【急成長を続ける品川区のスタートアップ特集】化学業界特化型のデータプラットフォームを構築・提供し、新規原料選定や顧客探索につなげる株式会社CrowdChem池端代表に、創業の背景や今後の展望を聞いてみた。
品川区が運営する広町一丁目工場アパートに入居している、2022年1月創業の株式会社CrowdChem(クラウドケム)は、独自に収集したデータをもとに科学分野に関する知見や知識を提供するプラットフォーム「CrowdChem Data Platform」を開発。2024年9月にはプレシリーズAラウンドにて2.9億円の資金調達を実施し、東洋経済の「すごいベンチャー100」2024年版にも選出されています。今回は事業の特徴や、起業の経緯、今後の展望などについて聞きました。
(プロフィール)
池端 久貴さん 株式会社CrowdChem 代表取締役
化学メーカーにて営業、半導体製造装置メーカーにてマーケティングに従事した後、総合研究大学院大学にてマテリアルズ・インフォマティクスの研究(2012年)を行った。その後、旭化成に入社し、ほぼ同時期に統計科学博士を取得(2017年)。旭化成ではリードエキスパートとして、社内でマテリアルズ・インフォマティクス、自然言語処理技術活用を推進。50を超える事業課題に取り組む傍ら、国のプロジェクトなどでオープンデータの活用推進も行った。2022年1月に株式会社CrowdChemを創業。
化学原料の製造工程を特性ごとにフロー化し、開発の効率化に貢献
―まず、御社の事業について教えてください。

池端 久貴
化学業界向けに、国内外の特許や製品カタログなどの情報を独自に収集・集約したAIプラットフォーム「Crowd Chem Data Platform」を運営しています。
そもそも化学製品の開発手法は料理のレシピに似ており、一定のプロセスや手順、原料の組み合わせなどから成っています。当社では、原料の特性ごとにその製造プロセスやフローを独自のデータ構造に書き換え、整理したデータを蓄積しています。原料の特性というのは、たとえば自動車用のプラスチックだと強度や曲りやすさ、耐熱度など、化粧品だと保湿性、さらさら感といったもので、料理がレシピによって味が決まるように、化学製品も作り方で性質が変わります。当社のデータを使うことで、実際に試作する前から仕上がりが予測できるので、実験数の削減、開発のスピードアップ、製造にマッチした燃料や原料の選定の精度アップなどが叶うのです。
―化学業界向けということですが、具体的な顧客のイメージを教えてください。

池端 久貴
化学メーカーや化学製品を扱う自動車、化粧品、半導体、食品などのメーカーの研究開発部門が対象となります。そもそも化学メーカーは各社の得意領域を守備範囲としており、1社で全ての原料を賄うのではなく、さまざまな会社から原料を仕入れて組み合わせて製品を作っています。そこで当社が、さまざまな分野の特許や論文を統合して独自のアルゴリズムにかけることで、各社が行っていることを一覧できるようになるのです。
―現在、ビジネスとしてどのようなフェーズにありますか?

池端 久貴
「Crowd Chem Data Platform」では約70万件の原料やプロセスデータが蓄積されていますが、まだまだ足りません。そこで今は、有料サービスは一部とし、あとは無料にしています。
分析サービスのオペレーション体制が整ったところなので、これから営業を加速させていきます。そうしてデータの蓄積も進めて、プラットフォームビジネスに軸足を移すタイミングを図っていきたいですね。
プラットフォーム構築にかかる資金を考え、最適な手段として起業を選択
―創業は2022年1月ですが、そこに至った経緯を教えてください。

池端 久貴
社会人になってからデータ分析を学びなおそうと、2012年から約5年、総合研究大学院大学(総研大)でマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を学び、博士を取りました。MIというのは、機械学習やデータマイニングなど、AIの技術を用いて材料開発を高速化・効率化する技術です。
起業については、20代で少し憧れを持ったことはありましたが、やりたいことがなかったのでそれきりでした。総研大のときは起業は全く選択肢になく、研究者の道は少し考えたものの、やはり企業にと思って旭化成に入社しました。そこでの仕事は、社内のクライアントを手伝うような役割で、自分が主役にはなりませんでした。在籍中に何度かシリコンバレーに行く機会があり、さまざまなスタートアップ企業と話しているうちに、自分がやりたいことをやる手段として、起業を考えるようになったのです。
―具体的に起業を決めたきっかけは何でしたか?

池端 久貴
フラットな立場で化学原料や製造プロセスのプラットフォームを作りたいと考えたのがきっかけです。最初は、勤務する会社内でできないかと考えました。ですがプラットフォームの構築に5~6億円は必要だと思ったのに対し、社内で新規事業として予算確保できるのはせいぜい数千万~1億円であり、難しかったのです。また、大学でも継続的な投資は見込めません。結局、それだけの資金を集めるにはスタートアップとして起業するしかないと思い、何人かVCを紹介してもらったところ可能性を感じられたので創業を決意し、1月にCrowdChemを設立しています。
自治体が運営するオフィスを探して、品川区に移転
―オフィスについて教えてください。2024年1月に、品川区が運営する広町一丁目工場アパートに入居されていますね。

池端 久貴
その前は、VCのANRIさんが運営するCIRCLEというオフィスにいましたが、1年間限定でした。それで次の移転先を探すときに、自治体が運営しているところを検討し、品川区で複数ある創業支援施設から広町に決めました。
―品川区で活動するメリットは何でしょうか?

池端 久貴
当社のお客様はR&D部門なので国内に拠点が点在しているため、新幹線に乗りやすいのは必須条件なので、品川駅が近いのは便利です。また、私自身が海外出張も多いので、羽田空港の近さも有難いですね。引っ越し費用を負担するようにすると、近くに引っ越してくる若い社員の方が増えてきました。
このように快適に使っていますが、いま急速に採用を強化していて出社するメンバーが7人くらいになることがあり、手狭になり始めたので品川区内で次のオフィスを検討中です。
―スタッフはいま何名くらいいるのですか?

池端 久貴
正社員が12~13人で、契約社員を入れて20人強です。データ入力のスタッフまで含めると約70人ですね。採用のハードルを上げないよう、営業は化学の知識がなくてもできるような形をとっていますし、データ入力や分析サービスについてはプログラミングの知見がなくても化学系の知識だけあれば対応できる体制にしています。
やりたいことがあれば失敗を恐れず行動し、起業にトライしてほしい
―今後の事業展開はどのように考えていますか?

池端 久貴
毎年売上を2~3倍にしていけるよう、採用を強化しています。海外展開も2025年から本格化させようと、いまフィリピンのパートナーと連携して40人近くのデータ収集チームを作っているところです。全員が化学系人材で英語もでき、営業やプログラミングの経験者もいるので、英語圏向けの営業機能と分析サービス機能を持ったチームとなります。これをハブとして、各国で営業パートナー代理店を契約して広げてもらう。こうした体制を2025年に作ります。
―経営者として大切にしていることがあれば、教えてください。

池端 久貴
スタートアップなので、やりたいことを達成するにはスケールさせる必要があります。すると組織も大きくなりますので、100人いたときに都度指示しなくても自走していけるようなチームにしなければなりません。そこをケアすることは気をつけています。
―最後に、起業やスケールを考えている人へアドバイスをお願いします。

池端 久貴
何かやりたいことがあるなら、起業を考えてみるとよいと思います。もちろん一定の責任は負うわけですが、圧倒的に自由です。とりあえずやってみてもらいたいですね。そのなかで失敗はあるものです。採用しても何人も辞めてしまったり、投資家と話が合わずに物別れに終わったり。それでも、100発打って1発当たればよいので、99発がどんな終わり方でもただの失敗でしかないので、恐れずどんどんやってみてほしいです。
最近は副業もしやすいので、いきなり起業でなくてもよいでしょう。動けば人脈ができるはず。起業するにもスケールするにも、人脈が大事です。シリアルアントレプレナーがすごいのは、動くことで人脈が広がるのと、失敗することで穴が見えるようになるからだと思います。
また、アドバイスされることは聞いておくべき。全てそのとおりに従う必要はありませんが、まずは聞き、そのうえで使える点があれば使えばよいでしょう。それを聞く10分20分を惜しんで止めてしまうのではなく、次につながるようなことを意識して動いてほしいですね。