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インタビュー 2022.6.27

「五反田バレーアクセラレーションプログラム2022」をプロデュースする01Boosterに、創業ストーリーとともに、起業家同士の交流を深める本プログラムの仕掛けを聞いてみた。

 

2012年にコワーキングスペースの運営から始まった、株式会社ゼロワンブースター(以下、01Booster)。「日本を事業創造できる国にして、世界を変える」をミッションとして、「起業家・社内起業家の事業化支援」「ベンチャーと大手企業の連携によるオープンイノベーション」「地域における事業創造支援」「大学を始めとする研究・技術開発からの事業化支援」という4つの軸で活動してきました。その共同創業者であり、代表取締役 CEOの合田ジョージさんに、自身の創業ストーリーや日本の自治体、大手企業、スタートアップのあり方を聞くとともに、01Boosterがプロデュースを行う「五反田バレーアクセラレーションプログラム2022」について、執行役員の桑田靖章さんに聞きました。

(プロフィール)

合田 ジョージさん 株式会社ゼロワンブースター 代表取締役C E O
MBA、理工学修士。東芝の重電系研究所・設計を経て、同社でスウェーデンの家電大手との国際アライアンス、中国やタイなどでのオフショア製造によるデザイン白物家電の商品企画を担当。村田製作所にて、北米向け技術営業、米国半導体ベンダーとの国際アライアンス、Motorolaの全世界通信デバイス技術営業に携わり、その後、同社の通信分野のコーポレートマーケティングにて全社戦略策定を実施。スマートフォン広告のIT スタートアップであるNobot社に参画、Marketing Directorとして主に海外展開、イベント、マーケティングを指揮、同社のKDDIグループによるバイアウト後には、M&Aの調整を行い、海外戦略部部長としてKDDIグループ子会社の海外展開計画を策定。現在は01Boosterにてコーポレートアクセラレーター・事業創造アクセラレータを運用すると共にアジアを中心とした国際的な事業創造プラットフォームとエコシステム構築を目指している。日本国内の行政や大学を含む、多数の講演やワークショップ実施の実績あり。

 

桑田 靖章さん 株式会社ゼロワンブースター 執行役員

1998年、大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程を修了後、大手OA機器メーカに入社。大手医療機器メーカを含め、研究開発から生まれた自社技術の商品化、新規事業の立ち上げに従事。自社の販売チャネルが無い市場への参入をはじめ、技術のQCDから販売まで広い視野で自社のビジネスを考える事業開発を経験(経験した製品カテゴリ:液晶ディスプレイ、半導体レーザ、体外診断薬、他)。転機を迎えている日本の製造業の活性化に係りたいという想いが強くなり、香港政府系機関に転じ、日本企業の海外進出、輸出入、ビジネスマッチングの支援に従事。2018年6月より01Boosterに参画。

 

 

大手企業とスタートアップの、真逆の考え方を知ったうえで起業に臨む

 

 

―まず、01Boosterの事業について教えてください。

合田

スタートはコワーキングスペースの運営ですが、それは「場所」でしかなく、それよりも「プラットフォーム」を意識して事業を拡大してきました。中核としてきた、大手企業とベンチャー企業が足りない部分を互いに補完・共創し、事業の成長を加速するオープンイノベーションプログラム「コーポレートアクセラレーター」については、登録商標も取っています。

そのほかに、社内起業家を発見・育成するプログラム「イントラプレナーアクセラレーター」や、起業家や社内の事業開発担当者を育成するアクティブラーニングプログラム「01Dojo」の運営、ベンチャー投資、大企業の人材のベンチャー留学など、事業領域を拡大。また、2020年2月から、個人のアイデアを形にするワーキングコミュニティ「有楽町『SAAI』Wonder Working Community」を運営しています。

 

―合田代表は、東芝や村田製作所という大手企業と、ベンチャー企業1社での勤務を経て、01Boosterを創業されています。その背景や経緯を教えてください。

合田

まず、両親が個人事業主で、その苦労も見ていたのであえて会社員の道を選びました。ですが、大手にいても経済環境の変化はあるので、自分でビジネスを勉強しなければと思うようになり、MBAに通いだすと、当時のスタートアップ経営者との親交が生まれたのです。また、大手企業にいても自分はこれ以上成長できないと思ったのも大きかったです。ベンチャーに成長機会を求めたわけですね。

そのベンチャーにいるときも、すぐ自分で起業したいと思ったのですが、当時の社長に、「今はまだ経験がなく、大手企業の思考だから、起業は止めたほうが良い」といわれて思い留まりました。結局、そのベンチャーが成長を遂げ、大手企業に事業売却してエグジットするのですが、そこまで経験できたのがよかったですね。それで自信を持って、起業に臨めました。

―大企業の思考回路とは、どういうことでしょうか?

合田

両方を経験して実感しますが、大手企業とスタートアップというのは考え方が真逆なんです。たとえば、大手ではリソースがあるので、まず考えてから動きます。一方で、スタートアップでは何もないので、動きながら考えます。そのように、そもそもの思考回路が違っていることを知っておくべきです。

―つまり、大企業タイプやスタートアップタイプがいるわけではなく、本人の意思で思考回路を切り替えれば、起業家らしくなれるのでしょうか?

合田

そうですね。運動神経と同じで得手不得手や資質はあるけれど、基本的には誰でも、起業家として振舞えると思います。ただ、自分で営むという意味での個人事業主と、急激な成長を目指すスタートアップというところでは、向き不向きがありますね。

 

1ダースものビジネスにチャレンジして、01Boosterに至った

 

―それで、コワーキングスペース運営で起業されたのですか?

合田

いやいや、それ以外にもいろいろ事業をやっていたんです。先日数えたら、12ありました。インバウンド観光関連や企業の海外進出支援、フィリピンでのオフショア開発業などですね。うまく行って、譲渡したものもあります。

―いろいろなビジネスを経て、2012年3月に01Boosterを立ち上げたのですね。

合田

当時の社名はOpen Meetupで、01Boosterはブランド名でした。コワーキングスペース運営なので、皆がオープンに出会おうというので命名したのです。実際、スタートアップ同士がつながると、たとえばB to B向けの営業などで連携するなど、皆で高め合う環境が創れていました。

一方で、それだけだと当社のビジネスとして何か物足りません。私も共同創業者の鈴木(規文)も大手企業出身で、MBAで出会い、ゼロからイチの起業を経験しているという強みがありますので、ゼロイチをブーストする、押し上げることをやっていこうとなりました。

―それを、冒頭いわれた「プラットフォーム」を意識して展開されてきたということですか?

合田

そうですね。当初は米国のTechstars社をベンチマークしていました。2006年にコロラドで設立された、アクセラレータの走りです。同じように当社も事業を広げてきました。彼らはアクセラレーターに集中しているようですが、弊社は事業領域を広げております。

これは、日米の事業展開における考え方の違いですね。コングロマリットや財閥のように手を広げる展開が日本やアジアでは好まれますが、欧米では多角化は非効率と見られがちです。事業開発も、欧米では自社内で興す概念が薄く、ベンチャーなどから手っ取り早く事業取得するのを好みますね。約7割が外からでしょう。一方、日本では基礎研究などを積み重ねるのが得意なので、事業の7割が社内から生まれます。これは良し悪しではなく、考え方や文化の違いです。

―Techstarsのほかに、ベンチマークされている企業などはありますか?

合田

米国のAmazonですね。彼らはいろいろな事業を展開していますが、それは顧客至上主義が貫かれた結果なのです。そんな風に、01Boosterでも「日本を事業創造できる国にして、世界を変える」というミッションに沿うことは何でもやっていく考えです。

 

地域や自治体との共創にこだわる理由

―そうしたなかで、地域における事業創造支援にも注力されています。この意図は何でしょうか?

合田

日本の課題は、突き詰めれば「流動性が低い」ことで、それだとイノベーションが起きません。イノベーションとは新結合、つまり既存のものの新たな組み合わせです。ですから、組み合わせを起こしやすく、流動性を上げることがカギになります。

そして、この流動性は転職という意味ではなく、多様な人と人の交流のことです。地域間の交流や連携、協業にも必要です。特に行政はその性質上、縦割りで運営されるため、流動性が起きにくいもの。いっぽう民間企業は、一部業務などで連携することはありますが、産業横断で何かを行うには行政の指導や旗振りを要します。

ですから当社では、行政と民間の両方へ働きかけることで、日本の流動性をより高めようとしているのです。

―なるほど。グローバルで何か先行例などはありますか?

合田

チリでは政府系のスタートアップ・インキュベータ「START-UP CHILE」が、世界中から起業家を集め、チリ国内でスタートアップ活動をしてもらうプログラムを行っています。実際、チリ国民の税金を投入するのですが、チリで活動した仲間がネットワーキングした後に世界に散ることで、チリをハブとしたスタートアップ・エコシステムができ上がるわけです。

これはソーシャル・キャピタル、社会関係資本という概念で、ネットワーキングの価値を示すものです。日本の特定地域においても、これはできます。たとえば島根県が戦略的に考えている「関係人口」もその一例で、移住や観光ではなく、地域外に住みながらその地域と多様な方法で関わりを持ち応援する人を増やそうとしています。

―01Boosterが今回、企画・運営する「五反田バレーアクセラレーションプログラム2022」でも、そうしたネットワーキングを目指すわけですね。

合田

そうですね。いろいろな仕掛けで、起業家同士の交流を高め、コミュニティ醸成を図っていきます。

 

品川区発の起業家コミュニティ創出に向け、グループメンタリングを導入

―では、その「五反田バレーアクセラレーションプログラム2022」について、担当される執行役員の桑田さんに伺います。まず改めて、どのようなプログラムですか?

 

桑田

品川区内のシード/アーリーステージのスタートアップ約20社を集めて行う、2022年9月から約6ヶ月のプログラムで、毎月、広報・PRや資金調達などのテーマで研修を行いながら、メンタリングを実施。2023年3月中旬のDemo Dayでは最終成果発表として、パートナー企業をはじめとした大企業やVCに事業プレゼンテーションを行います。

―プログラム自体は毎年恒例となっていますが、今回の特徴は何でしょうか?

桑田

まず、セミナー講師として、01Boosterのスタートアップネットワークから、たいへんユニークで優秀な起業家の方々を集めました。シリアルアントレプレナーの方に、シード/アーリー期のスタートアップに必要とされる競合優位性について、多くの成功/失敗例から語っていただいたり、楽天市場のPR担当等を経て独立し、約8年で150社以上の広報・PR担当者を育成した方に、創業期からの事業成長に役立つ広報・PRのポイントなどを語っていただいたりします。また、Chatwork創業者にピッチのポイントをワークショップ形式で指導いただくなど、具体的・実践的な内容を意識しました。

―リアルな経験談などから、多くを学べそうですね。そのほか、こだわりポイントはありますか?

桑田

はい。今回は、毎月のグループメンタリングが目玉となっています。参加20社を4~5つに分け、グループごとにメンタリングを行うのですが、主役は参加者の皆さんであり、品川区と随時パートナー企業がファシリテートを行い、もちろん01Boosterもサポートさせていただきます。起業家同士で悩みを共有し、助け合うことで、自ずと交流が深まるでしょう。毎回グループを変え、回を重ねることで最終的に全員と会話することとなります。

―その狙いは何でしょうか?

桑田

これまでのプログラムでは、コロナ禍もあって参加者同士の交流が物理的には難しい面もあったため、「このプログラム発で『起業家コミュニティ』が生まれるサイクルを創りたい」という、品川区からの強い要望がありました。そこで、当社のノウハウとして非常に良い関係性を生むという実績のある、当事者同士のグループメンタリングを、今回のプログラムに取り入れることとしたのです。

―具体的に、どのようなメリットが期待できますか?

桑田

毎月の研修とセットで開催しますので、資金調達など、研修テーマを深堀りすることもできますし、自分が今抱えていることを同じ起業家に対して投げかけられるわけですね。これは、合田の言っていた「社会関係資本」を促すことであり、一言でいえばネットワーキングですが、実は起業家にとって非常に大事な素養なのです。たとえば、シード/アーリー期のスタートアップでは人的リソースなど、いろいろと足りないものがあるわけですが、その助け合いも当社がサポートしたなかで多く見られています。

―毎月のように相談できる場があると、もともとそうした交流が苦手な人にもトレーニングになりそうですね。

桑田

そうですね。ネットワーキングを意識して、実際に「同窓生」のようなつながりを手に入れていただきたいと考えています。それで「五反田バレーアクセラレーションプログラム第●期生」といったコミュニティになり、さらに五反田バレーの盛り上げに寄与できればと思います。

また、これまでもあった、希望して受けられる予約制のメンタリングについても、メンター陣をパワーアップして提供します。プログラムの募集サイトで、すでにメンター陣も紹介をしていますが、こちらも当社ネットワークによる、多様な得意分野を持つ専門家集団ですので、ご期待ください。

※現在、「五反田バレーアクセラレーションプログラム2022」参加者を募集中です(7月22日(金)締切)。詳しくは、https://www.shinagawa-startup.com/2022/ をご覧下さい。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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