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インタビュー 2021.12.1

【急成長を続ける品川区のスタートアップ特集】 ライフエンディングプラットフォーム事業を展開する株式会社よりそう 芦沢代表に起業からスケールするまでの道のりを聞いてみた

株式会社よりそう(旧:みんれび)は、2009年に各種レビューサイト運営会社として創業し、お葬式準備の支援サイト「葬儀レビ」からはエンディング領域に注力。独自のパッケージ型葬儀サービスや僧侶手配サービスを立ち上げ、コールセンターも備えて全国でサービスを提供する仕組みを構築するなどして、旧態依然としていた葬儀業界に新風を巻き起こしました。2018年には現在の社名に変更するとともに、サービスブランド名も「よりそう」に統一。終活から葬儀、供養まで、エンディングに関する約20のサービスを提供しています。

その創業者である代表取締役の芦沢雅治さんに、起業からスケールまでの道のりや、五反田バレーの一員としての思いなどを聞きました。


(プロフィール)
芦沢雅治さん 株式会社よりそう 代表取締役社長CEO
1985年、岐阜県出身。高校卒業後、カナダへの語学留学を経て、アメリカの大学在学中に起業を経験。帰国後の2009年、よりそうの前身となる株式会社みんれびを創業。現在はライフエンディングに関するサービスを包括的に展開している。

 

やりたい事を見定めようと、渡米。ネットビジネスに目覚める

―まず、御社の事業について教えてください。

芦沢

「よりそう」という総合ブランドのもと、エンディングに関わるさまざまなサービスをワンストップで提供しています。かつて葬儀や法事の費用は分かりにくく不明瞭でしたが、それを納得感あるようパッケージ化して体系化。また、IT活用により、葬儀社などのパートナーと利用者双方の利便性を向上させました。

現在はエンディングにまつわる約20のサービスを、生前の相談から葬儀、仏壇・法要、お墓・散骨、そして遺品整理や相続などの手続きまで提供しており、年間相談件数は5万件以上。「よりそう力で世界を変える」をミッションとして、誰もが自分らしい選択ができる世界をつくることを目指しています。

―では、起業のきっかけを教えてください。高校を卒業後に留学されていますが、その頃から起業を考えていたのですか?

芦沢

そうですね。高校時代から飢餓や戦争など、世の中の「負」の部分に課題感があり、自分で何かできないかと思っていたのです。それで一度海外に出て視野を広げようとカナダでの語学留学を経て、アメリカの大学に進学します。実はその時点でまだ、自分が将来やりたいことが見えておらず、アメリカなら専攻を決めずに進学できるので、学びながら本当にやりたいことを見つけることにしたのです。

―そこで見つけられたのですね。

芦沢

はい。当時は2005年頃で、インターネットビジネスの黎明期です。日本でも楽天やライブドアが一気に成長しており、すごい世界だと思いました。そこで自分も大学に行きながら、日本向けに英語の教育メルマガコンテンツ配信をしたり、ルームメイトとSkypeで英会話レッスンを提供してみて、ビジネスを立ち上げる面白さを実感。収益を上げられそうな手ごたえも得られたので、日本で起業するために帰国しました。

―帰国して、すぐ起業されたのですか?

芦沢

個人事業主としていくつかネットサービスを立ち上げました。そうして本格的に何か始めようと、発展途上国に学校をつくるNPO法人を設立しましたが、非営利だと活動を継続させるのが難しいと感じて、2009年に前身となる株式会社みんれびを創業したのです。

―「みんなのレビュー」からの造語ですね。

芦沢

そうです。当初は歯科医院や老人ホーム、結婚式場など、いろいろな領域でレビューサイトを運営していました。そのなかの一つが「葬儀レビ」です。当時はあらゆる領域で比較メディアや情報がネット上にあふれていましたが、この葬祭領域、今でいうライフエンディング領域は全く手付かずでした。

コールセンターに届くユーザーの声で、業界の課題を次々発掘

―ライフエンディング領域は他の領域とどう違ったのでしょうか?

芦沢

ネット上のやり取りだけでは完結しづらいのです。基本は喪主となる方からお問い合わせをいただきますが年齢層が高いこともあり、まず電話でのコミュニケーションとなります。そのため電話対応のコールセンターを置き、しかも弔事なので時間を問わず、24時間365日体制が必要でした。

―スタートアップには、荷が重いですね。

芦沢

創業当初はそのリソースもないため、自身で電話を取り、対応していました。大変でしたが、それでお客様の声を直接伺えたのが良かったんですね。いままでなかったサービスということで感謝いただき、やりがいを感じるとともに、ニーズや課題が分かりました。そこで手ごたえを感じ、お坊さんの手配など、次々とサービスをつくっていくことができたのです。課題の大きさというのはビジネスチャンスの大きさであり、以来ずっとこの領域に特化しています。

―ユーザー側にニーズがあっても、業界を変えていくのは大変だったのではないでしょうか。

芦沢

そうですね。経営者として、システムや仕組みの開発、コールセンターの設置と並び、パートナー開拓が重要でしたが、業界では保守的な考えが根強く、そもそもインターネットではお葬式を探さないときっぱり言われていました。しかし、ほかの領域ではEC化がどんどん進んでいたので、ここだけ起こらないのはあり得ないと思い、確信を持って推し進めていきました。

―そのように保守的な業界に切り込んでいくときは、何を取っ掛かりにするのがよいでしょうか?

芦沢

私が行ったのは、業界にはびこる非効率や不透明を一緒に解決していきましょうというニュアンスでの声がけです。いきなり諸手を挙げて賛同いただけるものではないので、1社ずつ少しずつ仲間を増やしてきたという感じですね。とはいえ、10年以上やってきた今でも、全国に約7000社あるとも言われている葬儀社のうち、提携できているのは数割程度。利用者ニーズに対応するためにも、限りなく7000に近づけていきたいですね。

世界に先駆けて高齢化が進む、日本でのビジネスの実績が自信に

―2018年に社名を「よりそう」に変更し、ブランド名も統一されました。その狙いは?

芦沢

元の「みんれび」とはサービスの提供内容が変わっていたので、当社設立の2009年から10期目を迎えたのを機に、エンディング領域により注力する姿勢を表明しました。ブランド名を統一したのは、葬儀から供養、その後の諸手続きまでワンストップでサービスを受けたいニーズが、この領域ではとりわけ高かったからです。同じブランド名で提供することでお客様にもわかりやすく、安心してご利用いただけるでしょう。

―改めて、エンディング業界というのはどのような市場といえますか?

芦沢

葬儀市場だけで毎年約1兆6000億円、法事や法要、仏壇などの周辺市場で2兆円強という規模。相続なども含めれば、さらに巨大です。そうしたなか、2035年には65歳以上人口が全体の3割を占める日本は、少子高齢化、多死社会という文脈で課題先進国。世界もこれから同じ課題を抱えていくことになり、そのときに当社のようなサービスは世界から見ても先進的なものです。最近になってイギリスやアメリカで葬儀に特化した顧客管理システムが出てきて、大きな買収案件などもあり、Death Techといわれ注目市場となっています。当社も何らかの形で海外展開を図っていきたいですね。

―経営者として大切にしていることを教えてください。

芦沢

組織運営には心を砕いています。一般的なIT企業と違い、24時間365日のコールセンターを運営する点は当社ならではの難しさでしょう。しかもエンディングという性質上、心理的にもセンシティブで、お客様が何をどうすべきかよく分からない状況でのご連絡なので、提案営業に近い対応レベルが求められます。また、ユーザーがシニア層なのでWebだけのコミュニケーションでは足りず、パンフレットなど紙媒体でのフォローアップも必要です。また、業界のITリテラシーに合わせて、システム上の連携なども時間をかけて丁寧に行うよう心がけています。

資金調達のカギは、社会課題解決性と事業成長プラン

―御社はどのようなカルチャーをお持ちですか?

芦沢

会社名の「よりそう」が考え方のベースにあって、社内会議などでもよく「それって、本当によりそえているか?」などと言っています。何か変更や改定、新たな取り組みなどの際に、指針となるんですね。そして、よりそう相手もサービスを利用されるお客様や業界のパートナーはもちろん、社員同士でも大事です。そんなところからも心根の優しい社員が多く、困っている人がいれば助け合うカルチャーですね。

―御社は、2018年の(社)五反田バレー設立時の理事6社の1社です。五反田で活動するメリットは何でしょうか?

芦沢

当社は高田馬場で創業しましたが、人が増えて、まとまったスペースを探したときに、ちょうど五反田にITスタートアップが集まり始めており、移転して今に至ります。五反田バレーは、IT経営者のネットワークとして心強いですね。経営していると、自分では解決できないことが次々に出てくるもの。ですが、皆通っている道なので、経験者に聞くと糸口を得やすいのです。

また、ベンチャー同士、互いのサービスにも興味を持ちやすく、当社サービスのユーザーにもなっていただいたりしています。実際に、社内のキックオフの際に五反田バレー参加企業の社長さんに動画でユーザーインタビューに答えてもらい、当社社員を鼓舞していただいた例もあります。

―これから起業や資金調達を考えている方に、アドバイスをお願いします。

芦沢

起業して自分が何をしたいのか、がんばり抜けるものか、本当に好きなことであるかが重要です。起業すると難題が次々起こるものなので、好きなことでないとやり遂げられません。そのくらい思いのあるテーマであれば、ぜひ起業にトライしてほしいですね。また、収益のシミュレーションも重要です。起業前の熱量の高い段階では計画もアグレッシブになりがちですが、だからこそ、ネガティブサイドに触れたときのシミュレーション等もしっかり検討しておくべきです。

資金調達を成功させるには、そのビジネスが社会課題の解決になるものか。また、事業成長の道筋が見えているか。この両方が必要です。相談したいことなどあれば、ぜひ声をかけてください。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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