【品川産業支援交流施設SHIP卒業生特集】株式会社テクノアクセルネットワークス山内代表(現天王洲創業支援センター入居)に、事業内容や品川区で活動する良さを聞いてみた
株式会社テクノアクセルネットワークスは、大手電機メーカーをリタイアした、ものづくりが好きでたまらないシニアが集まり、2011年4月に創業。AIやコネクティビティ、センシング技術を活用して顧客企業のアイデアを見える化し、人が安全・安心・快適に活躍できるためのシステムのPoC(概念試作)開発を行っています。代表取締役の山内直樹さんに事業の特徴や創業・事業展開の様子、品川区で活動するメリットなどについて伺いました。
大手メーカーのPoCに貢献する、車載関連や半導体、通信のエキスパートシニア集団
―まず、御社の事業について教えてください。

山内 直樹
創業以来、主に自動車メーカーに対して、通信システム・AI応用分野の技術アイデアの見える化と、その実現方法の提案、有望な技術・パートナーの調査・紹介、PoCの短期開発サポートといったことを行ってきました。
そのなかで、シニアが集まっている会社ということもあり、単に自動車のスペック向上というよりも、運転者の健康を支えることなどに取り組みたいと思い、ミリ波レーダーによる体調モニタリングシステムのPoCを行ったりしました。さらに、自動車向けだったこのシステムを医療・介護向けの見守りに応用したり、小型ドローンとAI分析でハウス栽培のイチゴの出荷時期予測を行ったりと、面白い案件があると外部パートナーも含めてチームを作り、PoCに取り組んでいます。
―「技術ロードマップ」というのも定期的に作られているそうですね。

山内 直樹
当社には車載関係や半導体、通信のエキスパートが集まっているので、その知見や経験、各自のネットワークから得てきた最新動向などからキーワードを出し、シーズ技術からアプリケーションを想定して作成・編集した将来技術予測マップで、1年半ごとにアップデートしており、最新の2024年版では2037年までを予測しています。
シンクタンクが作成するような網羅的なものではないですが、技術的に深く、引用する論文の内容やその道のエキスパートも示して、フォローできるなど、広がりを持たせています。ChatGPTに対応するような改良も進めているところです。
―会社はどのような体制なのですか?

山内 直樹
社員は非常勤を含め、12名ほどで、管理職経験がありながら、ものづくりが好きというのが共通項です。自動車や通信、家電、半導体などのメーカーをリタイアしたシニアが集まってきました。そこに開発パートナーとして、大学や日本・台湾の開発会社がチームとして加わり、自動車や車載電子機器メーカーの企画開発部門や、コネクテッドサービスプロバイダー、大手調査会社、大学・高専・研究機関などを取引先としています。
シェアオフィスや各種助成制度など、品川区の創業支援をフル活用
―2011年4月に創業されていますが、そこに至った経緯を教えてください。

山内 直樹
私は三菱電機ルネサスでマイクロコンピューターや半導体の応用技術を長年手がけてきましたが、定年前に起業しようと思い、会社を設立しました。管理職を経験しても、やはり「ものづくり」が好きでたまらず、もう一度若いエンジニアがワイワイガヤガヤとやるように仕事をしたいと思ったのです。そうして、もともと大手自動車メーカーの仕事を一緒にやっていた人などと、車載エレクトロニクス技術の応用支援を始めました。自動車メーカーの量産については現役時代にやりきった感もあり、新しいことをやりたかったので装置メーカーの研究開発部門の方と話をし、アイデアを見える化するPoCをやり始めました。
―品川区に拠点を構えられたのは、どうしてだったのですか?

山内 直樹
自宅のある神戸で会社を設立し、自動車メーカーのある名古屋によく出張をしていましたが、先方が東京出張される際に東京で会うことが多くなったのです。たまたま五反田でデスクを貸してくれる会社があり、東京に拠点を持つようになりました。そうすると「東京で会おう」と言ってくれるお客様が増えて、自ずと商談も増えました。
そのうちに、品川区が創業支援に力を入れていると知り、2018年に大崎にあるシェアオフィス(品川区立品川産業支援交流施設SHIP)に入れていただいて東京オフィスを移しました。きれいで会議室なども利用しやすく、自治体の運営なので費用もリーズナブルです。お客様からの信用という点でもメリットがありました。ただ入居期間が5年までなので、今は同じく品川区が運営する施設で少し広い天王洲創業支援センターに入れていただき、入居しています。こちらも空港が近く、台湾のパートナーとも行き来しやすいですね。
―そのほか、品川区の支援で役立ったことはありますか?

山内 直樹
特許権取得助成のおかげで、今後役立ちそうな特許を数多く取得することができ、会社の財産になっています。
また、開発会社として新しい技術への挑戦は欠かせませんが、小さな会社なので何でもできるわけではありません。その点を、公的助成を活用することでうまく取り組んでくることができました。そのスタートが品川区ものづくり支援事業による助成で、これまでに2件採択されています。ここで支援を受けたのが実績となって、その後NEDO(経産省)の事業にも採択されました。こうして品川区やNEDOの事業に採択されたことで、ロボットや通信メーカーにアポイントが取りやすくなり、当社の活動も広がりました。もともとは前職で縁ある方々との仕事から始まった会社ですが、自治体の支援を受けることで信用が増したこともあって、人脈やネットワークが広がったといえます。
―ちなみに、品川区のものづくり助成はどのように活かされたのですか?

山内 直樹
コロナ禍の最中に、軽症隔離患者の方の体調を見守りができるように、小型化した非接触センサーと組み込みAIで遠隔見守りシステムを開発しました。プライバシーに配慮して、インテリアとなる金色のうさぎの置物の内部に設置したのですが、この置物はSHIPの工房で、同じく入居されているスタートアップの方に3Dプリンターで制作してもらいました。こんな風な協力や助け合いが、入居者同士でできるのも良いものです。
品川区の支援策は、ものづくり企業の創業期におけるブースター
―いろいろな自治体の支援を受けられたなかで、品川区ならではの良い点は何かありましたか?

山内 直樹
崇高なテーマでなく、身近で役立つものでも認めてもらえた印象があります。また、助成金の種類が豊富であり、申請などの仕組みも柔軟性があると感じました。たとえば、展示会に出展すれば商談につながる可能性がありますが、創業期には出展費用が負担になるものです。品川区にはその助成金もあるので出展への敷居が下がり、チャレンジ意欲が湧きました。そんな風に、ものづくりのために何が必要かを理解され、支援策が作られているように思います。
―改めて、スタートアップや中小企業が品川区で活動するメリットは何だとお考えですか?

山内 直樹
私自身は神戸で生まれ育ちました。地方創生も大事だと考えますが、やはりグローバルなパートナーシップで産業において貢献したいと思うと、東京には社会インフラや人との交流という大きな魅力があります。そのなかで品川区は交通至便で、仕事の効率も上がります。また、小さな会社では家賃負担を抑えたいですが、品川区が創業支援として良い場所をリーズナブルに提供してくれています。これは創業期には大きなブースターになりますね。さらに、ものづくりのスタートアップは装置の購入や特許取得の支援をうまく活用すれば、事業を加速させやすいでしょう。
―最後に、シニアで起業を考えている人へアドバイスをお願いします。

山内 直樹
2019年に産業技術大学院大学のシニアスタートアップ向け講座で、シニアで起業して続いている会社として他のSHIP入居企業とともに登壇し、起業の体験談や事業について話させてもらいました。そこでもお伝えしたのですが、当社では3分の2のメンバーが前の会社における仲間であり、前職からのネットワークに感謝しながら一緒にやっています。シニアで起業する方はそんな風に、前職までの環境を生かせるとよいですね。そのうえで、興味を持ってお客様と新しいことを始めていくことが大事です。当社もやっていることは、創業当初とは様変わりしました。メンバー皆が好奇心旺盛で、AIなども真っ先に飛びついて使っているくらいです。そうして新しいことを学び、取り組んでいけると、楽しく続けられると思います。