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インタビュー 2023.9.20

【ベンチャーキャピタル特集】 起業家と変革の渦を起こし、産業や社会へのインパクトを目指すSpiral Capitalに、出資やオープンイノベーション支援の中身を聞いてみた

Web制作大手IMJのCVCを前身として2017年に生まれたSpiral Capitalは、「Power to the imagination」をミッションに、主にアーリーステージ以降で、あふれる想像力とテクノロジーの力で社会を変革する起業家をサポート。一緒に汗を流し、泥にまみれる同士として、起業家とともに変革の渦を生み出しています。そのVC、CVC運営やオープンイノベーション活動支援における方針や判断基準、具体的なサポートについて、Spiral Innovation Partners(Spiral Capital完全子会社)代表パートナーの岡 洋さんに聞きました。

(プロフィール)

岡 洋さん
Spiral Innovation Partners株式会社
代表パートナー

2012年に株式会社IMJ Investment Partners(現:Spiral Ventures Pte. Ltd.)の立ち上げに参画。2015年、奥野と共にCCCグループ傘下でIMJ Investment Partners Japanの立ち上げを行い、2019年6月にSpiral Innovation Partners LLP 代表パートナーに就任。2014年頃からコーポレートベンチャリングを軸とした企業のオープンイノベーション支援を行っており、T-Venture Program、東急アクセラレートプログラム、ASICS Accelerator Program等の企画運営や、社内ベンチャー制度の企画運営、イノベーション人材の育成支援など幅広くサポート。それ以前はIMJグループにて、Webインテグレーション事業、アフィリエイトプラットフォーム事業、スマートホンアプリ事業等、複数の事業を経験。千葉大学大学院修了。福岡出身の九州男児、大学時代はダンスにのめり込む。現在の趣味はキャンプで、季節を問わず一年中キャンプを楽しんでいる。

 

フィンテック・ヘルスケア・スマートインフラへの投資が6~7割

 

―まず、Spiral Capitalの特徴を教えてください。

岡 洋

そもそもSpiralの由来は「“異質なもの”の組み合わせによっておきる大きな渦」であり、スタートアップと大手企業、既存産業と先端テクノロジー、といった“異質なもの”の組み合わせによって大きな渦を生み出し、新たな潮流やイノベーションを起こしていこうというコンセプトです。

当社がスタートアップに投資を行うことでユニコーンを生み、例えばそのスタートアップがサービス提供する事で大企業のDXを促進させ、あるいは我々が運営するファンドに出資する事業会社のイノベーションを通じて産業変革を起こし、その先にサステナビリティやウェルネスといった社会変革を実現しようというわけです。

 

―投資活動の規模感や対象領域はどのようですか。

岡 洋

いわゆる純投資ファンドであるGeneralファンドと、企業の冠がついたCVCファンドを2本立てで運用しています。
Generalファンドは、1号ファンドが70億円、2号ファンドが120億円。産業変革や社会変革をテーマに、よりインパクトの大きな「フィンテック」「ヘルスケア」「スマートインフラ」をBIG3領域として、ファンドの6~7割を投資しています。「スマートインフラ」は広く社会インフラを指す言葉として使用しており、エネルギー・モビリティ・不動産・建設・脱炭素などが含まれます。

岡 洋

そのほか、バーティカルに特定産業を攻めるスタートアップとホリゾンタルにさまざまな産業に寄与するスタートアップの両軸で投資しています。
Web3、Deep Techなど、新たな技術領域にも注目していますし、メンバーにESGコンサル出身の者や、医療系コンサル出身の者もいるため、脱炭素や気候テック、デジタルヘルス、創薬といった幅広いテーマに投資しています。

 

―御社には「五反田バレーアクセラレーションプログラム」の資金調達相談会 やDemoDay に参加者いただき、その際の自社紹介では約10名のメンバーが多様な強みをお持ちとのことでした。ESGや医療のほか、どんなメンバーがおられますか?

岡 洋

グループマネジメントには元マッキンゼー日本支社長の平野と、ライフネット生命創業者の岩瀬がおります。平野は現在、早稲田大学ビジネススクールの教授であり、政府の諮問委員会などにも呼ばれたりしています。岩瀬はKLKTN(コレクション)というNFT関連の会社を創業し新たな挑戦をしています。
代表は、投資銀行出身でM&Aアドバイザリーや資金調達支援に長けた奥野で、Generalファンドの責任者である千葉は不動産テック系スタートアップの起業経験があり、よき兄貴分として起業家に寄り添ったアドバイスが可能です。
そのほか、IPO実務に長けたフィンテック領域の担当や、何百社もの大企業ネットワークを活用した出資後のバリューアップが得意なメンバーなどがいます。

 

―そのなかで岡さんが率いるCVCファンド支援には、どのような特徴がありますか?

岡 洋

従来のCVCは特定の企業が自社における事業シナジーのみを目指すものが主流でしたが、当社では、対象セクター全体の変革を目的として、当社とパートナー企業の共同でファンドを設立・運営しています。
セイノーホールディングスとのCVCは、物流周辺領域を投資対象とする「Logistics Innovation Fund(LIF)」であり、もう少し広く荷主のバリューチェーン全体の課題解決を目指す承継ファンドを準備中です。
もう一つ、3つの生保会社を有するT&DホールディングスとのCVC「T&D Innovation Fund(T&DIF)」では、ヘルスケアやインシュアテック、ペット等の領域を投資テーマとしています。

 

大企業8600社とのネットワークで、スタートアップとの協業をマッチング

 

―投資判断のポイントを教えてください。

岡 洋

Generalファンドでは産業や社会へのインパクトを重視した、ユニコーンの創出を意識しているので、市場や社会に与える影響については特に議論を重ねます。ポイントは、目指す世界観を成し遂げられる経営体制や起業家であるか。
ですから、チームに必要なCxOをどうやって採用していくのか、業界内のポジショニングをふまえ、大企業などを巻き込んでいけるパワーがあるか、など経営陣全体を見ています。
LIFは領域特化なので、物流・荷主のバリューチェーンにイノベーションを起こせるかが最も重要です。また「具体的な協業プランがないと投資しない」という従来のCVCにありがちな投資基準は設けておらず、第一にスタンドアロンに成長していけるスタートアップかどうかを評価させていただいております。その先に協業が出来たらいいよね、といった具合です。もう一つのT&DIFでは保険業界という特殊性から、直接的な協業よりは単独での成長可能性を、より優先して見ています。

―ファンドの運営方針は、どのようですか?

岡 洋

どのファンドでも積極的にリードを取り、主体的に投資先に関わっていくスタンスです。実際、投資案件の約半数でラウンドリードを取っています。期限を明示してその調達ラウンドで成し遂げたい目標を定め、当社もコミットして一緒に歩んでいくイメージですね。出資後もさまざまなメンバーが得意な分野で支援に関わっています。

―出資後のサポート内容を具体的に教えてください。

岡 洋

案件担当はパートナーとメンバーの2人体制が多く、経営全般の相談などハイレベルな話はパートナーが対応しつつ、現場ではメンバーが一緒に手を動かして事業計画作成に伴走したり、日々の悩み事を聞いたりしています。
さらに、ファイナンスやIPOの相談があれば投資銀行出身者が勉強会を開いたり、経営のリアルな四方山相談には企業経験者が当たったり、そんな風に臨機応変に、各自の専門性を活かし、チーム全体で支援を行っています。
そうしてコミットするなかでも特に喜ばれるのは、大企業とのマッチング支援ですね。当社が長年オープンイノベーション支援やCVC支援で培ってきた、約600社とのネットワークによるものです。
スタートアップ側から大企業へのアプローチのニーズを聞いて、新規事業担当者を紹介したり、事業会社の投資部門にヒアリングして引き合わせたりなど、よくしています。

 

オープンイノベーションでは、相手のwinも考えるべき

 

―近年のオープンイノベーションのトレンドはどのように見ていますか?

 

岡 洋

オープンイノベーションの歴史を振り返ると、2010年代前半はまだブームに過ぎず、とりあえずスタートアップと何かやっておこうというようなマインドでした。
やってもPoCまでで社会実装には程遠かったり、担当者が社内を動かせていない状況も散見されました。
それが2010年代後半には経営の本気度が増し、アクセラレーションプログラムもCVCによる出資も、実施後の目指すべき到達点を明確にして行われるようになってきたと感じます。
例えば、セイノーホールディングスでは、2016年頃からLP投資や個別投資、アクセラレーションプログラムをやってきて、2019年に当社とCVCを設立。資本を入れて協業する際には、社員を出向させて事業を一緒に進めるという本気度です。
M&Aも、従来は地域の運輸会社を傘下に入れるアセット拡張型だったのが、2022年にはラクスルの物流プラットフォーム事業「ハコベル」を分社化し、ジョイントベンチャーを設立。カルチャーはそのままに、自社のアセットを注いで一緒に事業拡大をしていく出資スタイルとなっています。

―スタートアップにとって有難い状況といえますか?

岡 洋

日本のスタートアップ投資においては、そもそも事業会社による資金がVCファンドの大部分を占めており、近年CVCも激増するなど、大企業の資金が大きく活用されています。
大企業のイノベーションや事業開発に対するニーズは高まる一方ですから、コロナ禍でもオープンイノベーションや出資を抑制する動きにはあまりならず、むしろ当たり前のものとして大企業内でも認知されています。スタートアップからすると、非常に歓迎すべき状況です。
さらに、昨今では、大企業からのカーブアウトによる創業やジョイントベンチャーの設立も増えています。自社内でシーズを抱え込むのではなく、イノベーションのさまざまな展開やスタートアップの力を借りた新規事業創出など、施策の柔軟性も増しました。スタートアップ側もそうした変化をふまえて情報を取りにいくとよいでしょう。

 

―実際にCVC出資や協業を進める際に、スタートアップとして心得るべきことを教えてください。

岡 洋

協業や事業連携、新規事業を一緒に創るのは簡単なことではなく、互いに本気で、持ち得るものを出し合わねばなりません。
その際にスタートアップ側でよくある失敗は、大企業のブランドを借りて箔をつけようとか、営業部隊を使わせてもらおうなどと、相手のwinを考えていないケースです。
それも無自覚的にやってしまいがちですが、大企業側にとって単なる営業支援であれば「なぜ当社がやる必要あるのか」となってしまうもの。
そうならないよう、先方の会社や産業にとっての価値にも留意して進めるべきです。

高い到達点を見据え、必要なアクションを次々とる起業家がスケールする

 

―長年支援をされてきて、スケールしていく起業家にはどのような特徴があるとお考えですか?

岡 洋

大型調達や大型IPO、グローバルへと、よりジャンプアップできる方は、見据える景色と実践する行動のスケールが段違いですね。

たとえば、ゆくゆくグローバル展開したければ、外国人を採用できる土台を今から作っていたり、SaaSを展開していて将来垂直統合を狙うならファイナンスで何十億円、何百億円必要だと試算し、そのために必要なCFOの採用活動を早々に進めていたり、といったこと。

目指す到達点が高く、そこから逆算して今やるべきアクションをとっている起業家が、実際にスケールしていくのです。

実際に議論してみると情熱や本気度が分かりますし、行動力も生半可ではありません。

―最後に、起業や資金調達を考えている人へメッセージをお願いします。

岡 洋

当社では、社会を良くしていきたい、産業のアナログな部分や負をディスラプトしたい、大きなインパクトを残したいという、起業家のビジョンや野心に寄り添いたいと考えています。

そこで責任を持って資金提供し、事業成長に必要な大企業との連携もサポートしていきますので、そうした大きなビジョンや野心をお持ちの方は、ぜひ門を叩いてみてください。大企業のアセット活用も進め、当社が触媒になってスタートアップの成長に寄与していきたいと思います。

また当社も一スタートアップとして、まずはしっかりとリターンを出し、社会にインパクトを与えていきたいと考えています。CVC運営でも、これまでのCVCにはない事業創出、ハイパフォーマンスを目指していますので、期待いただきたいですね。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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