【イベントレポート】VCの実情などを交え、資金調達をリアルに解説「五反田バレーアクセラレーションプログラム 研修④ スタートアップが知っておくべき投資ラウンドごとの資金調達」

イベントレポート 2025.2.19

【イベントレポート】VCの実情などを交え、資金調達をリアルに解説「五反田バレーアクセラレーションプログラム 研修④ スタートアップが知っておくべき投資ラウンドごとの資金調達」

開催日

2024年12月12日

会場

MUFG SPARK

参加費

詳細

品川区が、スタートアップの集積地「五反田バレー」の認知度アップや地域活力の向上、区内産業全体の活性化を図るべく実施している「五反田バレーアクセラレーションプログラム2024」。株式会社ゼロワンブースター(以下、01Booster)と連携して2025年3月までの約6ヵ月間、実施中のプログラムから、今回は、2024年12月12日に開催された「研修④ スタートアップが知っておくべき投資ラウンドごとの資金調達」の様子を紹介します。
 

出資か融資か? 資本政策の注意点は? 受講者が今知っておくべきポイントを伝授

今回の会場は、アクセラレーションプログラムの連携パートナーの1つであるMUFGグループが日本橋で運営する共創施設「MUFG SPARK」のイベントスペース。アクセラレーションプログラム参加者には、MUFGグループでのスタートアップサポートが提供されるため、研修の冒頭にはその内容の説明が行われました。

講演では、独立系VCの草分けであるエス・アイ・ピー株式会社の取締役 原田憲一氏が登壇。原田氏は、中小企業基盤整備機構などにおけるベンチャー支援事業に多数従事されています。
原田氏は昨年の「五反田バレーアクセラレーションプログラム2023」で行われた研修が好評で、今年も引き続き「スタートアップが知っておくべき投資ラウンドごとの資金調達」をテーマに登壇。株式/資本政策・企業価値・VCにポイントを置き、基本知識や用語を解説しつつ、それがスタートアップにとってどう重要なのかを説明していきます。今回は、最初に受講者各人からも自己紹介を行い、融資や資金調達の状況や考えを挙手で確認したところ、すでに融資を受けているのが5~6人、エクイティでの出資を検討中が3~4人。そのような状況をふまえて講義が始まり、以下のような点が語られました。

<「株式/資本政策」について>

・資金調達にはいろいろな方法がある。株式で調達するのが、一般的に出資といわれる第三者割当増資のほか、株主割当増資や公募増資、IPOに伴う新株予約権など。また、債権譲渡や売掛金の現金化のように、早急にキャッシュが必要な場合の対応策があったり、公的補助金やクラウドファンディング、寄付など、調達手段にはさまざまある。
出資を受けるのはメリットもデメリットもあり、融資で間に合うならそれでよいという考えもある(実際、原田氏がサポートしているスタートアップ約50社では、出資と融資は半々くらい)。

・出資か、融資かを決めるポイントは、資本コスト(資金を調達するために支払う代金)。融資では利息がそれに当たるが、出資では株主から融資より高いリターンを求められるため、企業価値向上へのプレッシャーが大きい。また、自社株買いによって株主が保有する株式を高く買う可能性もある。このように資本コストは株式の方が高いため、出資なら返さなくてよいと安易に考えるべきではない。

・株主には会社の経営に参加する権利と、利益の分配を受ける権利がある。議決権は、2分の1以上の承認で取締役の選/解任や報酬、剰余金の配当などが、3分の2以上の承認で定款変更や合併、事業譲渡などができるので、これらに留意して調達を行っていくことになる。

・株式の種類には、普通株式・種類株式・新株予約権付社債(CB)・有償新株予約権(J-KISS)などがある。新株予約権を与えるストックオプションでは、「手元に現金がない場合でもインセンティブを付与することで優秀な人材を採用できる」「付与した役職員のモチベーションを高められる」「安定株主比率を維持できる」などのメリットがある一方で、「行使して現金を獲得した人材が流出する可能性がある」「役職員間で付与の有無や付与条件の差により不満を持たれる可能性がある」といったデメリットもある。PR TIMESやSmartHRが採用したような信託型ストックオプションであれば、こうしたデメリットの解決が可能。

・資本政策のポイントは、「株主構成(持株比率)」「創業者利潤」「増資のタイミング」「ストックオプション」。「資本政策は後戻りができない」と言われるのは、株式は自由に買い戻せないのと、トラックレコードが残るため価格を自由には決められないから。また、希薄化(新株発行や増資などにより1株あたりの価値が低下すること)についても留意が必要。

<「企業価値」について>

・バリュエーション(プライシング)とは、本来の企業価値に対して、株価が安いか高いかを判断する評価額。株価は相対なので、いずれの株価であっても法的に問題はないが、最初に高くし過ぎると、その後の調達の際にキャピタルゲインのメリットが少ないと見られて引き受け先を見つけにくい可能性がある。また、株価を時価より下げ過ぎると、低廉譲渡や贈与と見なされ、課税リスクが発生する可能性がある。

・ラウンドごとに、事業計画をもとに今後の予想売上、設備投資、利益などとともに企業価値を出してVCと交渉する。VCには各社ごとにバリュエーションの計算式があり、それによる数字と、自分たちが提示する数字には差がある可能性もある。そのため一概に相手に合わせるだけでなく、合致するVCを探すことも大事。

・株価算定方法は大きく3つ。「コスト」で判断するか、「市場」から判断するか、「収益性」から判断するか。「コスト」の場合は決算書の数字で判断されるので、売上ゼロなら将来性があっても投資には不向きと見なされやすい。一般的には「市場」から判断することが多く、比較する会社の市場での価値や、事業計画における成長性などで見る。「(将来も含めた)収益性」から判断するのが、最も高くなりやすい。

<「VC」について>

・VCには政府系(官民ファンド)、証券会社系、銀行・生保系、事業会社系、独立系、業種特化系などがある。近年増えている、事業会社によるCVCでは、各社で方針は異なるが、エコシステム形成や事業オプション拡大、テクノロジーソーシング、新ビジネスの顧客創造などが目的とされている。

・初期フェーズの投資判断で最も重視されるのは、経営者・経営チーム。カナダの大学によるアメリカのVC850社への調査では、投資判断の最重要ファクターは「ビジネスモデル」「プロダクト」「市場」を差し置いて、「経営チーム」が50%近くを占めている。

・日本の主要キャピタリストらの発言を見ても、「市場規模」以上に「経営者・経営チーム」が挙げられ、「経営者の覚悟」や「目指す方向性」も重視されている。突き詰めれば、実行力。事業が苦しい局面でも逃げ出さずにやり切れるか、このメンバーで最後までやっていけるのか、を見られているといえる。

・資金調達はまだ先という人も、スタートアップイベントなどで早めにVCとコンタクトしておくほうがよい。いよいよ投資の段階となってから関係性を作ろうとしても手遅れとなることが多い。VC側も、早い段階でも話を聞いてくれるはず。

最後に、資金だけでなく人間関係が続いていくことになるので、どのVC、どのキャピタリストから出資を受けるかは大事。キャピタリストの考え方やカラーはそのVCのトップと似がちだが、それ以外にもYouTubeやSNSなどでの発信を参考にしたりして、自分との相性を考えるとよい。また、上場時には株主も審査対象になるため、エンジェル投資家については周辺事情も見ておくべき。

さらに、資金調達は意外と時間がかかり、手間とストレスがかかるものだと覚悟してほしい。また、出資元の要望でも、自分ができないことにはコミットしないこと。できるといっておいて、後でできずにトラブルになるのはよく見受けられる、といったアドバイスがありました。

OB/OG受講者がプログラム後の事業進捗や活躍を報告

その後は質疑応答が活発に行われ、以下のようなやり取りがされました。

・投資判断で経営者・経営チームが最重要とのことだが、市場規模についてはどういう点を見られるのか?
→これも当然重要であり、今後の人口変動などの客観的なデータに加え、そのVC・キャピタリストが志向する世界観なども影響する。特にディープテックでは、グローバル展開の可能性なども重要。
経営者・経営チームについては、資料で分かるものではなく、直接の対話で覚悟や考え方、たとえばピボットに対する柔軟性といったものまで見るということ。経営チームについては、デビュー前のバンドがメンバーを入れ替えたりするように、このメンバーでやりたいことを本当に実現できるか、役割が重なっていないかなどを見られる。

・CVCの最近の傾向があれば教えてほしい。
→最近は中堅の事業会社や商社による投資が活発化している。
一般にCVCがVCと違うのは、関連会社になることを嫌って、持株比率を上げたがらない事業会社が多いこと。数%の出資というのもあり得る。またCVCでは、その事業会社のリソースを使わせてもらえるのも大きなメリットになる。いろいろな事業会社とつながりたい場合には、複数のCVCが入れるよう、エクスクルーシブな契約にならないような雛形を自社で作っておき、示しながら広げていくとよい。

・会社員をやりながらサイドビジネスで起業しているが、VCから投資を得られるか?
→投資契約に専任義務が盛り込まれる可能性が高く、代表であれば専任でないと難しいかもしれない。ただ、時代は変わってきているので、ぜひチャレンジして調達できた成功事例として広めてほしい。

プログラムの最後には交流会が行われ、登壇された原田氏に名刺交換や、より自社の状況をふまえた質問や相談などがなされたり、受講者間でも情報交換などが活発に行われていました。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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