グループを挙げてスタートアップ支援を強化。MUFGのビジネスマッチングや人材面を含む支援内容を聞いてみた
「世界が進むチカラになる。」をパーパスとして、スタートアップが意欲的に挑戦できる環境づくりを支援しているMUFG(三菱UFJファイナンシャル・グループ)。「五反田バレーアクセラレーションプログラム2023」の連携パートナーにも名を連ねています。
そこで、MUFGがグループおよび五反田支店にて行っているスタートアップ支援の取り組みや体制、支援先として注目している分野などについて、成長産業支援室長の岩野秀朗さん、五反田支店長の井口直孝さんに聞きました。
スタートアップへの融資実績は1,000億円以上に
―MUFGのスタートアップ支援体制について伺わせてください。まず、岩野さんが室長を務められている成長産業支援室とはどういう組織なのですか?
岩野 秀朗
成長産業、つまりスタートアップを支援する部署で、日本の産業発展に貢献するべく、2019年に立ち上げました。具体的には、MUFGの信託銀行や証券会社、ベンチャーキャピタルといった関連会社が行う、さまざまなスタートアップ支援を、成長産業支援室がハブとなって束ね、スタートアップのニーズに応じて適切なタイミングで紹介・アレンジしています。また、銀行本体にあるスタートアップ専門の営業部署が行うデットファイナンス(融資)についても、当部署がアレンジ・サポートを行っています。
―スタートアップへの融資環境は、整ってきているのでしょうか?
岩野 秀朗
近年は政府の支援が大きく、2021年4月には「日本版SBIR(Small Business Innovation Research)」の改正法が施行されました。予算支出目標を設定して、研究開発の初期段階から政府調達・民生利用まで、各省庁が連携して支援し、イノベーション促進やユニコーン創出を目指しています。また、2023年3月15日より「スタートアップ創出促進保証制度」が創設され、創業を予定している個人や、創業から5年未満の法人に対する3,500万円までの融資で経営者保証を求めず、信用保証協会が100%保証するようになっています。
このようにリスクシェアしながら融資できる環境が整ったため、この1~2年で銀行もスタートアップに対して積極的に融資を行えるようになりました。そのため、各支店で地域のスタートアップを担当するのに加え、成長企業営業部というスタートアップ専門の営業部署を2021年に立ち上げました。担当者も専任として知見を高め、スタートアップ支援体制を強化しています。
井口 直孝
たとえば五反田支店で口座開設いただいているスタートアップで資金需要があり、融資を行う場合は引き続き五反田支店が担当し、成長産業支援室からも側面支援を受けるケースもあります。
―実際にMUFGとして、資金面でのスタートアップ支援は増えているのでしょうか?
岩野 秀朗
スタートアップへの融資額は2023年3月末時点で1,000億円以上となっており、2024年からの中期経営計画でも加速させていく予定です。また、銀行からの間接的支援として、多くのVCに出資し、累計数百億円となる数十のファンドを組成しています。グループのVCである三菱UFJキャピタルでも、2023年4月にこれまでの倍となる500億円の新たなファンドを立ち上げ、より投資力を高めています。
―資金面以外のスタートアップ支援には、どのようなものがありますか?
岩野 秀朗
まず人材面では、若手行員を取引先企業に2年間出向させる「オープンEX制度」を2019年に開始しました。2023年3月末時点で75社ほどの実績がありますが、うち約50社がスタートアップです。あらかじめジョブディスクリプションを出してもらい、その応募要件に沿って当行内で年1~2回募集をかけ、応募者を選抜して送り出しています。求められる業務はファイナンスに限らず、営業企画や経営企画など、幅広いですね。行員は真面目な人が多く、ビジネスの基本が身に付いているため、出向企業からは好評です。
―それ以外にもありますか?
岩野 秀朗
当行で取引のある多種多様な業種・ステージの企業間をとりもつビジネスマッチングも積極的に行っています。地域にとらわれることなく、国内外の企業間をつなぐことができるのが特徴で、融資などの取引はなくても、当行の担当者がついているお客様であれば相談可能です。
また、商談会として年に数回、スタートアップと大企業をそれぞれ募集し、参加いただくイベントも開催しています。東南アジアを中心とするパートナーバンクを通じて、国内のスタートアップと海外企業をつなげる海外商談会にも取り組んでいます。
井口 直孝
支店の活動として、たとえば五反田バレーアクセラレーションプログラムのイベントなどに当行の行員も参加させていますので、ビジネスマッチングなどのご相談もそうした機会にぜひ頂きたいと考えております。
行内でもスタートアップ支援を希望する担当者が、肝いりで支援
―五反田支店におけるスタートアップ支援について教えてください。
井口 直孝
スタートアップ担当を1つの課にまとめて知見を溜め、担当者もより専門性を高めています。直近の融資ニーズにかかわらず、情報提供やビジネスマッチングなど、積極的に取り組んでいます。
また、融資に関しても、以前は決算書での判断が主でしたが、今はビジネスプランや事業計画などの蓋然性を突き詰め、融資可否を検討するように努めています。実際、五反田支店の融資先スタートアップの7割は現在赤字です。一緒に将来を見据え、ビジネスマッチングや顧客の紹介なども含めて支援させて頂いています。
―資金調達を求めるスタートアップにとって、VCではなく銀行とつきあうメリットは何でしょうか?
岩野 秀朗
デットファイナンスとエクイティファイナンスの違いでいえば、デットだと株式のダイリューションは発生せずに資金調達できる点はスタートアップにとって有益であり、既存の株主や投資家にとっても株式を希薄化させずに済みます。そしてVCは上場等のExitがゴールといえますが、デットでは上場後も長期的なお付き合いを前提としているといえます。
また、デットでは金利が発生し、返済義務があるのに対し、エクイティでは返済義務はないので、どちらを選ぶかは状況によるでしょう。しかし、共同創業者や投資家など、他の株主がいるときに、それらとは切り離して資金調達できるという意味で、デットもぜひ選択肢に入れてもらいたいです。
井口 直孝
最近はエクイティを検討する際にも、銀行からの借り入れができているかを見られるケースも増えていると聞いています。そうしたバランスも考えると良いでしょう。
また、VCも経営パートナーだとは思いますが、銀行も資金面だけでなく、決済・ガバナンスなど経営体制の構築支援や、業務効率化などに役立つ企業の紹介などもできます。そもそも、MUFGとしては上場を必ずしも目指されなくても良いと考えていますし、、他の企業との経営統合・アライアンスなどを仲介することもできます。五反田支店であれば、五反田バレーのスタートアップに興味を持たれる五反田支店の取引先企業とをつなぐようなことも積極的に行っているのです。
―御行でスタートアップ支援に関わる方は、希望して担当されているのでしょうか?
岩野 秀朗
最近の若手行員には、スタートアップ支援の希望者が多いですね。成長産業支援室でも、行内公募で異動してきたメンバーが多くなっています。また、そうした意欲ある人材には、VCや証券など、スタートアップに関わる業務を経験してもらい、スタートアップ支援人材のエキスパートを育成する取り組みも進めています。
また、マネジメント層も私を含め、VC経験者など、スタートアップの事情に通じた人材が揃っているので、同じ目線で話ができると思っています。
井口 直孝
五反田支店では、スタートアップのお客様から、「銀行員の中でもスタートアップと近しいマインドの人を担当にしてもらえて有難い」といわれます。たしかに希望している行員を担当にしていたりしますので、そこを評価いただけるのでしょう。
資金面だけでなく経営面でもサポートできる、頼もしい存在に
―支援先として注目している領域を教えてください。
岩野 秀朗
まずディープテックは日本の産業育成観点でも重要なので、粘り強く支援していきたい領域です。その中でも、ライフサイエンス、スペーステック、フードテックなどの支援は大手金融機関として使命と考えています。SDGsもイノベーションが欠かせない分野で、スタートアップがチャレンジする余地があり、支援していきたい領域です。脱炭素関連も、当行には専門部署があり、その部署と協働でスタートアップの成長支援に取り組んでいます。
そしてインターネットビジネス全般は急成長分野のため、早期から支援して成長をさらにドライブするところに寄与したいですね。日本ならではのコンテンツ産業も、取り組んでいきたい領域です。
井口 直孝
IT分野に強い五反田の風土・魅力を活かして、世の中に新しい価値を生み出す企業がどんどん輩出されてほしいと思っています。業種は問わず、これまでにないようなビジネスを一緒に創っていきたいですね。
また、日本の産業界として外貨を稼ぐ力を強化すべきで、エネルギーや食、サービス分野で海外市場を視野に入れられるようなスタートアップをぜひ支援したいです。
―最後に、この記事をご覧の方にメッセージをお願いします。
岩野 秀朗
資金や経営に関して相談したいときに、銀行としてぜひ一番に想起される存在でありたいと願っています。メガバンクとはいえ、敷居が高いと思わずに、ぜひ気軽に相談いただきたいですね。また、支援すると同時に、一緒にビジネスを創り上げていくパートナーでもありたいので、共創についてもぜひ気軽にご相談ください。
井口 直孝
いま「五反田バレーアクセラレーションプログラム」のパートナーを務めているのも、スタートアップの皆さんとの接点をぜひ拡大したいという思いからです。当行が直接対応できないことでも、可能なスキームや制度を相談・紹介することができるでしょう。当行のアセットを活用いただくつもりで、MUFGにチャンスをいただければ幸いです。
―ありがとうございました。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。