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インタビュー 2023.4.24

【資金調達特集】Chatwork創業者がその経験を注ぎ込み、オンライン/オフライン両面から仕掛ける「エンジェル投資家×起業家」コミュニティSEVENの中身を聞いてみた

エンジェル投資家と起業家のコミュニティSEVENのFounderである山本敏行さんは自身、大学在学中の2000年に、留学先のロサンゼルスでChatwork社の前身となる会社を創業。シリコンバレーでの日本法人設立や東証マザーズ(現グロース)上場、その間随時行ってきたエンジェル投資などの経験を活かし、2020年SEVENを設立しました。現在はオンラインからオフラインへと広がっている、その活動について、山本さんに聞きました。

 

(プロフィール)

昭和54年3月21日、大阪府寝屋川市生まれ。中央大学商学部在学中の2000年に、留学先のロサンゼルスEC studio(2012年にChatWork株式会社に社名変更)を創業。2012年に米国法人をシリコンバレーに設立し、自身も移住して5年間経営した後に帰国。2018年Chatwork株式会社のCEOを共同創業者の弟に譲り翌2019年東証マザーズへ550億円超の時価総額で上場。現在はエンジェル投資家コミュニティ「SEVEN」に注力している。

 

資金調達までピッチを繰り返し添削し、ブラッシュアップ

 

―2023年1月に「五反田バレーアクセラレーションプログラム2022」で登壇された「資金調達のための1Dayピッチ講座」は、ピッチの内容やスライドをその場でアドバイスするもので、参加者からもたいへん好評でした。

山本 敏行

あのようにオフラインのワークショップ形式で行ったのは初めてですが、内容的にはSEVENで常々やっていることです。そちらはオンラインで「SEVENピッチ」と銘打ち、毎月2回、130人以上いるエンジェル投資家会員に向け、やはり会員の起業家7社がピッチを行います。ファーストラウンドでは自社のビジネスモデルを3分で話し、3分間の質疑応答後の参加者投票で7割以上を得れば次に進みます。セカンドラウンドのピッチではより詳しい説明を行い、ビジネスの検証や条件など詳細な面談を経て、ファイナルラウンドでピッチ。その後は各々のエンジェル投資家と面談し、合意に至れば出資となります。調達額は1社あたり平均2000万~4000万円で、エンジェル投資家が3~10名入るイメージです。

SEVENピッチは投資家からのフィードバックを多数受け、何回もキャッチボールしながら改善していける、絶好のトレーニング機会ですね。実際に資金調達を得るまでに7回ほど添削されていくと、見違えるようにピッチが洗練されます。

―そうしたピッチも行われる、SEVENとはどのようなコミュニティでしょうか?

山本 敏行

設立のきっかけは、コロナ禍でオフラインのピッチが行われなくなり、資金調達に困る起業家が多く見受けられたため、Zoomでピッチイベントを開催したことでした。若手起業家にエンジェル投資をしたい経営者と、資金調達を目指す起業家のコミュニティで、起業講座やピッチイベントを行って、実際に毎月数社がエンジェル投資家からの資金調達を成功させています。

起業講座「SEVENローンチ」は毎朝7時から無償提供しており、企業理念の構築やビジネスモデル設計、ファイナンスの基礎、ピッチ資料作りなど、資金調達までの流れを網羅した内容です。また、SEVENを通して出資を得た起業家は「SEVENファミリー」として互いに切磋琢磨し合えます。

こうして起業家の育成から発掘、エグジットまでを支援するプラットフォームがSEVENですが、もう一つ特徴的なのが、エンジェル投資家を育くむプラットフォームでもあることです。この両方を兼ね備えたコミュニティというのは、日本でも世界でも珍しいでしょう。

―具体的に、エンジェル投資家にはどのような支援があるのですか?

山本 敏行

SEVENでは、投資先に資金だけでなく人的ネットワークやビジネス経験も提供できるエンジェル投資家を「パワーエンジェル投資家」と定義して、会員として迎えています。そこで多くの起業家のピッチに触れて目を肥やし、実際にSEVENピッチを突破した起業家に投資した後も、そのつきあい方を学べるわけですね。出資先とは月次レポートと3ヵ月ごとの株主ミーティングでつながりますが、過干渉にならず、何か要望があったときに惜しみなく支援するような姿勢を、SEVENとして求めています。

たとえば月次レポートのフォーマットには、現在注力していることや解決すべき最優先課題を3つずつ書く欄を設けてあり、自身のビジネス経験からアドバイスしやすい仕組みにしています。そのほか、エンジェル投資家同士のネットワークもできますし、厳選された起業家とも出会えるので、エンジェル投資を始めやすいのです。

エンジェル投資の文化を日本でも根付かせたい

―どのような人がエンジェル投資家として会員になっているのですか?

山本 敏行

上場企業やスタートアップのCxOや、弁護士、税理士、公認会計士、上場企業の監査役といったスペシャリストなどですね。必ずしも上場、エグジット経験は必要ありません。大事なのは、資金だけでなく、自身の経験やスペシャリティをもって支援ができることです。
実際に上場やエグジットを経験したスタートアップ経営者は目の前の仕事で忙しく、支援したくても余裕がないもの。一方、全国各地に優秀な経営者はたくさんいて、資金も経験もありますが、支援の意欲はあっても、どこで何をしてあげればよいのかを知りません。そこで、起業家と投資家、両方とつながりのある自分がプラットフォームを創ることで両者をつなげ、つきあい方を指南していくことにしたのです。

―もともと、日本ではエンジェル投資家が育ちにくいという危機感をお持ちだったのですか?

山本 敏行

シリコンバレーで5年間ビジネスをしていたときに、現地でメンターについてもらうなどして、起業家が支援を得やすいのを実感しました。ファイナンス面だけでなく、リタイアした世代がエンジェル投資をしながら無料でメンタリングをする。自身の業界ネットワークで重鎮に1本連絡を入れてあげるような支援体制の層の厚さがあるのです。日本もこうした環境にしたいと思いました。

―SEVENに参加する起業家としては、一般的なVCと付き合うのに比べ、どういうメリットがあるでしょうか?

山本 敏行

シード期のスタートアップにはVCも多数投資していて、1つのファンドあたり20~30社は投資するものです。ですが、1割がホームラン、2割がヒットなどと言うように、全てのスタートアップを完全にフォローし切れません。SEVENでは、各エンジェル投資家に1社1社コミットしてもらうので、起業家からすれば、相手は自分の事業を見たうえで出資してくれていると実感しやすいでしょう。
一方で、エンジェル投資家の心構えとして、過干渉は良くないというのは入会時から言っています。なおかつ、起業家が相談もしやすいようなフラットな関係ですね。私自身が出資先にはこうあって欲しかったという起業家目線から、そうしたスタンスを心がけてもらっています。
また、そもそもエンジェル投資家は自身が判断するので、投資決定までのスピードが速いというメリットもあります。

―ご自身はエンジェル投資家として、どういう人に惹かれますか?

山本 敏行

ちょっと磨けば光りそうな人を探すのが好きですね。投資としてはそこまで確実でなくても、この人の先の人生を見てみたいと思える人です。エンジェル投資すると株を一定数持つのでつながりができ、遠い親戚のようになります。そんな風に、将来に向けて応援したいです。

高校生起業家を育てる仕組みづくりで、ユニコーン創出を目指す

―現在、注力していることを教えてください。

山本 敏行

2022年からSEVENのオフライン版「SEVENアカデミー」を始めています。全国のシェアオフィスや起業家育成支援組織に、起業準備やピッチスキル、経営戦略など150本以上の動画から成る起業家育成コンテンツを提供するもの。同時に、地元の若者に投資したい富裕層に正しいスキームでエンジェル投資してもらうための「リアルエンジェルピッチイベント」も開催しています。大阪のイベントでは前2列に地元のエンジェル投資家がずらりと並び、実際に出資も行われました。
そうしたオフラインの拠点を静岡、京都、富山、佐賀・・・と広げています。

―そうして目指す世界観はどういうものでしょうか?

山本 敏行

こうした仕組みを展開して、起業家の発掘から育成、資金調達までを全国どこでもできるような環境にもっていきたい。「リアルエンジェルピッチイベント」で調達したら次はオンラインの「SEVENピッチ」へと、地方大会から全国大会に進むような位置づけにして、VCにつなげていきたいです。そのため、地方拠点は全国の主要駅には置きたいと、700拠点を目指しています。
もう一つ、日本経済の底上げのためにユニコーンが育つ下地にしたくて、「ユニコーン起業部」という高校生メインの部活動も始めています。近年、学生のビジネスコンテストも増えていますが、単発ですし、受験になるとチームが解散したり、学生でいきなり上場できるようなアイデアを見出すのも現実には難しいもの。そこで「学生社長1万人プロジェクト」と銘打って、学生社長を大量に生み出せるような取り組みを行っています。

―学生というと、高校生、大学生でしょうか。

山本 敏行

そうですが、特に高校生から意識を持ってもらいたいです。実際、高校生なら自宅があり、扶養家族がなく、食べることに困りませんので、ビジネスに専念できて起業するには最高の環境です。そうして大学はシリコンバレーに行くのを勧めています。うまく行ったら起業しようか程度の気持ちではなく、いま大学生の人も休学して行くくらい、背水の陣で臨んでほしいですね。

―とはいえ、起業というとやはりハードルは高そうです。

山本 敏行

いきなりホームランを狙わなくていいのです。少年野球でいっぱい三振するような経験を、早くからするとよい。ですから高校生で起業して、社長になるのです。シリコンバレーに行くのは、CEOが英語でビジネスできれば、世界で戦えるユニコーンを目指しやすいからです。現地では私がシリコンバレーのネットワークにつなぎます。そうして揉まれて帰国したら、SEVENから出資する。そんな構想で、今春には第1号の学生をシリコンバレーに送り出します。
パレートの法則でいう、上位1割の優秀層は放っておいても意欲的に起業していきますが、中位6割からも少しでも引き上げて、チャレンジできるようサポートしていきたい。「SEVENアカデミー」や「ユニコーン起業部」はそのためのプラットフォームです。

―最後に、起業を考えている人へアドバイスをお願いします。

山本 敏行

一次情報が得られるところに飛び込むことです。たとえば、講演会に参加するのでなく主催するなど、自分がど真ん中に入れば、直接、生の情報が得られます。また、自分が立ち上げたいビジネスがあれば、その業界や領域を代表する会社でインターンをしてみたり、その業界で働いている人を巻き込むのもいい。とにかく、中の人と情報を知ることが重要です。シードの起業家には、その業界のことをそこまで詳しくないのに、仮説を立てて起業してしまうケースが多く見受けられます。もっとリサーチしておけば時間短縮できたのに、と思うことが少なくありません。直接に一次情報を取りに行くことで、無駄を省いてみてください。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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