リニューアルオープンして、起業を目指す仲間が続々集まっている「西大井創業支援センター」のコミュニティ/インキュベート支援の中身を聞いてみた
2003年、品川区が最初に開設した創業支援施設である西大井創業支援センターが、利用者のニーズの変化などをふまえ、2022年2月に創業支援スペースをリニューアルオープンしました。JR西大井駅前のタワーマンション2階で、明るく開放的な空間に生まれ変わっています。今回は、新スペースの特徴やこだわったポイント、どのような創業支援を行っていくのかを、センター長/チーフコミュニティマネージャーの野田さんとインキュベーションマネージャーの朝比奈さんのお二人に伺います。
(プロフィール)
野田 賀一さん
品川区立西大井創業支援センター センター長/チーフコミュニティマネージャー
1984年生まれ。青森県出身。二児の父。宅地建物取引士。趣味は津軽三味線。高校卒業後、航空自衛隊、生保営業を経て、2009年よりオフィス賃貸事業に従事。コワーキングスペースや貸し会議室の店舗運営やオフィスビルリノベーション事業などを手がける。令和4年のリニューアルオープンから西大井創業支援センターのセンター長兼コミュニティマネージャーを務めている。
朝比奈 信弘さん
品川区立西大井創業支援センター インキュベーションマネージャー
1982年生まれ、神奈川県出身。中小企業診断士。印刷会社にて企業の広告、販促物のデザイン業務に従事。在職中の社会起業家への取材でソーシャルビジネスに関心を持ち、経営の道へ。公的支援機関にて、新規事業開発、人材育成、ICT導入促進、行政課題解決に向けたスタートアップ連携に従事後、独立。Scalar合同会社を共同創業。東京都中小企業診断士協会ソーシャルビジネス研究会副代表。資金調達における事業計画の策定、マーケティング支援、ガバナンス体制やIT活用等の組織基盤強化支援実績多数。
月一度インキュベートマネージャーとの1on1で、実践的アドバイスがもらえる
―品川区には大崎にある品川産業支援交流施設SHIPを中心に創業支援施設がありますが、この西大井創業支援センターの特徴を教えてください。
野田
まず、起業を目指す分野として「ソーシャルビジネス」を意識しており、事業の社会性とビジネス性を両立していけるための支援に力を入れています。また、社会人だけでなく、学生の起業も支援しており、月額会員・ドロップイン共に一般と学生の料金を設定しています。
支援対象としては、起業前の準備段階の方から創業後3年までを目安としています。理由としては、事業が市場にマッチして利益が出せるようになるまで、事業のピボットやビジネスモデルの見直しは粘り強く何度も行う必要があることと、起業家によって状況や背景が多種多様で、事業を進めるスピードが異なるためです。そのため、月額会員契約は1年単位で3回更新ができ、最長4年まで可能としています。
―月額会員へのサポート内容はどのようなものですか。
野田
自社オフィスとして個別ロッカーやメールボックスが使え、法人登記に住所が利用できます。施設は今回のリニューアルでオープンな造りとし、コワーキングスペースも作業に集中するコーナーのほか、仲間との会話などができるコーナーも設けました。後者はセミナーやイベント会場にもなります。さらに、利用者同士が交流しやすいよう、キッチンスペースを設けており、コーヒーブレイクやランチ会ができます。入退館時に受付でもスタッフからあいさつや声かけなどを心がけていて、会員ごと様子や志向性などが分かると、会員同士をつなげることにも役立ちます。そのようなブリッジ役を、私のようなコミュニティマネージャーが務めています。
そのほか、オンライン/オフライン会議に使える会議室が2部屋ありまして、それぞれ6名と8名の定員となっています。2室をつなげば、金融機関やオープンイノベーション先の大手企業とのミーティングなど、大人数でも便利です。
朝比奈
月に一度インキュベーションマネージャーと継続的に面談ができるのも、大きな特徴です。いわゆる壁打ちですね。上下関係よりは何かと相談しやすいフラットな関係で、起業を志すうえで、その方が大切にされている思いを見つけ、一緒に磨くことを心がけています。
また、こちらには3人のインキュベーションマネージャーがおり、私は市民活動や社会性の高い活動にビジネスという手法を用いて継続性を高めるアドバイスを強みとしています。ほか、コーチングに長けた者もおり、会員の方にとって、より相性の良いインキュベートマネージャーを探すことができるでしょう。
働き方の多様化を受け、副業での起業を目指す人が西大井に集っている
―リニューアルに際して、「PORT2401」という愛称もできたそうですね。どんな思いが込められているのですか。
野田
品川区には、ほかにSHIP(品川産業支援交流施設)やMUSAKO HOUSE(武蔵小山創業支援センター)という施設があり、それぞれ船や灯台・基地など海や港に関連した意味合いもあることから連想して港(PORT)としました。ただ、世の中にはPORTを冠した施設が多くあり埋もれてしまうため、初見の印象付けの意味も込めて西大井の当て字である2401を加えました。
―西大井ということで、奥のコワーキングスペースの壁にはイラストマップも描かれていますね。
野田
品川区役所や区内創業支援センターなど関連する主要施設の他、シェアサイクルやコミュニティバス、電車で行き来がしやすいということをイメージしています。特に電車では横須賀線や湘南新宿ラインが通っていて、品川・新橋方面と渋谷・新宿方面の両方をカバーしており、十数分でアクセス出来るのは魅力です。他、品川駅発着の新幹線、飛行機の絵は羽田空港ですね。東京の玄関口であることも表現しています。区外からの見学者には穴場だといわれますね。また、本施設は駅前のタワーマンションの2階にありますが、裏の通りからは路面の高さとなり、夜間もブラインドを下ろさずガラス張りなので、明るく目立っています。改装工事中から気になっていたという方も多く、リニューアルオープン後に問い合わせも増えました。
―会員には、どのような方がいるのでしょうか。
野田
職種はさまざまで、エンジニアや英語教師、傾聴の専門家、ソーシャルワーカー、ライブコマースのコンサルタント、それに地方と都心の2拠点で事業をやられている方などがいます。家庭と両立して、夕方早めに保育園のお迎えに行かれたり、夜に子供を寝かしつけてから、再度センターにいらっしゃって仕事をされる方もいて、自分のペースで利用いただいています。
朝比奈
西大井という立地上、お住いが近い方や都心へのアクセスの利便性を活かしてご利用いただいている方が多いです。生活の基盤となる収入は確保しながら、ここで創業に時間を投資しているように思われます。コロナ禍で働き方の選択肢が増えたおかげかもしれません。企業に所属しながら、副業や起業を目指し、実現している人が多いですね。
起業に向け、共に前向きに歩める「仲間」は重要
―今後の展望をお聞かせください。
野田
コミュニティづくりでは、施設側から一方的なお節介にならないように留意しつつ、柔軟な対応を心がけています。たとえば、週1回のランチ会や3時にコーヒータイムなどと決めて行うのは簡単ですが、固定化してしまうとその時間に来られる人しか集まれません。そうではなく、利用者の状況を見守りながら、みなさんが利用しやすいことを一番に考えています。
また、行政の施設というと支援を受ける場所という色合いが強くなりがちですが、ここでは相互発信で、私たちは場を提供して活性化する。そこで起業家同士が学び、刺激し合い、情報交換して前に進む。という姿を目指しています。
実際に、会員交流会を企画したときに、ある会員からピッチの練習をしたいと要望をいただいたので、ピッチイベントも合わせて行うことにしたところ、希望者が5人ほどにもなり、ピッチ大会のようになりました。ほかの会員からの質問も活発で、その場で議論が盛り上がったのです。このように、主催者側が作ろうとして作れるものではない雰囲気の良さが醸成されつつあります。
朝比奈
会員の要望は今後のセミナーやイベント企画に生かしていきたいですね。会員ではない方も参加していただけますので、ホームページなどでぜひチェックしてもらえればと思います。
―最後に、本施設に興味がある人や起業を考えている人にメッセージをお願いします。
野田
施設コンセプトを作る時に、複数の起業家にインタビューをしたことがあるのですが、共通した課題が3つありました。「企業の情報収集をどこでやったらいいのか分からない」「起業前後に周りに仲間がいない」「資金調達の手法や手段について活用の仕方を学ぶ場所、教わる場所がない」この課題を解決しつつ、この施設に来ることで【起業のスイッチ】が入り、起業に前向きに取り込める状況作りを目指しています。
そのため、主催するイベントやセミナーでは、起業前後の方が交流しやすい仕掛けや企画を立てています。この施設を知るキッカケとしてはオンライン参加もよいですが、ぜひオフラインでネットワーキングしてもらいたいですね。ゆくゆくは「西大井で起業」がブランドになるのを目指しています。
朝比奈
独立や起業は1人で始めるイメージがあるかもしれませんが、共に起業に向けてがんばっている仲間の存在を感じることも大事です。PORT2401では、「自分は1人じゃない」と思えるようなコミュニティ作りに努めていますので、ぜひ一度相談してみてもらいたいですね。創業支援施設というのは、場所を提供したり制度を説明するだけではなく、
そこに行くと気軽に話せる施設スタッフや起業家仲間がいる。そのようなイメージで、上手く活用されてはいかがでしょうか。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。