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インタビュー 2024.2.2

【急成長を遂げた品川区のスタートアップ特集】家事代行サービスをオンライン手配で提供。お客様に時間や余裕を生んでいる株式会社CaSy 池田代表に、創業の背景や組織づくりのこだわりを聞いてみた。

2014年1月創業の株式会社CaSy(カジー)は、「大切なことを、大切にできる時間を創る」をミッションとして、手配をオンラインで完結できる家事代行サービスを運営。2022年2月には東証マザーズ市場に上場し、さらに提供サービスやシステムの拡充など、次の展開を図っています。代表取締役の池田裕樹さんは、「五反田バレーアクセラレーションプログラム2023」の研修②で、上場ストーリーとCFOの在り方について登壇されています。今回は、事業の特徴や、起業からスケールへの経緯、組織づくりのこだわりなどについて聞きました。

 

(プロフィール)

池田 裕樹さん
株式会社CaSy
代表取締役

東京⼤学⼤学院⼯学系研究科修了。グロービス経営⼤学院MBA。NTTコムウェア株式会社、および株式会社NTTデータにて、ファイナンス系システムの開発、事業企画およびM&A後のPMI業務等に従事。2014年株式会社CaSyを創業、代表取締役CTOとしてプロダクト開発を主導した後、2019年にCFOに就任。2022年2⽉、業界最初の東証マザーズ上場。

 

家事代行のマッチング・手配をオンライン化して収益モデルに

 

―まず、御社の事業について教えてください。

池田 裕樹

お部屋の片付けや浴室・キッチンなど水周りのお掃除といった家事代行サービスを、依頼から支払いまでオンラインで完結する形で提供しています。従来の家事代行サービスの提供プロセスは、ユーザーがコールセンターに電話し、日程調整を経てコーディネーターと呼ばれる営業担当者が自宅を訪問。室内を見て要望を聞き、持ち帰って働き手がマッチングされ、後日サービスが開始するという流れでした。一定の時間がかかり、コールセンターに電話するのもビジネスアワーで面倒です。そこで、アプリやWebでマッチングを行えるようにしました。

―家事代行サービス自体は以前からありますが、マッチングをシステム化して、ユーザーに便利にしたのですね。

池田 裕樹

そうですね。また、コーディネーターが不要なので、その分の価格を抑えられ、働き手にも高い報酬を支払うことができています。そして、サービス開始までの時間を圧倒的に短縮することができました。そもそも家事代行会社は日本に約4000社ありますが、黒字企業平均の営業利益率がマイナス一桁%と、ビジネスとしてとても収益性が低かったのです。その費用の内訳で、働き手の報酬に次いで大きいのがコーディネーターの人件費なので、マッチングをシステム化することで新たなビジネスモデルができると考えました。

MBAの授業で考案したビジネスプランで起業を決意

 

―創業は2014年1月ですが、そこに至った経緯を教えてください。

池田 裕樹

勤務しながら通っていた経営大学院(MBA)の授業で、3ヵ月で1つのビジネスプランを練り上げるものがありました。初日にたまたま近くにいた3人でチームを組み、それが後の共同創業者となります。とはいえ、すぐに家事代行を思いついたわけではなく、100個くらいのアイデアは出しました。たとえば、飲食店の予約サービスを考えては、実際に飲食店に行ってインタビューしてみたものの、うまく行きません。そんな時、その授業の教員から「ビジネスを通してどういう人を助けたいのか、どういう世界を創りたいのか、その辺りから考え直してみては?」とアドバイスをもらったのです。
頭をよぎったのは、人々は、そして私自身は「大切なことを大切に」生きられているだろうかという思いです。
当時エンジニアをしていた私自身、システム公開前になると忙しくなり、家族との時間をとれないことがよくありました。子どもはすぐに大きくなってしまうので、一日一日が本当にかけがえのない時間です。仕事が忙しいことが理由で、その大切な時間を失うことに歯がゆさを感じていました。

池田 裕樹

例えば、家事を得意な人にお願いして、できた時間をもっと大事にしたいことや、大切な人との時間につかえるようになったなら。それがあたり前になれば、世界中の家庭にもっと笑顔が増えると思いました。
そして、すぐ業界事情を調べ、コーディネーターの人件費分が圧縮できれば、相場である1時間4000~5000円を2500円くらいにでき、そして、サービス開始までに約2週間もかかっていたリードタイムを数時間に短縮することも可能であると考え、ビジネスプランを練りました。
そのプランが2013年9月末の最終プレゼンで高評価を得たので、3人とも勤務はしていましたが、熱が入ってリサーチを進め、翌年1月に会社を設立したのです。その時点では3人とも勤務しながら、4月中旬にα版をローンチし、その後、CaSyにフルコミットしていきました。

―池田さんはもともと起業を考えていたのですか?

池田 裕樹

それはなかったです。経営大学院に通ったのはビジネスパーソンとしての焦りから。ずっとIT業界でSEとして金融機関のシステムを手がけていましたが、経営においてITが重要な要素になってきたので、ビジネス側のことも学び、自分に付加価値をつけたかったのです。ですが、経営大学院の卒業の際に起業を宣言していく人が多かったことにも刺激を受け、このままエンジニアとして10年20年過ごす未来と、せっかく生みだした起業の種を育てていく未来、どちらに自分の時間を使いたいかを考えたときに、後者を選ぼうと思いました。

―α版の状態から、お客様に向けてどのようにアピールしていったのですか?

池田 裕樹

ローンチの2ヵ月前にLP(ランディングページ)1枚を作り、Facebookで拡散してもらいました。そこに、ローンチしたらお知らせする登録フォームを付けたところ、数百人の登録がありました。また、Facebookを見たVCから連絡があり、ローンチ前に投資をいただいています。そのVCの紹介で、ローンチの際にスタートアップ界隈で有名なWebメディアに取り上げられたこともあり、当初から反響は上々でした。
その先も、福利厚生サービスのベネフィット・ワンに営業したり、Web広告も試しました。友人紹介で双方にクーポンを発行する制度も早期に取り入れるなど、いろいろ工夫していきました。
その結果、30~40代の共働き層がメインのお客様で、最近は20~30代独身層も増えています。オンラインが接点なのでシニア層は少ないですが、シニア層のスマホ利用も普及してきているので、今後のポテンシャルは大きいと見ています。他人を家に入れる抵抗感もあると思いますが、若い層では合理的に、自分たちの時間を創るために家事代行を選択されていると感じます。

サービス提供を担う働き手「キャスト」が、会社の宝

 

―共同創業した3人以外のスタッフは、どのように増やしてきたのですか?

池田 裕樹

正社員は、創業した年の秋と翌年の年明けに1人ずつ、エンジニアとオペレーション担当を入れました。それまで開発は、大学生のエンジニアインターンを4~5人、専用サイトで募集して、一緒にやっていたのです。当時入居していたシェアオフィスは狭くて全員が入りきらなかったので、インターンの大学に行き、学食の隅で開発したりもしていました。機能開発して、とにかく早くリリースしたいフェーズだった中で、一人ひとりが本当に力を尽くしてくれました。
創業1年後の2015年2月に定期サービスを開始するときも、エンジニアインターンを中心にリリースしました。公開日も時間がかかりましたが、社員と変わらず情熱を持って一緒に取り組んでくれました。

―ビジネスとしてサービスに手応えを感じられたのは、いつですか?

池田 裕樹

定期サービスをリリースした後ですね。2~3回目の資金調達もできましたし、それまでのスポット予約と違い、解約されない限りは売上が積み上がっていきます。幸い解約はあまりなく、新規契約もあってトップラインが伸び続けたので、事業として赤字は残っていましたが、マーケットにフィットした感覚は得られました。

―正社員は40人未満で、家事提供を行う業務委託のスタッフが多数いるモデルですが、マネジメントの工夫点を教えてください。

池田 裕樹

まず、CaSyでは働き手を、敬意を込めて「キャスト」と呼んでいます。お客様に時間をご提供する上で、キャストはなくてはならない存在であり、キャストあってのサービスです。だからこそ私たちは、キャストを会社の宝であると思っていますし、その地位を向上させ誇りを持って働いてもらえるように環境整備に投資し続けています。
キャストはお客様先に直行直帰なので、会社へのロイヤリティやキャスト同士のつながりを感じにくい環境にあります。ですから意識的に、会社からキャストに感謝やねぎらいの言葉をかける仕組みや、キャスト同士で質問や投稿ができるコミュニティを作ってきました。定期的に洗剤講座など、新人キャストに役立つ講座を行ったり、年1回キャストセッションを開いて年間MVPの表彰も行っています。
さらに、育成もキャスト間でも行える仕組みを整えました。キャストのキャリアパスとしてサービスのプロフェッショナルを目指すのに加え、教える道を作るためです。体力的に現場サービスが難しくなった場合も、指導者として活躍してもらえると考えました。

―キャストのクレドも策定されたそうですね。

池田 裕樹

2018年にCHROが入社したタイミングで、CaSy全体の行動指針に加え、キャストのクレドを作りました。「私はいつも、あなたの味方」などの6項目で、トップキャスト264名に向けたアンケートで大切にしている思いを集め、それをもとに有志13名のキャストが本部で議論を重ねてあるべきサービス基準や何のためにサービスを行うのかを言語化してもらったものです。その様子の写真を、キャストのクレドとともにエントランスに掲示しています。

目黒駅近のオフィスは、キャストが仕事を誇りに思えるこだわりの場

 

―オフィスの変遷を教えてください。

池田 裕樹

創業当初は私1人なので自宅で作業し、後に、ピッチで出会った投資家が運営するコワーキングスペースが半蔵門にあり、入居しました。その後も2回ほど移転しましたが、場所選びで重視したのはキャストに誇りに思ってもらえることです。2018年10月に現在地に移転して、ワンフロアでゆとりあるスペースが取れたので、自分たちでコンセプトを考えました。大人数で囲めるテーブルや打ち合わせしやすいボックス席、個々での作業がしやすい場所など、使いやすくなっています。キッチンもあって、キャストの研修が行えます。
最寄り駅は目黒ですが、五反田も徒歩圏で、五反田バレーのスタートアップの知り合いに相談に乗ってもらうなど、コミュニケーションにも便利ですね。

―今後の事業展開はどのように考えていますか?

池田 裕樹

ハウスクリーニングや整理収納代行など、提供するサービスを広げてきましたが、さらに家事代行会社向けの業務管理クラウドシステム「MoNiCa(モニカ)」を実証実験中です。小規模事業者が多い業界で、自社でのDX化が難しいので、当社の仕組みを提供して業界の効率化に貢献したいと考えています。
また、行政との連携も強化していきたいですね。子育てなどに関する家事支援制度などが自治体ごとに考えられていますので、当社もお役に立てればと思います。

―最後に、起業やスケールを考えている人へアドバイスをお願いします。

池田 裕樹

今振り返って、創業から3年目くらいまでにやっておけばよかったと思うのは、資金調達に関することよりも、価値観を揃えること。スケールには組織づくりが重要で、価値観が合う人を採用していく必要があるのです。だから創業の志、どういう世界を創りたいのかをしっかりと語り、共感していただける方をCaSyに迎えています。そして選考においては、当社のカルチャーの元になっている価値観を明確化して、採用の際に必ず見るべきポイントとして押さえています。
創業期にはやることが多すぎて、そこまで考えられませんでした。スキルがあれば誰でも採用したいところですが、グッと我慢して価値観を見ておかないと、組織をうまくつくっていけなくなります。当社は2014年創業で、CHROを迎えたのは2018年でしたが、もっと早くてもよかった。そのくらい組織づくりと価値観の確認を重視してもらいたいですね。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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