【イベントレポート】Chatwork創業者 山本 敏行氏が受講生のピッチをその場でアドバイス!「五反田バレーアクセラレーションプログラム研修⑤ Chatwork創業者が語る起業のリアル&シード/アーリーステージのスタートアップが意識すべきピッチのポイント」

イベントレポート 2024.3.5

【イベントレポート】Chatwork創業者 山本 敏行氏が受講生のピッチをその場でアドバイス!「五反田バレーアクセラレーションプログラム研修⑤ Chatwork創業者が語る起業のリアル&シード/アーリーステージのスタートアップが意識すべきピッチのポイント」

開催日

2024年01月11日

会場

TUNNEL TOKYO

参加費

詳細

品川区が、スタートアップの集積地「五反田バレー」の認知度アップや地域活力の向上、区内産業全体の活性化を図るべく実施している「五反田バレーアクセラレーションプログラム2023」。株式会社ゼロワンブースターのプロデュースで2024年3月までの約6ヵ月間にわたって進行中のプログラムから、2024年1月11日に開催された「研修⑤ Chatwork創業者が語る起業のリアル&シード/アーリーステージのスタートアップが意識すべきピッチのポイント」の様子を紹介します。

Chatworkの創業~スケール経験から、起業成功のポイントを学ぶ

会場は、アクセラレーションプログラムの連携パートナーの1つであるセガサミーホールディングス株式会社が大崎で運営するオープンイノベーション施設「TUNNEL TOKYO」。「五反田バレーアクセラレーションプログラム2023」では特典として、そのコワーキングスペースのフリーデスクが1ヵ月無償利用できます。

今回の講師は、Chatwork株式会社の創業者である山本敏行氏。
現在は、エンジェル投資家のコミュニティーを運営するPower Angelsの最高経営責任者(CEO)を務めるほか、日本のエンジェル投資文化の発展を目的として、2023年に一般社団法人「日本エンジェル投資家協会」を設立し、代表理事に就任しています。
今回のプログラムでも受講者の有志5人がその添削を受け、全員でその様子を共有していきます。

まずは、山本氏よりChatwork起業の経緯や競合サービスとの差別化、資金調達の取り組みなどについて、1時間の講演がありました。

そもそも、山本氏は大学在学中の2000年に、サイトの検索エンジンへの登録サービスで起業。家業の音楽スタジオ経営を兼務するなかで、業務を効率よく進めるために当時、一般的にはプライベート用途だったチャットを活用。
また、自社で使い倒してこれと見込んだソフトウェアを代理店となって販売していました。さらに、簡易なアクセス解析ツールをフリーミアム展開しましたが、時代のニーズにはマッチしたものの、Google Analyticsに対抗して同じく500万pvまで無料という戦略でマネタイズに失敗し、2年で撤退。そんな中で2011年に、チャットをビジネスツールにした「Chatwork」をリリースします。
以前の失敗に学び、最初から有料プランで提供。翌年シリコンバレーに米国法人を設立すると、自ら移住して陣頭指揮を執り事業成長を果たします。帰国後は、ChatworkのCEOを共同創業者の弟に譲り、翌2019年東証マザーズへ550億円超の時価総額で上場しました。

これらの経験をふまえ、起業成功のポイントが語られました。
・スタートアップは総合格闘技のようなもので、プライシングなど、1つ間違えただけで負けてしまう。
・ビジネスモデルには、社会課題となるようなペインがあることが大事。Chatworkはビジネスメールの煩雑さをビジネスチャットで解決した。
・インフラを取るようなビジネスの場合、通信会社やGAFAMのようなテックジャイアントが競合となる可能性がある。その状況を把握し、何を強みとすれば勝てるかを考えるべき。
・事業を始めるとき、未知数が2個以上あると成功率は下がる。Chatworkでは、自分たちの経験からチャットで仕事できるのは分かっており、未知数は、クラウドでサービスがうまく提供できるかだけだった。

そして、シリコンバレーのようにメンターがたくさんいる環境を日本でも目指そうと、現在、山本氏が注力されているエンジェル投資家と起業家をつなぐコミュニティの活動が紹介されました。

ピッチの心構えから資料の構成まで、具体的に伝授

プログラムの後半は、山本氏からの「シード/アーリーステージで意識すべきピッチのポイント」のレクチャーから始まりました。自身の資金調達経験などから具体的なアドバイスが語られます。たとえば、下記のような点がありました。

・資金調達をした起業家からVCの評判など、生の情報をたくさん集める。
また、VCの担当者は最初についた人から変わらないので、担当者についての評判もよく
聞いておく。
・ピッチは、30秒・3分・5分の尺で用意する。
・ピッチのポイントは3つ。「ストーリーが明確か」で、Why now(なぜ今なのか)・Why you(なぜあなたなら勝てるのか)を伝える。「共感&応援したくなるか」で、その手があったかと思われるようなユニークな視点や解決策を目指し、口コミしたくなるようなものにする。
そして、地区大会ではなく金メダルを目指すように「できるだけ盛る」。それで考え方
やビジネスモデル、チームの創り方などが変わってくる。ピッチはオーディションや面接、お見合いだと思って、嘘はつかずにアピールすること。
・ピッチの構成は、5分なら「課題」「解決策」「プロダクト」「ビジネスモデル」「市場」「ポジショニングマップ」「実績(トラクション)」「チーム」の順に。
・最初に、感情に響く課題(ペイン)で心をつかむことが大事。
たとえば、ビジネスマンが探し物に費やす時間は年間150時間あるが、Googleドライブなら3分で必要書類が見つかる、など。
・市場はSOM(現実的に見込める市場規模)で数十億円、数百億円レベルは欲しい。
・ポジショニングマップは自社を右上に置けるような切り口で作る。
・トラクションは、導入事例/社数/社名や、ユーザー数の伸び(右肩上がりのグラフ)などで示す。また、投資家は必ず検索するので、自分/自社のブログやnoteはGoogle検索で1ページ目に来るようにしておく。
・チームは、自分を含め3人ぐらいを役割と共に紹介。ビジネスの内容でまず興味を引くことが大事なので、チームの紹介は最後に置く。例外として、ディープテックや保守的な業界の場合は、最初にさらりと触れてもよい。

最後にお手本として、海外スタートアップの初期のピッチ資料や、SEVENで行われた3分ピッチ動画(ディープテックだが、門外漢にも分かりやすくアピールできている)が紹介されました。

その場で指摘されるピッチ資料の改善点を、受講者全員で共有

次いで、受講者5人が1人5分でピッチを行い、山本氏が約10分のフィードバックで、スライドを参照しながら改善ポイントをチェックしていきました。そのなかでは、このような指摘がされました。

1人目
・業務管理系の事業なのに、エンジニア採用の現状の話など冒頭にあって、混乱を招く。課題がストレートに伝わるよう、整理すべき。
・文字サイズは30ポイントくらいにする。細かいと情報量が多すぎて、ピッチに集中してもらいにくい。
・最近では、AIに関するピッチは多いので、本当に勝てるのか、ブームに乗っているだけではないかと思われやすい。他社とは異なる強みなど、説得力が欲しい。
・聞き慣れないキーワードが出てきたが、もっと聞く人全員が分かるようなワードを使うようにしたがよい。
・全体にストーリーが分かりにくい。枚数も多いので、5分で10枚くらいにする。

2人目
・課題の説明を専門領域の担当者以外にも分かりやすく伝えたほうがよい。
・プライシングが安すぎるように思われる。普及したら値上げするというのも昨今は難しい。
・同様のツールのカオスマップが出てきたが、多すぎて逆効果。
・デモはしなくてよいので、このツールで正しいサーベイが得られるのか、説得力ある考察が欲しい。
・ピッチを身近な人に聞いてもらうと、ほとんどの人は「よかった」というもの。
それでは足りず、反射的に「すごい」「これは必要だ」と言ってもらえるまでブラッシュアップさせるべき。業界外の人や家族を相手に話しまくっていくと、痛いところを突かれたりして、良い。ChatGPTにインプットして、懸念点などを聞いてみるのも参考になる。

3人目
・1枚目のキャッチとプロダクトの画面で期待感が持てたが、2枚目に課題が「ストレス社会」という一言で、漠然としすぎた。ここは社会におけるメンタル系疾患の増加などをデータで示すなど、実感されやすいように課題を設定しなおすべき。
・現状だと「あったらいい」くらいの評価に留まりそう。もっと共感を呼ぶ必要がある。
・せっかく良いチームが集まっているので、課題設定や事業自体を見直してもよい。


4人目

・元気で勢いのあるピッチだが、ずっと120%で押していたので、緩急や抑揚が欲しい。フレンチのコースのように、前菜から入ってメインが来てデザートで終わるような流れを意識してみては。
・全てのスライドの右上に社名ロゴが入れてあるが、これは不要。
・類似製品との比較表で、自社が一番右に置いてあるが、目線は左から右に動くので、自社は一番左に置くほうがよい。
・4分割のポジショニングマップで、自社が右上にあるのはよいが、左下に多数のサービスがあって、他がスカスカなのはやり過ぎ。バランスよく配置できる切り口を見つけてほしい。
・企業からの声が数社分あったが、自分でも書けそうな抽象的な内容なので、できれば社名や担当者名を入れて、自社プロダクトの良さをユーザーの声を通して伝えられるようにしたい。

5人目
・全体に、スライドごとの情報量が多すぎて読みきれない印象。
・ピッチの流れとして、SEVENでVR領域で評価の高かったピッチ事例を紹介するので、参考にしてほしい。VRは普及が進んでいないように思われるが、北米ではゲーム領域で3年で20倍。
また、独自技術でVR酔いを解消。さらに、映画化もされた有名コンテンツの単独ライセンスを取得したというピッチで、メディアに取り上げられたトラクションもあり、資金調達を成功させて、現在サービスリリース間近とのこと。こうした例で魅力的な部分を参考にしてほしい。

こうしてプログラム終了後は交流会が持たれ、山本氏との名刺交換・アドバイスを求める人も多く、個別の相談や受講者同士の議論が弾んでいました。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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