【イベントレポート】その場でピッチの構成やスライドの改善ポイントを指摘!「五反田バレーアクセラレーションプログラム 研修⑤ Chatwork創業者が語る起業のリアル&シード/アーリーステージのスタートアップが意識すべきピッチのポイント」

開催日
2025年01月09日
会場
TUNNEL TOKYO
参加費
ー
詳細
品川区が、スタートアップの集積地「五反田バレー」の認知度アップや地域活力の向上、区内産業全体の活性化を図るべく実施している「五反田バレーアクセラレーションプログラム2024」。株式会社ゼロワンブースターのプロデュースで2025年3月までの約6ヵ月間、実施中のプログラムから、2025年1月9日に開催された「研修⑤ Chatwork創業者が語る起業のリアル&シード/アーリーステージのスタートアップが意識すべきピッチのポイント」の様子を紹介します。
Chatwork 18億円資金調達の裏側から、起業やスケールのポイントを学ぶ
今回の講師はChatwork株式会社の創業者である山本敏行氏。現在はエンジェル投資家コミュニティ「Power Angels」を運営して、起業家の発掘からパワーエンジェル投資家(資金だけでなく支援を提供できるエンジェル投資家)による資金調達、EXITまでを支援しています。
プログラムは2部構成で、第一部ではChatwork起業の経緯や競合サービスとの差別化、資金調達の取り組みなどを通して、創業におけるハードシングスについて講演。第二部ではまず、投資家に伝わるピッチについてレクチャーがあり、そのポイントをふまえ、受講者4人がピッチを行い、その場でフィードバックを受けました。
それぞれの内容は以下のとおりです。
第一部「Chatwork創業者が語る起業のリアル」の前半ではまず、山本氏がエンジェル投資家に向けて発信している「エンジェル投資家が投資してはいけない起業家の特徴」を、起業家としてセルフチェックに役立ててほしいと、その内容が披露されました。
・レスポンスが悪い
メールなどのレスポンスが遅いと、全てにおいて遅いと想像される。投資家に対してレスポンスが遅ければ、社員や顧客に対しても遅いし、意思決定も遅い。
・原体験がない
上場まで10年はかかり、その間ハードシングスが数多あるなかで勝ち抜くには、アイデアだけでは難しい。原体験があってこそ、乗り越えられる。
・頑固/素直過ぎる
頑固さも素直さも大切だが、どちらも過ぎると株主や顧客につぶされてしまう。竹のようなしなやかさと芯の強さを持ち合わせていることが大事。
・即答できない
たとえば、ピッチ後の質疑応答で即答ができないようでは、それだけ熟考や行動、実証ができていないということ。現時点での課題を3つ、その場で答えられるくらいが望ましい。
そのほか、「チームを作れない」「地頭は良いが客観的な視点が弱い」「人に会わない」なども挙げられていました。
また、ジャンルについても挙げられ、多くの受講者にとって、投資家からはこのように見られているのだと、新鮮な視点が得られているようでした。
・流行りもの・バズワード系
Web3やAI、メタバースなど、ブームのジャンルについては、本当にそこに強みがあるのかが見極められなければ投資は難しい。
・スポーツ・音楽・アート系
マネタイズが難しい領域なので回収は難しい。寄付する気持ちでできるなら。
・文化・価値観を変える系
大手企業が億円単位でのキャンペーンを展開してようやく変えられるかという世界なので、スタートアップの手には負えない。
・ハード・ディープテック系
投資するなら、VCのフォローで入る。
・SNS系
かなり飽和状態な領域なので、VCが続いてくれない。
・学生向けサービス
顧客が学生のみだと卒業すれば切れてしまうので、新規顧客を取り続けなければならず、継続的なマネタイズが難しい。
・美容系
良いものであれば売れる世界ではなく、マーケティング勝負なので、大手が有利。
・若者×保守的な業界
たとえば食品、製造、医療などの業界経験がない若者が提案してもサービスは広がりにくい。逆に、業界一筋数十年のベテランが経験や知見をふまえて挑戦するほうが投資先としては魅力的。
そして第一部の後半では、山本氏がChatworkで18億円資金調達した舞台裏が語られました。
そもそも山本氏は学生時代の2000年に創業し、2010年まで増収増益でさまざまな事業を手がけてきましたが、世界で戦えるサービスを作ると決めて取り組んだのがChatworkです。2011年にリリースし、翌年シリコンバレーに米国法人を設立すると、自らも移住。やがて、数多あった競合が2014年Slackの登場で一斉に撤退しますが、Chatworkは日本市場で伸びていたので問題なし。ですが、同じように日本で非エンジニア層に普及していたEvernoteがビジネスチャットへの参入を発表したため、資本政策を転換して資金調達を決断。そうして2015年、2016年にそれぞれ3億円と15億円という大型調達を実現させた経験をふまえ、さまざまなポイントが解説されました。以下はその一部です。
・まず一次情報を収集。資金調達経験のある経営者になるべく数多くあたり、VCやキャピタリストの評判や接し方など、リアルな話を参考にする。
・VCとの交渉ではFOMO(fear of missing out:取り残される、見逃すことへの恐れ)を意識する。後に大成功したスタートアップに、初期に投資するチャンスがあったのに逃してしまうのが、VCは一番怖い。これをふまえ、自分を逃したら後悔すると思われるようなプレゼンをし、ロードマップを示すのが大事。
・VCは投資先10社のうち1社で当てればよいという考えだが、起業家にとっては1分の1。いかに自分を本命にさせるかを考えるべき。また、資金だけでなく、営業についての協力など必要な支援を引き出す。
その後、Chatworkは2019年東証マザーズへ550億円超の時価総額で上場。山本氏は前年に帰国してCEOを共同創業者の弟に譲っており、新たに取り組んでいるのが現在の「Power Angels」です。300名以上のエンジェル投資家にノウハウを提供してきて、2025年1月にはスタートアップがアクティブなエンジェル投資家に直接アプローチできるプラットフォーム「Angel Link」をリリースしたことなどが紹介されました。
投資家の心をつかむ、ピッチ/スライドの創り方をアドバイス
第二部のピッチ講座は、山本氏からの「シード/アーリーステージで意識すべきピッチのポイント」のレクチャーからスタート。自身の資金調達経験などから具体的なアドバイスが語られます。たとえば、下記のような点がありました。
・ピッチは、30秒・3分・5分の尺で用意する。まず3分で必要な部分を作り、肉付けするのがお勧め。
・ピッチのポイントは「ストーリーの明確さ」。Why you(なぜあなたなら勝てるのか)とWhy now(なぜ今なのか)で共感や応援を引き出し、聞いた人が自ずと口コミしたくなるのを目指す。また、未来の話や長所などは「できるだけ盛る」。オーディションや面接、お見合いと同じ。ただし、嘘はダメ。
・ピッチの構成は、「課題」「解決策」「プロダクト」「ビジネスモデル」「市場」「ポジショニングマップ」「実績(トラクション)」「チーム」の順に。最初に自己紹介を入れる人が多いが、それより投資家の胸に刺さるような課題とその解決策をまず提示すべき。
・「ポジショニングマップ」はいろいろ切り口を考え、自社が右上に来るように作る。これが描けるようでないと、実際プロダクトとしても魅力的ではないといえる。
・「トラクション」は右上がりのグラフで示す。なるべく角度が急激になるよう、縦軸は画面の上下いっぱいを使う。説明文を入れるならグラフの下ではなく、横に。
・自分や自社の名前で検索したときに、googleの1ページ目が全て関連のサイトや記事になるよう、数多くのメディアでの露出を心がけておく。
・「チーム」はCEO、COO、CTOなど、キーマン3人くらいを出し、このチームだから勝てると伝わるようにする。チーム紹介は原則として最後だが、ディープテックや保守的な業界の場合は最初に入れて、このチームなら切り込めると示すのもよい。
このような基本を押さえたうえで、自身の個性を乗せていけばよいということが伝えられ、好例として、ディープテックの難解な事業内容を投資家向けに分かりやすく伝えている3分のピッチ動画を紹介。最後に、「Power Angels」で大型調達を成功させたピッチ動画や、山本氏によるピッチトレーニングを経たピッチのビフォーアフター動画のURLが共有されて、レクチャーを終えました。
4人のピッチの、具体的な改善点をその場でフィードバック
次いで、受講者4人が1人3分でピッチを行い、山本氏がそれぞれ10分強のフィードバックで、スライドを参照しながら改善ポイントをチェックしていきました。そのなかでは、このような指摘がされました。
1人目(事業会社と学術研究者をつなぐマッチングサービス)
・冒頭の課題でスライドが14枚費やされており、しかもエピソードや枝葉が多く、混乱させられる。
・文字の量は、目次くらいを目安に。文字が多いと投資家が目で追ってしまい、話を聞くのに集中できない。
・競合との差別化ポイントを「手軽さ」「相談しやすさ」としているが、もっと「このプロダクトでなければ」と思わせるようなポイントが欲しい。たとえば「すぐ見つかる」などを強みとして入れられるよう、必要ならプロダクトも改善すべき。
・スライド全般が白黒で地味。色が欲しい。AIでスライドを自動生成する「イルシル」などを使えば、見栄えや流れをよくできる。
2人目(体験型の金融経済教育)
・途中で動画を流すのはトラブルも多いので、投資家へのピッチではやらない。スクリーンショットを貼って、ポイントとなる箇所を見せるほうが伝わる。
・メディアに取り上げられた実績も、URLではなく、そのページのスクショを貼って、一目で伝わるようにすべき。
・競合サービスとの比較表は欲しい。3~4つ挙げて自社を一番左に置き、何がどう優れているのかを項目ごとに○×△をつけるスタイルで。
・投資を引き出すにはビジネスモデルを明確に出し、スケールさせていく過程を示すことが大事。自分たちで直接提供するサービスではスケールが難しいので、やるのであれば「プロダクトの改善のために当面行っている」などと添えたほうがよい。
3人目(医師に対するオンライン研修サービス)
・全体に聞きやすいピッチで、スライドもきれいに作られ、ビジネスモデルもうまくできていたが、なぜか心に残らない。医師や病院に対しての説明ならこれでよいが、投資家に向けてはアレンジが必要。
・課題は「医師の診療スキルを上げるアウトプット教育の必要性と、各医師のスキルが可視化されていないこと」というが、投資家にはピンと来ない。たとえば、地方にスキルのある医師が少ないとか、それにより医療崩壊が起きはじめているといったイメージやエピソード、それに対する思いなどで、最初にがっちりと投資家の心をつかむべき。
・メンバーが形成外科の医師やOBのみで、出身大学しか分からない。プロダクト開発やセールスなど役割を出さないと、このチームでやり切れるかと疑問に思われやすい。
4人目(AIスタッフ搭載の、働く人のためのジム)
・運動習慣を根付かせるためにオフィス併設のジムと管理アプリのビジネスだが、大事なのは継続させる仕組みだと思う。そこで、指導スタッフをAIが生成したキャラクターが務めるなど、テクノロジーをかませると面白いかもしれない。今ある事業フレームだけでは厳しそうなので、そうしたテクノロジーなどとの掛け合わせで特徴を出し、実績を積みながら企業に導入を進めていく道はあると思う。
・この事業に対する思い入れを、原体験によるものなど、冒頭に入れた方がよい。ビジョンをきれいな言葉で伝えるだけではなく、応援したくなるようなフレーズが欲しい。投資家だけでなく、顧客にも響くので、最初のつかみは大事。
この後は、プログラム全体を通しての質疑応答の時間が持たれました。資金調達時の裏話の詳細や、Chatworkの成功の裏側に迫るような質問にも丁寧に応えられ、本編に負けないほど会場が盛り上がっていました。
たとえば、「Chatworkを広めるときに、何が一番効果的だったか」という質問には、以下のようなポイントが語られました。こうしたことをヒントに、自身のビジネスでもアプローチのし方をさまざま考えてみるとよいとのこと。
・営業部署は設けずに、プロダクトだけで浸透させることを考えて、2011年、日本では珍しかったフリーミアムを取り入れた(当時、日本では無料トライアルさせて1ヵ月で有料にするのが主流)。
・業種や会社規模を絞らず、全方位にさまざま仕掛けていった。
・特にうまくいったのは、税理士。多数の顧客にメールやファックス、電話、訪問、郵送などを行っていたが、Chatworkで顧問先ごとにグループチャットを作って全てのコミュニケーションをそこでやれば、新人の教育になり、ファイルが蓄積し、訪問が不要になり、顧客データがあるので独立もされない。その後、弁護士や社労士にも広がった。
・地方での営業は東京とは異なり、紹介者がカギとなる。そこで、売上を上げるための情報交換や人脈づくりを行う「IT飲み会」をつくったところ、各地のキーマンとつながり、その地域にChatworkも広げられた。
こうしてプログラム終了後は交流会が持たれ、山本氏との名刺交換・アドバイスを求める人も多く、個別の相談や受講者同士の議論が弾んでいました。