【急成長を続ける品川区のスタートアップ特集】 エンジニアのスキルや組織パフォーマンスを可視化して、挑戦を支えるファインディ株式会社山田代表に、起業前後の試行錯誤や目指す世界観を聞いてみた
ハイスキルなエンジニアと企業をマッチする転職サービス「Findy」、エンジニア組織のパフォーマンスを可視化する「Findy Team+」などを開発・運営するファインディ株式会社。2016年7月の設立から試行錯誤を経たものの、今では「Findy」はフリーランスを含めると約10万人のエンジニアが登録し、900社に活用されており、さらに外国人エンジニアにも提供を始めるなど、多方面に成長を加速させています。代表取締役の山田裕一朗さんに、事業の概要や起業の経緯、品川区で活動するメリット、今後の展望について聞きました。
(プロフィール)
山田 裕一朗さん ファインディ株式会社 代表取締役
同志社大学経済学部卒業後、三菱重工業、ボストン コンサルティング グループを経て2010年、創業期のレアジョブ入社。レアジョブでは執行役員として人事、マーケティング、ブラジル事業、三井物産との資本業務提携等を担当。2016年7月、ファインディ株式会社を創業。
スキルに基づく転職サービスと組織の見える化で、エンジニアを支援
―まず、事業に込めた思いを教えてください。
山田 裕一朗
経営理念は「つくる人がもっとかがやけば、世界はきっと豊かになる。」です。私自身が三菱重工出身という製造業で外貨を稼ぐところにいたなかで、子どもたちの世代がどう生きていくかを考えると、アルゴリズムやソフトウェアで稼げるテックジャイアントが日本から何社生まれるかがすごく大事だと思っています。それを担うのがエンジニアであるため、「挑戦するエンジニアのプラットフォームをつくる。」をビジョンとして、事業を展開しています。
―その事業はどのようなものですか。
山田 裕一朗
大きく、マッチング領域と組織プラットフォーム領域の2つです。
マッチング領域では、エンジニアの転職とフリーランスのマッチングサービスを行っており、特徴はエンジニアのスキルを可視化できること。エンジニア向けツールであるGitHubの開発履歴を解析し、偏差値化して適正年収と紐付けています。フリーランスを合わせ、約10万人がユーザー登録しており、利用企業約900社もメルカリやDeNAなどのメガベンチャーからANDPADやSmartHRのようなスタートアップから、最近では東急やパイオニアなどの大企業に広がっています。さらに海外のエンジニアと日本企業のマッチングサービスを開始しており、すでに登録ユーザー数は1万数千人です。将来はグローバルの企業への紹介も視野に入れたいですね。
組織プラットフォーム領域では、エンジニア組織を見える化するため、GitHubやJiraの履歴を解析して可視化したデータを元に改善活動をしていくサービスを提供。2021年にリリースして、約1年になります。
―どちらのビジネスにもポテンシャルが感じられますが、まず、エンジニアスキルを可視化するようなサービスには、競合はありますか?
山田 裕一朗
テストを受けてもらってスコア化するサービスは、グローバルにもいろいろありますね。ただ、当社のようにGitHubを解析して、というのは稀有でしょう。
エンジニアの人材紹介市場も活況で、コロナ禍で人材市場全体は動きが鈍ったなかでも、情報処理技術者の人材紹介市場は2019年から2020年にかけて、売上規模500億円から600億円に拡大しています。この市場の伸びを越えていく会社になっていきたいですね。
―もう一つのエンジニア組織の見える化のほうも、かなりのニーズを見込まれていますか?
山田 裕一朗
当社サービスのカウンターパートはCTOやエンジニアリングマネジャーですが、ビジネスサイドより管理職のなり手が少ないため、1人で10~20人をマネジメントするケースもあり、全員との1on1で1週間が終わってしまうほど多忙です。当社アンケートでも将来マネジャーになりたいエンジニアは、2021年の20%弱から、2022年には13%に減りました。コロナ禍で進んだリモート化で利便性を享受できる反面、マネジャー層には負荷が高まっているわけで、エンジニア組織の見える化ツールはそこをサポートできるものとして注力しています。
―エンジニアのマネジメント支援が求められているのですね。
山田 裕一朗
また、組織の改善は採用にも効果があることが、事業を進めてきて分かりました。当社でもエンジニア組織の可視化を行っていますが、そうして開発組織の生産性が上がり、エンゲージメントが向上すると、良い組織には人が集まるので採用も上手く行くという循環ができています。
大手製造業→戦略コンサル→スタートアップから、自ら起業へ
―次に、起業からスケールの道のりをお聞かせください。もともとは三菱重工にお勤めでしたね。
山田 裕一朗
文系出身ですが、事業部のなかの企画部門で設備投資を担当しており、上司も周りも技術系でした。リーマン・ショックの頃で、基本的には投資抑制のために設備の内容や規模感、時期の妥当性を精査していました。そこで技術者とのコミュニケーション機会が多かったことと、後にボストン コンサルティング グループ(BCG)やオンライン英会話サービスを行うスタートアップに転職しますが、たまたま上司はみな理系出身でした。それで技術系の課題感も分かりやすく、後にファインディの事業につながったといえます。
―三菱重工からBCGへの転職は、製造業の現場から戦略ファームへと大きな変化ですが、どういう思いからでしたか?
山田 裕一朗
学生時代に日米学生会議で実行委員をやっていた仲間が、プロフェッショナルファームや外資系金融機関に入社しており、ハードワークで成長していた様子に憧れがあったのです。また、その仲間にはコロナ禍においてもWHOで働くメンバーが2人もいたりと、世界を救おうという考えが根底にあるんですね。プロフェッショナルファームに入れば、そうした世界観に近づけるのではと思いました。それで2年の勤務の後にBCGへ転職しますが、周りのレベルが高すぎて、毎日必死でした。
―創業期のスタートアップであったレアジョブへの転職は、何がきっかけでしたか?
山田 裕一朗
戦略コンサルを辞めて起業した創業者のことを、ネットで知ったのがきっかけです。そのブログを見て働きぶりに共感し、会いに行ったときに「スタートアップへの参加は早ければ早いほど楽しい」と聞いてこれだと思い、BCGは約1年で辞めてレアジョブに入社しました。創業から10人目くらいのタイミングでしたね。
―スタートアップでは、何が楽しかったですか?
山田 裕一朗
業務自体、戦略コンサルではお客様の変革のための支援でしたが、事業会社で最初はカスタマーサポートとして要望を受けて改善していくという、まさに自分たちのビジネスです。それが性に合いましたし、ユーザー数も売上も急成長しており、スタートアップの面白さをど真ん中で体感できました。ジョインしてくる人も個性豊かで刺激的。自分でやりたいことがあれば手を挙げて実行できる環境なのもよかったですね。
実際、入社から2年くらいで大手通信会社に自分で連絡して業務提携を結び、スマホで英会話レッスンをするサービスをリリースさせました。アイデアは良く自信もあったのですが、端末が30分ほどで熱くなるなど、技術が追いついていない段階だったため失敗でした。しかし、そんな風に裁量を持って自分で企画し、実行できるのが面白かったです。
―起業されたのはどのような経緯からですか?
山田 裕一朗
もともと起業家というと特別な人のイメージがあり、自分ごとではなかったのですが、レアジョブで創業経営者と密接に働き、喧々諤々するなかで、自分でも起業をやってみたい、これならやれそうだと思ったのです。
それで、まずはレアジョブに勤めながら2014年にファインディの前身となる会社を創り、製造業のマッチングでいろいろプロダクトを作ってみました。ですが、これがやりたいことだろうかと疑問を感じてしまいます。それよりも「人」に興味があると気づいたときに、もともと友人だった今の共同創業者と話がまとまり、本気で何月までにと目安を決めて動き出しました。当時レアジョブで執行役員であったため、その任期を満了させ、2016年7月にファインディを設立したのです。
創業融資支援制度の充実ぶりから、品川区にオフィスを
―共同創業者との役割分担はどのような形ですか?
山田 裕一朗
彼は10代からプログラムを書いてきたエンジニアでCTOですが、もともと営業経験もあります。私のほうはコードはたいして書けないので、特許申請などで技術系の知見を活かしつつ、基本的にはビジネスサイドを担っています。互いにビジネスと技術を少しずつオーバーラップしており、良いバランスですね。
―とはいえ、最初のビジネスはうまく行かず、ピボットされたそうですね
山田 裕一朗
求人票の解析サービスで起業したのですが、リリース前からターゲットとなる人事の方たちにうまく刺さっていないのが分かり、急いで次を考えました。会社はその間、古巣のレアジョブからの業務委託で収入を得て、何とかつなぎました。その後、求人票解析のノウハウを活かして無料で求人票代行をしている中で、エンジニア求人に課題があることに気付き、現在の事業であるエンジニア転職「Findy」のサービスに至りました。
―五反田にオフィスを構えたのはいつ、どのような理由からですか?
山田 裕一朗
2017年3月です。5月に「Findy」のリリースを準備していたら、人材をマッチングするサービスなので人材紹介業登録をしなければならず、その要件としてオフィスを自前で持つ必要があり、急遽探しました。
五反田に決めたのは、品川区なら創業支援資金として低利の融資あっ旋制度があったからです。他の区では支援制度はあっても家賃相場が高かったり、そもそも制度がありませんでした。五反田は通勤の利便性もありましたが、決め手は創業融資支援です。電車で1駅2駅の差でも、自治体が変わると受けられる制度も変わるので、いろいろ調べて検討すべきです。
―創業融資を利用したのは、なぜですか?
山田 裕一朗
一定の職業経験があれば融資を受けやすいからと、C F O経験のある友人からアドバイスされました。シードでの資金調達では経営の自由度を下げるリスクもありますが、融資ならその不安もなく、また業務委託で収入もあるなら借りやすいといわれました。実際、初年度を乗り切るに十分な額を確保でき、安心して事業に向き合えました。
―そのほか、品川区で良かった点はありますか?
山田 裕一朗
社員も会社の近くに住むようになりますが、子育て世代なので、待機児童問題の解消に前向きな自治体なのは有難いですね。また、スタッフが増えるごとに移転をすることもありますが、皆の通勤利便性などを考えると大きくは離れられません。ですから、創業地のエリアが会社のイメージやカルチャーにも関わるといえ、最初にどこにオフィスを構えるかは、実は重要だと思っています。
いま当社は社員約120人で、エンジニア、デザイナーとビジネスサイドは3:7くらいの割合です。エンジニアは週1出社のリモートワークで、地方在住だとフルリモートにしていますが、たまに出社したときにはビジネスサイドと交流も活発です。その際の飲食費の補助制度もあり、会社としても交流を奨励しています。
―経営者としてオフィスで大事にしていることを教えてください。
山田 裕一朗
レアジョブでの7年間は、高校の部活でにぎやかに一生懸命だった青春の思い出と重なります。それがスタートアップらしさだと思うので、そんな人が集まることによって生まれるエネルギーを社員には味わってもらいたいですね。
―最後に、起業や資金調達を考えている人へアドバイスをお願いします。
山田 裕一朗
事業というのはスケールまで考えると10年20年かけて取り組むものなので、そのくらい続けられるよう、情熱を注げるものを見つけてほしいですね。私自身は見つかるまで時間がかかり、座禅やコーチングに通って自分を見つめなおしたりもしました。
資金に関しては、初期はVCとのやり取りもパワーが取られるものなので、会社を続けるためには融資という選択肢をぜひ考えてみるとよいと思います。そうした資金調達や融資については、起業家のコミュニティなどで、経験者にいろいろ話を聞くと為になります。その点でも五反田は、ちょっと訪ねていくのもやりやすいですね。そうして起業の先輩や経験者に意見を求めていくのはお勧めです。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。