました。また、全職員向けの生成AIリテラシー研修や庁内向けガイドライン作成についても紹介。このような自治体DXの先に、子育て世代や高齢者、障がい者、外国人にも暮らしやすい街づくりがあり、「ともに創る」ことを目指していくことが伝えられました。
その後は、音声領域のAI活用サービスを2社が紹介。AI対話エンジンを開発・提供するウェルビルは、高齢者とAIアバターが対話することで軽度認知機能障害(MCI)の早期発見・予防につなげる、東京大学大学院医学研究科との共同研究を含む取り組みを紹介しました。
最後にHOYA子会社であるリードスピーカー・ジャパンより、AI音声読み上げ・音声合成によるブランディングの価値向上事例が紹介されました。
以上の講演・事例紹介と並行して、ホワイエでは登壇企業のサービス展示・体験会が行われました。会議での発言が即座に文字起こしされていく様子が画面で見られるなど、活用がイメージしやすく、あちらこちらで質問が飛び交っていました。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。